All Chapters of 元夫の後悔をよそに、天才妻は御曹司と溺愛婚: Chapter 231 - Chapter 240

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第231話

谷口家の三人は、あっけにとられて言葉を失った。「ど、どうして……」梨花は自分の頬を思い切りつねったが、あまりの痛さに涙がにじむ。現実だった。ステージの上で頭を下げ、竹内グループの海斗と握手を交わして調印式を行っているのは、まぎれもなくあの凛。彼女たちが知っている、あの凛なのだ。たとえ着飾っていても、ひと目で分かった。4年もの間、谷口家の嫁として身の回りの世話を焼いていた凛その人だったから。用があれば顎で使い、お正月やお盆には一日中、厨房にこもらせ働かせていたあの凛が、テレビの中にいる。「凛?総責任者?」梨花は必死に首を振った。目の前の光景も、耳にした情報も信じられない。「総責任者って、柚葉ちゃんじゃないの?そうだわ、柚葉ちゃんは?どうして柚葉ちゃんの姿がない?」そして、隆に視線を向ける。「あなた、チャンネルでも間違えたんじゃないの?」胡桃も続いた。「お父さん、絶対にチャンネル間違えてるよ」そんなはずがない。そんなはず……ない!「信じられない。料理や家事ばかりで、男に尽くすことしか能のない凛に、どうしてそんな先端技術の研究ができるっていうの?」しかも、総責任者?笑わせないでほしい。とんでもない冗談だ。このプロジェクトの総責任者は柚葉のはずなのに、なぜ凛がそこにいるんだ?調印式は終わったが、ニュースのみならず、マイクロチップ開発プロジェクトと竹内グループの業務提携に関する情報が携帯の画面を埋め尽くしていた。あらゆるSNSや情報サイトで、このニュースがトップを飾っている。そしてメインの画像は、凛が海斗と堂々と握手をしている写真。あっという間に祝福コメントで溢れ、世間の話題となった。次々と報じられる記事を読みながら、健吾は認めざるを得なかった。本当に息子を助けることができたのは凛だった。そして、谷口家に利益をもたらしてくれるのも彼女で、息子の嫁として相応しかったのは、凛にほかならなかったのだ。なのに、自分は何をした?あろうことか、裏でこっそりと息子と凛の離婚を手助けしてしまったなんて!これでは谷口家の先祖に顔向けができないし、何より息子に合わせる顔がない。「終わった……もう終わりだ」健吾は深い溜息とともに、力なく膝から崩れ落ちた。梨花も苦虫を噛み潰した表情を浮
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第232話

胡桃は呆れて鼻で笑った。「お母さん、あんな守銭奴の凛さんが、私たちにお金を回してくれると思ってるの?この数年間、お兄ちゃんの稼ぎを独り占めして、私たちには一切使ってくれなかったじゃん。良くて一袋4万のサプリメントぐらい。それに比べて、柚葉さんの方がよっぽど素敵なプレゼントをくれるでしょ?」健吾が柚葉を認めていたのは、彼女の才能と家柄で、智也の事業に実益をもたらすと考えているから。梨花が柚葉を嫁にしたがっているのは、彼女の気立てが良く社交的であり、裕福な環境で育ったからこそ出し惜しみをせず、親孝行をしてくれるだろうという計算があるから。胡桃に関しては、単に凛が孤児であることが気に食わず、柚葉から優しくされてすっかり味方になっているだけだった。仮に凛がすごい研究者だとしても、だから何だというのだ?今の時代、研究なんて誰も関心がないし、誰が彼女を見るというのだろう?別に何か大層な賞を取ったわけでもあるまいし、そこまで騒ぐことではない。どのみち、胡桃にはどうでもいいことだった。娘にそう言われて、梨花も一理あると思い、納得したように頷いた。「そうね。凛を家に入れておいても、少し箔がつくくらいで他にメリットなんて何一つないわ。あの子が調子に乗って私たちより上に立つようになったら大変だし」彼女たちはそう言葉を交わすうちに、そう思い込んでしまった。……夕方。智也の疑いは晴れ、警察から釈放された。「柚葉は?」と、彼女の行方を尋ねる。「容疑が晴れていないため、まだ帰すことはできません」警察の言葉に、智也は立ち止まって眉をひそめた。「どういうことですか?」「谷口社長、このまま残ってまだ調査に協力してくれるということでしょうか?」もちろんそんなことはしたくない。午後はずっと似たような質問を繰り返され、身も心も疲れ果てていた。警察署を出た時には、もう外は真っ暗だった。浩が既に門のところで待っていて、智也を見つけるとすぐさま駆け寄ってきた。「谷口社長」智也はまず結果を尋ねる。「入札は、竹内グループか?」「はい」智也にとっても想定内だった。ホシゾラ・テクノロジーと肩を並べられるのは竹内グループの傘下であるイノベーション・テクノロジーだけで、それに海斗はこちらを陥れるために周到な準備をしていたのだか
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第233話

しかし、智也の携帯の充電が切れた。彼は充電ケーブルを取り出し、充電をする。浩は思った。今は電源が切れている方が、いいのかもしれない。先に景山会長からの叱責を受け、奥様の正体は最後に知るのがいいだろう。全てを一度に明かせば、社長は耐えられないだろうから。「社長、会長が社長個人の事情でプロジェクトの入札に失敗したことに腹を立てておられます。それに、世論の火消しにもかなりの資金と人脈が動かされたようです」智也は険しい顔をする。「会社まで行ってくれ。茅野さんの特許に関するプロジェクトの企画案を持って行く」「承知しました」浩は車を走らせてホシゾラ・テクノロジーへ向かい、書類を持って直接景山邸へ向かった。車が景山邸の敷地内に入った。ちょうど食事時で、景山一家もダイニングテーブルを囲んでいた。執事が報告する。「谷口社長と秘書の田中さんが到着いたしました」悠真と彼の姉である景山千晴(かげやま ちはる)が同時に顔を上げた。千晴の瞳がかすかに動く。竜太郎は食事を続けながら言った。「客間で待たせておけ」「はい」執事が下がった。千晴が何かを言おうとしているのを、竜太郎が制止する。「その気は捨てなさい。前にも言ったが、智也はもう結婚している。たとえ結婚していなくても、心に誰かがいるのだから、追っかけるのはやめておいた方がいい」千晴は目を伏せた。「いくらなんでも、お腹を空かせたまま待たせるわけには……」「ホシゾラ・テクノロジーにこれだけの損失を出させたのだ。空腹くらい何だ」竜太郎の表情は厳しい。悠真が竜太郎におかずを取り分ける。「父さん、これを食べて。美味しいから」「姉ちゃんもたくさん食べて」悠真のフォローもあり、親子間の短い気まずい雰囲気は解消された。竜太郎は少し語気を緩めて言う。「まずは食事に集中しなさい。智也への想いは捨てたらどうだ?どうせそこまで好きでもないんだろうし、竹内社長なんかいいと思うぞ?」千晴は言った。「竹内グループは政略結婚なんて必要ないから、私が出る幕はないよ。それに竹内社長は全く紳士的じゃないし、女どころか虫一匹も寄り付かせないんだから」「それは彼が純潔ということだろ?」悠真も頷く。「姉ちゃん、ああいう男を捕まえれば、一生姉ちゃんだけに尽くしてくれるよ。他の奥さん達みたいに、旦那
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第234話

智也は竜太郎が自分をわざと待たせていることに気づいていた。だが、冷静さを崩すわけにはいかない。ここで冷静さを失えば、今の社長の座が危うくなる。竜太郎と悠真の姿を見つけた浩が、すぐさま立ち上がった。「谷口社長、会長がいらっしゃいました」智也もそれに続いた。「会長、悠真さん」竜太郎は軽く頷いたが、いつも見せる笑みはない。まだ機嫌が悪いのは一目瞭然だ。智也はすぐに頭を下げた。「個人的な問題で入札に失敗し、さらには会社の評判まで傷つけてしまい、大変申し訳ございませんでした。明日、本社にて全株主の前で正式に謝罪いたします」入札の一件はもう手遅れですが、何とか取り返せないかと思い……こちらをご用意させていただきました。会長、ご覧いただけますか?」浩が資料を智也に渡し、智也はそれを両手で竜太郎へと差し出した。竜太郎が悠真に資料を受け取るよう目配せをする。「茅野さんの持つこの特許は、我が国のマイクロチップ開発プロジェクトには劣りますが、多くの企業が喉から手が出るほど欲しがっているものです。茅野さんとお話して、買い取りは拒否されたものの、共同事業の余地はあります。提携を実現させ、この特許技術を取り入れれば高利益が見込めますし、ホシゾラ・テクノロジーの業界内での実力と知名度向上にも直結すると考えております」悠真は資料を父親に手渡しながら、ふと、父親がなぜ智也を重宝し、景山グループに迎えたかが理解できた気がした。突発的なトラブルにも動揺せず、冷静に対応してすぐに代わりの手を打つ。これは付け焼き刃ではできないことだ。竜太郎は資料にじっくり目を通してから智也に視線を戻した。その目からは、先ほどの鋭い冷たさは消えている。「株主たちへの説明は必要になる」「はい」智也は頷いた。どうやら代案に一定の満足を示してくれたようだ。「入札は最初からどうなるか分からなかった。だが、個人の問題で会社を混乱させたことは明白な失態だ」竜太郎は戒めを忘れない。智也もさらに頭を下げる。「すべては私の落ち度です。会長の、そして株主の皆さまの信頼を裏切ってしまいました」「信頼を再び勝ち取り、社長の座を守りたければ、何が何でも茅野さんの特許を手に入れることだぞ」竜太郎が念を押す。「そうでなければ株主の怒りも収まらんだろうし、私もお前を守り切れないから
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第235話

智也の目が大きく見開かれる。なぜ提携契約を交わしている相手が、凛なんだ?だが、そこにいるのは間違いなく凛だった。髪型もメイクも、身につけている服まで、午前中に見た姿そのまま。浩は、智也が沈黙したままなのでこう説明した。「社長、奥様はマイクロチップ開発プロジェクトの谷口博士でした。秘密保持契約を結んでいたため、身近な人にも言えなかったそうです」一語一句が耳に突き刺さり、携帯を握る智也の指先が震える。「何だって?」智也には聞こえていたが、現実を受け入れるのに時間がかかっているのだと浩は分かっていた。長年、柚葉こそが眩しい存在だと信じていたからこそ、智也はずっと柚葉を忘れられずにいた。しかし、今の凛の凄さを前にしては、柚葉など比較にすらならない。その差は歴然だろう。浩は携帯を取り出し、ある記事を智也に共有した。「社長、これをご覧になってください。公的なメディアに掲載された、マイクロチップ開発プロジェクトチームと奥様のインタビュー記事です。公開から半日で閲覧とシェアはすでに10万を超えています。3分のインタビュー動画、チームの紹介、プロジェクトの経緯、そして奥様のこれまでの実績が含まれています」概要を伝えた浩は、一呼吸おいて続ける。「史哉教授は国家最高科学技術賞を受賞し、生涯功労者として顕彰されています。また、奥様も国家科学技術功労賞の受賞者です。この賞は年に一度選考が行われ、受賞者は毎年5名以下に限られているのですが、今年、奥様はその最年少受賞者となりました」学術界において、これ以上ないほどの栄誉と言っていい。浩自身、午後にそれを知ってからもう何時間も経っているが、まだ驚いているくらいだった。あんな平凡だった彼女が、実は国家クラスの研究者だったなんて。これぞ本物の実力者というやつだろう。人を見抜く目に長けた社長が、まさか自分の妻という最も近い存在に気づかなかったとは……恋のせいで盲目になっていたのか、それとも単に欲に目が眩んでいたのか。そしてもう一つ、浩には言いづらいことがあった。智也の視線は画面上の写真と見出しに釘付けになり、それ以上、記事の先を読むのが怖くなっていた。「他にも話があるんだろう?言え」「理由は不明ですが、プロジェクトのチーム名簿に、小林さんの名前がありませんで
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第236話

凛が以前言っていた「仕事がなくなる」というのは、このプロジェクトのことだったのか。「まだお若いのに総責任者を任されたことで、重圧を感じることはありましたか?」「もちろんありました。でも、このプロジェクトを誰よりも理解しているのは私だという自負もあったんです」「どのようにしてここまで続けてこられたのでしょうか?」「恩師が亡くなる前、私にこう言いました。『自国生産のチップを完成させない限り、いつまでも他国の顔色を窺い、科学技術開発においても遅れをとることになる』と。私はこの言葉を、片時も忘れたことはありません」画面越しに沸き起こる大きな拍手を、智也は静かに聞いていた。彼女がこれほど高い志を抱いていたなんて、全く知らなかった。一つ一つの言葉が画面を越え、智也の心臓を射抜くようだった。智也は静かに見続けた。終盤、個人的な話題へと移る。「谷口博士は施設出身だと伺ったのですが」「ええ。国の援助や支援を受けながら、何とか学校を卒業できました」「今年28歳になられる谷口博士ですが、家庭を持つ考えはありますか?」智也は思わず息を止めた。「ありません」智也は愕然とした。ないだって?自分と入籍しているのに、一体どういうつもりだ?「では、どのような方がタイプなんですか?やはり同じ研究職の方とか?」凛は少しの間を置いて答えた。「ノーコメントでお願いします」「そうですか。ありがとうございました」インタビューは終了した。智也はしばらく呆然としたまま、画面を見つめた。「田中、凛は結婚なんてしていないと言っているんだが、あれはどういう意味だ?」彼は眉間にしわを寄せた。「俺の存在を認めないつもりか!」浩は何も言えずにいた。社長、あなたもこれまで奥様のことを隠してきたんじゃないんですか、などとは口が裂けても言えない。腹を立てた智也は、その記事をそのまま凛に転送して問い詰めた。【なぜメディアに対して、結婚していないなんて言ったんだ?】送信ボタンを押す。しかし、いくら待ってもつかない既読。いつもなら、1分以内には既読がつくのに。もう一度、同じメッセージを送ってみる。それでも、やはり既読はつかなかった。もしかして、自分は凛にブロックされているのか?智也は目眩がした。凛にブロッ
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第237話

智也はその言葉を聞き逃さなかった。離婚。そのままリビングに入り、眉間にしわを寄せた。「離婚ってなんの話だ?」梨花は即座に唇を引き結び、息子の視線を避けた。健吾は梨花に、余計なことを言いやがってとでもいうような、冷ややかな視線を向ける。「前は婚姻の話で、今度は離婚?一体何なんだよ?」二人は入札が終わってから、息子に凛との離婚を伝えるつもりだった。しかし状況は一変し、すべてが裏目に出ている今、二人はどこから話し出せばいいのか分からなかったのだ。仕事で失敗した息子に、今この離婚の事実を突きつけるのは追い打ちをかけるようなものだろう。梨花は夫の方を見て、判断を仰いだ。伝えるべきか、隠すべきか……しかし、受理されているのだから、伝えるべきなのだ。それに、一生隠し通せるものでもない。だから、少し時間をおいて、タイミングを見計らうしかなかった。健吾は疲弊しきった息子の表情を見て、重い口を開いた。「俺と母さんの話だ」梨花は目を見開いた。そんなことを冗談でも言っていいわけがない!「何だって?」智也も驚いた。この一日に一体いくつのことが起こるのだ?健吾が言葉を続ける。「この前、俺たちが役所に行ったのはイベントなんかではなく、離婚届を出しに行ったんだ」梨花のこめかみがピクピクと震えていた。本当にそれが現実に起きてしまったら、どう責任をとってくれるんだ?離婚だなんて、軽々しく言っていいものじゃない。たとえ嘘だとしても!しかし、この家の主導権は健吾にあるため、梨花は口出しなどできなかった。明らかに信じていない様子の智也。「ほんの数日で、そんな簡単に離婚が成立するわけないだろ?それもまた、なんで離婚なんかするんだ?」「まだ色々手続きの最中で、弁護士に調整してもらっているところなんだ。だから、母さんは、いつお前に伝えようかと思い悩んでいたんだよ」健吾は顔色一つ変えずに嘘をついた。「離婚に至った理由は、俺たちの問題だ」智也は深く溜息をついた。もうかなり疲れているのだ。梨花が慌てて言葉を付け足す。「まだ確定したわけじゃないからね。今はお互い、頭を冷やそうって」梨花には本当に頭を冷やす時間が必要だった。智也はソファに座り、目を伏せた。疲れていてもうこれ以上は話したくなかったのだ。竜太郎との件はなんと
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第238話

「母さん」智也の表情が険しくなる。「凛が俺たちに何も言わなかったのは秘密保持契約を結んでいたからなんだよ。だから、プロジェクトに関しては一切口にできなかった。それに、俺と柚葉が今日取り調べを受けたのはそのせい。柚葉はまだ帰れずにいるし、松田さんまで事情聴取に呼ばれたんだから」「何ですって!」梨花は椅子から勢いよく立ち上がり、息子の体を心配そうに見て回った。「大丈夫なの?ひどいことされてない?」ここ一ヶ月こんな災難続きなんて、谷口家は呪われてでもいるのだろうか。息子まで事情聴取を受けるなんて!「大丈夫だよ。調べが終わったらすぐに出られたから」「なら、よかった。でも、こんなことになるって分かっているのに、柚葉ちゃんはなんで私たちに言ってきたのかしら?」梨花の表情が不機嫌そうに曇った。智也はもう母親と口を利きたくなかった。最初に柚葉が情報を漏らした時に大喜びしたのは彼女なのに、今は文句を言うなんて。智也は父に視線を向ける。「これが今回の入札に負けた理由」健吾の眉間にしわが寄った。「柚葉だってそんなに具体的に漏らしてないはずだ。なのに、どうしてここまで大事になったんだ?」その時、健吾は息子が先ほど口にした人物の名前を思い出した。竹内社長。「俺は彼の陰湿さを見くびっていた」しかし、今の智也の頭の中には、凛のことしかない。「父さん、凛に電話をかけてくれないか?」健吾は携帯を取り出し、凛へ電話をかけてみたが、やはり同じく通じない。智也が梨花の方を見る。だが、梨花が試しても結果は同じだった。智也はさらに胡桃にも確認を頼もうとしたが、健吾がそれを止めた。「胡桃に聞く必要はない。凛は、家族全員の連絡先を拒否設定にしてるのだろうから」離婚は既に成立していて、この事実を報告するのは入札会が終わったらという約束だった。今日の入札会は終わった。そして、凛も約束を守った。しかし、まだ自分自身が既に離婚しているとは知らない智也に、納得がいくはずがないだろう。智也は理解できなかった。凛が自分に腹を立てるならともかく、なぜ両親まで着信拒否にしたんだ?さすがにやりすぎだ。だが、いつも凛の粗探しをしていた両親が、今回はこの無礼について一言も責めないことに、智也は気づいていなかった。以前なら、健吾は怒りで険しい顔をしなが
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第239話

柚葉は名家のお嬢様かもしれないが、今回のプロジェクトに彼女の名はないし、途中から参加しただけで担当でもない。責任者は凛なんだ!」健吾が梨花をちらりと見る。「その様子だと、今日の出来事をよく知らないんだな。凛のインタビュー記事も見ていないんだろ?凛は既に国からの表彰と報奨金を受けている。大学側からも引く手あまただろうな。これほどの成果を出した若手研究者は、異例の昇格で准教授になれる。28歳で准教授になれる人間が、この世の中に一体何人いると思う?国だってあいつのキャリアや住居の手配を進めているだろう。重要な技術を手中に収めている凛の前途は計り知れないからな」しかし、梨花は鼻で笑った。「だから何?私たちにその報奨金が回ってくるわけじゃないんだから。それに、施設出身でしょ?そんな人が、どこまでやれるんだか」「施設出身っていうところが、ポイントなんだよ」健吾は断言する。「後ろ盾のない人間は、救いの手を差し伸べればその恩を一生忘れない。智也があいつに投資すれば、俺たち谷口家はあいつの恩人となるんだよ」梨花にもそれは理解できた。だが、どうにも凛のことが気に食わない。一緒にいると気分が沈むし、なにより白々しくてかなわないのだ。健吾はそんな梨花の心の内も全てお見通しだった。「お前が腹を立てているのは、凛が長年、智也の資産を握って出し渋っているせいだろ?おかげで生活は質素で、見栄えも体裁もなっていないって」梨花はそれを否定しなかった。「違うとでも言うの?智也の年収は何億円もあるのに、あの暮らしぶりは何?私たちにしたって、富裕層と呼べるような生活じゃないわ。外でも見劣りして、ずっと陰で笑いものにされてるの、知ってるでしょ?」健吾には言い返す言葉がなかった。「凛は小さい頃から苦労してるから、そういう生活が身についているんだよ。仕方ないんだ」「あの子が貧乏くさいのは勝手よ。でも、私たち家族まで巻き込んでひもじい思いをさせるなんてどういうつもりなの?」梨花はベッドに腰を下ろして怒りをぶちまけた。健吾が手を振って制する。「分かった分かった、お前はもう寝ろ。言い争いを続けてたら、あいつに離婚すると思われるぞ」そう言われた梨花は、さらに腹を立てた。「まさか、本気で私と離婚したいなんて思ってないでしょうね?」健吾が彼女を睨む。「馬鹿言うな。この歳
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第240話

英樹は厳しい表情で言った。「弁護士を探せ」すると、百合が答える。「もう頼んだよ。柚葉が教えてくれた弁護士よ。神谷利明さんという方で、B市からきてくれるから、朝には着くはず」「神谷利明?」百合は少し驚きを浮かべながら、頷いた。「調べてみたんだけど、B市で有名な法律事務所の弁護士さんみたい」「それに、B市の名家神谷家の長男だ」そう言いながら、英樹はほっと胸を撫で下ろした。「柚葉の友達だ」英樹と百合は、自分の娘がそんなに凄い人と知り合いだとは知らなかった。「お父さん、神谷先生は柚葉を助けてくれるかな?」百合が不安げに尋ねる。英樹はすぐには答えず、こう言った。「神谷家の人間関係は、なかなか複雑だからな」……智也と柚葉が窮地に追い込まれている頃、凛はベッドでぐっすりと眠っていた。この1ヶ月の中で、最も深い眠りだった。智也を着信拒否にした。谷口家の人も着信拒否にした。今後はもう、谷口家とは何の関係もない。智也とも縁を切った。柚葉は連行され、克哉は立場を奪われた。さらには研究チームから除名され、皆で努力した成果を柚葉に取られる心配もない。すべてが無事に終わったのだ。凛は夢の中でも笑っていた。翌朝。朝日がベッドを照らした。凛はゆっくりと目を覚ますと、大きく背伸びをし、歯を磨いて顔を洗い、自分のために美味しい朝食を作った。食べ終わった後、凛は何もしないことに決め、ゆったりとした部屋着に着替えると、ソファを窓際に移した。一日中そこで日に当たりながら、子どもたちが贈ってくれた手紙や絵を眺めて過ごした。段ボール箱をソファの横に置いて座ると、お尻の下に携帯の感触があった。そこで、昨晩よく眠るために携帯を機内モードにしていたことを思い出した。機内モードを解除した瞬間、携帯が激しく震え始めた。次から次へと受信する通知に、手が痺れるほどだった。膨大な数のメッセージ。幸い柑奈をピン留めで固定していたので、すぐに電話をかけることができた。柑奈も子どもたちと一緒に、今回の報道をテレビで見ていてくれたという。凛は柑奈と電話しながら、子どもたちの下手な絵や歪な字で書かれた手紙、そして松ぼっくりで作った風鈴などの工作品を眺めた。「あの、院長先生。これからは、年末にホシゾラ・テクノロジーから寄付される
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