All Chapters of 冷徹な夫が暴走愛?それでも妻は絶対に許さない: Chapter 371 - Chapter 380

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第371話

昼食を済ませた後、悠斗が車を運転し、美羽を会社まで送った。美羽は仕事に追われていた。悠斗は休憩エリアに座り、美羽の仕事の邪魔をしないようにしていた。その時、スマホが震えた。画面を確認して、悠斗の目が少しだけ険しくなった。着信音が鳴り止む直前、ようやく電話に出た。「翔平さん」「悠斗、Y市になんの用だ?」と、翔平が平然と問いかける。「仕事の件で」それから、余計なことは一言も付け加えなかった。「片付いたのか?」と、翔平がさらに追及してくる。それはまるで、ただの親戚が年下を気にかけているかのような自然な口調だった。「まあ、ほとんどは」「どこに泊まっている?」悠斗は質問には答えず、「何の用?」とだけ返した。電話の向こうで少し間があったあと、言われた。「いや、別に。仕事が終わったなら早く帰国しろ」翔平はそれだけ言い捨てて通話を切った。悠斗はスマホを置き、じっと画面を見つめていた。戻ってきた美羽が、黙りこくってスマホを睨む悠斗に気付いた。「どうかした?」悠斗は表情を繕い、笑いながら返した。「なんでもないよ」美羽が菓子箱を差し出す。「こっちのお菓子ってどう?国内のより美味しいかな?」一つ食べてみた悠斗は答えた。「やっぱり国内の方がしっくりくるな」ここ数日、美羽の毎日はいつも通り過ぎ、迅との遭遇などまるで幻だったかのようだった。翔平についても同様だ。彼から連絡は一切なかった。今になって気付いた。あんなに親しそうにしていたあの二人は一体どういう仲だったのか?いや、考えてみれば国内では、自分と翔平の繋がりはあくまで、柚葉のお陰での縁だったはずだ。今の場所、Y市なら。ここではもう、自分と翔平は無関係な他人だと思えた。そう思うと、心が不思議と軽くなった。この日、デイビッドの紹介先企業の責任者と顔合わせがあった。一紀の運転で美羽は会社へ向かう。すると、途中で隆からの着信が入った。「先生」隆は美羽の声がいつも通りなのを確認すると、言った。「さっき空港に着いたんだ。今、忙しいか?」それを聞き、美羽は動きを止めた。「空港?どちらのでしょうか?」「Y市だ。ちょうど急な仕事が入ってね」と隆が笑う。納得した美羽は、やわらかな口調で返した。「そうだったんですね。どうして
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第372話

ドアを開けると、窓際に立つ翔平の姿があった。ただそこに立っているだけで、威圧感が漂っている。「イヴリン、待っていましたよ」責任者が美羽に声をかけた。美羽は冷ややかな目で翔平を見た。翔平は振り返り、電話を短く切り上げると、美羽の方を向いた。彼はそのまま席に腰を下ろす。美羽は動揺を隠し、声をかけた。「中山社長、本日はどのようなご用件で?」翔平は椅子の背にもたれかかり、気怠げながらも威圧的な瞳で美羽を見下ろした。「N・Sの現状を把握したい。過去2年間の財務データを全て出せ」美羽は鋭く彼を見つめた。一体、何を考えているのか分からない。美羽が動かないのを見て、翔平は瞳を暗く沈めた。「聞こえていないのか?」美羽はすぐそばにいた責任者に命じた。「資料をまとめて持ってくるように」責任者はすぐにオフィスから出ていった。美羽は翔平の正面の席に座り、バッグからスマホを取り出してデイビッドに連絡を入れた。今日の午後、デイビッドと大切な打ち合わせがある。急に来た翔平に、いつまで付き合わされるか分からない。念のため、明日に予定を変更できないか打診してみた。デイビッドから即座に返信がきた。【了解、構わないよ】美羽はほっと小さく息をついた。正面でスマホを操作する美羽を見つめ、翔平は鋭い声を出した。「それがお前の業務態度か?」ピリついた空気が流れる。美羽は目を上げ、あからさまに翔平を無視するような態度をとった。立ち上がりながら、冷静に言い放つ。「いきなり来られたから、準備には時間がかかるわ。そのまま待ってて。こちらも支度があるので」そう言い捨てると、美羽は応接室から去っていった。応接室の中には、翔平と、同行していたN・S側からの秘書だけが残された。前回、翔平を案内したときは、K・U側の誰もが歓迎し、丁寧に詳細資料を用意してくれたはずだった。一体どういう状況なのか、秘書も戸惑うしかない。まさか、翔平が何者なのか知らないはずはないのに。さっき、N・Sにとって、会社を支える出資の全権は翔平が握っていると、明確に伝えたはずだ。あるいは、このイヴリンが分かっていないだけなのか?だとしても、これから事業を拡大していこうという企業が、最大株主に対して取る態度ではない。このまま自分たちを放置するのか?この
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第373話

リナは小さく頷いて、「分かった」と答えた。リナはそのまま背を向けて立ち去った。オフィスを出たところで、一人の男性と鉢合わせた。リナは驚いて、我に返ると慌てて、「中山社長」と呼びかけた。翔平は小さく唸ると、そのままオフィスの中へと入っていった。リナはうつむいたまま、小走りで立ち去った。入ってきた翔平を見て、美羽は眉をひそめた。翔平はまっすぐ美羽のデスクまで歩いて足を止め、見下ろしながら低く言った。「いい年をした大人として、今の態度は正しいと思っているのか?」その口調は、上から目線で説教をするものだった。「K・Uが、お前一人だけの会社だと思っているのか?苦労して働いている社員たちに対して、責任があるとは思わないのか?自分勝手に好き放題していいと思っているのか?」翔平の言葉に込められた意味を、美羽が分からないはずもなかった。会社全体を盾にして、今の態度を後悔させようという脅しに過ぎない。「わざわざ注意しに来てもらって、恐縮だわ」美羽はそう言って立ち上がり、ソファへ歩み寄った。「どうぞこちらへ。先ほどの無礼をお詫びするわ、ごめんなさいね」美羽の態度は丁寧だった。礼儀正しい立ち居振る舞いで微笑みを浮かべたが、冷たく光るその瞳には一点の隙も見せなかった。翔平は険しい顔で彼女をじっと見つめ、数秒置いてソファに座ると、「コーヒーを淹れろ」と命令した。美羽は拳を握りしめ、一度小さく息を呑むと、コーヒーマシンの前へ向かい、豆を挽き始めた。静まり返ったオフィスに、機械の作動音だけが響いている。どうして今日、下剤を持っていなかったのかと、美羽は心底後悔した。翔平はソファに足を組んで寄りかかっていた。彼の鋭い視線が美羽の背中に突き刺さる。今日の美羽は紫色のスリムなワンピースを着てヒールを履いており、細い腰のラインと、そこから覗く白くまっすぐな足が際立っていた。コーヒーを淹れ終わり、漂う豊かな香りが室内を包み込んだ。美羽が振り向くと、翔平はテーブルにあった雑誌を読んでいた。あれ、先ほど感じた妙な違和感は、ただの勘違いだったのだろうか?美羽は前に出て、翔平の目の前にカップを置いた。その後、自分のデスクへと戻る。翔平はその後、コーヒーを飲んで雑誌をめくりながら、最後まで何も言わず、暇を持て余したように過
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第374話

そして、視線を逸らして美羽の方へ歩み寄る。デスクを回り込み、彼女の前に立つ。美羽の警戒に満ちた視線を受け流すように、迅は優しく笑った。「緊張しなくていいよ。たとえ君が俺を傷つけるようなことをしたとしても、君を責めたりはしないさ」そう言って、迅は花束をデスクに置くと、片手をデスクの端に突き、身を乗り出して美羽に顔を近づけた。骨の髄まで記憶されている、吐き気がするほど不快な匂いが美羽の鼻を突く。迅の瞳には怪しい光が宿っていた。低く掠れた声で囁く。「これだけ君を好きなんだから」次の瞬間。パシッ!美羽は手近にあった本を手に取り、ためらいなく迅の頬を叩いた。彼女は勢いよく立ち上がって距離を置く。「近づかないで!」迅はゆっくりと体を起こした。舌で頬の内側を押し、紙で切れた頬の血を拭う。指についたわずかな血を見て、怒るどころか不敵な笑みを浮かべる。その漆黒の瞳には、見ているだけで背筋が凍るような不気味な光が混じっていた。彼は突然、一歩前へ出た。美羽は後ずさる。だが遅かった。手首を強引に掴まれ、そのまま引き寄せられて相手の胸元に倒れ込む。「放して!」迅の大きな手が美羽の後頭部を押さえつけた。顔を寄せ、次の行動に移ろうとした、その時。力強く本を閉じる音が響いた。耳をつんざくほど鋭い音だった。迅は動きを止め、ソファに腰掛けていた翔平に視線を移した。迅がひるんだ隙に、美羽は彼を力任せに押し退けると、足早に部屋を飛び出し、警備員を呼ぶために廊下へ駆けていった。迅は入り口の方を見つめる。すると翔平が静かな声で口を開いた。「悪い。邪魔をしてしまったな」そう言うと、何事もなかったかのように手元の本をまた開き始めた。迅は視線を戻して翔平を見ると、ぐるりと回り込んで翔平の向かいに座った。ポケットからタバコを取り出し、一本差し出した。翔平は淡々と告げる。「やめたんだ」迅は少し動きを止め、それから手を引っ込めると笑った。「いったい誰が、お前にタバコをやめさせたんだ?」翔平は答えなかった。迅はライターで火をつけると、指先でくゆらせながら煙を吐き出した。「どうして今日ここに?」翔平は言った。「仕事の用だ」「仕事?」迅は訝しむ。「K・Uみたいな会社と取り引きなんてしているのか?一体何の件で自ら足を運ぶ必要が
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第375話

迅は翔平の傍らに立つと、声をかけた。「今回の仕事がうまくいくことを願っているよ」迅はK・Uを後にした。翔平はその後ろ姿を見送り、視線をリナに移すと、尋ねた。「データは準備できているのか?」「一部準備できております。まずはこちらからご確認いただけますでしょうか?」翔平は応接室に向かいながら、「それを持ってこい」と告げた。「かしこまりました」翔平が椅子に座ると、リナと経理部長が関連データ一式を彼の手元に届けた。「こちらになります」翔平はさっと資料に目を通し、「イヴリンさんは?」と一言尋ねた。リナは答える。「イヴリンは先ほど会社を出ました」書類をめくる翔平の手がふと止まった。彼は鼻で笑うと言い放った。「その程度の仕事ぶりなら、このK・Uなど経営する価値すらないな」その言葉に、リナと経理部長は肝を冷やした。リナは必死にフォローを入れた。「わけがあってのことなんです。イヴリンは先ほどから体調が優れず、中山社長のご質問にまともに答えられる状態でなかったようです。それに、ここ最近彼女は不在がちで運営の詳細も把握しておりません。何か不明な点がございましたら、イヴリンより我々が詳しくお答えしますので」そう言い終えると、リナは戦々恐々として翔平を見つめた。相手は終始無表情だったが、その何もしなくても漂う圧倒的な重圧が、余計に周囲を震え上がらせた。翔平はリナの言い訳に返事もしない。視線は流れるように、ファイルの内容を拾っていった。答えのない沈黙に、リナは心底不安を感じた。……一紀の車で帰路につく中、美羽の顔色がまだ晴れないのを案じた彼は気遣った。「美羽さん、体調は大丈夫ですか?」「ええ、大丈夫。お気遣いなく」邸宅に戻ると、悠斗は彼女がこんなに早く帰ってきたことに驚いた。ちょうど美羽に昼食を届けに行こうと思っていた矢先だった。「美羽、ずいぶんと早いな。株式の話だったんじゃないのか?」美羽は答えた。「少し急な事情ができて、明日まで持ち越しになったの」今はすでに心を落ち着けていたため、悠斗も美羽の異変には気づかなかった。「そうか。それじゃあ、今日は他に何か予定はある?」美羽は言った。「今のところは、家で仕事を片付けるつもりよ」「分かった。今日は俺が手料理を作るよ。あとで味見してくれ」
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第376話

しかし結局、電話に出てしまった。翔平の低く響く声が耳に届く。「そろそろ、俺に説明をしてくれるのか?」美羽は彼を相手にする体力が残っておらず、突き放した。「言いたいことがあるならはっきり言って」そう言うと、電話の向こう側は沈黙に包まれ、息苦しくなった。翔平が何も言わないのを聞いて、美羽が電話を切ろうとしたその時、翔平は有無を言わせぬ口調で告げた。「2日後のパーティーに出席してもらう。準備をしておけ」それだけ言うと、美羽に拒絶する隙さえ与えず、一方的に通話を切った。美羽は呆然としたが、すぐにスマホを脇に投げ出した。昼食を済ませた後、美羽は家で仕事を片付けた。その日の午後、隆がY市での仕事を終え、美羽たちが暮らす邸宅へやってきた。隆が来ることを知らされていた悠斗は、彼の姿を見ても驚かなかった。「隆さん、お疲れ様です」悠斗が挨拶をする。隆は短く頷き、「最近はどうですか?」と尋ねた。「ああ、問題なくやってますよ」美羽はまだ書斎で作業を続けていた。二人は1階のリビングで言葉を交わす。夕食は、隆と悠斗の二人で準備をした。「悠斗さん、料理の腕はなかなかのものなんですね」隆は、食卓に並んだものを見て微笑んだ。悠斗は少しはにかみ、答えた。「10回以上失敗してようやくこの味になりましたよ。美羽は仕事が忙しいし、自分の分はここで全部済ませようと思って、現地の料理は口に合わないから、俺が作るしかないんですよ」夕食を作り終えて、ちょうどタイミングよく、美羽が降りてきた。4人で一緒に食卓を囲んだ。「迅は、この2日間で美羽さんに接触してきたか?」隆が尋ねた。例の夜、迅と遭遇した件を、悠斗はあらかじめ隆に話しており、同時にその男についても詳しく調べてもらっていた。神崎家はこのあたりの移住者コミュニティで強い勢力を持ち、A国の上流層とも深い繋がりがある。以前、迅を刑務所に送り込むのも、並大抵の努力ではなかったのだ。今回あっさり保釈されてきたとしても、さして驚くべきことではない。美羽は隠すことなく答えた。「今日、会社に来ました」悠斗が心配そうな視線を送る。美羽はふわりと笑って悠斗を見た。「別に何もなかったから、心配しないで」隆は一紀に視線を移し、念を押した。「一紀さん、最近はしっかり見張ってお
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第377話

デイビッドの言葉が途切れた。美羽はハッとした。昨日、翔平から電話がかかってきていたことを思い出したのだ。デイビッドが話していたイベントは、きっと翔平のものと同じなのだろう。美羽がすぐに応じないのを見て、デイビッドは残念そうに唇を尖らせた。「何か問題でも?断ったりしないよね!」美羽は言った。「私から断るなんて、礼儀がなってないと思われてしまうから」デイビッドは笑って言った。「ならよかった。それじゃあ明日の午前9時、迎えに行くよ」美羽は小さく返事をした。約束を取りつけたデイビッドは、上機嫌で車に乗り込んで去っていった。美羽は階段を上り、オフィスへと戻った。悠斗は美羽が戻ってくるのを見て聞いた。「話はまとまったか?」美羽は答えた。「ええ、すべて順調よ」「それならいい。残りの手続きには、どのくらいかかるんだ?」「あと1週間くらいね。あとの事務的なことは会社の人に任せるわ」悠斗は感慨深げにつぶやいた。「今のところ、事業は順調なようだな」美羽は未練がないといえば嘘になる。だが仕方のないことだ。もうここまで来てしまった以上、悩んだところで何も変わらない。「イヴリンさん!」受付の女性がドアをノックして入ってきた。手にはバラの花束が握られている。美羽は思わず眉間にしわを寄せた。「宅配便でバラが届きました」と受付の女性は言った。美羽は即答した。「捨てておいて」受付の女性は花束を抱えたまま、くるりと背を向けて出ていった。悠斗は美羽の反応を見て察したのか、尋ねた。「迅のやつが送ってきたのか?」美羽は答える。「あのクズ男しかいないでしょ」悠斗は表情を曇らせた。「本当に、いつまでもしつこい男だ」「……」翌日、美羽は会社に行かなかった。すると受付からまたバラが届いたと連絡が入った。美羽は言い放った。「これから届くバラは、全部直接捨てていいわ」受付は言った。「それが……配達員がイヴリンさんに直接渡さないといけない、サインが必要だからと。もし渡せなかったら解雇されると言って困っていて……イヴリンさんが会社にいないと伝えたら、家まで届けに行こうとしています」いかにも迅がやりそうなことだ。「それは、私が解決すべき問題ではありません」美羽はそう言うと、一方的に電話を切った。「何かあったか
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第378話

「翔平さん……」翔平は冷静な表情で悠斗を追い越すと、室内を見渡した。美羽と隆も、入り口に立つ翔平に気づいた。美羽は息をのんだ。なぜ、ここを知っているの?翔平は隆を一瞥すると、最後に美羽へと視線を移した。唇の端を皮肉げに吊り上げ、ふっと鼻で笑う。翔平はまっすぐにリビングへ足を踏み入れた。悠斗が反射的に腕を広げて立ち塞がる。「翔平さん、何をするつもりだ?」翔平は悠斗を横目で見ると、その漆黒の瞳を氷のように冷たくし、沈んだ声で言った。「悠斗。今、自分が何をしようとしているか、分かっているのか?」その声は、底知れぬ威圧感を纏っていた。悠斗は眉を寄せ、険しい表情で睨み返した。翔平は視線を戻すと、美羽の目の前まで歩み寄り、冷たく見下ろした。「ずいぶんと気楽に暮らしているようだな」美羽は毅然と彼を見つめ返した。「あなたには関係のないことよ」翔平は鼻で笑うと、言い放った。「大人しく俺について来るのか、それとも無理やりにでも連れて行こうか?」その瞬間。隆がすぐに緊張感を高め、鋭い視線を翔平に向けた。美羽は感情を殺した声で返した。「悪いけれど、今日は先約があるの」翔平は漆黒の瞳で、黙ったまま美羽を睨みつけた。隆が静かに口を開く。「中山社長、相手の意思を無視するのは紳士的ではないのでは?」翔平は視線を隆へ移すと、揶揄するような調子で返した。「では、佐野社長はその紳士とやらなのでしょうか?」隆の声は落ち着き払っていた。「君子たるもの、結果だけでなく過程を重んじるべきでしょう」翔平は冷ややかに口元を歪めた。「では佐野社長がここにいるのは何のためですか?言っていることとやっていることが別だと思いませんか?」「私がなぜここにいるのか、なぜ美羽さんが守ってくれる人を必要としているのか、中山社長にその答えを求める権利があるとは思いませんね」翔平の眼光が鋭くなる。「ああ、佐野社長の博愛ぶりには、感服するしかありませんね」「感服など無用です。他に用がないなら、お帰りください」「ここまで来た以上、美羽を連れて帰ると決めたら連れて帰ります」その言葉に、一紀が一歩踏み出した。美羽の側面に立ち、翔平を睨みつける。かつて特殊部隊にいた一紀が放つオーラは、誰も無視できない迫力があった。隆が穏やかな口調で言った。「
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第379話

美羽は翔平の言葉を無視し、彼をひと目も見ることなく、「ええ」とデイビッドに短く返事をすると、そのまま2階へと足早に去っていった。デイビッドは翔平に向かって言った。「おい翔平、イヴリンに何の用だ?はっきり言うが、イヴリンは君のことなんて好きじゃないんだよ。さっさと離婚しろ。僕の幸せを邪魔しないでくれよな、もう待ちきれないんだから」翔平は冷たい視線を一瞬だけデイビッドに投げると、何も言わずに出口へ向かった。「おい、翔平!」デイビッドがその後ろ姿に向かって声を上げた。翔平が立ち去った後、隆が切り出した。「デイビッドさん、今夜は美羽さんとどんなイベントでしょうか?」「ただの交流パーティーですよ」とデイビッドは答えた。隆と悠斗の険しい表情を見て、慌てて付け加えた。「あ、健全な社交パーティーで、イヴリンを少しリフレッシュさせてやるだけですから」「それならいいです。図々しいお願いですが、そのパーティーの招待券をもう一枚、分けてもらえないでしょうか?」デイビッドは隆を見つめ、あからさまに渋い顔をした。隆は続けた。「今夜美羽さんはデイビッドさんのパートナーです。私はただ、会場の様子を見たいだけです」少し沈黙した後、デイビッドは頷いた。「まあ、いいでしょう」「俺も行く」悠斗も口を挟んだ。デイビッドは悠斗をチラリと見て、やれやれといった風に笑った。「そんなに警戒されると、まるで僕がイヴリンをどこかに売り飛ばしにでも行くみたいじゃないですか」「ご冗談を」悠斗が淡々と言った。結局デイビッドは承諾した。「分かりました。連絡先を交換しておきましょう。今夜到着したら直接電話してください」「感謝します」隆がデイビッドの連絡先を登録した。10分ほど経って、美羽が2階から降りてきた。彼女は簡単に支度を整えただけだった。「それじゃあ、先に行きますね」隆は、「気をつけて」とだけ告げた。デイビッドと美羽が車へ乗り込み、出発する。デイビッドは助手席の美羽を横目で見て、思わず聞いた。「で、さっきの翔平、何しに来たんだ?」到着するのがあと一歩遅ければ、あわや殴り合いかという不穏な空気が漂っていたからだ。美羽は答えをはぐらかし、逆に尋ねた。「翔平も今夜のパーティーに行くの?」「ああ、そのはずだ」「私が彼と行くべきだって
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第380話

美羽は苦笑した。デイビッドに連れられて向かったのは、世界的なファッションデザイナーのアトリエだった。そこには、ハイブランドの未発表のショー用ドレスが用意されていた。デザイナーは美羽の外見に合わせ、2着のドレスを薦めた。美羽が試着したのは、1着目のグリーンのスリップドレス。複雑な装飾はないが、シンプルかつ高級感漂う仕上がりだ。その服は、引き締まった体と、魅力的なオーラをさらに引き立てていた。すると、デイビッドが、熱を帯びた瞳で美羽を捉えていた。もう1着は、ブルーのグラデーションのベアトップドレス。ひはくを添えると、広がる裾に埋め込まれたストーンが、海面に差し込む陽光のようにきらきらと光った。どちらも素敵だった。1着目は色っぽく、2着目は神秘的だ。美羽は最後に、ブルーのグラデーションドレスを選んだ。ヘアメイクを終えて、美羽が登場する。その姿を見た瞬間、デイビッドが目を見開き、その目は隠しきれない感動に満ちていた。美羽は控えめに微笑む。デイビッドは歩み寄り、目元を笑わせて訊ねた。「今日のイヴリンは何に見えると思う?」美羽は怪訝そうな顔で返す。「何に見えるって?」デイビッドは口元の笑みを深くする。「僕の『花嫁』に見えるよ」そう言って、紳士的に手を差し出した。デイビッドは、美羽と色味を合わせたスーツに身を包んでいた。髪はオールバックに整え、端正で凛々しい顔立ちがいっそう際立っている。気品に満ちた佇まいながら、青い瞳に笑みが浮かぶと、その眼差しは雪解け水のように澄んで和らいだ。美羽はその手を取らず、唇を結んで笑う。「ねえ、今から他のドレスに着替えても間に合うかしら?」デイビッドは大きくため息をつき、手を下ろした途端に不貞腐れた。「そんな。僕の傷つきやすいハートが……」午後5時。美羽はデイビッドの腕を取り、島にある高級リゾート地の屋敷に足を踏み入れた。主催者はウォール街のヘッジファンドの重鎮。招かれたゲストのほとんどが業界のエリートだった。デイビッドは美羽を連れて主催者に挨拶をし、何人かの有力者を紹介して回った。クサス家の御曹司であるデイビッドが、女性を連れてこういった場に顔を出すのは珍しかった。その一生懸命な態度に、誰もが彼の心の内を悟った。ひとりの有力者が冗談めかして言った。「デイビッドも
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