All Chapters of 破滅予定の悪役王女ですが、なぜかヒロインポジションになりました~女神の愛し子の称号で破滅エンドを回避します~: Chapter 31 - Chapter 40

41 Chapters

セレーネに迫る陰

「どうしてお姉様ばかり……」 フローラはきれいに手入れされた爪をかじりながら、異母姉のセレーネに対する妬みを吐き出していた。「卑しい市井の育ちのくせに!」 異母姉のセレーネが王宮に帰ってくるまで、フローラはその存在をすっかり忘れていた。腹違いの姉がいるが行方不明だと聞いていたので、既に亡くなったと思い込んでいたのだ。 幼い頃、両親の愛はフローラだけに向けられていた。父である国王は忙しい中、一日の仕事が終わると必ずフローラの顔を見にきてくれたのだ。そして母のアンジェラはフローラを溺愛していた。 しかし、フローラが十歳の時、不治の病にかかった母は亡くなってしまったのだ。だが、母が亡くなった後も国王は母の分もとさらにフローラを大切にしてくれた。 ところがフローラが十二歳の時に行方不明だった異母姉セレーネが、王宮に帰ってきた。国王は十四年の空白を埋めるように片時もセレーネを離さず、常にそばに置いていたのだ。それまで自分だけに向けられていた父親の愛情をとられた気がした。だから、辛くあたったり嫌がらせをしたりして、セレーネを王宮から追い出してやろうとしたのだ。「お姉様なんて帰ってこなければよかったのに!」 そして、十四歳の時に自分と結婚をすると思っていたヴィンセントは、セレーネの婚約者として決まったうえに次期女王の座も奪われてしまったのだ。 許せなかった。幼い頃から遊び相手としてヴィンセントと一緒に過ごすうちに友情は恋心に変わり、そして両思いの恋人同士となった。 なぜ、両思いの恋人まで突然現れた異母姉に奪われなければならないのか? とセレーネを憎んだ。 しかし、二人の婚約は白紙に戻った。あれほどヴィンセントに執着していたセレーネが自ら婚約破棄を国王に申し出たのだ。なぜなのか理由はフローラには分からない。だが、ヴィンセントを取り戻すことはできた。 ある日、アンカーレ地方に視察へ行ったセレーネが女神エステルの信託を受け、『女神の愛し子』になったことを聞かされた。この国を守護している女神エステルまで、その愛情を異母姉に注いだのだ。「何故お姉様なんかが選ばれる
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28

 いよいよ建国祭の最終日となった。夜は舞踏会が開催されるので、セレーネは朝から夕方までたっぷり時間をかけて身支度を整える予定だ。「昨日は疲れたけれど楽しかったな」 朝風呂に浸かりながら、昨日のことを思い出す。(ローラントとのデート? デートよね? 楽しかったわ。ちょっとハプニングがあったけれど……) ハプニングとは養父の教会でキリアン・オーランドに鉢合わせたことだ。上手く切り抜けたつもりだが、あの後、キリアンと一緒にいたマティアスのことが気になった。「養父さん、大丈夫かしら?」 マティアスのことを考えていると、浴室の扉がノックされて外からミレーヌの声が聞こえる。「殿下。そろそろ湯からあがりませんと、のぼせてしまいますよ」「今あがるわ、ミレーヌ」 湯あがりの後は侍女たちの手によってマッサージを受け、セレーネの肌は輝いている。「お疲れ様でございました、殿下。冷たい飲み物でも召し上がりながら、しばらくお寛ぎくださいませ」 簡素なドレスを着たセレーネはメインルームに移動してミレーヌが用意してくれた果実水を飲む。飲みながら、昨日ローラントからもらったヘアピンを眺める。「まあ、きれいなヘアピンでございますね。どなたかからの贈り物ですか?」 ヘアピンに目を留めたミレーヌが尋ねるので、セレーネは少し間を置いて答える。「……昨日ローラントにもらったのよ」「ドレンフォード卿にでございますか? ついに求婚されたのですか?」 うれしそうにミレーヌが微笑む。「求婚!? えっ! どういうこと?」 ヘアピンを露店で買ってもらっただけなのに、なぜ話が飛躍するのかセレーネには理解不能だった。「建国祭で殿方が女性に贈り物をするのは、求婚の証でございます」「えっ! そうなの!?」「ご存じではなかったのですね」 いつの頃からか建国祭で男性から好きな女性に求婚をする際、贈り物をする風習ができたという。
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29

 国王は控室ですでに待機していた。公式の行事では国王は大抵早めに控室に来ていることをセレーネは知っている。 フローラはいつも入場ギリギリの時間に控室にやってくる。今日もきっとそうなのだろう。 「セレーネか? 早いな。もう少し部屋でゆっくりしていてもよかったのだぞ」  セレーネが控室に入室してくると、国王は破顔する。セレーネはカーテシーをすると、背筋を正した。 「舞踏会の前にお父様にお願い事がございます」 「其方が願い事か? 珍しいな。言ってみるがよい」  深呼吸をしてセレーネは一歩後ろに控えていたローラントの横に立つ。自分の横に並んだセレーネの行動にローラントは首を傾げている。 「ここにいるローラントを王配にしとうございます」 「殿下!?」  突然のセレーネの発言にローラントは驚いたようだ。国王はというと、黙って腕を組んで何やら思案をし始めた。 しばらく沈黙が流れていたが、静寂を破るように国王が声を上げて笑い出した。 「お父様!?」  突然笑い出した国王にセレーネは慌てる。 「いや。ハハハ……。すまぬ。其方がローラントと同じことを言うのでな」 「えっ? ローラントと同じこととはどういうこと
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30

 舞踏会場では国賓や自国の貴族の入場が順に始まっている。入場した者はそれぞれ思い思いに社交をし初めていた。 まもなく王族の入場が始まるという段階でフローラが控室にやってくる。謹慎中にも関わらず、いつの間にか仕立てたであろう豪奢なドレスを身にまとっていた。 「遅かったな、フローラ。まもなく入場だぞ」 「支度に手間取り遅くなりました。申し訳ございません、お父様」  カーテシーをしながら、フローラは遅れた詫びを国王だけにする。セレーネには一言も言葉をかけない。 (まあ、いつものことだけれど、一言欲しいわね) 「ところでドレンフォード卿がなぜこちらに? お姉様のエスコートをするのであれば、舞踏会が始まってからではないのですか?」  控室にいまだ待機しているローラントをフローラは訝し気に見る。 通常であればフローラの言うとおり、舞踏会が始まった後にエスコートをするのだが……。 「セレーネとローラントは先ほど婚約することが決まったのだ。このままローラントにはセレーネとともに入場してもらう。開会の宣言とともに二人の婚約を発表するつもりでおるからな」 「えっ! 婚約ですか? お姉様とドレンフォード卿がですか? いったいいつの間に……」  だが、フローラが驚いたのは一瞬のことで、きっとセレーネを睨みつける。 「ヴィンセントと
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31

 ゆっくりとした曲のワルツに乗って、セレーネは軽やかに足を運ぶ。ローラントのリードが上手いので、とても踊りやすいのだ。「貴方、ダンスが上手かったのね。ローラント」「貴族としての嗜みですからね。そういえば殿下と踊るのは初めてです。以前はクズ男とばかりダンスをしていらっしゃったので」 主だった式典でダンスをする時はヴィンセントと踊っていたが、最近はファーストダンスを彼と踊ったことはなかった。ヴィンセントがファーストダンスの相手にフローラを選んでいたからだ。「根に持っているの?」「ええ。でも今日からは遠慮しません。晴れて殿下と婚約することができましたので、これから貴女の隣は私が独占します」 最後の辺りは耳元で囁かれたので、セレーネは背筋がぞくりとする。(推しは独占欲の強い男だった!? でもそこがいい! さらに惚れてまうやろ!) 心の中で悶え死にしていると、曲が終わったのでカーテシーをする。「何か飲まれますか? 飲み物を取ってまいります」「自分で選びたいから私も一緒に行くわ」 飲み物や軽食が用意されているテーブルに向かいながら、ローラントと並んで歩く。 しかし、テーブルに辿り着く前に一人の人物から声を掛けられる。グラキア大陸の民族衣装に身を包んだキリアン・オーランドだった。「次は私と踊っていただけないだろうか? 王太女殿下」 キリアン・オーランドが紳士の礼を取り、セレーネに手を差し出す。 相手は友好国の大使だ。断るわけにはいかないだろう。しかし、セレーネは迷いながらローラントに顔を向けた。ローラントは渋々頷く。踊っても構わないということだ。「喜んで。オーランド大使殿」 先ほどと比べるとアップテンポの曲が流れる。直後ステップを踏み出す。 差し出した手をぐいと引かれたかと思うと、ふわっとセレーネの体が浮き上がり、キリアンの腕に抱き留められた。「其方は軽いな。セレーネ」 ふふと不敵に笑ったキリアンをきっと睨み、セレーネは単刀直入に疑問をぶつけた。「貴方は何
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33

 運命の日――。 セレーネが雷に打たれて前世の記憶を取り戻した時だ。「えっ! あの場に貴方もいたの?」「ああ。君を探して中庭に来た時に雷鳴が聞こえた」 中庭で叫びながら泣いているセレーネを見て、ローラントは咄嗟に駆け出した。凄まじい雷鳴が轟いた直後、閃光がセレーネを貫き、自分も雷に感電してしまったのだ。 ローラントはすぐに意識を取り戻したが、今度は割れるような痛みの頭痛が襲い、前世の記憶が一気に流れ込んできた。「体は少し痺れていたが、動くことはできた。そして、目の前で倒れている君の姿が目に入った」「じゃあ、もしかして蘇生処置をしてくれたのは貴方なの?」「いや。気を失っていたが、君は生きていた」 すぐに助けを呼ぼうと周囲を見渡したが、人の姿はない。 セレーネの脈を確かめると正常に心臓は動いており、規則正しい呼吸をしていた。このまま自分がセレーネの部屋まで運んでも大丈夫そうだが、万が一ということもある。近くにいる人間を探し、宮廷医を呼びに行かせた方がいいとローラントは判断した。 だが、近くに人の姿はなくローラントが再びその場に戻った時、セレーネの姿は消えていたのだ。回廊には騎士たちが何人かおり、セレーネが倒れていたので部屋に運ばれたという話をしていた。 ローラントはセレーネが救助されたことを聞き、ひとまず安心する。「ローラントが助けてくれたのに、貴方の名前が出なかったのはそういうことなのね」「ああ。安心はしたがちょっと後悔したんだ。自分の手で君を運びたかったから」「ねえ。凪はどうして私だと分かったの?」 先ほど確信していたように日本語で前世の自分の名前を呼んだ。つまり凪はセレーネがレナだと分かっていたということだ。「……分かるよ。どんな姿になっても君がレナだと分かった」 凪はレナを抱き寄せる。小説の世界に転生してもレナと再び会うことができた。もう二度と失いたくはない。今度こそはレナを幸せにするのだ。「私ね。記憶を取り戻した時に貴方と二度と会えないと思って悲し
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 舞踏会の翌日、招待客たちへの詫びを兼ねて急遽王宮の庭園でガーデンパーティーが開催された。 帰国予定の賓客や予定がある貴族はそのまま王宮を辞したが、大半の招待客はガーデンパーティーに参加したのである。「昨日の奇跡は素晴らしかったですな」「わたくしはシャンデリアの破片で腕を切ったのですが、奇跡のおかげで跡形もなく消えましたの」「王太女殿下に感謝ですな」 立食形式のガーデンパーティでは、昨日の舞踏会でセレーネが起こした奇跡の話題で盛り上がっていた。「何よ。お姉様ばかり……」 どこへ行ってもセレーネの話題ばかりでフローラは面白くなかった。奇跡を目の当たりにしても、フローラのセレーネに対する態度は変わらない。「フローラ殿下」 隅で一人佇んでいるフローラにハルヴィオン侯爵が声を掛けた。「伯父様。ごきげんよう」「浮かぬ顔をされていますね。せっかくの可愛らしいお顔が台無しですよ」「だって、皆様お姉様の話ばかり。つまらないのですもの」 フローラが拗ねたように頬を膨らませると、ハルヴィオン侯爵はふっと笑う。「今に面白い事が起こるかもしれませんよ」「え?」「いえ。こちらの話です。それではフローラ殿下。また後でお会いいたしましょう」 他の貴族に挨拶するために去っていったハルヴィオン侯爵の姿をフローラは首を傾げて見送った。 挨拶にやってきたキリアン・オーランドにセレーネはカーテシーをする。「オーランド大使。昨日は危ないところを救っていただきありがとうございました」「いや。昨日の奇跡はすごかったな。あれが女神エステルの力というわけか?」「はい。ところでオーランド大使も魔法が使えるのですか?」 昨日、シャンデリアが落下する寸前、キリアンは一瞬の間に場所を移動していた。ただ身体能力が高いだけでは不可能な技だ。「まあな。グラキア大陸では魔法を使える者はほとんどいないが、祖母がこちらの大陸出身で魔
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 そろそろガーデンパーティーが終了するので、今日帰国予定の賓客たちが国王に挨拶をしている。そんな中、ハルヴィオン侯爵は落ち着かない様子で時折一定の場所に視線を向けていた。誰かを待っているようだ。 「ハルヴィオン侯爵」  だから、意外な人物が目の前に現れた時に驚愕の表情を浮かべた。 「おっ! 王太女殿下!? なぜここに……」 「どうしました? 私がここにいるのが不思議ですか?」  首を傾げるセレーネにハルヴィオン侯爵は動揺を隠すように笑顔を取り繕う。 「い、いえ。先ほど急いで王宮に戻られたようなので……」 「急ぎの用件でしたが、もう終わりました」  セレーネが頷くと、ハルヴィオン侯爵の前に黒づくめの装束を着た男が引きずり出された。その男は後ろ手に手枷をはめられ、口元には猿ぐつわをかまされている。 「これは……我が家の家令ではありませんか? 何故このような仕打ちをなさるのですか!?」 「ハルヴィオン侯爵、そのまま動かれませんよう」  ハルヴィオン侯爵が家令を助け起こそうと身を屈める前にローラントがけん制をする。助けるふりをして口封じをする可能性があるからだ。 「ドレンフォード卿! 何をしているのです?
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「家族の命を盾に取られて命令に背くことができなかったのです! お許しくださいとは申しません。わたしはとうに覚悟はできております。ですが、どうか家族の命だけはお助けください! 王太女殿下!」  家令は涙を流しながら、家族の命乞いをする。王族の弑逆は重罪だ。未遂だとしても極刑は免れない。場合によっては一族郎党処刑ということもあり得るのだ。 「ハルヴィオン侯爵。シャンデリアには貴方の魔力の痕跡が残っておりました。殿下がシャンデリアの真下に来た時に落下するよう、魔力操作をしていましたね?」  ハルヴィオン侯爵は魔力操作の才能が飛び抜けている。正確に魔力を操ることが上手いのだ。花火を爆発させたのも侯爵の仕業だ。巧みに魔力操作をして炎上させたのだ。 「証拠は揃っているのですよ、ハルヴィオン侯爵。まだ申し開きがありますか?」  黙したままのハルヴィオン侯爵にセレーネが問いかける。 「嘘よ! 伯父様がそんなことをするはずがないわ! そうだわ。お姉様がわたくしを貶めようと伯父様を犯罪者に仕立てているのね?」  これだけ証拠を突きつけているというのに、フローラが的外れなことを言い出すのでセレーネが窘めようとした時だ。 「くくく。どこまでも愚かな娘だ」 「伯父様?」  それまで黙していたハルヴィオン侯爵が口を開く。 「偽物の王女だとしても、もう少
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