瑠衣は、なぜか胸がざわついた。どうしていいか分からなくなった。瑠衣の隣にいたボディーガードが迅を見た。そのボディーガードは翔平へ電話をかけて戻ってきたばかりだった。店内の状況を見て、先に出るかと瑠衣にたずねたが、瑠衣はここで成り行きを見届けたいと言い張った。その時、迅が言った。「イヴリンは、男に取り入ってのし上がった女だって?」その声からは感情が読めなかったが、聞く者を凍りつかせる迫力があった。瑠衣は迅の整った顔立ちを見つめた。彼が放つ異様な威圧感に恐怖が先立ち、この質問が何を意味するのか考える余裕さえなかった。どうせ、女遊びの激しい男だ。美羽に手を出そうとちょっかいをかけて拒まれたから、逆上して独占欲を燃やしているだけだろう。本当に、いやらしい女。「あの、ご存じないかもしれないけど、彼女は昔、太ってて不細工で、性根も腐っていて、片思いが実らないからって、男に薬を盛ってベッドに潜り込むような下劣な真似までしたんです!」迅は口元に薄い笑みを浮かべ、へえ、と面白がるように声をあげた。「なるほど。じゃあイヴリンは、君の男と寝たって言うのか?」瑠衣は何も答えず、黙り込んだ。「でもさ、俺が聞いた噂だと、イヴリンは君こそが人の旦那に手を出したって言ってたみたいだけど?」その一言で、瑠衣の顔から、さっと血の気が引いた。その時、ボディーガードのスマホが震えた。彼は電話に出た。「翔平様」「他に誰がいる?」ボディーガードはソファに座る迅を見て、声を潜めて答えた。「神崎さんという方です」翔平が電話を切った。すぐさま迅のスマホが鳴る。発信元を確認した迅は鼻で笑うと、ボディーガードたちに向かって言った。「もういい」悠斗と美羽は3人のボディーガードに囲まれ、壁際へと追い詰められていた。迅は電話を受け、相手の言葉を聞くと悠斗に目をやり、納得したように言った。「君のいとこ?こうして見ると、確かに顔立ちがそっくりだな。いやあ、ただの誤解だよ。イヴリンとゆっくりお茶でも飲みたかっただけなんだ。よかったら、こっちに来ないか。誤解を解こうじゃないか」「……」迅は通話を切った。店の中は、水を打ったように静まりかえった。悠斗が入り口の方を見たが、扉はすでにロックされていた。全員がその場に立っている。
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