Tous les chapitres de : Chapitre 21 - Chapitre 30

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 神殿は王都の東にある。女神エステルを祭神として祀っている神殿は新年を迎える際の式典、民たちに与える祝福など様々な役目がある。魔法属性の鑑定は鑑定魔法を使える魔法使いでもできるのだが、『女神の愛し子』ともなると話は別だ。女神エステルに神託を受けた者は神殿で鑑定を受けることになっている。 その日、百年ぶりの『女神の愛し子』が訪れるということで、神殿内部は沸き立っていた。セレーネが姿を現すと、神官たちは歓喜する。「お待ち申し上げておりました、王太女殿下。神殿長のもとにご案内いたします」 丁重に迎えられたセレーネは神殿長が待つ部屋へと案内される。「王太女殿下にご挨拶を申し上げます。神殿長のユリウスと申します。本日はご足労いただき誠にありがとうございます」 神殿長ユリウスは小説『エステルの戴冠』にも登場していた。年齢は二十代半ばと若いのだが、先代の神殿長が亡くなったので後を継いだという設定だ。水色の髪にアクアマリンの瞳をした優しげな風貌の美青年だった。(乙女ゲームだったら、攻略対象になりそうなビジュアルよね) ユリウスの容姿に対して内心そんな感想を抱きながら、セレーネは王族スマイルを向ける。「神殿長、本日はよろしくお願いしますね」「どうぞユリウスとお呼びください。それでは本日の手順をご説明いたします」 神殿には「エステルの泉」と呼ばれる小さな泉がある。遥か昔、女神エステルが水を湧かせたという伝説が残る泉だ。その泉に手を浸して魔力を込める。水面が金色に光れば聖属性の魔法として、『女神の愛し子』としての確かな証となるということだ。「分かりました」「それでは、準備が整いましたら、お呼びいたします。しばし、この部屋でお寛ぎください」「補佐官を呼んでも構いませんか?」「はい。構いませんよ」 ローラントは部屋の外で待機してくれている。女神エステルの神託を受けたのは紛れもない事実なのだが、いざ鑑定となるとやはり緊張するのだ。ここはローラントと話をしていた方が気が紛れるとセレーネは考えた。「殿下。お呼びでしょうか?」
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 何者かがセレーネの魔力を阻害していたのだ。その何者かの正体をセレーネは知っている。(そういうことなのね。貴女の好き勝手にはさせないわよ、フローラ!) 魔力を阻害していたのはフローラだ。表向きフローラは水魔法の使い手としているが、実は阻害魔法という厄介極まりない魔法属性も持っている。名の通り魔力を阻害する魔法だ。普段は使わないようにと国王から禁止されている。これは国王とセレーネしか知らない事実だった。 しかし、魔力量はセレーネの方が上だ。フローラを上回る魔力を手先に集中させ、セレーネは祈る。「女神エステルよ。どうかお力をお貸しください」「しおらしく女神エステルに祈っても無駄ですわよ、お姉様」 勝ち誇ったように微笑むフローラの声と同時に、『愛し子の願いのままに』という女神エステルの声が頭の中に響く。 瞬間――。 セレーネと泉は眩いばかりの金色の光に包まれる。あまりに強い光に近くにいた者たちは目を覆う。「きゃあああああ!」 悲鳴とともにフローラは後ろの壁まで飛ばされる。「フローラ!」 光が収まった頃、慌ててヴィンセントがフローラに駆け寄るが、国王に阻まれた。国王は気絶したフローラを横に寝かせる。「下がれ、ヴィンセント。フローラは余が見る」 立ち上がったセレーネはフローラのもとにツカツカと歩み寄ると、彼女の体に手をかざす。金色の光に包まれたフローラはうっすらと目を開けた。壁にぶつかった衝撃で傷ついた体をセレーネが魔法で癒してやったのだ。「ううう。お……ねえ……様」「申し開きは後ほど聞くわ、フローラ」 厳しい口調でそれだけ言うと、セレーネは神殿長の前に立つ。「これでよろしいでしょうか? 神殿長」「はい。少々ハプニングがありましたが、『女神の愛し子』として貴女を認定いたします。セレーネ王太女殿下。いえ、セレーネ・エステル王太女殿下」 正式にセレーネが『女神の愛し子』として認定されたことは、国中に知れ渡った
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 慌ただしく過ごしているうちに、建国祭まで残すところあと三日となった。「海向こうのウィンドムーア王国は宗教上の理由で牛肉が食べられないの。彼らの晩餐には牛肉以外のメイン料理を出してね」「そちらは手配済です。では次ですが……」「あっ! 動かないでくださいませ、殿下。針が刺さってしまいます!」 衝立越しにローラントと最終打ち合わせをしていると、ミレーヌに注意をされる。時間がないので、ドレスの直しをしながら、打ち合わせをしているのだ。「適当でいいわよ、ミレーヌ」「そうは参りません! 今調整しているのは舞踏会用のドレスです。ここのところ、殿下は激務のせいで、お痩せになられたのでお直しが必要なのです!」 建国祭が終わるまでは激務が続く。ドレスに合わせて体型を合わせる自信はセレーネにはない。「しっかり睡眠時間を取られていますか?」 心配そうな声でローラントが尋ねる。「ドレンフォード卿、聞いてくださいませ。殿下はお休みになられたかと思うと、床の中でこっそり書類をお読みになっていらっしゃいますし、夜が明けないうちから自室で仕事をされています」 ミレーヌはもともとしっかりしていたが、最近はさらにしっかり者となりセレーネの悪いところは、はっきりと諫めてくる。「残った仕事は私が処理いたします。殿下はしっかりお休みになられてください」「そうしたら、ローラントがオーバーワークになってしまうでしょう?」「私は男ですから、殿下よりは体力がございます」「体力面なら負けないわよ。聖属性の魔法を授かってからは疲れないのよ」 不思議なことに『女神の愛し子』となってからは、あまり疲れを感じない。三日くらい完徹しても大丈夫そうだ。「それは無意識に魔法でご自分を癒しているからですよ。もともと殿下は魔力量が桁違いですから、魔力切れすることはないでしょうが、そういう魔法の使い方はおすすめできません」「そんな仕組みになっているの? 便利ね」 聖属性の魔法は自分を治すこともできるらしい
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 建国祭当日――。 早朝から外国からの賓客が続々と王宮へ到着する。今回招待したのは重要な国賓ばかりなので、身支度が整ったら王族は謁見の間で出迎えなくてはならない。しばらく謁見の間から離れることができないであろうセレーネにミレーヌが軽食を用意してくれた。 軽食をつまみながら支度を整えてもらい、ローラントとスケジュールを確認する。「本日は諸外国からいらっしゃった国賓の方々に国王陛下とともに謁見をしていただきます。夜は晩餐会の後、明日の催しの打ち合わせが控えております」 淡々とローラントが今日のスケジュールをセレーネに伝える。「予定が盛りだくさんね」「本日だけではございませんよ。建国祭の間は予定が詰まっております」 のんびりと建国祭を楽しめる暇はなさそうだ。時間があればセレーネは王宮をこっそり抜け出し、王都の様子を見物しようと目論んでいた。 ヴィンセントと婚約する前は隙を見て王宮を抜け出し、露店を見たり出店で買い食いをしたりして建国祭を楽しんでいたのだ。ヴィンセントと婚約して王太女となってからは、王宮を抜け出すことはなくなった。(クズ男との婚約はめでたく解消できたことだしね) 久しぶりに王宮を抜け出して建国祭を楽しもうと考えていた。今年は三百年目ということもあり、イベントが目白押しなので諦めるしかなさそうだ。「最終日は舞踏会がございますので参加していただかなければなりませんが、その前日の夜の催しはカルタ遊びのみです。国王陛下だけご参加でも構わないということですので、ゆっくりできる時間が少しございます」「それは……チャンスね」「はい?」「何でもないわ。ひとりごとよ」 昼のイベントをこなせば、夜は自由時間ができるということだ。数時間王宮を抜けて久しぶりに王都へ行く計画をセレーネは頭の中で練り始めた。そう思うと、大変なスケジュールもこなせそうな気がする。 謁見の間で次々と訪れる国賓と挨拶を交わしていく。大抵の国は公用語であるリスピア語なのだが、海向こうのグラキア大陸の公用語はベール
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 国賓との謁見は夕方まで続き、ゆっくりする暇もなくすぐに晩餐会の支度をしなければならなかった。 建国祭のために何着か仕立てたドレスの中から、白のローブデコルテを着用する。国賓を招いた晩餐会では正式な礼装で臨むのが礼儀とされているのだ。ローブデコルテは肩と背中が露出したドレスだが、セレーネの肌は白磁のように美しく、気品に満ち溢れている。「髪型はアップにいたしますか? さらに殿下の上品さに磨きがかかることでしょう」「ハーフアップにいたしませんか? 殿下の美しい御髪を引き立てるにはサイドを結われるだけがよろしいかと……」「編み込みもよろしいのではないでしょうか? ドレスと同じ白色の花を御髪に飾りつければ、殿下の美しさがさらに増すかと……」 新しくセレーネ付きとなった侍女たちはセレーネの髪型について次々と提案をしてくれる。美辞麗句のように聞こえるが、本心からの言葉だということがセレーネには分かっていた。「貴女たちに任せるわ。このドレスに合うようにお願いできるかしら?」「かしこまりました」「お任せください」 雇い入れる際にセレーネ自ら面接をしたのだ。皆ミレーヌのように素直で真面目なタイプだった。王太女として多くの人間と接しているので、見る目はある方だと自負している。そして、セレーネの目は確かだった。 セレーネ付きとなった侍女たちは初日からすっかりセレーネのファンだ。彼女たちがセレーネで推し活をしているということは、ミレーヌだけが知る事実である。 あとはティアラをつけるだけという段階になった頃、扉がノックされる。「ドレンフォード卿ではないでしょうか? メインルームでお待ちいただきますか?」 セレーネの部屋は客人を迎えるためのメインルームを挟んで、ベッドルームとドレッサールームがある三部屋続きだ。「ええ。ローラントだったら、掛けて待っているように伝えてちょうだい」「かしこまりました」 侍女の一人が応対のため、メインルームに向かった。
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王宮の広い庭園は今日だけ特別に平民にも開放される。開放されると同時に平民は許された場所の席取りを始めた。まもなくこの庭園に『女神の愛し子』が姿を現すからだ。百年ぶりに現れた『女神の愛し子』を良い場所から見たいと思うのは、皆同じだろう。(お花見の場所取りを思い出すわ) 庭園が見渡せる窓から外の様子を伺いながら、セレーネは前世で花見の場所取りをしたことを思い出していた。会社のイベントで幹事を押し付けられて、せっかくの休みだというのに早朝から良い場所を確保したのだ。そのくせ会社の連中は花を愛でることはしないのだから腹が立つ。(今となってはいい思い出? にはならないか)「それでは扉を開きましたら、国王陛下とともにバルコニーへお出ましになられてください。合図がございましたら、聖魔法をお示しください」 昨日、晩餐会の後、リハーサルしたとおりの手順を頭の中で反芻する。国王が『女神の愛し子』としてセレーネを紹介した後、聖魔法を使ってパフォーマンスをするのだ。 聖魔法のパフォーマンスはセレーネに任せるというので、庭園に植えられている四季折々の花を一斉に咲かせようと思いついた。 リンドベルム王国は日本人作家が書いた物語の国だ。そう設定されているのか四季があるので、庭園は季節ごとに様相を変える。現在は秋の終わりだ。次に咲く季節を待っている花々は大地で眠りについている。無理やり起こすのは気の毒だが、再び眠りにつかせることはセレーネの聖魔法であれば可能だ。 バルコニーの扉が開かれると、民たちの歓声が聞こえてきた。「国王陛下並びにセレーネ・エステル王太女殿下のお出ましでございます!」 国王とセレーネがバルコニーに姿を現すと、歓声はさらに大きくなる。「国王陛下万歳!」「王太女殿下! この度はおめでとうございます!」 リンドベルム国王は賢王と名高い名君だ。もともと民たちの人気が高いのは当たり前だが、この日はセレーネの人気がうなぎ上りだった。 国王が片手を上げると、民たちの歓声が一旦止む。これから国王の挨拶が始まると分かっているのだ。「リンドベルムの民
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 明らかに慌てた様子のローラントは少し息を切らせている。「ご無事でございましたか? 国王陛下、王太女殿下」 国王とセレーネが無事なことを確認したローラントは、ほっと息を吐く。「大事ない。其方はセレーネを連れて民たちの様子を見に行け。余は森の様子を見に行く」 おそらく花火が爆発したであろう森の中は炎に包まれて危険だ。「危険です、お父様!」 森へ向かおうとする国王をセレーネは止める。ふっと国王は微笑むとセレーネの頭を撫でた。「大丈夫だ、セレーネ。余は火魔法を使うことができる。いかなる炎も余を傷つけることはできぬ」 さっと身を翻すと、国王は出入口ではなくバルコニーからひらりと飛び降りる。「お父様!」 バルコニーから下を見ると国王はすでに森に向かって走り出し、みるみるうちに遠ざかっていく。今のは身体強化魔法を使ったのだろう。バルコニーから飛び降りたのはそれが森への最短距離だからだ。「国王陛下なら大丈夫です、殿下。あの方は強いのですよ」 国王が複数の魔法を使えることは知っていたが、実際に魔法を使う姿を見たことがない。心配ではあるが、ローラントのお墨付きであれば大丈夫なのだろう。「分かったわ。森のことはお父様に任せましょう。民たちのところへ行くわよ、ローラント」「御意!」 王宮の中へ避難させた民たちはひとまず大広間へ移動させたようだ。 あの爆発で怪我をした者はいなかったが、パニックになり逃げだす際に怪我を負った者がいる。「とうさん、痛いよ!」「ニコルしっかりしろ! 頼む! 早く息子を診てくれ!」 宮廷医師や王宮内の使用人が総出で手当てしているが、間に合わないようだ。 大広間に到着したセレーネは、傷ついた民たちの姿を目の当たりにした。傷ついた者たちは大半が子供だ。「王太女殿下だ!」「娘をお助けください! 王太女殿下は『女神の愛し子』なんですよね?」「王太女殿下。お下がりください!」 セ
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 森で起きた火災は予想どおり花火の爆発が原因だった。爆発の原因は不明だが、何かの不具合で火薬に引火し炎上したとのことだ。幸い近くにいた職人たちは軽い負傷を負った程度で済んだが、気になる証言をしていた。「花火に点火するための火種がなぜか消えていたので、急いで火おこしをしようとしました。そしたら、いきなり花火が爆発したんです」 火種は厳重に管理をしていたのに、なぜか消えてしまったというのだ。この日は晴天で風のない日だった。火種が消える原因を作るものはないはずなのだが……。「せっかくのセレーネの披露目だったというのに、何ということだ」 国王は娘の晴れ舞台を台無しにされて不機嫌だ。ローラントは苦笑する。「殿下は民たちに対して奇跡を起こされました。見事に『女神の愛し子』としての証を示されたのです」「それは聞いておる。素晴らしい奇跡だったらしいな」 それまで顰めていた国王の顔が一転して緩む。だが、一瞬のことだった。すぐに厳しい表情に戻る。「ローラント、水面下で何やら動いておるような気がする。少し調べてみてはくれまいか?」 即答せずに逡巡している様子のローラントに国王は眉を顰める。「どうした? 何やら気になることでもあるのか?」「いえ。殿下に頼まれたことがあるのですが……」「セレーネにか? どのようなことだ?」 キリアン・オーランドの素性を調べるようにと、セレーネに頼まれたことをローラントは国王に包み隠さず話す。すると国王がぷっと吹き出したので、ローラントはむっとする。「何がおかしいのですか?」「いや……すまぬ。なるほど。キリアン・オーランドか。セレーネの目は確かだな」「陛下は何かご存じなのですか?」 国王はキリアン・オーランドの素性を知っているようだ。「あれの正体はいずれ分かる。心配いらぬ。あの者はセレーネの味方だ」 簡単にキリアン・オーランドの素性を教えてくれる気はなさそうだとローラントは
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 セレーネが行きたい場所は自分が育った教会だった。小さな教会だが、正面にきれいなステンドグラスがハマっている扉がある。色とりどりのステンドグラスが夕暮れに照らされる瞬間を見るのが、セレーネは好きだった。「こちらはもしや殿……レーネが育ったという教会ですか?」「そうよ。よく知っているわね。話したことがあったかしら?」 首を傾げているセレーネにローラントは苦笑する。ローラントはセレーネ自身から聞いたことがあるのだが、セレーネはそのことを覚えていないのだ。「まあ、いいわ。入りましょう」 扉に手をかけると、少しきしんだ音を立てて開いていく。正面には女神エステルの彫像がある祭壇があり、彫像の背面にはステンドグラスがハマった大きな窓がある。左右には礼拝に訪れる人用の長椅子が置かれていた。「養父さん! いるの? レーネよ」 セレーネが呼びかけると祭壇の横にある扉が開き、四十代くらいの男性が姿を現す。黒い長衣を着た男性はこの国では珍しい赤い髪だ。切れ長の緑の瞳は目が悪いのか丸いメガネをかけている。「レーネ? 王宮を抜け出してきたのか?」「久しぶりね、養父さん。二年ぶりくらいかしら?」 セレーネが養父と呼んだ男性は苦笑する。「そう呼んでくれるのはありがたいが、お前の実の父君は国王陛下なのだから……」「でも、育ててくれたのは養父さんだもの。養父さんは養父さんよ」 男性は窘めているが、セレーネを見つめる目は優しい。まさに父親の目をしている。「仕方のない子だ。ところでそちらの方はどなたかな?」 セレーネの後ろに立っているローラントに向ける目は好奇心に満ちている。「申し遅れました。セレーネ王太女殿下の補佐官でローラント・ドレンフォードと申します」 紳士の礼を取って挨拶をするローラントだが、男性は恐縮したように手を振る。 「ご丁寧にありがとうございます。しかし、私は貴族ではありませんので、そのような挨拶は不要です。マティアス・トール
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 足早に教会から遠ざかり、人通りの多い広場まで来ると二人は立ち止まる。「何であいつが養父さんの教会にいるのよ!」「顔見知りのようでしたね」 キリアンとマティアスの接点を考えて、セレーネは一つ思い当たることがあった。「養父さんはグラキア大陸出身なの。祖国の話は聞いたことがなかったけれど、ソンウォーレン帝国かもしれないわ」「ソンウォーレン帝国は赤い髪をした方が多いですからね。オーランド大使と同じ国出身だとしたら、接点はあるのかもしれませんね」 リンドベルム王国に来る前にマティアスとキリアンは何かしら面識があったのかもしれない。いまいち得心はいかないが、そう納得することにした。「久しぶりに養父さんとたくさん話をしようと思っていたのに……残念だわ」 後日、あらためてマティアスに会いに行き、キリアンについて尋ねようと、セレーネは決心する。「まさか王宮を抜け出して養父様に会いに行こうとお考えですか?」「何で人の考えを読むのよ! まさか人の心を読む魔法が使えるんじゃないでしょうね?」 国でも最高の魔法使いであるローラントであれば、そういった魔法も使えそうだ。「そのような魔法はありませんよ。殿下の考えることは何となく分かるだけです」「じゃあ読心術とか?」「さあ? それより露店を見て回りたいのではないですか? 早くしないと店が閉まりますよ」 上手くごまかされてしまったが、そろそろ日が暮れるのは確かだ。建国祭の間は夜遅くまで露店は営業しているはずだが、王宮に帰る時間を計算すると、露店回りを始めた方がいいだろう。「それもそうね。行くわよ、ローラント!」 露店が立ち並んでいる辺りは食欲をそそる匂いが立ち込めている。匂いだけで涎が出そうだ。「串焼き美味しそう! あっ! おにぎりもある!」 目移りしながらセレーネがチェックしているのは食べ物を売っている店ばかりだ。苦笑しながらローラントはそんなセレーネを見ている。「レーネは食いしん坊ですね」
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