All Chapters of 冷徹な夫が暴走愛?それでも妻は絶対に許さない: Chapter 321 - Chapter 330

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第321話

浩平と白石家の権力争いは、もはや二者間だけの話ではなくなっていた。翔平が瑠衣に付き添ってパーティーに出席している。秀明と楽しげに話すその様子は、婚約間近と勘違いさせるほどで、これでは誰もが翔平を白石家側だと思ってしまうだろう。翔平がやって来たことで、思いがけずパーティーの主役となった。美羽は翔平たちに背を向けて立ち、無関心な様子でつぶやいた。「さあ?分かりませんね」翔平が何を考えているのかは、誰にも見抜けない。本人だけが知っていることだ。大輔は美羽の顔色が優れないのを見て言った。「美羽さん、こんなことなら柚葉ちゃんのそばにいればよかったな」美羽はお酒を飲みながら何かを言いかけたが、大輔の視線に気づいてつい振り返った。そこにはこちらの方へ歩いてくる浩平の姿があった。浩平は二人の前に立つと、礼儀正しく挨拶をした。「陣内さん、イヴリンさん」大輔はグラスを持ち上げ、浩平と乾杯した。「野村社長、今日はご機嫌ですね」大輔たちは今日、白石家と正式に契約を結んだ。それは二つのグループが対立関係にあることを意味するが、浩平の彼らに対する態度は終始変わらず、非常に礼儀正しいものだった。一切の本音を見せない。これが一流の経営者たる振る舞いというものだ。浩平は口角をわずかに上げた。「大事なゲストをお迎えするのですから、嬉しい日ですよ」大輔は笑って応じた。「おっしゃる通りですね」浩平は続けた。「そういえば、佐野社長はなぜ今日来ていないのですか?お招きしたかったのですが」大輔は言った。「盛沢市に大事な用事があるため、今日は自分たちで代理を務めます」「そうですか」「……」ソファに座っていた美羽は、二人のお世辞のやり取りを黙って聞いていた。二人に比べれば、自分の精神面はまだ修行が足りない気がする。例えば、今のような時だ。本当は浩平と言葉を交わしたくさえなかった。突き詰めれば、浩平が瑠衣や彩乃をかばうのは身内としての当然の情だ。ましてや、浩平は決して一線を越えるような人間ではない。終始丁寧に接してくれていたし、謝罪の時も嘘偽りがないのを感じていた。ただ、理由は分からないが、浩平の行動が非常に気に障る。翔平に対する嫌悪感よりも、浩平の方が余計に腹が立つほどだ。きっと瑠衣のことがあまりに嫌いすぎて、その兄である浩平ま
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第322話

翔平も美羽たちの方に目を向けた。話していた相手と秀明に一声かけてから、浩平の方へ歩き出した。美羽はこちらへ向かってくる翔平に気づき、立ち上がった。「失礼します」浩平は小さく頷いた。美羽はまっすぐパーティー会場の出口へと向かった。翔平はただその背中をじっと見つめていた。同じ頃、瑠衣も美羽に気づき、その瞳に冷酷な光を一瞬宿した。パーティー会場の外に出ると、廊下はひっそりと静まり返っていた。美羽は少し外の空気を吸いたかったのだ。静かなバルコニーまで歩き、夜風に吹かれる。ここからは、深津市の華やかで美しい夜景が一望できた。その時、スマホが震えた。美羽はバッグからスマホを取り出し、電話に出た。「もしもし、柚葉ちゃん?」「イヴリンさん、ごめんなさい、電話に出られなくて。今気づいたの」柚葉のあどけない声を聞き、美羽の心はふっと軽くなった。「いいのよ。今日は朝から仕事が忙しくて、柚葉ちゃんと過ごせなくてごめんね」柚葉は慌てて言った。「忙しいのは分かってるよ。だからイヴリンさんのこと、責めてないよ」娘の健気さに、美羽は言葉にならない切なさを覚えた。「今日はずっと会えなかったね。今夜は何時頃に戻れるの?」遠慮がちな柚葉の声を聞き、美羽は答えた。「すぐ帰るからね」ここに留まる理由もないし、大輔がいるなら彼に任せればいい。柚葉はすぐに嬉しそうな声を上げた。「うん!」美羽が大輔に電話をかけると、すぐに繋がった。「美羽さん?」美羽は事情を話した。「分かった。先に帰ってろ。こっちは俺に任せて。帰り道、気をつけろよ」「ありがとうございます」そう言い、電話を切った。美羽は戻ろうと背を向けたその瞬間、背後に何者かの影が忍び寄った。誰かを確認する暇もなく、口と鼻を強く塞がれた。抵抗を試みたが、すぐに意識は闇に飲み込まれ、どんどん遠のいていった。わずか1分もしないうちに、美羽の体から力が抜け、そのまま意識を失った。犯人は即座に美羽を抱き上げると、急いでその場を去ろうとした。だが廊下の角を曲がったところで、立ちはだかる大柄な男と正面からぶつかった。男は動じずに立っていた。その鋭く冷ややかな眼差しから放たれる威圧感は、周囲を震え上がらせた。目が合ったその瞬間、犯人の体は強張り、喉元を鷲掴みにされ
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第323話

でも今、何事もなくここで眠っていて、柚葉と一緒にいる。頭が少しぼーっとする以外は、体のどこも悪いところはなかった。この間、一体何があったのかは分からない。でも美羽は、自分をここまで連れ帰ったのが翔平であると確信していた。深く考えるのは一旦やめて、柚葉を自分の方へ引き寄せ、抱きしめた。夜が明けはじめるまで、そうしていた。目を覚ました柚葉が目をこすり、起き抜けに美羽を見て、小さな声で挨拶をした。「イヴリンさん、おはよう」美羽は柚葉の乱れた髪を整え、額にキスをした。「おはよう、柚葉ちゃん」柚葉はすぐにぱっちりと目を開けると、小さく頭を上げて美羽の頬にちゅっとキスをした。二人はそのままベッドの上で甘え合い、起きる気配もなかった。「イヴリンさん、昨日急に倒れちゃったから、パパが抱っこして帰ってきたのよ」やっぱりそうだったのか。翔平が連れ帰ってくれたのだ。じゃあ、彼が助けてくれたということ?昨夜、自分に薬を盛ったのが誰の差し金なのか、わざわざ考えなくても見当はつく。翔平だって分かっているはずだ。その時、ガチャリとドアが開いた。美羽が振り返ると、翔平が入ってくるところだった。翔平は彼女を一瞥した。「パパ!」柚葉はベッドから飛び起きると、布団の上を歩いて、抱っこしてほしいと両手を広げた。翔平が歩み寄り、柚葉を抱き上げて高い高いをした。部屋中に無邪気で幸せそうな笑い声が響き渡った。翔平は柚葉を見つめ、愛情深い目で見守っている。美羽はベッドの端に座り、じゃれ合う二人の様子を眺めていた。「よし、これでおしまい」翔平が柚葉を下ろす。「身支度して朝ごはんを食べよう」柚葉が美羽に飛びついてきて、抱きしめたまま聞いた。「イヴリンさん、起きるの?」美羽は柚葉の頭をなでる。「パパと顔を洗っておいで。私はもう少し寝ているから」昨晩の薬のせいでまだ頭が少し重いのかもしれない。「じゃあ私もイヴリンさんのそばにいてあげる」翔平が近づいてきて、美羽を見下ろしながら聞いた。「どこかまだ気分が悪いか?」美羽は一度だけ視線を向けて、淡々と言った。「少し休めば平気だから」特にお礼を言う気もなかった。翔平はそれ以上何も言わず、ただ言った。「朝食を部屋まで運ばせる」それだけ言って、寝室から出
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第324話

悠斗が極力、ボヘンを助けようとしているのだと美羽は察した。彼の話を聞いていると、すべてが好転しそうに思える。美羽は、少しだけ肩の荷が下りた。二人は少し言葉を交わしてから、電話を切った。美羽は柚葉の手を引き、下の階へと降りた。下のソファでは、翔平がちょうど電話をしていた。階段を降りてくる二人を見上げる。今日の美羽は青いロングドレスに白いベルトを合わせ、髪は低めのポニーテールに結っていた。ノーメイクでさらした素顔は瑞々しく、楽しげに跳ねながら降りてくる柚葉を優しく見つめる様子は、どこまでも奥ゆかしげだった。今日の柚葉は青いドレスを纏っており、まるで母親と娘のペアコーデのようだ。翔平が通話を終えた。「パパ!」柚葉は階段を駆け下りると、そのまま翔平の腕の中に飛び込んだ。翔平は柚葉を抱き上げ、微笑んだ。「今日の柚葉はすごく綺麗だな」柚葉は嬉しそうに笑った。自分が可愛いことを知っていて、褒められるのも大好きだった。「じゃあ、イヴリンさんも今日は綺麗かな?」と、柚葉が尋ねた。翔平は後ろに立つ美羽を一度振り返り、彼女と目が合った。すぐに平静を装い、柚葉に向けて、「ああ、綺麗だよ」と答えた。翔平のその言葉に対して、美羽の心は少しも動揺しなかった。付き添いの使用人が柚葉の荷物を手際よく用意した。今日はテーマパークに行きたいと柚葉が強く望んでいて、先ほど美羽にも一緒に来てほしいと甘えていたのだ。翔平は使用人から荷物を受け取る。片手で柚葉を抱え直すと、美羽を見つめ、静かな声で言った。「行こう」すぐに運転手が車を回してきた。今日は翔平自ら運転するという。車の前まで歩み寄ると、翔平は柚葉を下ろし、助手席のドアを開けた。柚葉が手招きする。「イヴリンさん、早く乗って」美羽は柚葉を抱き寄せ、助手席に乗り込んだ。翔平はハンドルを握り、その場を後にした。時を同じくして、白石家では。瑠衣がソファに座り込み、両目を赤くして、溢れんばかりの悔しさに身を震わせていた。部屋に入ってきた彩乃は、瑠衣の打ちひしがれた姿を見て駆け寄り、その肩を抱いて心配そうに声をかけた。「瑠衣、どうしたの?」瑠衣は彩乃にすがりつき、その肩に顔を埋めてすすり泣いた。彩乃はパニックになり、問いかける。「教えてちょうだい、一体
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第325話

瑠衣は、考えれば考えるほど腹が立ってきた。その反面、得体の知れない不安にも襲われる。翔平からの連絡は、一晩経ってもなかった。瑠衣は一晩中、落ち着かない思いを抱えて過ごした。今朝になっても、翔平からの連絡は一向に来ない。瑠衣はついに我慢しきれず、翔平に電話をかけた。電話に出た翔平が口を開く。「瑠衣。今回のやり方は、少し度が過ぎているんじゃないか?」翔平の厳しい声色に、瑠衣は理不尽さと悲しみがこみ上げてきて、思わず声を荒らげた。「あの女がきれいになって、翔平さんは心変わりしたの?ただの整形でしょ?翔平さんを誘惑しに戻ってきただけなのに」この世界で誰よりも自分が優れていると思っていた瑠衣だったが、今の美羽を見ていると、これまでになかった強い危機感を覚えた。以前はあんなに醜く太っていた女が、突然すっかり別人の姿で戻ってきたのだ。それに、翔平の前に現れるなんて、彼女が下心を抱いているに違いない。翔平は言った。「瑠衣。白石家で、ゆっくり頭を冷やしてくるといい」つまり、今は会わないと言っているようなものだった。瑠衣の思いは募るばかりで、やり場のない憤りを感じた。「瑠衣。教えなさい、一体何があったの?」と彩乃が心配そうに問い詰める。「もしかしてイヴリンさんのこと?」瑠衣は唇を噛みしめ、頷いた。「翔平が、あの女をかばうのよ。お母さん、私、もう待てないわ」瑠衣は家で蝶よ花よと育てられ、経営には関わっていなかったが、浩平と白石家の間で軋轢があることくらいは理解していた。浩平と翔平の間には、大きな利害関係が絡んでいる。白石家の内輪揉めが落ち着かない限り、翔平が安易に白石家と縁談を進めることはないだろう。今や美羽が戻ってきたことで、瑠衣の不安は日に日に大きくなっていた。「どうしてなの?お兄ちゃんとお父さんが協力して経営できないわけ?」瑠衣は興奮気味に言った。彩乃は瑠衣を抱きしめた。「分かったわ。落ち着きなさい。お母さんが瑠衣を、最高の形で中山家に嫁がせてあげるから」彩乃の慰めの言葉を聞き、瑠衣はようやく少しだけ落ち着きを取り戻した。だが、瑠衣を抱く彩乃の美しい瞳には、不穏な陰りが宿った。……翔平と美羽は、柚葉を連れてテーマパークへ向かった。入場はスムーズな特別対応だった。スタッフが
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第326話

パレードがようやく終わり、人混みも次第にまばらになっていく。翔平は美羽の手を離し、柚葉を床に下ろした。先ほどまで美羽の手を引いていた翔平の姿を見ていた柚葉は、嬉しそうに言った。「パパがイヴリンさんと手をつないでたよ」翔平は柚葉の小さな頭をなでて、優しく応じた。「じゃあ、パパは今から柚葉と手をつなごう」「うん」翔平と小さな手をつないだ柚葉は、そのまま美羽の手も引き、白い歯を見せてニコリと笑った。柚葉の楽しそうな様子を見て、美羽にも自然と笑みがこぼれた。二人はそのまま柚葉を真ん中にして、手をつないで歩く。3人並ぶと目を引くほど美しいため、すれ違う人々の注目を一身に浴びていた。両親と一緒に楽しむ他の子たちを見かけても、もう柚葉の瞳に寂しさが浮かぶことはなかった。むしろ、誰かから羨望の眼差しを向けられるたびに、柚葉は誇らしげな表情を浮かべていた。夜になり、花火の時間が近づく。スタッフに頼んで、記念撮影をすることにした。翔平が柚葉を抱き上げると、柚葉は言った。「パパ、イヴリンさんの手もつないで」美羽が何か言いかけた時、突然大きな温かい手が彼女の手に触れた。翔平を横目で見つめたが、美羽は何も言わなかった。花火が打ち上がる瞬間、シャッターが切られ、華やかな夜空をバックにした幸せそうな一家の姿が残された。今日一日遊び疲れた柚葉は、車に乗るやいなや、美羽にもたれかかって眠り込んでしまった。翔平は静かに車を走らせた。美羽は柚葉を抱いたまま、窓の外を流れる夜の街の景色を静かに見つめていた。車内はひっそりと静まり返っている。二人の間に、会話はなかった。邸宅に到着すると、入り口には見覚えのある真っ赤なフェラーリが停まっていた。車はそのまま駐車場へと進んだ。車を降りた翔平が言った。「柚葉は俺が運ぶ」美羽は彼に任せて身を引いた。翔平は反対側へ回ってドアを開けると、眠っている柚葉をそっと腕の中に抱き上げた。柚葉は翔平の肩に頭を預けたまま、深く眠り続けている。美羽も車を降りて後に続く。エレベーターでそのまま2階へ上がり、翔平が寝室まで柚葉を運んだ。美羽が柚葉の靴を脱がせると、翔平は柚葉をベッドに優しく横に寝かせ、掛け布団を肩までかけた。そして立ち上がると、美羽に告げた。「柚葉のそばにい
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第327話

翔平は、無言で美羽を見つめていた。美羽はリビングを後にし、使用人に向かって命じた。「上に行って柚葉を見ていてちょうだい」使用人は翔平を一度見やり、指示通りに2階へ上がっていった。美羽はまっすぐ二人のもとへ向かうと、ソファに腰を下ろした。ゆったりと脚を組み、腕を組むと、顎をわずかに上げて二人を冷ややかに見下ろす。その眼差しは、氷のように冷え切っていた。「続きをどうぞ」瑠衣はすでに翔平の腕から少し離れていた。高慢な態度で、まるで審判でも下すかのような美羽を見つめる。この女に、一体どんな資格があって自分たちをこんな風に見るの?美羽を引き裂きたい衝動に駆られる。瑠衣は怒りに震える心を抑えつけ、視線を翔平に移した。翔平の表情は険しく、その瞳には露骨な不快感が浮かんでいる。瑠衣は、胸をなで下ろした。翔平は瑠衣に告げた。「瑠衣、先に帰ってくれ」瑠衣は悔しさをこらえ、何か言い返そうとしたところで、美羽の冷ややかな嘲笑が響いた。「どうして?白石さんがせっかくいらしたんだから、泊まっていかせたら?こんなに泣いているんだもの、しっかり慰めてあげないと」翔平の眉間には深い皺が寄り、その顔立ちはさらに冷たさを増した。「美羽!」美羽は臆することなく、氷のような翔平の瞳をまっすぐに見つめ返した。瑠衣が見せる表情からは先ほどの怒りが消え、今や挑発的な笑みだけが浮かんでいた。美羽はスマホを手に取り、隆へ電話をかけた。すぐに通話がつながり、隆の穏やかな声が聞こえてきた。「美羽さん」翔平は美羽の動作をじっと見ており、その眼差しは、次第に冷たさを増していった。「先生、野村社長の連絡先、分かりますか?」「分かるが、どうかしたのか?」「教えてください。今すぐ話したいことがあるんです」隆は詮索することなく、「いいよ」と答えた。状況が飲み込めない瑠衣は美羽を睨みつけ、言い知れぬ不安に襲われる。「私のお兄ちゃんに何の用?」美羽は冷ややかな流し目で瑠衣を一瞥し、相手にしなかった。徹底的な無視。瑠衣は激怒し、助けを求めるように泣きそうな顔で翔平を振り返った。翔平は険しい顔のまま美羽を凝視し、その向かいのソファに座った。瑠衣はその場に立ち尽くし、帰るべきか座るべきか判断できずにいた。情報を受け取った美羽は、その
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第328話

美羽は階段を上り、寝室に入った。美羽は気持ちを切り替えようとしていた。柚葉がベッドに座り、あくびをしながら言った。「イヴリンさん!」「目が覚めたのね」柚葉は目覚めると必ず甘えてくる。美羽は手を伸ばし、彼女を抱き上げた。柚葉の背中をポンポンと叩くが、美羽の胸の内はひどく沈んでいた。「お腹すいてない?何か食べる?」柚葉はこくりとうなずいた。美羽が使用人に食事を持ってくるよう頼み、その間に柚葉と先にシャワーを浴びて着替えた。二人が出てくると、すでに食事が用意されていた。「パパは?」美羽が言った。「仕事で忙しいの。私たちは先に食べよう」「分かった」美羽は寝室で、食事をする柚葉に付き添いながらアニメを流した。ようやく柚葉を寝かしつけたあと、美羽は掃き出し窓の前に立った。ここからだと正門が見下ろせる。浩平が助手席のドアを開け、瑠衣が車に乗り込んだ。浩平が振り向いて翔平に何かを言うのが見えた。その後、フェラーリが走り去った。浩平たちが去っていく。翔平が邸宅へ戻ってくる。彼が2階の方を見上げたので、美羽はさっとカーテンを閉めた。まもなくして、寝室のドアが開いた。翔平が入ってきた。眠っている柚葉に一瞥をくれると、ソファに座る美羽を見て低く声を落とした。「外に出て。話がある」美羽はタブレットの画面を見つめ、柚葉や柚葉とのツーショット写真を処理しながら、淡々とした声で答えた。「離婚の話以外、話すことは何もないわ」翔平は静かに美羽を見つめ、部屋は沈黙に包まれた。しばらくして、彼はそのまま部屋を出ていった。ドアが閉まったその瞬間、美羽の指先がぴたりと止まった。翌日。美羽は柚葉を連れて、紗良の家へ行くことになった。柚葉は翔平に別れを告げる。「パパ、私とイヴリンさんと紗良さんの3人で遊びに行ってくるね。パパはお留守番頑張ってね」翔平が腰をかがめ、柚葉を抱きしめた。「柚葉も、いい子にしてるんだよ」柚葉はこくりとうなずいた。「さあ柚葉ちゃん、行くわよ」柚葉が駆け寄って美羽の手を引き、翔平に手を振った。午前中。美羽と紗良は、子供たちを連れて団地内のキッズスペースで遊ばせていた。そのとき、浩平から着信が入った。美羽は少し離れた場所で電話に出た。「野村社長」浩平の
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第329話

浩平はやがて口を開いた。「分かった」そう言い、電話を切る。その夜、美羽は柚葉を連れて、紗良の家に泊まった。翌日は知幸の80歳の祝いだった。美羽が先日オークションで競り落とした贈り物も、数日前に挨拶へ訪れた際に手渡していた。隆も当日の午後には駆けつけてきた。隆と顔を合わせた瞬間、その目は疲労の色が濃く、顔つきも酷くやつれているのが分かった。大輔が肩を叩く。「よく間に合ったな」隆は小さく頷く。「二人ともご苦労様」大輔は笑いながら返した。「こっちは大したことないよ。一番大変だったのは隆だろ」美羽が近づき、隆に声をかける。「お疲れ様です」隆は美羽を見て、静かに会釈した。「まずは祖父に挨拶をしてくる。また後で」大輔は促した。「ああ、行っておいで」隆は親戚たちと30分ほど談笑していた。彼は朝から何も食べていなかった。隆の母親である佐野千尋(さの ちひろ)がスタッフに用意させていた料理を運ぶと、すぐ隣に座って切り出した。「紗良から聞いたんだけど、隆、気になっている子がいるのね?」今日は何としても隆を帰らせて、お見合いを組もうと目論んでいた。だが、千尋は紗良にこう釘を刺されていたのだ。「お母さん、変な気を回さないで。お兄ちゃんにはずっと想い続けている人がいるの。誰とお見合いさせても、見向きもしないから」隆は千尋を一瞥して言った。「母さん、心配しなくていい。僕にも考えがある」千尋はため息をついた。「心配しないでいられるわけがないでしょ?紗良が言っていたのは、あの美羽さんのこと?」紗良は名前までは明かさなかったが、美羽を家に連れてきた時の彼女のあしらい、その手放しの称賛ぶりを見ていれば、それに気づかないはずがなかった。隆の沈黙で、千尋はすべてを確信した。「やっぱりね。他の女の子に目がいかない理由も分かるわ。美羽さんは本当に美しい方だし、会社で一緒に働いているのでしょ」隆は短く答えた。「ああ」「私から見ても、美羽さんはとても良い人よ。だったら、さっさとアプローチすればいいじゃない?」隆は言った。「彼女は今、離婚裁判中でね」千尋は驚いた顔をした。「じゃあ……あの子供は?」先ほどから柚葉が美羽の子供ではないかと疑っていたが、柚葉は美羽を「イヴリンさん」と呼んでいたからだ。「美羽
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第330話

今日の誕生日パーティーには、名門の家柄の人々がたくさん集まっていた。隆といえば、クールな貴公子として知られる人物だ。以前は彼にはその気がないとか、実は一生独り身を貫くつもりだなどという噂ばかりが流れていた。多くのセレブ家庭が、娘の婿にしたいと熱望する人物でもある。かつては深津市の第一の美女と言われる白石家の令嬢さえも、隆に恋焦がれていたという。それでも、彼は誰にもなびくことはなかった。そんな隆が、ある女性に見せた別の顔。写真は、花火の明かりに照らされた二人を写したもので、顔立ちは不鮮明だが、何とも言えない親密な空気が漂っていた。その写真が、翔平のグループチャットに送られてきた。そのチャットには浩平も入っている。先にその写真を見た浩平が、翔平に個人メッセージを送った。【佐野社長が戻ってきたぞ】翔平はそのメッセージを見て写真をタップした。写っている二人を食い入るように見つめる表情は重く、何を考えているのか量れなかった。翔平からの返信は、一言だけだった。【ああ】反応のなさに、浩平もそれ以上は触れなかった。誕生日パーティーは終わりを告げ、ゲストたちが次々と帰っていく。翔平からの電話が入ったが、美羽はすぐに切ってしまった。その直後、柚葉のキッズ携帯が鳴った。「もしもし、パパ」翔平との会話で、「分かった」と柚葉は答える。電話が切れるのを待って、柚葉は美羽を見た。「イヴリンさん、パパがもうすぐ迎えに来てくれるんだって」美羽が腰を下ろし、尋ねる。「今夜は詩音ちゃんと一緒に寝る約束じゃなかった?」柚葉は呟いた。「今日はうちに帰りたいの。パパが待ってるから」帰りたいと言う柚葉を、美羽は無理に引き止めることはできない。ゲストがいなくなった後、美羽は柚葉を連れて、佐野家の人たちと共に下の階へ向かった。1階に着くと、柚葉のキッズ携帯が鳴った。柚葉たちの姿を見つけて翔平は電話を切る。「パパ!」翔平を見つけ、柚葉が駆け出していった。翔平は歩み寄り、柚葉を抱き上げた。佐野家の人たちは翔平に見覚えはなかったが、その風格に一目で只者ではないと感じ取った。千尋が翔平を一瞥し、実に立派な人物だと感心していた。翔平が目を向けると、隆の隣に立つ美羽と視線がぶつかった。翔平はすぐに視線を戻し、佐野
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