裏手にある従業員用通用口に回る。建物全体が火にまかれて扉を触ることも困難だった。 ナディアは木材が燃えてレンガが焦げる匂いの中に、油が燃えている匂いがかなり混じっていることに気づく。 古書店は料理屋ではないのだから、油が燃える匂いがこんなに混ざってるのはおかしい。(もしかしてこれ放火?) いぶかしく思いながら、ナディアは扉を思いっきり蹴り破って侵入経路を確保した。「リンドさん! いますか! リンドさん!」 建物の外壁の燃え方は酷かったが、中は本棚などに火が移っているものの、歩けないほどではない。 ナディアは袖で口元を覆ってできるだけ充満する煙を吸わないようにしながらリンドを呼び、店内を進んだ。しかしリンドの匂いを探ろうとしても煙の匂いが酷過ぎて探れない。煙の刺激で目がしぱしぱする。 とにかく二階へ行ってみよう、と思ったところで、そこまで遠くない場所からゴホッ、ゴホッ、と咳き込む声が聞こえた。ナディアは火を避けながら声がした方に進む。「リンドさん!」 地下へ続く入口の前あたりにリンドが倒れていた。「しっかりしてください! 大丈夫ですか!」「メリッ、サ……」 抱き起こすとリンドは閉じていたまぶたをゆっくりと開けてこちらの名を呼んだ。意識はあるようだ。倒れて低い位置にいたためにあまり煙を吸わずにすんだらしい。「もう大丈夫です! すぐにここから出ましょう!」 ナディアはぐったりとしたリンドを背中に背負って移動しようとしたが、何故かリンドは背負われることを拒んだ。「お前だけ逃げろ。俺はいい」 ここにいたら死んでしまうというのに、何を言っているのかとナディアは驚いてリンドの顔を見つめた。「下に大事なものがある。あれを置いては行けない」 リンドが言っているのは、地下室に置いてある歴史的価値のある古い蔵書群だとナディアはすぐに気づいた。「何言ってるんですか! 命より大切なものなんてありませんよ!」 リンドが倒れていたのは裏口の前ではなく地下室への扉の前だった。リンドは逃げるのではなくて、まず第一に、古い歴史書を取りに行こうとしたようだった。 しかし、あの蔵書全てをこの火事場で持ち出すなんて、弱りきったリンドにはとても不可能だろう。 リンドが古い歴史書をとてつもなく大事にしていたことは知っているが、今は危機的状況で、兎にも角にもここか
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