昨日、書斎のドアの向こうで、自分を信用できないと震えていた。私の命をこれ以上削りたくないから、自分の肺が腐り落ちてもお前がいいと、そう言って泣きそうな声を上げていた。 私をこのペントハウスから、有栖川の呪いから遠ざけて、安全な場所へ逃がすために、わざとこんな酷い言葉を選んでいるのだ。 頭の片隅では、その不器用すぎる「保護」の意図がわかっていた。 でも。 わかっていても、その黄金色の瞳に宿る、一切の光を遮断した冷徹な視線が。自分を「足手まといのガラクタ」として切り捨てる言葉の響きが。 私の胸の最も深い場所を、ズタズタに引き裂いていく事実を止めることはできなかった。 私の力が中途半端だから。私が一人で有栖川の過去を終わらせるほどの強さを持っていなかったから、この人は、こんな方法でしか私を守れないのだ。 自分の無力さが、どうしようもなく悔しくて、情けなくて、目頭が熱くなる。「……話は、それだけだ」 黎はそれ以上、こちらの顔を見ることもせず、大股で書斎の方へと歩き出した。 長い脚がカーペットを踏みしめる音が、やけに重く響く。「待ってください、黎様! 私は、ここに――」 背中を追いかけようと、素足で床を蹴る。 しかし、黎が書斎の室内へと滑り込む方が、一瞬早かった。 バタンッ!!! 重厚な木製のドアが、目の前で一切の容赦なく閉ざされた。 激しい衝撃音がリビングに反響し、壁に掛けられたモダンアートの額縁が、カタカタと微かに揺れる。 カチャリ。 直後、内側から冷たい金属部品が噛み合う、確実な施錠の音が響いた。 閉ざされた、焦げ茶色の扉。 その前に辿り着き、伸ばした両手を、冷たい木の表面へと押し当てる。「黎様! 開けてください! 黎様……っ!」 ドアノブを掴み、何度も前後にガタガタと揺らす。 けれど、昨夜のように、鍵が回される気配は二度となかった。ドアの向こうからは、ヒュゥゥ……という、あの痛ましい擦れるような呼吸音すら聞
Last Updated : 2026-06-13 Read more