「だああああああ、なんで俺だけぇ!?」 放課後の美術室に、俺の叫び声だけが虚しく響いた。 静寂を切り裂くような声だったのに、それを打ち消す反応すらない。 この部屋には誰もいない。それがますます虚しい。 ことの発端は、美術の授業中に俺がうっかり居眠りしてしまったことだった。いや、正確に言えば〝うっかり〟ではない。お経みたいな先生の声に、つい……というやつだ。 でもその一瞬の油断が、しっかりと罰として返ってくるあたり、教師という存在は容赦がない。 『授業態度が悪い生徒には、清掃奉仕が一番です』 なんて、美術の木本先生は言っていた。まるで俺を見せしめにでもするかのように、ひとりでこの広い美術室を掃除しろと命じたのだ。 拒否する勇気なんてなかった。 『評価を下げる』と言われれば、素直に従うしかないのが、俺たち生徒の立場。 生徒とはなんて悲しくて、弱い生き物なのか……なんて、つまらないことを思う。 「だってさ~、いつ誰がどんな絵を描いたかとか、興味なくね? ゴッホ? ピカソ? それが今の俺にどう関係あるんだって話でさ~……!!」 ひとり叫んだところで、もちろん誰にも届かない。 思いつく画家の名前を挙げようとしても、すぐにネタ切れになる。自分の教養のなさが悲しくなっただけだった。 俺が寝たのが悪い? それはわかってる。確かに俺が悪い。 でも、そんなに退屈な授業をする先生も悪いと思う。 もっと明るくて、楽しくて、テンション高めで話してくれたらいいのに。 そうしたらすくなくとも、俺の意識がブラックホールみたいに吸い込まれることはなかったはずだ。 「……わかってるんだってっ!!」 勢いよく持っていた箒を床に叩きつけ、ぐいっと息を吸い込んでから、大きな溜息を吐いた。 とはいえ……何を思ってもやるしかない。 仕方なく箒を握り直して、美術室の床をひたすら掃き始める。 机の下、棚の隙間、落ちている鉛筆の芯。無言で黙々と掃除をする。 掃除自体は嫌いじゃない。だから、やり出すと意外と楽しい。それがまた癪だが。 目線を窓の外に向けると、空がすこしずつ赤く染まっていくのが見えた。夕方の空気が、ガラス越しにじんわり染み込んでくる。
Dernière mise à jour : 2026-02-26 Read More