彼に対する罪悪感?そんなものは欠片もない。何よりもまず、自分が生き残ることが最優先だ。凛は胸の奥で、ドス黒い優越感と嘲笑を煮えたぎらせていた。あのプライドが高く、すべてを支配しているつもりでいる和真が、自分はもう二度と子供を作れない身体になったと知ったら、一体どんな絶望的な顔をするのだろうか。ああ、その日が来るのが、待ち遠しくてたまらない――-観海レジデンス。夜の闇の中、二階の窓から外を見下ろしていた実花は、一台の車がこちらに向かって走ってくるのに気づいた。――彼だ。確信した瞬間、実花はバネ仕掛けのようにベッドから飛び起きた。早鐘のように打ち鳴らす心臓を抑えきれないまま、ルームシューズをひっかけて逃げるように階段を駆け下りる。一階の玄関へ降りると、そこには家政婦の佐藤さんが待っていた。彼女は実花のために、あらかじめ外履きの靴とコートを用意してくれていたのだ。その眼差しには、年長者特有の思慮深さと、深い労わりの色が滲んでいる。出立しようとする実花に、佐藤さんがそっと声を潜めて尋ねた。「実花様……もしかして、ご懐妊ですか?」実花は息を呑み、思わずハッとして彼女を見つめ返した。佐藤さんは優しく微笑んだ。「私も若い頃はそうだったんですよ。少しでも油の匂いを嗅ぐと胸がムカムカして、胃液まで吐き出しそうなほど苦しくて。経験者ですから、見ればすぐにわかります」そして、実花を安心させるように温かい言葉を紡ぐ。「どうかご心配なさらないでください。絶対に他言はいたしませんから。……お体を、大切になさってくださいね」「……ありがとうございます」鼻の奥がツンと熱くなるのを感じながら、実花は小さく頷いた。そして二度と振り返ることなく、足早に邸宅を後にした。夜気に包まれた正門を抜けると、そこには暗闇に溶け込むような黒の高級車が静かに停まっていた。車のドアに寄りかかるようにして立つ長身のシルエット。湊だった。彼の指先では、タバコの火が赤く明滅している。全身を黒の装いで包んだ彼は、いつも通りの底知れない漆黒の瞳で、じっとこちらを見据えていた。彼と目が合った瞬間、実花の胸が大きくトクンと鳴った。あんなにも助けに来てほしかった。あんなにも会いたかったはずなのに。いざ目の前にすると、どうしてい
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