慎一は、どうしても自分の持つ力や機会を紗月へ与えたいらしい。その理由だけは、紗月にはどうしても分からなかった。 立花監督の映画のことを思い出す。 自分の選択を誤ったせいで、一度は手を伸ばしかけた機会を逃した。 もう一度その役へ手が届くかもしれないと聞かされ、まったく心が動かなかったと言えば嘘になる。 それでも、以前、朝倉サポートソリューションズ株式会社で任された仕事が脳裏をよぎった。 あの案件には、多くの時間も労力も費やし、心血まで注いだ。それなのに、慎一にとっては、すべてほんの気まぐれに過ぎなかった。 最後に紗月の手元へ残ったものは、何一つなかった。 あの頃の紗月には、まだ慎一への愛情があり、彼を信じる気持ちもあった。今はもう愛も失い、一度壊された信頼を取り戻すことなど、そう簡単にはできない。「あなたのことは信じられない、慎一。前に私へ何をしたか、あなた自身が一番よく分かっているでしょう。それに、あなたは商人よ。何の利益にもならないことをする人じゃない」 紗月は静かに言い切った。 何度も考えた末に出した答えは、それでも慎一の申し出を受け入れられないというものだった。 少し間を置き、できるだけ感情を押し殺した声で尋ねる。「朝倉社長。今夜、私はどこで寝ればいいんですか?」 慎一はしばらく紗月を見つめ、何かを考えているようだった。やがて口を開きかけたものの、急かすように鳴り響いたスマートフォンに言葉を遮られる。 画面へ視線を落とした慎一は、わずかに眉を寄せた。 それでもすぐには電話へ出ず、一度考えるような間を置いてから紗月へ視線を戻す。「俺の休憩室を使え」 慎一がその気になれば、今からでも紗月のために別の部屋を用意させることくらいできるはずだった。 だが、そんなつもりはないらしい。「でも……」「安心しろ。邪魔はしない」 紗月が何を言おうとしているのか察したのか、慎一はすぐに言葉を継いだ。返事を待つこともなく、そのまま電話へ出る。 今度の連絡は、先ほどよりも切迫した内容だったらしい。話を聞くにつれ、慎一の表情もわずかに険しさを帯びていく。「分かった。すぐ確認する」 短くそう告げて通話を終えると、慎一は立ち去る前にもう一度だけ紗月へ目を向けた。「おやすみ」 低く落ち着いたその一言に、紗月は思わず目を瞬かせる。 慎一が
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