夜になって紗月が再び外へ出ると、慎一の部屋のドアノブに掛けておいたケーキの袋は、すでになくなっていた。おそらく、慎一が気づいて部屋へ持ち帰ったのだろう。 廊下は静まり返っている。 このマンションには、朝から夕方まで働いている若い住人が多い。そのため、紗月が出かける時間に近所の住人と顔を合わせることはほとんどなかった。 慎一の部屋の前を通り過ぎた瞬間、身体が反射的に強張った。 扉が開く気配も、こちらを呼び止める声もない。それでも、隣に慎一がいるという事実を意識しただけで、落ち着かない感覚が胸の奥に広がる。 紗月は無意識のうちに足を速め、そのままエレベーターへ乗り込んだ。 扉が閉まり、慎一の部屋が完全に視界から消えてから、ようやくわずかに肩の力を抜く。 表示パネルに浮かぶ数字が一つずつ減っていくのをぼんやりと眺めながら、紗月は本気でもう一度引っ越すべきなのではないかと考え始めていた。 今夜は、凛子と夕食を取る約束をしていた。 二人が顔を合わせるのは数日ぶりだ。凛子もずっと紗月のことを心配していたのだろう。 待ち合わせ場所へ現れた紗月の顔色を真っ先に確かめ、思っていたほど憔悴していないことが分かると、ようやく安心したように息を吐いた。それから紗月の手を取り、半ば急かすように席へ座らせる。 選んだのは、以前から二人でよく訪れていた店だった。 見慣れた店内の雰囲気と、向かい側に座る凛子の顔を見ているだけで、紗月の張りつめていた気持ちも少しずつ緩んでいく。 しばらく他愛のない話をしたあと、凛子は遠慮がちに紗月と源間のことを尋ねた。 源間との契約がやむなく打ち切られたと知ると、彼女の表情に悲しみと怒りが入り混じる。「ごめんね、紗月……。まさか、こんなことになるなんて……。源間にも、どうにもできない事情があったんだろうけど。はあ……」 もともと、この仕事を紗月へ紹介したのは凛子だった。 そのせいで、今回のことには自分にもいくらか責任があるように感じているらしい。 紗月はそんな凛子を見つめ、何も言わずにその手をそっと握った。 凛子が悪いわけではない。 そう伝えたかった。 慎一に対する不満が、一瞬、喉元まで込み上げてくる。 けれど、紗月はどうにかそれを飲み込んだ。 今も慎一との間に契約が残り、完全には関係を断ち切れていないことを、凛子に
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