Semua Bab 放課後の君は、まだ遠い。: Bab 21 - Bab 30

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第6章 自覚と本音 ②想いの行方

 〝好き〟を自覚してから、数週間が過ぎた。  けれど南条とは、一度も顔を合わせていない。  同じ学校にいるはずなのに、気配すら感じられない。  教室を覗いても、美術室に寄ってみても、彼はどこにもいなかった。  あの日々が幻だったみたいに、南条が輪郭ごと消えてしまった気がした。  ——ただ、会いたい。  それだけなのに、叶わない時間が、胸をひどく締めつけた。 昼休み。  机に突っ伏したまま、溜息ばかりを繰り返していた俺に、有理が声をかけてきた。 「……樹、大丈夫?」  顔を上げると、有理が心配そうにこちらを覗き込んでいた。  手には、食べかけのサンドイッチ。  いつもの光景のはずなのに、有理の目だけが、すこしだけ曇って見えた。 「……好きって、なんなんだろうな」  思わず漏らした一言は、誰かに向けたつもりはなかった。  でも、有理はふっと微笑んで、すこしだけ首を傾ける。 「そうやって悩むってことは、好きな子ができたってこと?」 「ん、や、違う! そういうんじゃなくて!」  咄嗟に否定する声が、思ったより大きかった。  周囲のクラスメイトがちらっとこちらを見たのに気づいて、慌てて頭を下げる。  有理は、そんな俺の慌てぶりをじっと見ていた。  それからすこし間を置いて、ぽつりと呟く。 「……俺の方が、ずっと前から、樹の隣にいたのにな」 「……え?」  聞き返しても、有理はそれ以上何も言わなかった。  ただ、笑っていた。けどその笑顔の奥が、どこか曇っているように見えた。  そんな目で見ないでくれ、と思う。  いつもとは違う目が、何を語るのか。有理に軽蔑でもされているようで、すこし辛い。  ——と思ったら。 「で、南条の……どこに惚れたの?」 「ん……うわぁぁぁ!?」  唐突すぎる一言に、叫び声が漏れた。  あまりにも大きすぎたのか。隣の席の女子がびくっとして、箸を床に落とすほどだった。 「な、なんで……!!」 「……さぁ?」
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第6章 自覚と本音 ①第三者の目

 文化祭が終わっても、俺だけは、うまく日常に戻れなかった。 南条は、文化祭をもって美術部を引退した。 予定されていたとおりの流れなのに、それは俺の中で、何かが突然終わってしまったような出来事だった。 放課後、美術室へ足を運ぶ。 いつもの定位置。静かな空気。すべてが以前と同じはずなのに、そこに彼の姿がないだけで、風景全体が無意味に見えた。 何度か、南条の教室にも顔を出した。 けれど、彼はどこにもいなかった。 ただ綾瀬だけが、教室の奥からこちらを見てくる。 その視線の意味を、俺は深く考えられなかった。◇「大澤先生~!!」「お、来たな。〝南条依存症〟の症状が重い患者くん」「だからそれ、やめろって言ってんじゃん!」 いつもの軽口。 けれど今日は、いつもと同じテンションで反応することができなかった。 職員室に顔を出してすぐ、大澤先生を外に連れ出す。 渡り廊下の隅。陽の傾きが、校舎の窓を柔らかく染めていた。「……なぁ、先生」 思わず溜息を吐くように言った。「俺さ、最近ずっとモヤモヤしてる。南条のこと考えると、なんか胸がざわついて、イラついて、でも……なんか会いたくなる」 吐き出すほど、感情はうまくまとまらなくなる。 言葉にすれば楽になると思ったのに、逆に苦しくなった。「そんで、会えないと無性にムカつくの。意味わかんねえよ、自分でも」「……」「俺、あいつの絵、すげぇ好きだったのに。見たかったのになぁって思って。文化祭で展示できなかったこと、本人じゃないのに、なんかすげぇ悔しくて」 先生は黙って聞いていた。 俺はゆっくりと顔を上げて、先生の方を見る。 目の前の先生は、まだ何も言わない。 だけど、微妙に口元がピクついていた。笑いを堪えているような表情だった。「え、何その顔。笑うとこ?」 そう言った瞬間だった。 小さく吹
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第6章 自覚と本音 ③ぶつかる本音

 翌日、放課後のチャイムが鳴ると同時に、俺は立ち上がった。  机に手をついて、そのまま反動で椅子を引く。  クラスメイトの視線も、大澤先生の締めの言葉も耳に入らない。  ただ、もうこれ以上、黙ってるのが耐えられなかった。 「あぁ、白浜待て!! おい、配布プリントが……!」  大澤先生の声が背後から飛んでくる。  けれど、それ以上追いかけてくる気配はなかった。  たぶん先生は、わかっていたんだと思う。  ——今の俺が、どこへ向かってるのかを。 走り出した廊下の先に、教室からぞろぞろと生徒が出てくる様子が見える。  そのうちのひとり、背の高い人が目についた。  南条だった。  教室から出てきたばかりのようで、人の波に流されながら廊下を歩いている。  俺はスピードを緩めず、そのまま彼の方に向かった。 「南条!」 「……」 「……話したいことがある。ちょっと、校舎裏までいいか?」  言いながら、自分の声がすこしだけ震えているのがわかった。  それでも、もう止まれなかった。  南条は驚いた顔をしたまま、無言で頷く。拒否をされない事実に、安堵の吐息が零れた。  その背後で、綾瀬がこちらを見ていることに気づいた。  ほんのわずかに、目が合った気がする。  けれど彼女は、何も言わずにその場を後にした。◇ 校舎裏に着いた瞬間、俺の足が止まった。  さっきまでの勢いが嘘みたいに、心臓の音だけがやたらとうるさい。  言いたいことがあったはずなのに、喉に詰まったまま出てこない。  目の前には、南条がいる。  いつもよりすこしだけ疲れたような顔で、じっと俺のことを見ていた。 「……ごめん」  ふいに、口が勝手に動いた。  声が震えるのを隠すように、無理やり笑う。 「なんかさ、話したいことがある、とか言ったけど……嘘。ほんとはちょっと、顔が見たかっただけ、かも。拒否されたこと、自覚してる。でも、それでも……南条に会いたかった」 「……」
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第6章 自覚と本音 ④感情の乖離 side 南条陽生

 友達なんて、いなかった。  ひとりで過ごすことに、何の違和感もなかった。  むしろ、それが当たり前だった。 大好きな絵を描きたくて、美術部に入った。  けれど、そこには本気で絵を描いている人なんて、ひとりもいなかった。  みんな、どこかの部と掛け持ちで。  絵が好きだから、というより〝なんとなく〟で集まっているように見えた。  それが、妙に虚しかった。 そんな僕に最初に話しかけてくれたのが、ゆいだった。  ゆいは不思議な子だった。  自分の感情はあまり表に出さないくせに、僕のちょっとした変化にはすぐに気づく。  まるで、僕自身よりも僕のことを知っているみたいで。ときおり、違和感すら覚えるほどだ。  彼女とは、友達みたいなものだったと思う。  ただ、関わるのは部活の時間だけ。  それ以上でも、それ以下でもなく。  だけど、安心できる距離感だった。 ゆいは、いつも僕の隣にいたけれど、僕が描く絵については何も言ってこなかった。  見るだけ見て、何も言わずに帰っていく。  別に僕は、彼女に感想を求めていたわけじゃない。  でも、好きとか嫌いとか。  たったそれだけでも、言ってもらえたら嬉しかったのに。ゆいはただ、笑顔で隣にいた。  なぜ僕と一緒にいてくれるのか、その理由がずっとわからないままだった。 僕は昔から、誰からも絵を褒められることはなかった。  誰も、僕自身をちゃんと見てはくれなかった。  それが、地味に傷となっていたのだ。  気づかれないふりをして、強がって。無関心で無表情な、冷たい人間を演じて——気づけば、〝冷酷眼鏡〟なんて呼ばれたりして。  でも、それでいいと思ってた。  誰にも踏み込まれなければ、何も傷つかなくて済むから。  僕が僕の心を守るには、それしかなかった。 ……そんな僕の中に、あの人は土足で入ってきたんだ。 白浜くんは最初、鬱陶しい人だと思った。  大声で笑って、明るくて、うるさい。  なん
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第7章 友情の崩壊 ①変わる関係

「有理はすごいよなぁ」  何も考えずに、ただ口にした言葉だった。  けれどその一言に込められていたのは、焦り、羨望、劣等感——そんな感情のかけらだった気がする。 「……何が?」  有理はサンドイッチを頬張りながら、ちらりと俺を見た。  その目は、どこか冷めている。 「進路決まってるから。眩しいぜ!」  精一杯、明るく笑ってみせた。  ほんとうは胸の奥がざわざわしていた。  これでいいはずがない。俺自身が空っぽだと認識しつつ、そんなこと進路指導担当に言われなくたって、ほんとうはわかっているんだ。  でも、どうにもできない。  それが、本音だった。 「樹、他人事なの危ないよ」 「ん?」 「自分の将来だよ。自分の納得のいく結果にしなきゃ」  有理の真面目な口調に、すこし驚く。  いつもはふわっと笑ってるくせに、今日はやけに真剣だった。 「でもさぁ、ないんだもん」  そう返してから、自分の無責任さに後ろめたさを覚える。  やりたいことなんて見つかんない。  だから、進路なんて考えられない。  でも、このままでもいけない。  そういう態度が、有理にはずっと見えていたんだと思う。 「……」  有理は黙ったまま食べる手を止めた。  その顔がやけに静かで、妙に緊張する。  だから俺は、気まずさを紛らわせるように、冗談混じりに口を開いた。 「あ、そうだ。南条も大学って言ってた気がする。俺も同じとこにしようかなー!!」  そんな冗談は、俺にとってはいつも通りだった。  けれど、その瞬間—— 「また南条って……」  ぽつりと、低く呟かれた声。それに続いて、静かな怒りが弾けた。 「俺がここにいるのに。隣にいるのに。俺のことなんて眼中にもない!! 俺の言葉なんて、樹にはいっさい届かない!! そんなにあいつがいいなら、ずっと一緒にいれば!?」 「……は、はぁ!?」  突然の出来事に理解が追いつかなかった。  有理の声がいつもと違っていた。
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第7章 友情の崩壊 ②一緒の時間

 有理は、いつだって優しかった。 明るくて、気がつく人で、誰にでも分け隔てなく接する人。 だけど俺にだけは、特別な笑顔を向けてくれていたような気がしていた。 なんて……気のせいかもしれないけど。 一緒にいると楽しかった。 くだらないことで笑って、どうでもいい話で盛り上がって。誰よりも俺のことを理解してくれていて、しかも面白い。 そんな〝なんでもない日々〟が、当たり前に続くと思っていた。 けれど——あんなふうに怒られて、初めて気づいた。 俺は、有理の気持ちにまったく気づいていなかったんだって。 それどころか、あいつの優しさを、自分にとって都合のいいものとして受け取っていたのかもしれない。「って……有理の気持ちって、何……?」 有理は、進路に対して適当すぎるから怒ったのか。 それ以外の理由があったのか。その事実すらもわからない。 進路のことで頭がいっぱいだったのに、そこに有理のことが加わって、思考回路が完全にショートしていた。「……はぁ」 もう、何をどう考えればいいのかさえ、わからない。 悩みすぎて、頭の中がぐちゃぐちゃだった。◇ 放課後の帰り道。 人気のない道を、とぼとぼ歩いていた。 足どりはかなり重かった。 有理の怒鳴り声が、まだ耳の奥に残っている。 言葉の意味も、ほんとうの気持ちも、なんとなく理解し始めていたのに——どうしてもわかりたくなかった。 考えすぎて、頭が熱を持ったように重たい。 空も街も滲んで見えて、まぶたの裏には有理が怒っている姿が焼き付いている。 ——そんな時だった。 ふいに背後から足音が近づいてきて、肩越しに視線を感じた。「……白浜くん」 その声に、心臓が飛び跳ねる。 立ち止まって
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第7章 友情の崩壊 ③夢を持つ人

 翌日、有理はいっさい俺に話しかけてこなかった。 教室では、祥吾とふたり並んで座っていて、楽しそうに笑っていた。 それは見慣れた光景のはずなのに——なぜか、胸の奥に小さな棘が刺さるような感覚があった。 俺も、有理に声をかけることはできなかった。 何を言えばいいのか、わからなかった。 昨日まで、当たり前に笑い合えていたのに。 何かひとつ行動を間違えると、あっという間に距離があいてしまうのだと、苦しいほど痛感した。◇ 放課後、進路指導室に呼び出されていた俺は、どんよりとした気分で廊下に出た。 何度目かの呼び出しに、頭が痛くなる。『白浜。そろそろ本気で考えろよ』『進学しないなら、就職。逃げ道はないんだぞ』 毎回、決まり文句みたいに繰り返される言葉が、もうほんとうにうんざりだった。 俺だって、ほんとうはまったく考えてないわけじゃない。 けど、どうにも心が動かない。 夢もない、やりたいこともない。 なんの取り柄もない俺は、サッカーしかなかった。 それがなくなった今、何を目指せばいいのか——本気でわからない。「ありがとうございましたぁ~……」 やる気のない声で挨拶して、軽く会釈し、進路指導室の扉を閉める。 静かな廊下。沈みそうな太陽の光が、床に長く伸びていた。「……白浜くん」「えっ?」 聞き慣れた声に、反射的に振り向く。 そこには南条が立っていた。 無表情だけど、どこか気まずそうな雰囲気。 制服の袖を軽く握りながら、こちらを見ていた。「あ……あれ、どうしたの、南条」「僕も、呼ばれてて。進路……まだ決まってないからさ」 眼鏡の奥で、そっと瞳が揺れる。 表情は変わらない。けれどどこか、悲しそうな感情が滲んでいるように思えた。「え、美大って言ってな
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第7章 友情の崩壊 ④予想外の現実

 帰り道、有理の姿を見つけたのはほんとうに偶然だった。 沈みかけている夕日がまっすぐ差し込んで、校門の影が長く伸びている。 なぜか有理はそこに、ひとりで立っていた。 名前を呼ぶ前に、有理がこちらを向いた。 その目からは、先ほどのような怒りは見られない。 でも、もっと違う感情が宿ってた。 泣きそうなのを必死でこらえてるみたいな。 苦しくてたまらないみたいな。なんとも言えない表情をしていた。「……有理」 声をかけると、有理は小さく笑った。 でもその目は——まったく笑ってなかった。「ねぇ、樹ってさ……」 有理の声が、震えていた。 寒い風が頬を撫でていく。その風のせいで、俺の頬が熱を持っていることを自覚させられる。「……昔から、男子にだけ異様に優しかったよね」「は……?」 思わず間の抜けた声が出る。 でも、有理は一歩も引かずに、まっすぐ俺を見ていた。「サッカー部のときさ、樹って女子にモテモテだったじゃん。可愛い子もたくさんいて、彼女なんてすぐにできると思っていた。でも……誰とも付き合わなかったよね」「それは……別に、なんとなくっていうか」「うそ。興味なかったんでしょ、女子には」「……」 頭の奥がじわじわ熱くなっていく。 何を言われてるのか、わかっていた。けれど、わかりたくなかった。「最初、大澤先生のこと好きなんだって思ってた。変に距離近いし、樹の目がさ、あの人のときだけ違ってたから」「なっ……」 胸の奥がぎゅっと縮む。言葉が詰まって出てこない。「でも、それは疑問だけで済んでいた。俺が核心したのは、南条との件」「……」 有理の声が強くなる。抑えてたものが
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第8章 踏み込んだ関係 ②近くて遠い

 進路と有理。 俺が南条と過ごす時間は、悩みを消してくれる現実逃避のように思えた。 校舎裏を後にした俺たちを、冷たい風が頬を撫でていく。 吐く息が白い帰り道、校舎の影にかすかな夕陽がゆっくりと沈んでいく。 並んで歩く俺たちは、たぶん誰が見ても『ただの友達』だろう。 でも俺の中では、もうぜんぜん違った。 横にいるこの人のことを、俺はもう、どうしようもないくらいに……。「……さっきの絵さ」 思わず口が勝手に動いた。 まっすぐ前を見つめる南条は、いつも通りの無表情。だけど、どこか柔らかさが滲んでいるように見えた。「俺で、ほんとうによかったの?」「……」 南条は、すこしだけ足を止める。けれど視線は動かさないまま、静かに答えた。「……僕、君にモデルしてもらわなきゃ、今は絵が描けない。白浜くんが、光って見える。僕は、君がいい」 その言葉に、冗談のような色はなかった。 まっすぐで、淡々としていて、声色はいつも通り冷たい。けれど強くて、優しさも滲んでいて——俺は胸が、激しく締めつけられた。「なんだよ……それ」 精一杯、笑って返したつもりだった。けれど、たぶんまったく笑えてなかったと思う。 気づかれたくなくて、つい力強く手を握りしめる。 指先の震えが止まらない。 それはきっと、寒さのせいだけではなかったと思った。 その時——自転車が近づいたタイミングで、南条の方にすこし避けると、彼の手と俺の手が、ふいに触れた。 指先が、ほんのすこしだけ重なったのだ。「……」 かすかに感じた温もり。 たったそれだけなのに、全身が思い切り痺れた。 心臓が跳ねて、息が詰まる。 目の奥が熱くなり、眩暈がしそうになる。 この一瞬の感触だけで、何もかもが壊れて
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第8章 踏み込んだ関係 ①モデルの再開

 白い息が、吐くたびにふわりと空へ消えていく。  冬の夕暮れは、思っていたよりもずっと冷たかった。  太陽が落ちかけた空は薄紫に染まり、校舎の影が長く伸びている。  有理は俺に近づいて来なくなった。  祥吾とずっとつるんで、見向きもしない。  俺もどうすればいいのかわからない。『普通にしてて』と言った有理はどこに行ったのか。  完全に関係を拗らせてしまっていた。◇ 放課後、初めて南条が俺のクラスを訪れた。  そこで呼び出され、校舎裏にやってきたのだ。  人気のないこの場所は、いつも風がよく通る。  校舎の壁に背を預けている南条は、スケッチブックと1本の鉛筆を手に持っていた。 「白浜くん……寒くない?」 「まぁ、ちょっと。やっぱ冬って感じよね」 「……ごめん。わざわざ呼び出して」  南条はそう言いながら、ゆっくりとスケッチブックを開いた。 「別に、構わないよ」 「……僕ね、描きたくなったんだ。絵」 「ん?」 「文化祭前からずっと、絵が描けなかった。でも……ふと、描きたいって思って」  そう言う彼の目は、どこか迷いを含んでいた。けれど、芯のある色をしている気もする。  鉛筆の先が紙に軽く触れ、わずかな音が空気を切った。  その音が久しぶりに思えて、なんだか胸が熱くなる。 「モデル、俺でいいの?」 「うん。むしろ……白浜くんがいい」  即答だった。驚くほどに迷いのない声に、つい俺が驚いてしまう。 「……なんか、やっぱり〝光〟って感じがして」 「……やっぱり、って?」 「前にも言ったけど。白浜くんは〝光〟って感じなんだ。ずっと……そう思ってた」  照れたように目を伏せる南条の頬が、夕日を浴びて赤く染まっている。  それが日差しのせいなのか、寒さのせいなのか、それとも——俺にはもうわからなかった。 「……なんか、よくわかんないけど。ありがと」  俺はどうしてか、涙が出そうだった。  絵を語るときの南条は、すこしだけ饒舌になる。
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