新人の後輩、遠藤凪(えんどう なぎ)が研究室の掃除を手伝ってくれた。しかし掃除の途中で、私、渡辺由理恵(わたなべ ゆりえ)の一番大事な実験サンプルを全部ゴミ箱に捨ててしまったのだ。そのことを聞いて慌てて駆けつけたけれど、ゴミ箱の中はすでにぐちゃぐちゃになっていた。私のサンプルはどこにも見当たらなかった。「私の――サンプルが!」あまりのショックで、私はその場にへたり込んでしまった。震える手で必死にゴミ箱を漁ったけれど、何も見つからなかった。あのサンプルは、3年近く研究して、ようやく手に入れたものだった。何日も徹夜して、数えきれないほど実験を重ねて、やっと形になったものだった。それなのに、全部、台無しにされちゃった。サンプルのデータを残すことも、研究を発表することも、できなくなったのだ。今はもう、ゴミ箱の中で、他のゴミと見分けがつかなくなってしまった。凪は真っ青な顔でそばに立っていて、焦りとショックで涙目になっていた。「ごめんなさい、渡辺先輩。研究室の掃除を手伝おうとしただけなんです。うっかり捨てたものが先輩の大事なサンプルだったなんて、知らなくて……」彼女は目を真っ赤にして、しくしくと泣き出した。知らなかった?笑わせないで。私のサンプルは、きちんと棚の一番奥に置かれてあって、棚の扉も閉まっていた。わざとじゃなきゃ、間違ってゴミ箱になんか捨てられるはずがない。研究室の同僚たちも集まってきて、この状況を見てひそひそと話し始めた。「凪ちゃんだって、掃除しようとしただけでしょ。まさかあれが渡辺の実験サンプルだなんて、わかるわけないじゃない」「そうだよ。凪ちゃんって素直で良い子だもんね。怒ることじゃないって」「凪ちゃんは本当に可哀想。親切で手伝ってあげたのに、こんなことになるなんてね」……みんな、この素直で可愛い後輩に同情していて、彼女を慰めている。中には、私の方をじろりと見て、怒りをぶつける同僚もいた。「あなたもそんなにカッとしないで。この子は善意でやってくれたんだからさ」「そうよ。たかが実験じゃない?またやり直せばいいでしょ。凪ちゃんをいじめないであげて」「先輩なんだから、あんまり後輩を怖がらせない方がいいんじゃない?」凪が研究室で人気があるのは知っていたけれど、まさかこれほど好かれ
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