〝好き〟を自覚してから、数週間が過ぎた。 けれど南条とは、一度も顔を合わせていない。 同じ学校にいるはずなのに、気配すら感じられない。 教室を覗いても、美術室に寄ってみても、彼はどこにもいなかった。 あの日々が幻だったみたいに、南条が輪郭ごと消えてしまった気がした。 ——ただ、会いたい。 それだけなのに、叶わない時間が、胸をひどく締めつけた。 昼休み。 机に突っ伏したまま、溜息ばかりを繰り返していた俺に、有理が声をかけてきた。 「……樹、大丈夫?」 顔を上げると、有理が心配そうにこちらを覗き込んでいた。 手には、食べかけのサンドイッチ。 いつもの光景のはずなのに、有理の目だけが、すこしだけ曇って見えた。 「……好きって、なんなんだろうな」 思わず漏らした一言は、誰かに向けたつもりはなかった。 でも、有理はふっと微笑んで、すこしだけ首を傾ける。 「そうやって悩むってことは、好きな子ができたってこと?」 「ん、や、違う! そういうんじゃなくて!」 咄嗟に否定する声が、思ったより大きかった。 周囲のクラスメイトがちらっとこちらを見たのに気づいて、慌てて頭を下げる。 有理は、そんな俺の慌てぶりをじっと見ていた。 それからすこし間を置いて、ぽつりと呟く。 「……俺の方が、ずっと前から、樹の隣にいたのにな」 「……え?」 聞き返しても、有理はそれ以上何も言わなかった。 ただ、笑っていた。けどその笑顔の奥が、どこか曇っているように見えた。 そんな目で見ないでくれ、と思う。 いつもとは違う目が、何を語るのか。有理に軽蔑でもされているようで、すこし辛い。 ——と思ったら。 「で、南条の……どこに惚れたの?」 「ん……うわぁぁぁ!?」 唐突すぎる一言に、叫び声が漏れた。 あまりにも大きすぎたのか。隣の席の女子がびくっとして、箸を床に落とすほどだった。 「な、なんで……!!」 「……さぁ?」
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