Semua Bab その結婚お断り~イケメンと三角関係になり結婚をお断りしたらやばいヤンデレ爆誕して死にかけた結果幸せになりました~: Bab 101 - Bab 110

201 Bab

8 アンバー公爵家の秘密

 シャルロットの脳裏に蘇るのは吐瀉物にまみれながらうつむき泣いている幼いランスロットの姿だった。 ランスロットはもう過去の出来事だと割り切っているけれど、傷痕は確かに彼の中に残っている。ランスロットは未だに男しか愛せない―― アンバー公爵は三番目の妻であったシャルロットの母を殺した。  シャルロットは母の葬儀の日に自分の出世の秘密を知った。 シャルロットだけは他の兄弟と父親が違っていた。シャルロットは母の不貞の果てに生まれた子供だった。 しかも、母がアンバー公爵の長子ディオンとの間に宿した子で―― アンバー公爵自身は何も語らなかったけれど、穢らわしいものを見るような目つきで子供のシャルロットを見下ろしていた。 アンバー公爵がシャルロットをそんな目て見たのは一度だけで、自分の孫には違いないと思っていたのか、表面上は父親らしくしてくれた。好きな物は何だって買い与えてくれたし、どんなわがままでも聞いてくれた。 けれど、優しさを装いながらもシャルロットを見る瞳の奥底には、いつだって侮蔑の色があった。彼はシャルロットを通して、自分を裏切った母を見ていた。 自分の本当の父を思う時、シャルロットの胸にはいつだってレモングラスの香りがあった。 ******「……アンバー公爵令嬢、一度お話を伺わせて頂きたく我々と共にご同行願えますでしょうか。いや、それよりも先にそちらの写真を拝見させて頂くのが先ですね」「ま、待って……」 警邏隊員たちがセシルの持つ写真を確認しようと進み出るのを見たシャルロットは、彼らの動きを全身で止めようと声を上げ、立ち上がると令嬢らしくもなく走り出そうとした。しかしユトがそれを止める。 ユトは腕の中にシャルロットを閉じ込めるようにして抱きしめた。「ユ、ユト…… 駄目よ……」 二人の関係は公には秘密のはずだ。貴族と平民の結婚が可能になったとは言え、遊びならいざ知らず、使用人との結婚なんて、シャルロットの祖父であり養父であるアンバー公爵は決して許してくれなかった。 この恋はずっと秘密のままにしておくつもりだったのに、こんな風に人の目のある場所で強く抱擁してくるのは駄目だと思った。シャルロットはユトの腕から逃げ出そうとしたが、ユトの力は強かった。「……もう良いのです。あれは私が一人で勝手にやったことです。お嬢様は何
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9 敵に塩を送る

 ユトは恥ずかしい写真を回収しに走りながら気づく。 写っている男女は、シャルロットとユトの組み合わせだけではなかった。「これってもしかして俳優のディオン・ラッシュじゃないか?」 その名前を聞いてシャルロットはハッと顔を上げていた。「本当だわ! すごく若いけどディオン・ラッシュよ!」「これはすごいお宝だ! 高く売れるぞ!」「やめて! ディオ様がこんな破廉恥なことをしてるわけないわ! 何かの間違いよ!」 そう言ってディオンのファンらしき女性は写真を握りしめたまま号泣している。他にも衝撃を受けて呆然としている様子の女性たちが何人かいる傍ら、写真を売り飛ばす目的で収集を始める者たちもいた。 中には写真を見てニタリと笑った後にそっと懐にしまうような者もいた。「まあ、なんて恥知らずな……」「信じられませんわね……」 それから、シャルロットが連れて来た貴族たちは、写真を見た後にシャルロットに嘲りの視線を向けながらクスクスと笑い、小声で囁やき合っていた。 しかし、貴族たちの中でも特に年嵩の貴族やその従者の何人かは、彼女たちとは明らかに反応が違っていた。「これは…… アンバー公爵夫人…………」 写真はシャルロットとユト、それから若きディオン・ラッシュが性行為をしていると思しき写真ばかりだったが、ディオンのお相手はどれも同じ顔の女性が写っていた。 十年ほど前に馬車の事故で亡くなったアンバー公爵夫人である。 アンバー公爵は三番目の妻に先立たれた後、『結婚相手が次々と死んでいくのでもう結婚はしたくない』と言って後添いを持とうとしなかったので、「アンバー公爵夫人」といえば最後に亡くなったシャルロットの母を指す。 ディオン・ラッシュは元はアンバー公爵家の嫡男だったが、貴族をやめて舞台俳優になると言い出したため、激高した父親に公爵家を放逐された、と言われている。 ディオンはアンバー姓を名乗ることは許されず、苗字を変えた名前をそのまま芸名にしていた。 写真を驚愕の面持ちで見つめる貴族関係者たちは考える。公爵家の元嫡男が亡き公爵夫人と関係を持っていたとは、一体どういうことなのか――「あっ! 何をする!」「申し訳ありませんがこれらをお渡しすることは出来ません!」 ユトが写真をこっそりと持ち帰ろうとする者たちから写真を取り上げていく。みすみす主家の醜聞を広げ
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10 セシルの思惑

 シャルロットは自分たちを助けようとする行動を起こす女を呆然と見つめていた。 すると、周囲が騒然としている中で、セシルが次期宗主を伴わずに一人だけで歩み寄ってきた。「安心して。放火の瞬間の写真ならちゃんとここにある。ただ、この写真だけではあなたの恋人が犯人だとまではわからない。まあ、犯人がわかる決定的な瞬間の写真も、俺は持ってるけどね」「……あなたは知っていますのね。私たちの罪を」「全部知っている」「でしたらこれまでのことは全て謝りますわ。アンバー家をお取り潰しにしたいのであれば、そうなさってください」 シャルロットは、兄たちが言っていたようにセシルが子供であるという認識を改めることにした。影の力を使ったとはいえ、あれらの写真をこの場で出せるとは、只者ではない。 ユトは家を守ってほしいと言っていたけれど、自分一人の力だけではどうすることもできないと思った。ただ――「でも、火付けのことだけは黙っていてくださいませんか? あの者に罪はありません。全ては私の責任です。黙っていてくださるのならば何でもしますわ」 セシルはそこで会心の笑みを見せた。「いいよ。じゃあお姉さんは今日から俺の子分ね。俺の言うことには絶対服従すること。もし破ったら、あのお兄さんが放火犯だってことを表沙汰にするからね~」「……言っておきますけれど、胸を見せろとかそういうのは嫌ですわよ」 シャルロットは年下はあまり趣味ではなかった。「あー、違うんだよね。俺には愛しのリィがいれば充分だし、求めてるのはそういうことじゃなくて、とりあえずお姉さんにはアンバー家の当主になってもらおうかなって」「……はい?」 意味がわからなくて苦笑しそうになるのを、できるだけ普通の笑みになるようにして誤魔化す。(扇子で口元を隠したいけれど、あの扇子どこ行った……)「次期当主でもいいよ。でもあなたの本当のお父さんがヤダって言ったら、あなたになってもらう他ないから」「でも……」「だって、アンバー家の正当な後継者はあなたの叔父さんの系統じゃなくて、あなたのお父さんから繋がる血筋でしょ? あなたが継いでもおかしな話じゃない」 そうかもしれないが、父ディオンが廃嫡されたのは、表向きは役者になるためという理由だが、本当は、アンバー公爵から母を寝取ったからだ。 それも、ランスロットの時のように母が無理
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11 逃走成功?

「はい、これで全部です」 ナディアは回収し終えた写真をユトに渡した。集中して写真の匂いだけを追い、こっそりと写真を持ったまま離れようとする者もすぐにとっ捕まえて出させたので、この場からは一枚も持ち去られていないはずだ。 ユトは前髪で瞳が見えないので表情の全体像はわからないが、口元に笑みが浮かんでいて、心底ホッとしているような様子だった。「本当にありがとうございます。このご恩は一生忘れません」「あ、いえいえ。このくらいは」 丁寧に深々とお辞儀をされるので、ナディアもつられてペコリと頭を下げ返す。 ナディアは社交辞令だと思いユトの言葉を軽く受け流したが、公爵家の者たちから「忠犬」とも称されているユトは、本当にこのことを一生忘れないだろう。 ユトから離れたナディアは荷物の見張りをしてくれていたリンドの元に戻った。「全くお人好しだな。あんな女がどうなろうと放っておけば良いのに」 リンドは辛口である。「そうは言っても、あんな写真が出回ったら一生苦しむことになりますから」 確かにシャルロットには色々と嫌がらせをされたが、ナディアとしては彼女がゼウスに手出しさえしなければそれでよかった。不幸になることは望んでいない。「では私、行きますね」 セシルのおかげで冤罪は晴れたことだし、そろそろ列車がどうなったかが気になる。トランクを受け取ったナディアは、リンドに最後の挨拶をした。 リンドもナディアに何か言いかけて、しかしその視線がナディアの背後にひたと見据えられる。「まずいな……」 リンドがきつく眉を寄せたので、ナディアもリンドの視線の先を追って背後を振り返った。すると、馬車や人でごったがえすこの場所に近付く、一台の馬車が見えた。 それは今度こそ銃騎士隊の馬車で―― 人や馬車が多すぎるので銃騎士隊の馬車は少し手前で止まり、何人かの銃騎士たちがこちらへ向かって歩いてくる。「メリッサ、素知らぬ顔をして早くここから離れろ。狙いがお前かはわからんが、次から次へと厄介だな」 ナディアはうなずいた。「リンドさん、今までありがとうございました。 ――さようなら」 「達者でな」 ナディアは銃騎士隊が来るのとは反対方向へと歩き出した。走ると目立つのでとりあえず早歩きで。「待て! 止まりなさい! 『メリッサ・ヘインズ』!」 しかしやはりと言うべきか何な
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12 お家騒動

「あー! 疲っかれたー!」  様々あったその日の夜、共寝するために訪れたジュリナリーゼの部屋に入るなり、セシルは寝台に飛び込んだ。「結局あのツンデレおじいちゃん一人だけが貧乏クジ引かされたみたくなっちゃったから、あとでこの世からは消滅しちゃった歴史的価値の高い書物をいくつか復元させてプレゼントしとこうかなー。お店十軒分くらい建て直せる価値があるやつ」 セシルは上機嫌でそんなことを独り言ちつつ、寝台の上で寝転びながら頬杖を突き、足をバタバタさせていた。 午前中に養成学校の遠征から帰ってきたセシルは、解散となったその足でジュリナリーゼに会いに来てくれた。久しぶりにデートをすることになったのだが、とある騒動に巻き込まれ――というかセシルが積極的に突っ込んで行き――デートは中止になった。 騒動の場では一人の女性が放火犯だと疑われていた。しかしセシルの活躍で罪のないことがわかり、その後、女性は混沌とする現場の中でいつの間にかいなくなっていた。 彼女が消えてからもその場は混乱していた。セシルがアンバー公爵家の者たちの淫行写真をばら撒いたからだ。写真は無事に回収されたようだったが、人々の記憶からは消えない。 ジュリナリーゼとセシルは、告発したいことがあるというアンバー公爵令嬢シャルロットについて警邏隊本部に同行した。 セシルが昼間暴露していたように、シャルロットはアンバー公爵家の者たちがセシルの暗殺を企てていたと語った。 彼女は証拠まできっちりと揃えていて――それはシャルロットではなくてセシルが用意したのだとジュリナリーゼは気づいたが――アンバー公爵家の断罪は免れようもないだろうという状況になっていた。 アンバー公爵家の者たちや、シャルロットの本当の父親であるという元公爵家嫡男ディオン・ラッシュまで召喚され、セシルの用意した写真からシャルロットの出生の秘密にまで話は及んだ。 場が修羅場と化す中、おそらくセシルが呼んだと思うのだが、ジュリナリーゼの父クラウスまでその場にやって来た。 この国の実質的最高権力者である宗主配クラウスの登場に青褪めたアンバー公爵は罪を認め謝罪した。主犯である三男とそれを諌められなかったアンバー公爵の二人はこれから裁かれることになるはずだ。 死罪に近い刑が言い渡される可能性が高かったが、アンバー公爵は多額の賠償金と領地の
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13 犯人

 アーヴァインの操る馬車の中で、ナディアはエリミナと二人だった。馬車の窓から銃騎士隊が追いかけてこないことを確認して、二人同時にホッと息を吐く。 なぜか同じ行動をしてしまったことでお互いに顔を見合わせて、エリミナと微笑み合う。「エリー、私ね、本当は獣人なの。黙っていてごめんね。ずっと正体を隠して首都で暮らしていたの」 今なら本当のことが言える。ナディアはリンドに次いでエリミナにも自分の口から真実を話せてよかったと思った。 するとエリミナは首を大きく何度も横に振り、それから綺麗な黒目に涙をためてナディアに抱きついてきた。「ごめんね、謝るのは私の方よ。私、あなたの正体に気づいてから、メリッサに殺されてしまうのではないかって思ってしまったの。お店を辞めるって聞いて、このままどこか遠くへ行ってくれたら…… なんて思ってた。 酷いよね。信じてあげられなくてごめんね。メリッサが私達を傷つけるわけないのにね。 私、一体何を見ていたんだろう。メリッサは私の命の恩人なのに、そんなことも忘れてた。 おじいちゃんのことだって、自分の命も顧みずに助けてくれて、ありがとう。 あなたは素敵な人よ。あなたがいてくれて本当に良かった。メリッサは獣人だけど、とても良い獣人よ」 言葉をはさめないほどの勢いでまくし立てるエリミナを、ナディアはぎゅーっと抱きしめ返した。 人間と本当の友達になれて、心を通わせ合えたような気がして、ナディアはとても嬉しかった。「エリー、ありがとう、私を認めてくれて。受け入れてくれてありがとう」  獣人と人間の絆は成立するのだ。 エリミナとの友情がナディアの自信に繋がる。ゼウスに本当のことを打ち明けられる勇気になった。「ありがとう、エリー! 大好き!」「メ、メリッサ……! 苦しい!」  温かい気持ちに包まれたナディアは、思わず、エリミナの体を抱きしめる腕に力を込めてしまった。 耐えられなくなったエリミナが訴えるまで、ナディアはずっと親友を抱きしめていた。 ****** 豪華な門を通り抜けた先で馬車が停まる。やって来たのはエリミナの自宅であるサングスター邸の庭だ。 馬車の扉が開くとアーヴァインが中に入って来て、すぐに扉を閉めた。「これからどうするつもりだ?」 真剣な顔をしたアーヴァインがナディアに尋ねてくる。エリミナと顔を見合わせ
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14 好いた男に殺されるくらいなら

「どうしてなの? アーヴァイン」「驚かないんだな」「私の正体を書いた手紙を寄越したのはアーヴァインでしょ?」「何でわかった?」「あの手紙にアーヴァインの匂いが残ってた。作ったのはあなただってすぐにわかった」 するとアーヴァインは、ハッと吐き捨てるようにして笑った。「匂いだけでそんなことがわかるなんて、化け物かよ」 化け物。人間ではないことは確かだが、わりと心にグサッと突き刺さる。「私を殺したいの?」「そのつもりだ」「どうして?」 アーヴァインは重苦しいため息を吐き出した後に語り出した。「俺、生まれは首都じゃないんだ。中等科の途中からこっちに出てきて、その時に一緒に上京してきた幼馴染がいたんだけど、そいつは銃騎士学校の試験に合格して銃騎士になった。 そいつは昔から正義感が強くて、俺はこんなナリだから、小さい頃は女みたいとか弱っちいとか言われていじめられてたけど、でもそいつだけは俺のこと庇って助けてくれた。 いい奴だったよ。すげーいい奴だった。でも死んだよ。銃騎士になって一年目に獣人との戦闘に巻き込まれてあっけなく。 遺体は損傷が激しいとかで最後に一目会うこともできなかった。俺は未だにあいつが死んだとは思えなくて、でももうどこにもいなくて…… 絶対に許さないって思った。俺はあいつを殺した獣人という存在そのものを憎んでいる。 俺だってなれるものなら銃騎士になって仇を取りたかった。だけど悲しいくらいに運動音痴だから全然向いてなくて、商会の経営者になれれば裏から銃騎士隊を支えられると思って、こっちの道を選んだんだ。 でも、目の前に獣人がいるなら、俺は殺す」 アーヴァインは銃口をナディアに向けたまま、険しい目つきで憤りをぶつけてくる。 彼の幼馴染が死んだのはもしかしたら父のせいかもしれないし、自分は関係ないと言い張ることはできなかった。「……私が獣人だっていつ気づいたの?」 アーヴァインは、何故かその質問には少し呆れたような表情になった。「俺、警邏隊にも仲いい奴がいるんだ。 姐さんさぁ、前に人身売買の犯人を捕まえたことあったろ? 年明けてすぐくらいの時に。 犯人たちは馬車の中で誰かに殴られて気絶してたって話で、まあ、馬車の中の妙な書き置きのおかげで調査が進んで、そいつらが犯罪者ってことがわかって逮捕はされたけど、それはそれ。一体
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15 行くな

「好いた男に殺されるくらいなら、俺に殺された方がマシだろ」 アーヴァインの言葉を受けて、ナディアは目を見開き驚いていた。「ゼウスは、そんなことしない」「そう思いたいだけだろ。ゼウスは銃騎士なんだぞ? あいつだって銃騎士になったのにはそれなりの理由がある。姐さんだってそこらへんはわかってたはずだろ? 姐さんはゼウスに手を出してはいけなかったんだ。よりによって獣人だなんて…… 真実を知った時、ゼウスはきっと姐さんを殺そうとするはずだ」 ナディアはそれを強く否定するように、首を横に何度も振った。 「違う。ゼウスだけは、絶対に違う」「正体を欺かれて騙されていた挙げ句、恋人が自分の仇だったなんて、そんな簡単に許せるものじゃない」「じゃあアーヴァインは、もしもエリーが本当は獣人だったら、殺すの? 獣人というだけで人格は全否定なの? それまで二人で歩んで育ててきたものは、全部意味がないと言うの?」「愚問だな。実際にエリーは獣人じゃなくて人間だ。それが答えだ」「私はゼウスを信じてる。――アーヴァインのことも、信じてるよ」 ナディアが動く。馬車から一歩出た所に立っていたナディアは飛び上がり、馬車の屋根の上に立った。 アーヴァインを見下ろす格好になり彼の鋭い視線を受けるが、アーヴァインはナディアの移動に合わせて銃口を動かすものの、撃ってはこない。 ――以前、ゼウスと会わなくなったエリミナ以外の三人と、アーヴァインが連れて来た友達と一緒に射撃場に行ったことがあった。ゼウスに射撃を教えてほしいというアーヴァインの希望で、何度かそんな集いがあり、時にはゼウスとアーヴァインの二人だけで行くこともあったらしい。 初めて射撃場に行った時に見たアーヴァインの腕前は、あまりお世辞にも褒められたものではなかった。そっち方面の才能が全くないとすぐにわかるようなもので、ちょっと可哀想なくらいだった。 それに対し、お手本を見せてくれと言われたゼウスは、全弾を的の中心部に命中させていて、ナディアはかなりびっくりした。 ゼウスが銃を構えて撃つ姿はとても格好良かったけれど、もしも狙われたら死ぬなと思った。 ゼウスはアーヴァインを含め一緒に来ていた友人や他の客たちからは絶賛の嵐を受けたり舌を巻かれたりしていて、そしてその場に居合わせた他の女性客たちからは、キャーキャー言われてい
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16 一番隊長の見解

「単刀直入に聞きます。ゼウスの恋人であるメリッサ・ヘインズは、獣人ですね?」 本日早朝に、件のゼウスや派遣される隊員たちは、ジョージ・ラドセンド一番隊長の用意した特別列車に乗り込んで旅立った。 ジョージは銃騎士隊本部に戻るなり、人払いのされた一番隊長執務室にて、孫婿であり有能な部下でもあるユリシーズ・ラドセンドと相対していた。  派遣する隊員たちの出立まで、ゼウスと彼女が関係しないようにユリシーズに見張りを任せていたが、まさか一日任せただけで彼女の正体に勘付くとは。「うーむ。流石は私のユーリだ。やはり有能すぎるな。 どうだろう? ここは一つ、私の後を継いで一番隊長になる気はないかね?」「話をはぐらかさないでください。私は隊長の器ではありませんので、その話は以前もお断りしたはずです。 それよりも、問題はゼウスとあの娘です。一体どうなさるおつもりなのですか?」 ユリシーズの表情には未だ緊張の色が濃い。首都に獣人が潜んでいた。しかも、その獣人とそれを狩るべき銃騎士隊員の一人が恋仲であっただなんて、こんなことが公になったら大問題である。「ゼウスは知らないのですか?」「ああ。偶然知り合ってたまたま恋人になったようだ。彼女が獣人だなんて全く考えもしていないだろう」 ジョージはユリシーズの問いを肯定した。ジュリアスからはくれぐれも内密にと言われてはいるが、この有能な孫婿が確信を持ってしまった以上、はぐらかすのは困難である。「知らせずに旅立たせたということは、ゼウスが不在にしている最中に秘密裏に処理するのですか?」 ユリシーズの発言は不穏なものであるが、自分も孫婿もそれなりに暗部には手を染めている。「いや、彼女のもらい手は既に決まっているらしい。五体満足のままが良いという上からのお達しで、一切の手出し無用とのことだ」 その言葉を聞いたユリシーズは、はあ、とため息を吐き出した。「『獣人奴隷』ですか…… 俺はそもそもこの制度には反対です。一部の特権階級だけが獣人を奴隷として所持できるだなんて、色々と間違っている気がします」 ユリシーズのようにこの制度に疑問を持つ者は多い。法律が施行されて以降、獣人を愛玩物にしたいという一部の人間たちの欲を叶える形になってしまっているが、問題点はそこだけではなく、奴隷という形ではあるものの、獣人を
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《悲恋編》1 突然の再会

 馬車から降りたナディアは、さてこれからどうしようとぐるりと周囲を見渡した。乗せられてきた馬車は道から外れた場所で停止しているが、元の道は見えるのでそこを進めばそのうちに次の街が見えてくるはずだ。 周辺は樹木が所々生えていて草や花もあるので自然を感じられる場所ではあるが、先ほどから人や馬車が道を通った気配は全くなかった。 ナディアは馬車を引いていた二匹の馬のうちの一頭を拝借して行こうかなとも考えた。 しかしアーヴァインは騎乗できない。以前何かの会話の中で本人がそう言っていたことを思い出したナディアは、馬には手をつけずにそのまま残していくことにした。 馬一頭ではこの馬車は引けないだろうし、単騎も無理ならアーヴァインがここから動けなくなってしまう。 火傷をしていない方の手でトランクを持ち、ナディアは道へ戻るために、サクリ、サクリと草を踏みながら歩く。 考え事をしながら歩を進めるナディアは気づかない。 彼女の進行方向にある地面の上に、草で隠れるように緑色のインクが使われた魔法陣が、突然出現したことに。 ナディアの体が魔法陣の中に全て入った瞬間、彼女の姿は音もなくこの場所から消えてしまった。 ――魔法陣の上に乗っただけでは転移魔法は発動しない。そこに魔力を流さない限りは転移は成されないが、ナディアが魔法陣の上に乗った瞬間、そこに魔力を流した男がいた。彼はここ最近ずっとナディアの動向を注視し続けていた。 ナディアが乗るはずだった列車に細工をして故障したように見せかけ、首都から出る方法の一つを潰したのもその男の仕業だった。 その者の手により、ナディアが姿を消した直後に魔法陣も消去され、ナディアに転移魔法が使われた痕跡は消えてしまった。 ******「えっ?」 いきなり周囲の風景が変わったのでナディアは驚いた声を出した。キョロキョロとあたりを見回していたナディアは、足元にあった緑色の魔法陣がすぐに消失したことには気づかない。 ナディアの背後には長く続く塀があり、塀には出入り口らしき扉もついていた。 ナディアが立っているのは先ほどまでの木々や草花が生えている緑色の景色ではなくて、背後以外の三方向が広々と開けていて、茶色い地面の土が剥き出しになった場所だった。明らかに先ほどまで自分がいた場所ではない。 そして何故か目の前にいるのは、上半身が裸の大勢
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