All Chapters of 冷徹な夫が暴走愛?それでも妻は絶対に許さない: Chapter 401 - Chapter 410

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第401話

瑠衣は、なぜか胸がざわついた。どうしていいか分からなくなった。瑠衣の隣にいたボディーガードが迅を見た。そのボディーガードは翔平へ電話をかけて戻ってきたばかりだった。店内の状況を見て、先に出るかと瑠衣にたずねたが、瑠衣はここで成り行きを見届けたいと言い張った。その時、迅が言った。「イヴリンは、男に取り入ってのし上がった女だって?」その声からは感情が読めなかったが、聞く者を凍りつかせる迫力があった。瑠衣は迅の整った顔立ちを見つめた。彼が放つ異様な威圧感に恐怖が先立ち、この質問が何を意味するのか考える余裕さえなかった。どうせ、女遊びの激しい男だ。美羽に手を出そうとちょっかいをかけて拒まれたから、逆上して独占欲を燃やしているだけだろう。本当に、いやらしい女。「あの、ご存じないかもしれないけど、彼女は昔、太ってて不細工で、性根も腐っていて、片思いが実らないからって、男に薬を盛ってベッドに潜り込むような下劣な真似までしたんです!」迅は口元に薄い笑みを浮かべ、へえ、と面白がるように声をあげた。「なるほど。じゃあイヴリンは、君の男と寝たって言うのか?」瑠衣は何も答えず、黙り込んだ。「でもさ、俺が聞いた噂だと、イヴリンは君こそが人の旦那に手を出したって言ってたみたいだけど?」その一言で、瑠衣の顔から、さっと血の気が引いた。その時、ボディーガードのスマホが震えた。彼は電話に出た。「翔平様」「他に誰がいる?」ボディーガードはソファに座る迅を見て、声を潜めて答えた。「神崎さんという方です」翔平が電話を切った。すぐさま迅のスマホが鳴る。発信元を確認した迅は鼻で笑うと、ボディーガードたちに向かって言った。「もういい」悠斗と美羽は3人のボディーガードに囲まれ、壁際へと追い詰められていた。迅は電話を受け、相手の言葉を聞くと悠斗に目をやり、納得したように言った。「君のいとこ?こうして見ると、確かに顔立ちがそっくりだな。いやあ、ただの誤解だよ。イヴリンとゆっくりお茶でも飲みたかっただけなんだ。よかったら、こっちに来ないか。誤解を解こうじゃないか」「……」迅は通話を切った。店の中は、水を打ったように静まりかえった。悠斗が入り口の方を見たが、扉はすでにロックされていた。全員がその場に立っている。
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第402話

迅は立ち上がると、両手をポケットに突っ込んで歩み寄り、足を止めて言った。「俺が悪かった、謝るよ」悠斗は拳を握り締め、迅を睨みつけた。「でも、前に彼も俺の弟を殴ったんだから、これでおあいこだな」「おあいこ?」翔平の声が冷たく響く。「俺の前で『おあいこ』なんて言葉は通用しないぞ」迅の目つきが少し翳った。「じゃあ、どうしたいんだ?」誰も反応できないうちに、翔平の拳が、容赦なく男の顔面に叩き込まれた。迅は、その一発で地面に倒れ込んだ。その光景に、その場にいた全員が呆然と立ち尽くした。悠斗も一瞬、翔平が何を考えているのか分からなかった。美羽は息をのんだ。翔平はいつも冷静で感情を表に出さない男だ。人前で手を上げるなんて思いもしなかった。悠斗を庇うためかもしれないし、瑠衣のためかもしれない。あんなに泣いていたのだから、男として何かしなければならなかったのだろう。瑠衣も信じられない様子だった。翔平のこんなにも強引で激しい一面を見るのは初めてで、胸が激しく高鳴るのを抑えられなかった。いつも優しく甘やかしてくれてはいたが、こんな風に自分のために前に出てくれたことはなかった。だが、こんな風に男としての荒々しさと独占欲を見せつけられるのは、まさに自分が求めていた「溺愛」そのものだった。この一撃が、自分への愛の証明であってほしかった。今は、そうじゃないけれど。彼が動いたのは悠斗のためだ。悠斗は彼の身内であり、彼が侮辱されることは翔平の顔に泥を塗るのと同じだったのだから。迅がボディーガードに支えられ、ようやく立ち上がった。迅は口元の血を指で拭い、翔平を見据えて不敵に笑った。「じゃあ、これでおあいこってことだな?」翔平は冷静さを取り戻し、「おあいこだ」と言い切った。瑠衣が急いで駆け寄り、心配そうに尋ねた。「翔平さん……」「大丈夫だ」そう言うと、彼は体をわずかに向け、美羽に視線を走らせてから悠斗を見た。「早く病院へ行け」悠斗は何も言わず、手を伸ばして美羽の手を引いた。「行こう」美羽は静かに頷いた。二人が去ろうとした時、突然瑠衣が、「待って」と声をかけた。翔平は彼女を見た。瑠衣は不満そうに訴えた。「彼女は翔平さんが私にくれたカードを奪ったのよ。せめて私に謝罪くらいするべきだわ」その言葉に、すかさず
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第403話

彼は面白がるように、冷やかしの笑みを浮かべている。瑠衣の顔色がさっと変わった。一瞬で青ざめて、迅をにらんだ。「瑠衣、イヴリンさんに謝りなさい」浩平の声が響いた。瑠衣は信じられない思いで浩平を見つめた。まさか、自分に謝れと言うなんて。「お兄ちゃん、どうして……」彼女は翔平の方を向き、不満そうに言った。「翔平さん!」翔平は無言で迅を見つめた。迅は肩をすくめて、「事実を言ったまでだ」と言い捨てた。「悠斗、もう行こう」美羽は一刻も早く、この場を立ち去りたかった。悠斗は美羽の手を引き、店を出た。ショッピングモールを出た後、美羽は車で悠斗を病院へ連れて行った。右腕の怪我がひどかったが、骨には異常がなく、打撲程度で済んでいた。病院を出ると、もうお土産を買うような気分ではなくなっていた。明日、空港の免税店で見ることにしよう。「悠斗、ごめんね」美羽が不意に言った。悠斗はきょとんとした表情で、美羽を見つめた。「なぜ謝るんだ?」美羽は彼と視線を合わせ、言った。「私が原因で怪我をしたのよ。謝るのは当然よ」悠斗は平然と笑った。「これくらいかすり傷だよ。すぐに治る。美羽を守るのは当然のことさ。いじめられているのを見て見ぬ振りなんてできるかよ」美羽は笑った。でも心の底では、申し訳なくて落ち着かなかった。彼女のそんな表情を見て、悠斗は言った。「国に帰ったら、俺の体をしっかり見てくれよ。それで埋め合わせってことにするから」「もちろんよ」「今夜、美羽は友達と食事をするんだろ。それなら一紀さんに電話して、付き添わせてくれ」美羽は少し考えて言った。「まずは会社に行って彼に頼むわ」車を走らせ、会社のビルに着いた。美羽はリナに電話をかけた。彼女は今日、社内で引き継ぎ業務をしているのだ。リナが降りてきた。彼女は美羽の姿を見て、驚いたように尋ねる。「イヴリン、どうしてここに?」美羽は歩み寄り、プレゼントとスイーツを手渡した。「これ、リナに。気に入ってくれると嬉しいわ」リナはそれを受け取り、首を傾げる。「これって?」「ほんの気持ちよ。開けてみて、気に入ってくれる?」リナが箱を取り出し、開けると中にはブランド品のブレスレットがあった。彼女は顔を上げて、尋ねた。「ありがとう。とっても素敵。イヴリン
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第404話

「手のケガは大丈夫ですか?」隆が聞いた。悠斗は答えた。「ああ、大したことない、ちょっと擦りむいただけですから」「ならよかったです」美羽が尋ねた。「先生、研究は順調ですか?」隆が言った。「安心して。ちゃんと考えてあるから、明日は君と悠斗さんで安心して帰国すればいい」美羽は頷いた。「分かりました」翌日の朝8時。美羽と悠斗は支度を終えた。一紀が荷物をトランクに積み込んだ。そのあと隆も一緒に、彼らを空港まで送った。「道中気をつけて。到着したら連絡してくれ」隆が言った。美羽はうなずき、「先生も気をつけてくださいね。くれぐれも無事で」と返した。隆は口元に笑みを浮かべ、なだめるように言った。「ああ、安心して帰りなさい」悠斗も彼に念を押した。美羽が荷物を押して立ち去ろうとしたとき、向こうから歩いてくる人が見えた。悠斗はその男をじっと見た。隆が振り返ると、その目は一気に冷たく張り詰めた。迅は真っ直ぐに歩み寄り、美羽に視線を落として言った。「帰国するんだね。イヴリン、わざわざ見送りに来たよ。また会えるのを楽しみにしている」美羽が言い放つ。「次にあなたの名前を聞く時は、死んだという知らせであってほしいものね」迅は笑った。「イヴリン、そう冷たくしないで。まだ手に入れてないのに、死ねるわけがないだろう」これを聞いた悠斗は、我慢できずにまた手を上げようとした。隆が制した。「よくこんなところで余裕ぶっていられるな?」迅は少し表情を引き締め、隆を見つめて聞いた。「それはどういう意味だ?」隆は答えず、美羽と悠斗に言った。「搭乗手続きに行きなさい」二人は荷物を引き、その場を離れた。二人の姿が遠ざかるまで見届けてから、隆と一紀はその場を去った。迅は隆が去っていく背中をじっと見ていた。そのとき、スマホが震え出した。彼はスマホを手に取り、電話に出た。「父さん」向こうが何を言ったのかはわからない。次の瞬間、迅の顔色が一気に変わった。迅は去っていく隆の背中を見つめ、漆黒の瞳が冷え切っていった。車に戻ると、峰行から電話が入った。今朝、神崎グループが持つテック株が20%急落し、傘下企業の不祥事が暴露され、すでにメディアは記者で埋め尽くされているという報告だった。「翔平さんが仕組んだのか?」
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第405話

夕食の時。美羽は皆に、会社の株式譲渡が完了したことを伝えた。それ以外のことについては、一切触れなかった。「よかったわ。一人でできることには限りがあるもの。これからは国内で頑張りなさい」澪は心から安心したようだった。涼太もうなずいた。彼も美羽に無理をしてほしくなかったのだ。それからの3日間。美羽は家でゆっくり休み、時差ぼけを解消しながら、Y市の経済情勢を追いかけていた。たまに隆とも連絡を取っていた。一方で、悠斗はゆっくり休む暇もなかった。長期間海外に出ていたため、会社には処理すべき仕事が山積みだったのだ。美羽は毎日、彼のために会社へ昼食を届けた。澪が特別に用意してくれた手料理だ。連日の手厚いケアのおかげで、悠斗は驚くほど回復した。腕もペンを握れるまでになったが、重い物を持つのはまだ控えなければならなかった。美羽の帰国を知った直美と紗良が訪ねてきた。美羽が無事なのを見て、紗良はすっかり安心した。そんなある日。美羽は悠斗の再検査に付き添って病院へ向かった。病院の外来ロビーに入ると、向こうから歩いてくる二人と出くわした。美羽は思わず眉をひそめた。杏奈と彩乃ではないか?なぜ二人が一緒にいるのだろう。だがよく考えれば、彩乃は百合と親しい。杏奈と一緒にいても不思議ではなかった。彩乃は美羽と目を合わせた瞬間、ふっと視線をそらした。悠斗が足早に歩み寄る。「母さん、どうして病院に?」杏奈は悠斗を見て、それから美羽に視線を移すと、こう言った。「私は付き添いよ。それより、腕の調子はどうなの?」悠斗は帰国して一度、家に戻っていた。杏奈は彼が怪我を負っていたことを知っていたのだ。「だいぶ良くなったよ。今日は念のための検査に来たんだ」美羽が近づいて、杏奈に一礼した。「こんにちは」杏奈は小さく頷いた。「こちらが杏奈さんの次男さんね。やっぱり凛々しくて立派だわ」彩乃がにこやかに褒めた。悠斗は彩乃を見つめた。杏奈が紹介した。「こちらはMKグループの会長夫人よ」それを聞いた悠斗はピンときた。すっと目を細め、冷たく言い放つ。「娘さんが他人の夫婦仲に割り込んでいるのをご存じですか?」一言で場が凍りつく。美羽もきょとんとした。彩乃の表情が固まる。「悠斗、なんてこと言ってるのよ」杏奈がたしなめる。
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第406話

彩乃は表情を整えて、穏やかに笑った。「大丈夫。行きましょう」杏奈は、それ以上何も言わなかった。二人は車に乗り込んだ。彩乃が口を開く。「今の人、悠斗さんの彼女さん?」美羽の正体を彩乃は知らない。以前会った時も、誰も正体に気づかなかったのだ。杏奈も詳しく説明せず、「いいえ、悠斗の友達よ」と答えた。「仲良さそうに見えたからてっきり……悠斗さんとお似合いだったわね」杏奈はただ笑みを返し、話題を切り上げた。でも彩乃の話を聞いて、つい考え込んでしまった。彼女はずっと悠斗の結婚を気にかけていた。でも、その話を持ち出すたびに、悠斗はうんざりした。好きな子でもいるのかと聞いても、彼は答えない。結婚を頑なに拒むような態度ばかり取っていた。以前、北条家で悠斗が美羽と親しげにしていたことや、さっき二人が入ってきた時に息子が美羽に向けていた視線を思い出す……彼女は思わず眉間にしわを寄せ、それ以上考えるのをやめた。悠斗の検査が終わった。二人は昼食を食べに行った。会社に戻った悠斗に、杏奈からの電話が入る。「悠斗、今夜は家で食事よ」「今夜は残業かもしれない。何か用?」わざわざ電話をかけてきた以上、何か話があるのだろうと察した。杏奈はため息をついた。「毎日仕事ばかりで。そろそろ結婚のことも考えたらどうなの……」「もういいよ、母さん」悠斗は遮った。「ちゃんと自分で考えてるから、急かさないでくれ。本当に忙しいんだ。他に用がないなら切るよ」悠斗は電話を切った。結局、杏奈は本題を聞き出せなかった。美羽は今や美しく才能もあり、悠斗の祖父も高く評価している。人柄は申し分ない。もし美羽が独身で、悠斗と結ばれるなら、反対する理由はどこにもなかった。しかし美羽は、翔平の妻であり、柚葉の母親なのだ。もし悠斗が美羽に本気だとしたら、一体どうすればいいのか?金曜日の午後。美羽は学校へ柚葉を迎えに行く約束を、紗良としていた。1ヶ月以上も会っていなかったせいか、柚葉は美羽の腕に飛びつき泣き出した。美羽は柚葉を抱きしめ、慰める。「ごめんね、もう泣かないで。帰ってきたよ。さあ、車に乗ろう」美羽は柚葉を抱き上げて、車に乗った。紗良と詩音も一緒に今井家へ行くことになった。週末、紗良と詩音は今井家に泊まった。彼
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第407話

あっという間に2週間が過ぎた。晩秋の東都は、もの寂しく、気温もぐっと下がっていた。柚葉は相変わらず今井家で過ごしており、美羽もようやく仕事に復帰していた。夜、柚葉は翔平とビデオ通話をした。こんなに長く翔平と離れ離れになるのは初めてだった。柚葉は翔平に会いたくてたまらなかったが、美羽がそばにいてくれたおかげで、寂しさを紛らわせることができていた。「パパ、早く帰ってきて」「うん、17日には帰るよ。何のお土産がいい?」「パパがくれるものなら何でもいいよ。あ、イヴリンさんへのお土産も忘れないでね」「……」ドレッサーの前でスキンケアをしていた美羽は、その言葉に思わず動きを止めた。隆も同じ17日に戻る予定だからだ。このところ神崎家は不祥事が相次ぎ、神崎グループの株価が大暴落していた。神崎家の不祥事は、経済ニュースでも連日のように取り上げられている。迅が隆につぎ込んだ資金も塩漬け状態だが、現状では下手に動かず損失を抑えるのが賢明だ。隆を巻き込むより、今の荒波を乗り切る方が先決だった。一方の翔平はというと。隆の話では、翔平は迅に手を貸したらしい。でも、あの男が何の見返りもなく助けるはずがない。弱みにつけこんで、迅が海外で持っていた大きなプロジェクトを二つも奪い取ったのだ。結局、一番おいしい思いをしたのは翔平だった。本当に腹黒い男だ。とはいえ、隆のほうも迅の資金を押さえて、けっこうな利益を上げていた。美羽がそんなことを考えていると、ビデオ通話の向こうから翔平の声が聞こえた。「柚葉、今部屋で一人でいるのか?」柚葉は美羽のほうを見て言った。「ううん、イヴリンさんも隣にいるよ。美容液塗ってるの」椅子に座るその姿を目にした翔平は、低く「そうか」とだけ返した。柚葉は翔平とおしゃべりを終えると、通話を切った。夜、眠る時間になった。柚葉が美羽に抱きついてきて言った。「イヴリンさん、パパが帰ってきたら空港まで迎えに行こう?」美羽は17日に空港へ迎えに行くつもりだったのを思い出した。でも、迎えるのは隆だ。それでも彼女は答えた。「当日は空港に行くわ。柚葉は、ちゃんと学校に行くのよ」柚葉はそれを聞いて、嬉しそうに笑った。「やったあ」翌日。柚葉は内緒で翔平に電話をしてこう伝えた。「イヴリンさんが、パパをむ
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第408話

今日の美羽は、白い上着に髪をさらりと流し、パールのヘアピンをつけていた。美しい顔は、腕に抱えた花よりもずっと綺麗だった。彼女が静かに佇むだけで、その清楚で上品な雰囲気に誰もが目を奪われてしまう。翔平は漆黒の瞳で美羽を見つめた。隣の浩平が口を開きかけたが、翔平は美羽の方へと歩き出していた。翔平は美羽の前に立つと、迷わず彼女の手を取って引き寄せた。美羽は驚いて固まった。「ちょっと……」翔平は懐から紫色のブレスレットを取り出し、美羽の手首にはめた。極上の品質で、室内でも不思議なほど輝いて見えた。ひと目で高価なものだとわかった。美羽は一瞬、その紫の輝きに心を奪われた。翔平が低い声で問いかける。「気に入ったか?」美羽は我に返り、手を引っ込めた。そして彼を見上げて、淡々と言った。「そこまで気を使わなくていいわ。柚葉にプレゼントを用意したと言えば、私が口を挟むことはない」翔平は一瞬だけ、誰にも気づかれないほど微かに眉をひそめた。「もし柚葉に、何か告げ口されたらどうする?」どういう意味?翔平と柚葉の関係を、自分がわざわざ壊しにいくとでも思っているの?美羽は視線を落とし、翔平を無視することにした。翔平は花束を抱えたまま黙り込む美羽を見つめていた。周囲の空気まで凍りついたように静まり返る。男が立ち去る気配を見せないため、美羽は不思議そうに見上げた。「まだ行かないの?」彼女がそう口にしたとき、前の方から声が響いた。「美羽さん」美羽が振り返ると、隆が出てくるところだった。美羽はもう翔平のことなど気にかけていなかった。当然、翔平が顔を強張らせていることなどに気づくはずもなかった。美羽は花を抱えたまま、優しい笑顔で隆のもとへ歩み寄った。「先生、お帰りなさい」隆は両手で受け取った。「ありがとう」「車に乗りましょう」隆は頷いた。美羽が振り返ると、翔平はすでに別の車に乗り込んでいた。彼女はほっと胸を撫で下ろした。一紀がトランクにスーツケースを積み込み、運転席に乗り込んだ。前方を走るロールスロイスがゆっくりと遠ざかっていく。車の中。空気は重く沈んでいた。浩平はからかうように言った。「てっきり自分は花がもらえるとでも思ったか?」美羽が立っていた様子を見た瞬間、彼女は最初から翔平に花束を
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第409話

美羽は我に返り、ブレスレットを外しながら言った。「これなら、高く売れますね」隆が答える。「この品質なら、少なくとも数億円にはなるよ」美羽は少し驚いた。翔平も随分と気前がいい。だが、瑠衣にブラックカードをポンと渡したことに比べれば、大したことではない。心の中で、鼻で笑った。美しいけれど、見ていると気が重くなる。時間を見つけて突き返そう。1時間ほど後、美羽は会社に戻った。一紀が彼女の車を運転し、隆を家まで送り届けた。帰り道。隆が紗良に電話をかけた。「紗良、美羽さんからお腹を壊したって聞いたんだけど?」紗良はソファに寝そべり、のんびりとフルーツを口に運んだ。「お腹なんて壊してないわよ。ただの口実よ。お兄ちゃんにサプライズを用意してただけだもの」隆は最初から見抜いていた。「じゃあ、お兄ちゃんは今、美羽と一緒じゃないの?」「うん、美羽さんは会社に戻ったよ。こっちもすぐ帰る」紗良は「うん」と返した。……美羽が会社に戻ると、柚葉から電話がかかってきた。「イヴリンさん、今日はパパを空港まで迎えに行かなかったの?」美羽は不意を突かれ、眉をひそめた。告げ口したのは、彼のほうだったのか。とっさに美羽は、何と説明すればいいか分からなかった。「柚葉、ごめんね。空港に行ったのは、友達と約束があったからなの。パパをお迎えに行ったわけじゃなかったのよ……誤解させちゃってごめんね」柚葉はがっかりした声で言った。「分かった。パパがイヴリンさんにプレゼントをあげたって言ってたの。イヴリンさんも、パパに花を贈ってあげてくれない?」美羽は迷いながらも、とりあえず引き受けるしかなかった。その日の夜。大輔が、隆の帰国祝いに食事会をセッティングした。迅が握っていたファンドから利益を掠め取れたのは、予想外の収穫だった。市場を広げられただけでなく人脈も固まり、以前の東華での損失を補って余りある結果となった。「ただ残念なのは、中山に痛い目を見せられなかったことだ。さすがに食えない男だよ」と大輔は嘆いた。「彼を一度でも手痛い失敗に追い込めるやつはいないの?」直美は今になって迅が出所したことを知った。けれど、今は美羽が無事でなによりだし、迅が大損をしたことを思えば胸がすく思いだ。「それは簡単じゃないさ」と大輔は笑
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第410話

紗良と直美は、それ以上何も話さなかった。翌日。美羽はブレスレットを、翔平の会社宛てに送った。宅配便は、受付へ届けられた。ちょうどそのとき、瑠衣が翔平を訪ねて会社にやってきた。A国のY市で美羽と出くわして以来、彼女は浩平にすぐ帰国させられていた。翔平からも連絡はなく、自分からも連絡が取れずにいたのだ。浩平は翔平が仕事で忙しいと言うけれど、瑠衣の胸の不安は募るばかりだった。翔平が国内にいない間、彼女は出勤する気にもなれなかった。翔平が戻ったと知り、瑠衣はわざわざお弁当を作って会いに来たのだ。受付の前まで来ると、宅配便の人が、受付の人と話しているのが聞こえた。「これ、中山社長宛てのものですか?」受付の人は瑠衣に気づくと、丁寧に返事をした。「はい、その通りです」「預かりましょうか。私が届けておきます」「貴重品ですので、ご本人にサインをいただく決まりなんです。一緒に上までお持ちしますね」受付は宅配の人に、少し待つよう伝えた。そして瑠衣と一緒に上層階へ向かった。瑠衣は手にした箱を見た。とてもきれいな箱だ。気になって開けると、中にはなんと、美しく輝く紫色のブレスレットが入っていた。瑠衣は、一目で心を奪われた。箱の中身を見た受付の女性も驚いた。一目で高級品とわかるブレスレットだ。思わずお世辞を口にした。「きっと社長から白石さんへのプレゼントですね」瑠衣はそう聞いて、嬉しさのあまり笑みをこぼした。きっと翔平が、会えなかったお詫びに用意してくれたのだ。翔平が自分のことを大事に思っていないはずがない。彼女は箱を閉じ、受付の女性に手渡した。「じゃあお願いしますね。サインをもらってきてください。私は後から上がります」翔平からのサプライズを、楽しみに待ちたかったのだ。二人はまだエレベーターを待っているところだった。受付の女性は箱を受け取り、手提げ袋に入れた。「かしこまりました」瑠衣は胸の高鳴りを抑えた。ここ最近の憂鬱な気持ちが、すっかり晴れ渡っていくようだった。10分後。瑠衣は受付の女性が降りてきたのを見て、お弁当を持ってエレベーターに乗り込んだ。その女性の顔色がすぐれなかったことには、まったく気づいていなかった。実は、翔平が荷物を受け取った時の表情は冷え切っていた。とても誰かに
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