「このあと、何か予定があるのか? それなら、俺がそこまで送っていく」 慎一は紗月の言葉を聞かなかったかのように、帰ること自体を止める代わりに、当然のように自分が送るつもりで話を進めてしまった。 紗月はしばらく黙っていたが、これ以上言い争う気力もなく、そのことについては何も言わなかった。 帰るために部屋の中を一通り見回したところで、ようやく自分のバッグがどこにも見当たらないことに気づく。「私のバッグは?」「朝食を食べたら返す」 あまりにも平然とした答えに、紗月は思わず慎一へ視線を向けた。 慎一自身、もともと食事にそれほど強い関心を持つ人ではない。 忙しければ一食くらい抜いても気にせず、誰かと食卓を囲むことにも執着しないはずなのに、こういうときに限って、なぜか紗月には必ず自分と食事をするよう求めてくる。 今回だけではなかった。先日、慎一の会社にある休憩室で朝を迎えたときも、同じように紗月を引き止め、わざわざ一緒に朝食を取ろうとしていた。 かつて紗月が、一緒に朝食を食べたいと勇気を振り絞って願ったことがあるからだろうか。 あのときはあれほど冷たく拒絶したくせに、今になって自分から何度も同じ食卓へ座らせようとする。 まるで、とうに手遅れになった過去を少しずつ埋め合わせようとしているかのようだった。「……食欲がないの」 昨夜は夢ひとつ見ないほど深く眠ったのだから、本来なら体力も気力も多少は戻っているはずだった。 それなのに慎一を前にしているだけで、紗月の中に残っていた力が少しずつ抜け落ちていくように感じられる。 身体にはまだ重い疲労がまとわりつき、こうしてたった一言を口にするだけでも、ひどく体力を奪われるようだった。 慎一はすぐには何も言わず、そんな紗月をしばらく静かに見つめていた。 どうやら、このまま何も口にさせず帰すつもりはないらしい。 かといって、本当に食欲がないという紗月へ無理に食べさせるつもりもないのか、わずかに考えるような間を置いたあと、少しだけ譲歩するように声を落とした。「なら、座って少しだけ俺に付き合え。それが済んだら、送っていく」 紗月はとうとう抵抗することを諦め、うんざりしたように小さくため息をついた。 どうせバッグを返してもらえない以上、ここでいつまでも慎一と押し問答を続けていても仕方がない。これ以上言い争う
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