雷に打たれたようなではなく、文字どおり雷に打たれたショックで、恐ろしいほどたくさんの記憶が一気にセレーネの脳内に流れ込んできた。「あれ? ここって『エステルの戴冠』の世界じゃない?」 そんな言葉を呟いた後、セレーネは気を失った。 セレーネが気を失う少し前に時間は遡る。「……ヴィンセント。これはいったい……どういうことなの?」 婚約者であるヴィンセントのもとに訪れたセレーネは衝撃を受けた。なぜなら彼はセレーネの異母妹であるフローラを膝の上に乗せ、「愛しているよ、フローラ」と囁いていたからだ。「セレーネ殿下!?」 ヴィンセントは慌ててフローラを膝の上から降ろそうとしたが、フローラがそれを止める。そして、堂々とヴィンセントの胸に頭を預けて甘えるような仕草をすると、にやりと口端をあげた。「お姉様、こういうことですの。ヴィンセントとの婚約を破棄してくださらない?」 婚約者の裏切りを目の当たりにしたセレーネは、震える体を両腕で抱きしめきっと二人を睨む。「いつから……いつからなの? 貴方たちはいつの間にこんな仲に……」 絞り出すように問いかけるセレーネにフローラは嘲るような笑みを向ける。「いつから? 幼い頃からずっとですわ。ヴィンセントは元々わたくしの婚約者になるはずでしたの。突然正妃の娘である貴女が現れなければね」 セレーネはリンドベルム王国の第一王女で正妃の娘である。対してフローラは側妃の娘で第二王女だ。しかし正妃の娘でありながら、セレーネは十四歳まで市井で育った。「卑しい市井の育ちのくせに、正妃の娘というだけでヴィンセントの婚約者の座は貴女に盗られてしまった」 理由ありではあるのだが、王女でありながら市井で育ったセレーネをフローラはことある事に見下していた。 セレーネが十六歳の時にヴィンセントとの婚約が結ばれた後、セレーネに対するフローラの当たりはさらにきつくなったのである。
Last Updated : 2026-03-06 Read more