二十年放置された妻、子供隠して離婚届にサイン後、元夫は狂おしく彼女を探す의 모든 챕터: 챕터 141 - 챕터 150

209 챕터

第141話

「なら、瀬奈が殴られたあの一件は沙織が絡んでいるということか?」「まだ確定ではないが……沙織と美琴に接点があったのはたしかなようだ」「何故沙織が……」湊斗は眉をひそめた。沙織とは、湊斗の愛人の一人で瀬奈の次に長い付き合いの女だ。彼女との関係は瀬奈と結婚した頃から始まる。今では、彼が最も信頼を置いていると言っても過言ではない女だった。愛人たちの誰よりも長く彼の傍を守り、常に三歩下がってついてくる慎ましい女。湊斗にとって沙織は一言で言うと、一緒にいて疲れない相手だった。いつも立場をわきまえ、彼を尊重し、自分の意思を強引に通そうとするような真似もしない。瀬奈との結婚生活に疲れていた湊斗は、いつも沙織の元へ帰っていた。しばらくして彼女は子供を妊娠した。彼女に対する負い目があった湊斗は、生まれた子供を受け入れた。スマホから一馬の深刻そうな声が聞こえてきた。「湊斗……俺はあまり沙織を信用しすぎないほうがいいと思う」「……何故そんなことを言う?」湊斗は眉を上げた。そういえば、一馬は昔から沙織のことをあまり好いていなかった。その理由を今になって知れるのか。「もし、俺が沙織の立場だったら……」一馬は少し間を空けてから、言葉を紡いだ。「――確実に、瀬奈ちゃんをその座から引きずり降ろそうとするはずだから」「……」その一言に、湊斗は黙り込んだ。沙織が瀬奈を本妻の座から引きずり降ろそうとしている?少なくとも、彼女は他の愛人たちと違ってそこまで欲深い人間ではなかった。湊斗はそう思っていたが、妙な違和感を感じてならなかった。「湊斗、わかっているのか?沙織は愛人で瀬奈ちゃんは本妻なんだ。あの二人がお互いを何とも思っていないと……本気でそう考えているのか?」「沙織は……」そんなことしない、とは言い切れなかった。言葉を詰まらせた湊斗に、一馬は警告した。「湊斗、沙織の件に関してはゆっくり考えたほうがいい。瀬奈ちゃんのことも沙織のことも、お前は人の内面をまともに見ようとしてこなかったんだよ」一馬のその言葉が、湊斗の心に重くのしかかった。「沙織のことは引き続き俺が調べておく……残酷なことがわかるかもしれないが、目を背けるなよ」「どんなことだろうと受け止めるさ」その会話を最後に二人は通話を終え、電話を切った。湊斗はスマホを握った手をそっとおろした。「沙織……」
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第142話

一方、湊斗との電話を切った一馬は珍しく妻に愚痴をこぼしていた。「……困ったものだな、ウチの社長には」「あら、そういう人だって知っていながらついて行ったんでしょう?迷惑しているのは私たちのほうだわ」千佳子のその言葉に、一馬は何も言えなくなった。妻が不満を抱いていることを、彼も薄々勘付いていた。「瀬奈ちゃんが神宮司社長の元を去ったって聞いたときは驚いたわ。じゃああのときは家出していたのね」「家出……ではないが……まぁ、結局戻ってきたんだから似たようなものか」瀬奈が離婚届けにサインしたことを知っているのは湊斗のほかには一馬と沙織くらいだった。湊斗は離婚のことが外に漏れないよう徹底していた。「最近、神宮司社長が珍しく瀬奈ちゃんの元へ帰っているんでしょう?愛人たちに飽きでもしたのかしら、勝手な男ね」「……」千佳子は一言で言うと、湊斗アンチだった。この世にいる女性全員の敵とでもいうかのごとく嫌っている。「湊斗が何を考えているかは俺もわからないからな。というか、そういう発言は外では控えてくれよ?一応俺の上司なんだから」「わかっているわ、あなたの前でしか言わないって」「それも問題なんだが……」千佳子は風呂上がりで濡れた髪をタオルで拭いていた。「それよりさっき話していた沙織って女、もしかして神宮司社長の愛人?」「そうだ、湊斗は一番気に入っているようだが、俺はどうも彼女が苦手でな……」一馬は瀬奈と一緒にいるときに見た沙織の姿を思い浮かべた。常に誰に対しても穏やかな笑みを口元に携えていた彼女が、瀬奈の前でだけは態度が違った。人を見下すような、不快な目つき。ただ静かに湊斗の傍を守り続けていた女とは思えないほど、打算に満ちていた。次の本妻の座を狙っているということは誰から見ても明白だった。沙織は他の女たちのように馬鹿ではない。だから余計に危険だった。「なぁ、お前が沙織の立場なら……瀬奈ちゃんを本妻の座から引きずり降ろしたいとして、真っ先に何をする?」「私だったら?そうねぇ……」千佳子は顎に手を当ててしばらく考え込んだあと、口を開いた。「――私なら、まずは瀬奈ちゃんの名誉を失墜させることから始めるわ」妻の答えに、一馬は目を丸く見開いた。「名誉を失墜……?」「えぇ、神宮司社長を始めとした周囲の人間からの評価を下げるのよ。彼女の名誉に傷が付けば、
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第143話

初めて見たときから、ずっと彼のことが好きだった。高い鼻梁、切れ長の美しい目、程よく引き締まった身体。その全てが私を夢中にさせた。早くあの人と一緒になりたい。彼のことを見るたびに、そのような思いばかりが募っていく。だけど、彼は一般庶民である自分にはとても手の届かない人だった。でもそんな理由で諦めるような私ではない。――彼に近付くため、私は周囲にいる者たちを全て利用することにした。「……さん!お母さん!」「……ッ!」リビングにいた沙織は百合子の声で我に返った。どうやら考え事をしていて、彼女が傍に来たことにすら気付かなかったようだ。沙織は虚ろな目で百合子を視界に入れた。百合子は久々に母親の目に映ったことに小さな喜びを感じた。「……百合子」「お母さん……」沙織はしばしの間、じっと娘を見つめていた。湊斗に似ているところが何一つない。彼女はそのことを感じ、すっかり興味を失ったのか何も言わずに顔を背けた。いくらお腹を痛めて産んだ子であろうと、彼に似ていないのなら何の意味もない。百合子は母親の沙織似だった。自分に似ていてよかったとは思うが、それだけだ。「……」百合子はショックを受けたように俯いた。しかし、彼女はめげなかった。「お、お母さん!今日ね、お父さんが帰ってくるんだって!」「……何ですって?」沙織は再び百合子のほうを見た。「ほ、本当だよ!中田さんが言ってたんだから!お父さんは今日間違いなく帰ってくるはず!」「あぁ……湊斗……」百合子はうわ言のように彼の名を呟いた。ほんのり頬を赤く染め、既に百合子のことなど見えてもいないようだった。百合子はそんな母の姿に安心しながらも、チクリと胸が痛んだ。やっぱりいつも私はこの人の目には映らない。そんなどうしようもない母親でも、血が繋がっているからか悲しむ姿を見ていたくはなかった。「お父さんは夜に帰ってくるって言ってたよ、お母さん……」「湊斗……ようやく私の元へ来てくれるのね……」やっぱり愛されているのは私だけだ、と沙織は心の中で何度も言い聞かせた。百合子はそんな母親を横目で見ながら、静かに部屋から出て行った。いつまでもい続けると彼女の機嫌が変わってしまうかもしれない。百合子が部屋を出て行ったあとも、沙織は一人呟き続けた。「湊斗……やっぱり私たちは運命だわ……」彼は間違いなく私を愛している。
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第144話

沙織は彼の帰宅を聞いた途端、すぐに玄関へ向かった。湊斗が家に帰るだなんて、何週間ぶりだろう。彼女は嬉しくてたまらなかった。「湊斗、おかえりなさい!」「……沙織」沙織は玄関に立ち尽くしていた湊斗のカバンを半ば強引に取った。その姿は、まるで夫を心から愛する妻のようだった。沙織は湊斗の前でのみ良き妻、良き母となる。当然、湊斗はそのことを知りもしないが。「お腹空いたでしょう?ご飯にする?それとも先にお風呂がいい?私、今日はあなたのためにご馳走を……」「沙織」湊斗はそこから動かないまま、無表情で沙織を見下ろしていた。今日の彼は、何だかいつもと違った。「湊斗……?」彼女も異変を感じ取ったのか、顔から笑顔が消えた。久々に帰ってきたというのに、どうしてそんな顔をするのか。沙織は彼の機嫌を損ねた理由がどれだけ考えてもわからなかった。「沙織……美琴を唆したのはお前か?」「……何を言っているの?湊斗……」沙織は表情を変えなかったが、焦りを感じていた。西田美琴との関係は誰も知らないはずなのに、一体どうして彼の口からその名前が出るのか。――もしかして、湊斗は自分がやったことを知っているのか。沙織の心臓が激しく音を立てて鼓動した。西田美琴と彼女が密かに会っていたことは、彼女以外の誰一人として知らない。会うときは周囲に気付かれないよう徹底していたし、美琴も誰かに言うような真似はしないはずだ。「湊斗、私はそんな人知らないわ。一体なんのこと?」「……」沙織はいつもと変わらない笑顔で否定したが、湊斗は彼女の言葉を信じていないようだった。沙織はそのことにショックを受けた。以前ならたとえ嘘であろうと、彼女の言うことなら信じてくれたというのに。この数週間で一体何があったというのか。沙織は真顔で彼を見上げた。「……弁明する気もないのか?」「弁明するも何も、あなたは私がやったって確信しているんでしょう?そんなあなたに私が何を言ったところで意味がないじゃない」「……」沙織の言う通り、湊斗はあの一件に彼女が絡んでいることを確信していた。沙織を信用しているとは言っても、あの一馬が間違った情報を彼に伝えるのはありえなかった。「美琴に一体何を言った?」「何も……ただ、あなたが奥さんの元に帰っていることを伝えただけよ」「本当にそれだけか?」沙織は頷いた。本当はもっと彼女の
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第145話

そう言うと、沙織は湊斗の前で声を上げて泣き始めた。顔を両手で覆い、嗚咽を上げている。「沙織……」そんな姿を見ると、湊斗はこれ以上沙織を追求することなどできなかった。沙織は泣きながら言葉を紡いだ。「私はあなたを心から愛しているの……愛人だと後ろ指を差されようとも、あなたの傍にいられるならそれでよかった。それなのに、どうして私にそんなことを言うの……?」「沙織、別にお前を責めているわけじゃないんだ。今後はそういう行動は慎んでほしいと……言いに来たんだ」彼の表情は穏やかになったが、それでも沙織との距離を保ったままだった。彼の彼女に対する態度は、以前とはまるで違った。沙織はそのことにショックを受けながらも、涙を手で拭った。「美琴さんがあのような行動を取ることは私にとっても想定外だったわ……おかげで奥さんが怪我をしたと聞いたけど、本当なの?」「……そうだ」その言葉に、沙織は悲しそうに目を伏せた。「私が軽率な発言をしたせいで……ごめんなさい。これからは二度と過ちが起きないようにするわ」「わかったならそれでいい」湊斗がそう口にしたそのときには、まるで何事も無かったかのように沙織の目から涙が消えていた。この話は終わりだとでも言わんばかりに、彼女は湊斗のスーツの袖を引いた。「湊斗、ご飯を用意したの。食べて行くでしょう?」「……そうだな、そうしよう」湊斗は沙織の提案に頷いた。彼女に手を引かれてリビングへと向かうと、テーブルに豪勢な食事が並べられていた。「私が作ったのよ!」沙織は自慢げに湊斗に言った。彼は椅子に座り、正面には沙織が座った。彼は箸を手に取ると、肉料理を口に運んだ。「湊斗、美味しい?」「あぁ」彼が返事をすると、沙織は嬉しそうに顔を綻ばせた。彼女が彼のために作ったというのはどうやら本当のようだ。彼が黙々と食事を進めるなかで、沙織が話しかけた。「湊斗、最近仕事が忙しいでしょう?」「そうだな……まぁ、いつも通りだ」湊斗は口元をナプキンで拭きながら言葉を返した。「私、あなたのことが心配なの。このままだと体を壊してしまうんじゃないかって……」「心配は無用だ、休めるときにはしっかり休んでるからな」「そうは言うけどね、湊斗……」このときの彼は、沙織の話など全く聞いておらず、ただテーブルの上の料理をじっと眺めていた。沙織の作った飯はたし
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第146話

「どうかした?湊斗」「いや、何でもない……」湊斗は頭を手で押さえながら、正面に座る沙織を見つめた。いつもと何も変わらず、上品な笑みを浮かべている。彼女はいつだって完璧だった。しかし、その笑顔が、今ではどうして不気味に見えるんだろうか。彼は沙織に得体のしれない妙な違和感を感じずにはいられなかった。やはり、一馬の言っていたことは正しかったのだろうか。「なぁ、沙織……百合子と愛斗はどうした?」「……百合子?愛斗?」沙織はきょとんと首をかしげた。何故二人の話が出てくるのかわからない、といったような顔だ。彼はそんな彼女の反応に驚きを隠せなかった。沙織はいつも二人の子供をとても可愛がり、大切にしていたから。「一緒に夕食をとってはいないのか?」「あぁ、あの子たちは好き嫌いが多いから別のメニューを先に作って食べているのよ」「そ、そうか……」沙織のその言葉すら、本当かどうか疑わしい。彼女はそんなこと気にも留めていないようで、明るく湊斗に声をかけた。「湊斗、ご飯のあとはお風呂に入るわよね?」「あぁ」湊斗は軽く頷いた。疲れなかったはずの沙織との時間が、どうしてこうも苦痛に感じてしまうのだろうか。「準備はできているの、あなたが久々に帰ってくるって聞いてたから」「そうか、ありがとな」夕食を終えた湊斗は、沙織からバスタオルを受け取り、お風呂場へと向かった。沙織は微笑みながらいってらっしゃいと手を振った。そんな彼女の笑顔を見た彼は、やはり違和感を拭えずにはいられなかった。「……」湯船に浸かりながら、湊斗は天井を見上げてじっと考え込んだ。沙織の前から立ち去り、一人になると心がとても楽になった。湊斗の脳裏に浮かんだのは二人の女性だった。今、彼はその二人のことで頭がいっぱいだった。「瀬奈……沙織……」無意識のまま、その名を呟いた。今すぐにでも本邸へ帰り、瀬奈に会いたいという気持ちがないわけではなかった。しかし、沙織の素性がわからないまま、彼女をこのままにしておくのは危険極まりないことだ。『お前は昔から人の内面をまともに見てこなかったんだ』ふと、前に一馬に言われた言葉が頭をよぎった。あのときは馬鹿馬鹿しいと特に気にすることもなかったが、彼の言う通りだったかもしれない。「俺は……いつから間違えていたんだ……?」呟かれたその言葉は、誰にも拾われること
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第147話

風呂から上がった湊斗を、沙織が笑顔で迎えた。彼は濡れた頭をタオルで拭きながらリビングへと現れた。その姿は、既に四十近いとは思えないほどに色っぽかった。彼の美貌はまだまだ健在で、女性人気も高かった。沙織は嬉しそうに彼に駆け寄った。「湊斗!新しい入浴剤はどうだった?」「ああ……良い香りだった」「でしょう?私も気に入っているのよ」久々に家に帰ったせいか。今日はいつもと違う特別な入浴剤を用意したようだった。湊斗は彼女のそのような気遣いができるところを気に入り、傍に置いた。しかし、以前の彼女とは別人に見えるのは何故だろう。「……髪を乾かしてくる」「私がやりましょうか?疲れているでしょう?」「いや……お前の手を煩わせるほどのことではない」「そう……」沙織は軽くショックを受けたように声のトーンを落とした。彼はそんな彼女を一瞥したあと、洗面台へと向かった。洗面台にある鏡の前に立つと、ずいぶんと髪の伸びた自分の姿が目に入った。瀬奈がいなくなってからというもの、彼は夜もまともに眠れていなかった。そんな彼が、自身の外見などいちいち気にするはずがない。伸びきった前髪は目にかかり、せっかくの美貌が台無しだ。「そういえば……最近切っていなかったな」近いうちに美容院にでも行こうか。そんなことを考えながら、彼はドライヤーで髪を乾かし始めた。ドライヤーの音で全ての雑音がかき消される。(アイツ、今何してるんだろうな……)こんなときにまで、俺は瀬奈のことを考えているのか。彼女が自分を想っていた頃はあれだけ邪険に扱っていたというのに、何て都合の良い男なんだ。髪を乾かし終え、リビングに戻ると、沙織が彼の腕に絡みついた。「湊斗、もう夜も遅いし……そろそろ寝ない?」「そうだな……」湊斗は軽く頷き、沙織に手を引かれながら二階にある寝室へと向かった。階段を上り、沙織の部屋へと誘われる。(……変だな、本当に誰かいるのか?)彼は不審そうにあたりをキョロキョロと見渡した。二階には沙織の部屋だけではなく、百合子と愛斗の部屋もあった。しかし、誰かが住んでいるとは思えないほど静かだった。時刻はまだ十時半。高校生と中学生が寝るにはあまりにも早すぎるのではないか。不審に思った湊斗は、前を歩く沙織に尋ねた。「なぁ、子供たちはもう寝ているのか?」「え?えぇ……多分ね」「多分?」何
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第148話

「きゅ、急に何なのよ……湊斗……」彼の険しい視線に、沙織は狼狽えた。沙織は瀬奈と違って湊斗にそのような目を向けられたことなど、数えるほどだった。動揺する沙織を、湊斗は問い質した。「それはこっちが聞きたい、二人は今どこにいるんだ?」「へ、部屋にいるわ……」沙織は気まずそうに視線を隠した。やはり彼女は何か隠している。彼の勘がそう言っていた。湊斗はすぐ近くにあった愛斗の部屋の扉を思いきり開けた。「ちょっと湊斗!何するのよ!急にドアを開けるだなんて失礼でしょう!」沙織は何とか彼を止めようとしたが、湊斗は彼女の声など気にも留めずに部屋に入って行った。室内は真っ暗だった。彼は暗闇の中で何とか電気スイッチを探した。子供たちの部屋になど一度も入ったことが無い湊斗は苦労したが、スマホのライトを使って何とか見つけることができた。――電気をつけると、そこはもぬけの殻だった。何故だ?何故いないんだ?中学生がこんな夜中に何をしている?大人ならまだしも、彼はまだ中学生だ。愛斗の性格からして、夜遊びなんてそんなことはしないだろう。子供が夜中家にいないというのに、何故沙織は平然としているんだ?湊斗は続いて百合子の部屋にも入ったが、彼女もまた部屋にはおらず忽然と姿を消していた。百合子もまだ高校二年生だった。「み、湊斗!」沙織も慌てて部屋に入り、中で立ち尽くす湊斗の後ろ姿を入り口付近から見つめた。「沙織……これは一体どういうことだ?」「湊斗……」湊斗はゆっくりと振り返り、沙織の答えを待った。責めるような彼の眼差しに、沙織はビクッと肩を上げた。一体どんな言い訳をすればいいのか、こんなときに限って彼女には何も浮かんでこなかった。結局、本当のことを言うほかなかった。沙織は震える唇を動かして言葉を紡いだ。「ふ、二人は……知り合いの家にいるわ……」「知り合いの家だと?」湊斗は思わず眉をひそめた。「えぇ……百合子たちが幼い頃お世話になっていたシッターに預かってもらっているの……」「……」沙織の顔色からして、嘘をついているわけではないようだ。深夜外出で行方不明になっているというわけではないのか。湊斗はそのことにひとまず安心した。しかし、いくら安全だからといって納得したわけではなかった。「何故だ?何故預ける必要がある?」「そ、それは……あの子たちがシッターの
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第149話

沙織はポケットからスマホを取り出し、百合子の元へ電話をかけた。その間ずっと湊斗が監視でもするかのように、沙織から目を離さなかった。一体どれだけ自分を疑っているのか。沙織はショックを隠しきれなかった。「――もしもし、お母さん?」案の定、百合子はすぐに電話に出た。彼女はそのことに安堵の息を吐いた。沙織は普段、湊斗の前でのみ発する優しい声で娘に尋ねた。「百合子、元気にしてる?」「うん、急にどうしたの?」百合子は不思議そうに聞き返した。「何でもないのよ、ただあなたの声が聞きたくなったから」「私の声が……?」電話の向こうの百合子の声が嬉しそうに明るいものになった。沙織が電話をかけた理由が本当は湊斗に言われたからだと知れば、きっとショックを受けるだろう。「愛斗もそっちにいるわよね?」「うん、いるよ。代わろうか?」「ああ、いや、いいのよ。愛斗はもう寝ているでしょうし」「え、寝てないけど……」湊斗の前で子供たちを邪険に扱うことはできないのか、沙織は柔らかい声で言葉を続けた。「もう夜も遅いでしょう?そろそろ寝なさい、百合子。シッターさんに迷惑をかけないようにね」「う、うん……わかったよ……」そのまま沙織は電話を切り、少し離れたところから自身を見つめていた湊斗に笑いかけた。「ね?湊斗、私の言ったことは本当だったでしょう?」「……そのようだな」彼は笑顔を向ける沙織から顔を背けた。子供たちがシッターの家にいる理由はわからないが、無事であることに変わりはないようだ。「いくら本人が望んでいるからとはいえ、向こうに迷惑がかかるだろう。このようなことは極力控えろ」「え、ええ……次からはそうするわ……」沙織は視線を逸らしながら頷いたあと、困ったように笑った。「私ったら、百合子と愛斗を大切に思うあまり甘やかしすぎていたんだわ。いくら大切でも母親なんだから、もうちょっと厳しくしないといけないわよね」「……」言葉とは裏腹に、その顔には子供たちへの愛情が感じられなかった。本当に子供たちのことを思って行動しているのか?湊斗は今日の沙織の行動はまるで二人を厄介払いしているかのように感じてならなかった。「湊斗、私たちも早く寝ましょうよ。もう十一時を過ぎているわ」「そうだな」腕に触れそうになった沙織の手を湊斗はさっと避けた。「湊斗……?」「俺は部屋で寝
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第150話

湊斗が沙織の元へ帰った日、瀬奈は一人部屋で過ごしていた。(今日は湊斗がいないからか、気が楽だわ)まだ体の傷は完治していなかったが、彼がいないというだけで心がとても楽になった。何より、昨日は一方的に追い出したし。気まずいから顔を合わせる必要が無くて良かった。「あれ、奥様。社長からのプレゼントは着けていらっしゃらないんですか?」「プレゼント……?」瀬奈はメイドの声に顔を上げた。「ほら、昨日いただいた大きな指輪のことです!」「あぁ、あれのこと……」瀬奈は部屋にある机の引き出しをチラリと見た。湊斗から貰った指輪は箱に入れ、引き出しの中に閉まっていた。あんなに高いものを普段から着けるわけにはいかないし、指が重くなるし。何より彼からプレゼントされたものだと思うと、着ける気にはなれなかった。黙り込んだ瀬奈に、メイドが口を開いた。「奥様にとても似合っていらしたのに、残念です」「そう?湊斗ったら、何を考えているのかしらね……」瀬奈は彼の考えがわからなかった。いっそ愛想を尽かしてくれればよかったものを、何故あんなものを用意するのか。薬指にピッタリ嵌まるというのも癪に障る。「ですが、あそこまで高価なものをプレゼントするってことはよっぽど奥様のことを愛していらっしゃるんですね」「愛……?」彼女は嘲笑うように口角を上げた。湊斗が自分を愛しているだなんてそんなことあるわけがない。愛しているのなら、二十年間も放置などしなかったはずだから。(勘違いしてはいけないわ……彼は私のことなんて何とも思っていないんだから……)――二度と、誰かを愛して辛い思いをしたくはなかった。「社長は明日にはお帰りになられるそうです」「あら、別に帰ってこなくてよかったのに」「お、奥様!」瀬奈は冷たく言い放った。メイドは慌てながらも、彼女の顔色を窺うように尋ねた。「奥様、もしかして……前に西田さんに言われたことを気にしていらっしゃいますか……?」「……西田?」西田美琴。つい最近瀬奈に危害を加えようとしてどこかへ連れて行かれた湊斗の元愛人だ。彼女があの後どのような末路を迎えたのかは瀬奈も知らなかった。特に興味もなかったから、調べようとも思わなかった。そんな女の名前が今になって出てくるとは。瀬奈は美琴に思いきり打たれた頬に手を添えた。「西田さんのことはもうあまり気にして
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