柚葉は凛を恨めしげに睨みつけ、爪が食い込むほど強く鞄の持ち手を握りしめた。会場にいる全員が各社のプレゼンに聞き入る中、柚葉だけは上の空。凛こそが、ずっと自分を避けていた谷口博士だということは、もう間違い無いだろう。今まで感じたことのない危機感が、巨大な波のように押し寄せてくる。これを智也が知ってしまえば、もう凛のことなど手放せなくなるのではないか?谷口家の人々が、凛の正体を知って、瞬時に態度を一変させたらどうしよう。今まで自分がついてしまった嘘を、午後の調印式ではどう取り繕えばいいのだ?柚葉は息をするのさえ苦しくなった。審査員の前で堂々とプレゼンする智也を見ても、一切心が躍らないし、祖父がホシゾラ・テクノロジーを称賛する声を聞くたび、冷や汗が出る。凛は自分と智也に復讐するつもりなのだろうか?柚葉は、平然とした様子の凛を見つめた。凛はペンを片手に、研究員と各社のプレゼンについて淡々と協議している。梓が意見を出した。「先輩、現段階ではホシゾラ・テクノロジーの製品の方が、私たちの理想に近いかと思います」「もう少し見てみよう」凛は視線を上げると、大会議室も5分間の休憩に入ったため、その場に向かって言った。「みんなも休憩して」すぐに席を立ち、外へ出ようとした柚葉だったが、入口にはボディガードが立っていた。「凛さん、どういうつもりなんですか?」柚葉は振り返り、水を飲んでいる凛を見つめる。だが、凛の方が怪訝な視線を柚葉に向けていた。「小林さん。松田さんから入札の規則を聞いていないの?休憩中も外出は厳禁。それに、外部との通信も駄目だからね」梓も追い打ちをかける。「もうとっくに資料も送っていますよ。もしかして、ちゃんと読んでいないんですか?」柚葉の顔が怒りで真っ赤になった。こんな厳しいルールを言われたのは、生まれて初めてだった。「凛さん、なぜ智也を騙していたんですか?」柚葉が凛に詰め寄った。凛は会議テーブルに少しもたれかかり、マグカップから立ち上る湯気を眺める。凛の声は淡々としていた。「私だけじゃなくて、プロジェクトに関わる全員が、機密保持契約を交わしているから、たとえ家族であっても何も言うことはできないの。佐野先生ですら、奥様には『忙しい』とだけ伝えて、プロジェクトのプの字すら言ってない
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