凛は振り返って、ダイニングテーブルに座る杏や克哉たちを見て、彼らの元に戻る。「竹内社長です」一同は呆気に取られた。「皆さんは、このままお食事を続けていてください。私はちょっと出てきますね」凛はテーブルの携帯をポケットに入れ、ドアを開けて外に出た。海斗を見つめ、彼がいる前で扉を閉めた。そのことで、海斗は凛の家に客がいることを瞬時に察する。またその客と今、自分が顔を合わせるのは都合が悪いのだろう。「竹内社長、どうされたんですか?」ひどく寒い夜、凛は白い息を吐きながら、海斗に説明をする。「すみません、お客さんが来ていまして」「そうか」と、返事をした海斗だったが、自分がなぜ凛の家に来たかについては、彼自身でも分からなかった。なぜだか、気づいたらここまで来ていたのだ。「入札がいよいよ明日になったから、知らせようと思って」海斗はそれしか理由を見つけられなかった。凛が退職し、あの箱をすでに渡してしまった今、唯一の接点は彼女が退職時に海斗の前で少しだけ触れた、このプロジェクトだけ。こんなことになると分かっていれば、あの箱の中身をひとつずつ返したのに。しかし、凛のこの目で見つめられると、海斗は拒否なんてできなかったのだ。「君が退職の日に少しだけ口にしてたから、気になっていると思って」と海斗は言い訳を付け足す。凛は頷いて言った。「竹内社長、明日の成功を祈ってます」「もし谷口社長が負けたら、君はどうする?」この質問に違和感を覚えた凛は、変なものでも見るような視線を海斗に向けてから首を振った。「特に何もしません。勝負には勝敗があるものですから。彼が競り勝てばそれは実力ですし、そうでなくても普通のことだと思います」「もし谷口社長が何かトラブルに巻き込まれたら?」海斗は彼女の目を見つめ、そこにどんな動揺が浮かぶのか探る。その瞬間、凛の瞳がかすかに揺れた。凛が聞き返す。「何かするつもりなんですか?」「なんだ?」海斗の声が低くなった。「元旦那を心配しているのか?」「いえ、彼のことなど私には無関係ですので」凛はそう言い切り、真っ直ぐに海斗を見つめる。「ただ、明日は竹内社長にとっても重要な日ですので、真っ当に挑まれたほうがいいかと思いまして」海斗の口角がくっと上がった。「なんだ、俺のことを心配してくれていたのか」凛は怪訝な
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