All Chapters of 破滅予定の悪役王女ですが、なぜかヒロインポジションになりました~女神の愛し子の称号で破滅エンドを回避します~: Chapter 11 - Chapter 20

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 セレーネに用意されたのは、三階の一番日当たりが良い部屋だ。国王が王太子時代に使っていた部屋だという。王宮の自室ほど広くはないが、落ち着いた色合いの品が良い調度品が設置されており、居心地の良さそうな部屋だった。「ああ、疲れた!」 誰もいないのを良いことにベッドにダイブする。ローラントがその場にいたら、口うるさく説教されたことだろう。 そのまま仰向けになり、しばらくゴロゴロしていると扉がノックされる。 ローラントが軽食の準備をしてくれたのだろうと思ったセレーネはベッドから起き上がり、ソファに座り居住まいを正す。「入りなさい」 入室の許可をすると、「失礼いたします」と女性の声がする。 扉が開くと、侍女服に身を包んだ十代と思われる少女が入室してきた。セレーネより少し年下に見える。明るい栗色の髪を結いあげているが、まだ初々しい。「王太女殿下にご挨拶を申し上げます」 きれいなカーテシーで挨拶をした後、頭を下げたままの少女にセレーネは声をかける。「頭を上げなさい。貴女は離宮の侍女かしら? 名前は何というの?」「ミレーヌ・アルムグレンと申します。半年前よりこちらの離宮に仕えております」 ミレーヌは頭を静かに上げ、姿勢を正す。完璧な礼儀作法だ。そして、セレーネはミレーヌの家名を聞いたことがあった。「もしや、アルムグレン伯爵家の令嬢ですか?」「わたくしをご存じなのですか? まだ社交デビュー前なのですが……」 ミレーヌは首を傾げている。セレーネが自分を知っていることが意外だったのだろう。 アルムグレン伯爵家はアンカーレ地方の隣に領地がある。セレーネはまだアルムグレン伯爵に会ったことがないのだが、実直で穏やかな人柄なので領民に慕われていると聞いたことがあった。「ええ。アルムグレン伯爵家の三女ですね?」 国内の貴族の家族構成などは全て頭に叩き込んである。社交デビュー前ということであれば、現在十五歳になるアルムグレン伯爵家の三女だろうと推測できた。「左様でございます。王太女殿
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 翌日、早めに朝食を済ませたセレーネはローラントとともに穀倉へ視察に向かった。馬車の中で昨夜から考えていたことをローラントに伝えることにする。「ねえ、ローラント。専属侍女は私が直接任命してもいいのよね?」「ようやく専属侍女を置く気になられましたか? どなたか候補者がいらっしゃるのですか?」 いつまで経っても専属の侍女を置かないセレーネを心配していたローラントは、ほっと息を吐く。 専属侍女を置かない理由がセレーネにはある。実は初めて王宮に来た頃には専属侍女が何人かいたのだ。だが、度重なるフローラの嫌がらせによって、皆セレーネの専属を外れていった。 フローラは「異母姉に虐められている可哀そうな異母妹」という巧みな演技をして、侍女たちにセレーネがいかにひどい人間か吹聴していた。だが、セレーネの専属侍女たちは彼女の人となりを知っているため、信用しなかったのだ。それがフローラの怒りを買い、侍女たちに嫌がらせを始めた。初めは嫌がらせを受けても侍女たちはセレーネの前で気丈に振舞っていたが、長く続くわけがない。疲弊した彼女たちは自ら専属を外れた。 自分の専属ということで悲しむ者がいることに、セレーネは心が痛んだ。それ以降、専属の侍女は置かず、自分でできることはこなし、手伝いが必要な時だけ手の空いている侍女に頼むことにした。「ええ。ちょっと気になる子がいるの」「差し支えなければ、候補者を教えていただけますか? 身上調査をさせていただきます」「身元はしっかりしているから必要ないと思うけれど、ミレーヌ・アルムグレンよ」「昨日、殿下のご伝言を伝えに来た侍女ですか? アルムグレンと申しますともしや?」「そうよ。彼女はアルムグレン伯爵家の令嬢よ」「離宮に仕える侍女ですしアルムグレン伯爵家のご令嬢でしたら、身上調査は必要ないかもしれませんが、万が一ということもございます。念の為、再調査をさせていただきます」 離宮に侍女として仕える際に身上調査は入念にされているが、仮にも王太女の専属侍女候補だ。念には念を入れて再調査をする必要がある。「身上調査はローラントに任せるわ。再調査が終わった
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11

 アンカーレ地方に降り始めた雨はますます雨脚が強まり、夜には豪雨となった。時々雷も伴っている。雷に打たれた瞬間をセレーネは思い出すが、不思議と怖くはない。おかげでクズ男と無事に婚約破棄することができたことの方が、セレーネとしてはうれしい。まさに雷様様だ。 セレーネは初日と同じくローラントと夕食を食べながら、窓に激しく叩きつける雨を恨めし気に眺める。「収穫の様子を視察できなくて残念だったわ」「この雨ですと、例え晴れても明日も収穫はできませんね」 雨の後は地面がぬかるみ足を取られるので、すぐに収穫をすることができない。「視察の日程を伸ばすことはできないかしら?」 何としても獲れたての米でおにぎりが食べてみたいセレーネは、なかなか諦めることができないのだ。「一日、二日でしたら何とか調整できると思いますが、それ以上は難しいです」 帰ったら決裁の書類が山ほど溜まっていることだろう。セレーネは書類の山を想像してぞっとする。「今年は収穫の様子が見れないかもしれないわね。ううう。残念だわ」「また来年も視察にいらっしゃればよろしいでしょう?」 半ば諦めて落ち込んでいるセレーネにローラントが慰めの言葉をかけている時――。  食堂の扉がノックもなく、けたたましい音を響かせて開かれる。「王太女殿下! ドレンフォード卿!」 穀倉の警護をしている騎士が慌てた様子で転がるように飛び込んできたのだ。「何事だ!? 王太女殿下の御前で無礼だぞ!」 ローラントが食卓から立ち上がり、騎士の無作法を咎め、叱責する。だが、騎士は一刻の猶予もないという様子で、緊急事態だということがセレーネには容易に想像できた。「ドレンフォード卿、構いません。そこの貴方、何か急用なのでしょう?」 セレーネも食卓から立ち上がり、ローラントの横に並ぶ。 「火急の用件にてご無礼を承知で申し上げます! カーネ川が氾濫いたしました!」 騎士はその場に跪き、必死の形相で簡潔に用件を告げた。 カーネ
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 カーネ川の堤防が決壊しそうな地域に到着すると、川の水位は堤防ギリギリまで水位が上がっていた。しかし、この地域の住民であろう男たちはいまだに避難をせず、懸命に土嚢を積み上げている。「貴方たち、何をしているの? 早く高台に避難しなさい!」 叱責するセレーネに一人の男がぎろりと睨む。土に塗れて顔が汚れてはいるが、声の若さから推測すると二十代くらいの青年のようだ。「あん? お嬢ちゃん誰だよ? あんたこそ危ないから、とっとと高台に避難しな!」「もうすぐ堤防が決壊するわ! 今ならまだ間に合うから、早く逃げなさい!」 男の怒号に負けず、なおもセレーネは言い募る。しかし、男も負けてはいない。「冗談じゃない! ここには穀倉があるんだぞ。俺たちが逃げたら、水に浸かっちまって米がダメになるだろうが!」「穀倉は私たちが守るわ。だから貴方たちは早く非難しなさい! 騎士たち、ここよ! 彼らを力ずくでも避難させなさい!」 駆けつけた離宮の騎士たちに住民たちを避難させるよう、セレーネは命令する。カーネ川の轟音が響く中でもセレーネの声はよく通るのだ。「殿下! 堤防が決壊します!」 ローラントが大規模な結界壁を展開させる。溢れ出した水は結界壁で食い止められた。間一髪で浸水は免れたが、ローラントの魔力は無尽蔵ではない。「魔法使いか!?」「助かった!」 住民たちは安堵の表情を浮かべ、ローラントを見やる。そして、離宮の騎士たちに促され、高台へと避難を始めた。「いやいやいや! お嬢ちゃん、殿下って? もしかして今視察に来ている王太女殿下か?」 最初にセレーネに怒鳴った男だけが青い顔をしている。「そうよ。それが何か?」「ひえええええ! 王太女殿下とは知らずご無礼を!」 男は慌ててセレーネの前で跪く。「こんな状況で変に謝らなくていいから、早く逃げなさい! どうしても謝罪がしたいのであれば、おにぎりを離宮に持ってきなさい」「へ? おにぎり? 米を塩で握ったあれですか?」「そう!
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 金色の光はローラントとミレーヌを包みそのまま空中へと浮かび上がる。そして、セレーネのもとへと誘った。瞬間、堤防は決壊し水が辺り一帯に押し寄せ、住民たちの家屋を破壊していく。せっかく育った稲穂は濁流に飲みこまれていった。「殿下……その力はいったい……」 神々しい光に包まれたセレーネにそう問いかけたローラントだが、セレーネ自身混乱しており、答えることができない。ミレーヌは突然のことに呆然としていた。「エステルの力と名って……あっ!」 ようやくそう呟いたセレーネははっとする。小説の中でフローラが女神エステルの力を授かった地は確かアンカーレ地方だった。セレーネの代わりに水害に遭ったこの地へ慰問に訪れた際に、女神エステルの神託を受け奇跡を起こしたのだ。 今、セレーネに起こったことが女神エステルの神託だとすれば――。「女神エステル、お力をお貸しください。どうかこの雨が上がり、水害に遭った地が元通りの姿を取り戻せますように」 祈りの言葉をセレーネが発すると、『愛し子の願いのままに』という女神エステルの声とともに再び眩い光が走り、アンカーレ地方一帯を包む。 光が収まった後、雨は上がり、水害で破壊された家屋は元通りの姿を取り戻し、水で倒れた稲穂は黄金色に輝き風に揺れる。 いつの間にか夜明けとなり、セレーネの姿は朝日に照らされ神秘的な美しさを放っていた。 高台から一連の出来事を目にした住民たちは、奇跡の御業を起こしたセレーネを崇める。「百年ぶりの女神の愛し子がアンカーレ地方を救ってくださった」と……。◇◇◇ きれいに晴れ渡った日、セレーネはあらためて収穫の様子を視察するため、自らが救った地を訪れた。視察の日程を何とか調整して二日延ばしたのだ。「王太女殿下、ようこそお越しくださいました」 あらかじめ視察をすることは告げてあるので、この地の村長の家を訪れると年配の男性が迎えてくれた。この男性が村長だろう。「今日はよろしくお願いしますね」
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「刈り取った稲穂は木を組み立てた架に掛け、天日干しにします。稲架掛けといいますが、およそ二週間ほど自然乾燥をします」 前世で米作りの特集をテレビで見たことがあるが、実際に目にするのは初めてのセレーネは好奇心いっぱいでカールの説明に聞き入る。「この状態ではまだお米は食べられないのね」「そうですね。乾燥を終えた後は脱穀、籾摺り、精米とまだまだ工程はあります」 脱穀は茎から穀類をはずすことで、籾摺りは籾殻を米粒からはずすことを言う。さらに精米は玄米から白米の状態にすることだが、玄米のままでも米は食べることができる。「では、獲れたてのお米でおにぎりは食べられないわね」 前世でセレーネが暮らしていた日本では、米はコンバインで収穫するのが一般的だ。昔ながらの手作業で米を育てている農家もあるが、コンバインの方が手間はかからない。何せ収穫、脱穀、選別まで一気にコンバインがやってくれるのだ。 この世界にコンバインはないので、昔ながらの手作業だ。まだまだ新米を食べるまでには日数がかかる。視察の短い期間では新米は食べられないと知り、セレーネはがっかりと肩を落とす。「そんなにがっかりされなくても大丈夫ですよ。すでに精米まで終えた今年の米もありますから、離宮に届けさせます。お詫びと言ってはおこがましいですが、お受け取りください」 あからさまにがっかりするセレーネを見て、カールはぷっと吹き出したが、すぐに慰めの言葉を口にする。それを聞いたセレーネは落とした肩を跳ね上げ、飛び上がらんばかりに喜ぶ。カールは「謝罪したいなら、おにぎりを離宮まで持ってきなさい」というセレーネの言葉を覚えていたのだ。「えっ! 本当に? では、新米のおにぎりを食べられるのね。うれしい!」「殿下!」 それまで黙って後ろに控えていたローラントがコホンと咳払いをした。セレーネは思わず小躍りしそうになる自分を抑え、すました表情になる。「ドレンフォード卿、分かっています。では、カールよろしく頼むわ」「はい。王太女殿下。すでに離宮へ届ける手配は終えていますので、楽しみにお待
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 いろいろな出来事がありすぎたため、長いようで短い視察を終えて、ついに王都に帰ることになったセレーネは朝早くから帰り支度に追われていた。と言っても、荷物はミレーヌがまとめてくれたので、後は身支度のみだ。「本当に良いの、ミレーヌ? 一度、実家に帰って報告してから、あらためて王都に来てくれればいいのよ」「いいえ。このまま殿下のお供をさせていただき、専属侍女の任命を受けます」 再調査の結果、ミレーヌの身上に問題はなかった。王族の専属侍女にはある程度の高い教養が求められる。大抵は貴族の子女が仕えることになっているが、ミレーヌは伯爵令嬢だ。教養的には問題がない。 それにミレーヌは水害の際、危険を承知のうえでセレーネについてきてくれたのだ。疑いの余地はなかった。 ローラントから報告を受けて、早速ミレーヌに専属侍女の打診をしたところ、快く引き受けてくれた。『殿下には命を救っていただきました。この命が尽きるまで仕えさせていただきとうございます』と。 命の恩人ということでミレーヌを縛りつけるつもりはないが、ようやく信頼できる専属侍女を見つけたセレーネはうれしかった。今度はフローラがどんな嫌がらせをしてきても、守るつもりでいる。「殿下、道中のお召しものはどうされますか?」「なるべく動きやすい服でお願いするわ」「かしこまりました」 王都までは来た時と同様、ローラントと馬車に同乗する。ミレーヌも同乗するようにお願いしたのだが、仕事の話もあるだろうからと、丁重にお断わりされたのだ。「ミレーヌは気が回る侍女のようですね」「とても機転が利くのよ。いちいち説明しなくても、こちらの意図が伝わりやすいから助かるわ」「良い専属侍女を見つけられましたね」「ええ。生涯仕えてくれるそうよ。まあ、年頃になったら良い縁談を結んで幸せになってほしいから、縛りつけるつもりはないけれどね」 リンドベルム王国の結婚適齢期は二十歳前後だ。セレーネは今年十八歳なのでそろそろ結婚適齢期に入る。順当にいけば、二十歳前にヴィンセントと結婚させられていたかと思うと、身震い
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ローラントの回想

 ローラントは十八歳でセレーネの補佐官となったが、実は初対面ではなかった。セレーネは覚えていないようだが、彼女が王女として王宮に迎えられてしばらく経った頃、一度会ったことがあるのだ。 その日、ローラントは父親であるドレンフォード公爵の名代で王宮に訪れていた。国王との謁見が終わったので、王都にあるドレンフォード公爵家のタウンハウスに帰ろうと回廊を歩いていた時だ。ふと中庭に目をやると、噴水の向こう側に黄金色の丸いものが縁から飛び出ていた。(黄金色の毛玉?) 正体を確かめようと毛玉に近づくと、だんだん輪郭がはっきりとしてきた。黄金色の毛玉とローラントが思ったものは、黄金色の髪の女性の頭だったのだ。 ローラントが声をかけようとした時――。「殿下! セレーネ王女殿下! どちらにいらっしゃるのですか?」 王宮の侍女と思われる女性が数人急ぎ足でこちらにやってくる。(セレーネというと、最近見つかったという正妃の娘か?) ちらりと噴水の影にかがんでいる女性に目を向けると、女性いやセレーネ王女と思われる少女はローラントに向かって人差し指を唇にあてて、「しぃ!」という仕草をする。自分の居場所を侍女たちに告げるなと言っているのだろう。 どうしようかとローラントは迷った。わざわざこのセレーネ王女と思われる少女をかくまってやる義理は自分にはない。だが、国王と同じアースアイの瞳が自分に懇願しているようで、放っておけないと思った。ふうと一つため息を吐くと、侍女たちから少女が見えない位置にさりげなく移動する。「そこのお方、黄金色の髪の十四歳くらいの少女を見かけませんでしたか?」 噴水の向こう側から侍女の一人がローラントに声をかける。侍女はローラントの顔を知らなかったようだ。身なりから貴族の子女と判断しただけだろう。この頃、ローラントは社交デビュー前で、普段は国の果てにある魔法使いの塔にこもっているので、滅多に王都に来ることはなかった。侍女がローラントを知らなくてもおかしくはない。「いいえ。見かけませんでした」「そうですか。お寛ぎのところをお邪魔して申し訳ございませんでした」
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 王宮まで王都の民たちの盛大な歓声を受けながら、帰り着いたセレーネは休む暇もなく、国王に挨拶に向かう。「お父様。ただいま戻りました」 執務室に入室し、挨拶をすると国王は笑顔で出迎えてくれた。「セレーネ、この度の視察ご苦労であった。そして、よくぞアンカーレ地方を救ってくれた。女神エステルの神託を受けたそうだな?」「はい」 女神エステルの神託を受けた時のことを詳細に国王に話す。国王は時折頷きながら、真剣にセレーネの話に耳を傾けてくれた。「疲れてるいるだろうが、神殿より招聘があってな。鑑定を受けてもらわねばならぬ」 一通りセレーネの話を聞き終えると、国王は申し訳なさそうに神殿よりセレーネに招聘があったことを告げる。「心得ております。鑑定は本日にでも?」「いや。明日だ」 神殿としては百年ぶりの『女神の愛し子』が現れたので、今すぐ神殿に来いと言われるのかとセレーネは身構えていた。だが、さすがに性急だと神殿も考えたのだろう。「承知いたしました。明日神殿に赴きます」「うむ。今日はゆっくりと休むがよい」 執務室から退室しようと踵を返しかけたが、ふとミレーヌのことを思い出したセレーネは留まる。「お父様。専属侍女を一人任命したいのですが、私の名で任命状を作成しても構わないでしょうか?」「ほう。ようやく専属侍女を置く気になったのか?」 ローラントと同じことを国王も思っていたようだ。同じようなセリフを言うのでセレーネは苦笑する。「はい。離宮で良い侍女を見つけました。アルムグレン伯爵家の末の令嬢です」「そういえば新しい侍女が入ったと報告があったな。そうか。アルムグレン伯爵家の令嬢であったか」 国王は腕を組み、しばらく思案する。「よかろう。ただし、任命状は余の名で発行しよう。その方がいろいろと都合が良いであろう?」 セレーネはなるほどと納得する。国王の任命であれば、フローラも容易にはミレーヌに手を出せない。口には出さないが、国王もフローラの所
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 国王がセレーネのために急ぎで仕立てたドレスは、白地で胸元や裾に金糸で刺繍が施されたものだった。白は神聖を表す色であり、シンプルではあるが高貴さが漂う上品なドレスだ。 朝からミレーヌの手によって徹底的に磨かれたセレーネは、身支度の手伝いを頼んでおいた侍女たちがいつまで経っても姿を現さないので首を傾げる。「ミレーヌ。他の侍女たちがまだ来ないようだけれど?」「それが……」 言いにくそうにミレーヌは口ごもる。その様子で何となくセレーネは察した。「フローラね」「……はい」 ミレーヌは手伝いを頼んだ侍女たちと打ち合わせをしようと彼女たちに声をかけたのだが、フローラの支度が終わってからと断られてしまったのだ。「いつものことよ」 王宮で開催されるイベントや主だった式典の際、侍女たちは大抵フローラの支度に呼び出され手間取る。もちろん、フローラがわざとやっているのだ。時間をたっぷりとかけてセレーネに手をかけさせないようにしている。「えっ! いつもこうなのですか? それでは、お支度はどうされていたのですか?」「ある程度のことは自分でできるから、最後の仕上げだけ手伝ってもらっているのよ」 セレーネは着用する際、あまり手間のかからないタイプのドレスを好んで着ている。ちなみにフローラが好んで着ているドレスは一人では着られないタイプだ。「お一人でドレスの着付けや髪を結っていたのですか?」 ミレーヌは信じられないというような顔をしている。それはそうだろう。国で一番高貴な女性が自分で支度をしているという事実を知ってしまったのだ。「そうよ。慣れているから、あまり困らないの」 前世では服を着ることはもちろん髪を結ったり、化粧も自分でやっていたから記憶はなくとも何となく体が覚えていたのだろう。「王太女殿下に自ら支度をさせるなど言語道断です! 抗議させていただきます!」「無駄よ。王宮の侍女たちはほとんどフローラの派閥の人間だから」 フローラの母ア
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