しゃがみ込んだまま、空中で行き場を失った両手を引き戻せず、震える声で訴えかける。「こんなもの、いつものことだ。お前がいなかった数千年間、俺はずっとこうやって息をしてきた。今更、どうということはない」 黎はソファから立ち上がり、長い脚で三歩、四歩と一気に後ずさった。 背中が、冷たい壁にぶつかる。 黎の胸は激しく上下し、強がりの言葉とは裏腹に、呼吸は完全に乱れていた。「嘘です。痛いのに、ずっと胸を押さえているじゃないですか」「嘘ではない! 俺の身体だ、俺が一番よく分かっている!」 黎が、壁に背中を預けたまま、ずるずると膝を折った。 長い脚がカーペットの上に投げ出され、大きな両手が自身の銀髪を掻きむしるように掴む。「黎様……」 立ち上がり、一歩近づこうとする。「来るな!!」 黎が、顔を上げた。 瞳は、怒りではなく、深い恐怖と絶望に染まっていた。「頼むから……俺を、甘やかさないでくれ」 ひび割れた、悲鳴のような声。「お前が近づいてくれば、俺の身体はお前の浄化を求めて、勝手に食らいつこうとする。お前の命を吸い上げて、自分が楽になろうと……そんな浅ましい本能を、俺はどうしても抑えきれないんだ……っ」 黎の逞しい腕が、小刻みに震えている。 私を傷つけるかもしれない自分自身を、必死に鎖で縛り付けようとしている姿。 あの、すべてを破壊する力を持つ強大な黒竜が、ただ一人の人間に触れてしまうことを恐れ、壁際で縮こまっている。「私は、吸われてもいいです」 はっきりと、声に出した。 迷いはなかった。「私が、黎様を楽にしてあげたいんです。私が触りたいから、触るんです」「ダメだ!!」 黎の叫びが空気を震わせた。「お前は、自分がどれだけ大事なものか、まだわかっていない……っ。お前が欠けるくらいなら、俺はこの肺ごと引き千切って捨てる」「
最終更新日 : 2026-06-08 続きを読む