スケキヨは目の前の修羅場に呆然としながら、ふと過去の出来事を思い出していた。 あの時、彼の理性が挫けなかったのは、彼が教師としての使命感を持っていたからだ。 さらに三葉という存在が心の支えになっていたことも大きい。ここで手を出したら教師生命どころか彼女からの信頼もなくなり、夫婦の関係も破綻するというまともな考えが大島にはあったのだ。 そして……目の前にいる彩子に対しても 「彼女をなんとかしなければいけない」 その思いが、彩子に手を出させなかったのかもしれない。 だが、そこからの経緯を知る者は、大島と彩子の二人だけだった。 だからこそ、事実は簡単に歪められ、噂話となって広がってしまう。 現在の修羅場の中で、彩子が口を開いた。 「……大島先生だけは、私の誘惑に乗らなかった」 その一言で場が静まり返る。重い沈黙の中、彩子がさらに語り始めた。 「先生はずっと私の話を聞いてくれた。そして……私の異変に気づいて、病院に行くように言われたんです」 彩子の声は震えていた。 「子供の頃から、私はずっと父から……暴力を受けていました。母も同じでした。母もまた、暴力と暴言を父から受けて、そのストレスを私に向けていたんです……私にはあの家にいて逃げ場はなかった」 場の空気が一層重くなる中、彩子は自分の腕をギュッと掴みながら続けた。 「作品を作っている間だけが、無心になれる唯一の時間でした。作品を作って賞を取れば親は喜ぶ。さすがあの芸術家の娘と。でも……気に入らないとすぐ……」 涙を堪えながら語る彩子に、周囲は何も言えなかった。 彼女の言葉の裏にある長年の苦しみを、誰も軽々しく口にすることはできなかったからだ。 彩子は深く息を吸い、絞り出すように言った。 「でも……大島先生のおかげで気づけたんです。実家からは出ましたが……あの人たちはもう変わらない。変えれない。病院に通って、私はうつ病やいろんな精神病、そしてセックス依存症ってわかって治療も初めて……少しずつですけど、自分を取り戻せてきました」 スケキヨは彩子がそう語ってくれたことにほっとした。 「大島先生は私を救ってくれた。……高校生でないのに、大の大人がこんなんでアレですけど……あ、今度両親は離婚しますし……かと言って私はどちらの元に行くわけでもありません
Last Updated : 2026-03-30 Read more