セレーネに用意されたのは、三階の一番日当たりが良い部屋だ。国王が王太子時代に使っていた部屋だという。王宮の自室ほど広くはないが、落ち着いた色合いの品が良い調度品が設置されており、居心地の良さそうな部屋だった。「ああ、疲れた!」 誰もいないのを良いことにベッドにダイブする。ローラントがその場にいたら、口うるさく説教されたことだろう。 そのまま仰向けになり、しばらくゴロゴロしていると扉がノックされる。 ローラントが軽食の準備をしてくれたのだろうと思ったセレーネはベッドから起き上がり、ソファに座り居住まいを正す。「入りなさい」 入室の許可をすると、「失礼いたします」と女性の声がする。 扉が開くと、侍女服に身を包んだ十代と思われる少女が入室してきた。セレーネより少し年下に見える。明るい栗色の髪を結いあげているが、まだ初々しい。「王太女殿下にご挨拶を申し上げます」 きれいなカーテシーで挨拶をした後、頭を下げたままの少女にセレーネは声をかける。「頭を上げなさい。貴女は離宮の侍女かしら? 名前は何というの?」「ミレーヌ・アルムグレンと申します。半年前よりこちらの離宮に仕えております」 ミレーヌは頭を静かに上げ、姿勢を正す。完璧な礼儀作法だ。そして、セレーネはミレーヌの家名を聞いたことがあった。「もしや、アルムグレン伯爵家の令嬢ですか?」「わたくしをご存じなのですか? まだ社交デビュー前なのですが……」 ミレーヌは首を傾げている。セレーネが自分を知っていることが意外だったのだろう。 アルムグレン伯爵家はアンカーレ地方の隣に領地がある。セレーネはまだアルムグレン伯爵に会ったことがないのだが、実直で穏やかな人柄なので領民に慕われていると聞いたことがあった。「ええ。アルムグレン伯爵家の三女ですね?」 国内の貴族の家族構成などは全て頭に叩き込んである。社交デビュー前ということであれば、現在十五歳になるアルムグレン伯爵家の三女だろうと推測できた。「左様でございます。王太女殿
Read more