「――条件は三つよ、蓮さん」 お母さんの冷徹な声が、夜明け前のテラスに響く。 私の体は蓮さんの腕の中に戻っていたけれど、上空に浮かぶ巨大な白銀の円盤は、依然として圧倒的な威圧感を放っていた。 「一つ、ルナの『5秒戻し』の観測データを、定期的に銀河ネットワークへ送信すること。二つ、地球の『有機種子』の優先供給権を九条グループが保証すること。そして三つ目……」 お母さんは、私を抱きしめる蓮さんの腕をじっと見つめた。 「貴方がルナを泣かせた瞬間、この星ごと彼女を回収するわ。……その覚悟、あるかしら?」 あまりに巨大すぎる「条件」に、私は息を呑む。けれど、私の背中を支える蓮さんの手は、微塵も震えていなかった。 「……承知しました。お義母様。データの送信も、種子の安定供給も、九条グループの威信にかけて完遂しましょう。そして三つ目の条件については……」 蓮さんは不敵な笑みを浮かべ、お母さんの銀色の瞳を真っ向から見据えた。 「その心配は無用です。僕が彼女を泣かせるのは、嬉し涙を流させる時だけだと、僕の寿命のすべてを賭けて誓います」 沈黙が流れる。お母さんは、ふっと短く息をついた。それは、銀河の支配者が初めて見せた、微かな「微笑」のようにも見えた。 「……計算外だわ。これほどの非合理な熱量に、私の演算が『肯定』を出すなんて。いいでしょう。……ルナ、貴女に『地球定住権』を付与するわ。……ただし、たまには顔を見せに戻りなさい。いいわね?」 「お母さん……! はいっ!」 お母さんの姿が光に溶け、上空の円盤が星の彼方へと消えていく。 静寂が戻ったテラスで、蓮さんは私を抱き上げるように強く引き寄せた。 「……やっと、正式に認められたな。ルナ」 「蓮さん……ありがとうございます。私、世界で一番幸せです……!」 朝焼けに染まる銀座の街。5秒戻す必要のない、輝かしい私たちの「これから」が、今ここから始まった。 (つづく) 【 次回予告】 【 第5章 宇宙で一番幸せな花嫁 】 第42話:新生活はトラブルだらけ 正式に私の地球滞在が決まった。 能力を使う必要すらないほど、蓮さんの細やかな気遣いに包まれる毎日。 けれど、慣れない地球での生活に、私の心は知らず知らずのうちに強張っていて……。 「――今日は俺が作る。……お
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