谷口家の三人は、あっけにとられて言葉を失った。「ど、どうして……」梨花は自分の頬を思い切りつねったが、あまりの痛さに涙がにじむ。現実だった。ステージの上で頭を下げ、竹内グループの海斗と握手を交わして調印式を行っているのは、まぎれもなくあの凛。彼女たちが知っている、あの凛なのだ。たとえ着飾っていても、ひと目で分かった。4年もの間、谷口家の嫁として身の回りの世話を焼いていた凛その人だったから。用があれば顎で使い、お正月やお盆には一日中、厨房にこもらせ働かせていたあの凛が、テレビの中にいる。「凛?総責任者?」梨花は必死に首を振った。目の前の光景も、耳にした情報も信じられない。「総責任者って、柚葉ちゃんじゃないの?そうだわ、柚葉ちゃんは?どうして柚葉ちゃんの姿がない?」そして、隆に視線を向ける。「あなた、チャンネルでも間違えたんじゃないの?」胡桃も続いた。「お父さん、絶対にチャンネル間違えてるよ」そんなはずがない。そんなはず……ない!「信じられない。料理や家事ばかりで、男に尽くすことしか能のない凛に、どうしてそんな先端技術の研究ができるっていうの?」しかも、総責任者?笑わせないでほしい。とんでもない冗談だ。このプロジェクトの総責任者は柚葉のはずなのに、なぜ凛がそこにいるんだ?調印式は終わったが、ニュースのみならず、マイクロチップ開発プロジェクトと竹内グループの業務提携に関する情報が携帯の画面を埋め尽くしていた。あらゆるSNSや情報サイトで、このニュースがトップを飾っている。そしてメインの画像は、凛が海斗と堂々と握手をしている写真。あっという間に祝福コメントで溢れ、世間の話題となった。次々と報じられる記事を読みながら、健吾は認めざるを得なかった。本当に息子を助けることができたのは凛だった。そして、谷口家に利益をもたらしてくれるのも彼女で、息子の嫁として相応しかったのは、凛にほかならなかったのだ。なのに、自分は何をした?あろうことか、裏でこっそりと息子と凛の離婚を手助けしてしまったなんて!これでは谷口家の先祖に顔向けができないし、何より息子に合わせる顔がない。「終わった……もう終わりだ」健吾は深い溜息とともに、力なく膝から崩れ落ちた。梨花も苦虫を噛み潰した表情を浮
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