تسجيل الدخول何度か手術をしたものの、智也の容態は日に日に悪化していった。彼は私に会いたがって、何度か電話をかけてきたけれど、私は出なかった。ついに智也の母親まで訪ねてきて、泣きながら私にお願いしたから、私はやっと彼の病室へ向かった。ベッドに横たわる智也は、以前より随分やつれているように見えた。それでも、私を見た瞬間、彼の目にぱっと光が差した。「由理恵、お前が助けに来てくれるって、信じてた。一度あの実験を成功させたんだ。だから、もう一度できるよな……俺はまだ、助かるんだよな……」智也の目をまっすぐ見て、本当は言いたくなかったけど、私は事実を告げた。「もう二度と成功しないわ。智也、あなたと離れた後にも、私はあの実験を何度も試したわ。でも、一度だって成功しなかった。何万回と繰り返したのに、成功したのは本当にあの時だけ。どうしてなのかは、私にも分からないの。後から思ったの。きっと、あの頃の私があなたを愛する気持ちが、神様に届いたんだって。だから神様が力を貸してくれて、あの一度だけ、成功させてくれたのよ。でも残念ね。あなたは私の愛にふさわしくなかった。それに、情け深い神様に、見捨てられても仕方ない人だったわ」そう言い放つと、智也の目から光が消えていくのが見えた。彼は途方に暮れて、絶望しているようだった。智也が亡くなったのは、それから3日後のことだった。そのとき私は、海外研修へ向かうため、空港にいた。大輔も一緒について来ると言って、自分の分の航空券まで購入した。私が甘えん坊だねと笑うと、彼は真面目に言った。「せっかくできた彼女なんだからさ。ちゃんとそばにいないと、どっかに行っちゃうだろ」私はふふっと笑った。ある言葉を、ふと思い出した。運命じゃない人は、あなたの未来を壊してしまう。でも、運命の人は、あなたの未来の先で、あなたを待っていてくれる。(終わり)
あらあら、いつの間に私に彼氏ができたのかしら。でも、まあいいか。大輔がいてくれれば、智也も私に付き纏いにくくなるだろうし。私は研究を続け、雄太のもとで、より専門的な分野に取り組むようになっていった。その間、智也は何度も私に会いに来た。最初は復縁を迫ってきたけど、最後には、私の研究成果を金で買おうとした。でも、その行為は雄太に叱られて、追い返された。雄太にとって研究は、病気で苦しむすべての患者のためのもので、お金儲けの道具じゃなかった。彼とのことはこれで終わりだと思っていた。しかしある日、仕事の帰り道で、突然一台の車が私に向かって突っ込んできたのだ。一瞬、何が起きたのかわからなかった。でも、運転していたのが凪だとすぐに気づいた。彼女は狂ったように、私に向かって叫んでいた。「あなたのせいで、私は横山家から追い出されて!赤ちゃんを失って!すべてを無くしたのよ!智也があんなに私を憎むようになったのも、全部あなたのせい!あなたさえいなければ――」もう間に合わないと思った瞬間、大輔が現れて、私を突き飛ばした。彼は腕を骨折したけれど、庇われた私の方はかすり傷一つなかった。そして、凪は殺人未遂の容疑で、その場で逮捕された。その時、私は初めて知った。智也は、昔の私の実験が本当に成功していたと知って、その悔しさと憎しみをすべて凪にぶつけていたことを。智也は、自分が治るたった一つのチャンスを凪に潰されたことを憎んで、彼女をひどく痛めつけたんだ。暴力を振るって罵り、横山家から追い出した。それどころか、男たちに好き放題にさせるような、最低な場所に売り飛ばしたらしい。それで凪は精神的におかしくなってしまって、私を車でひき殺そうとしたのだった。大輔はすぐに手を回して、凪が二度と刑務所から出られないようにした。そして、この一件で彼は智也をもっと嫌うようになって、横山家を潰すために動き出した。横山家はここ数年、ほとんどの財産を全身性エリテマトーデスの研究につぎ込んでいたから、家業の方がおろそかになっていた。昔のような勢いは、とっくに失っていたんだ。だから、大輔が動き出すと、あっという間に横山家が乗っ取られてしまった。そして、ちょうどその時、智也の病気が再び重くなり、命が危ない状態になった。
私たちの研究発表が、満場一致で認められた。研究所のみんなでお祝いをすることになって、雄太の息子である吉田大輔(よしだ だいすけ)も来てくれた。大輔は高級車に乗って店に辿りつくと、私たちの会計をしながら呆れた顔で言った。「父さん、研究所の費用を俺が全部出してるのはまあいいよ。でも、なんで研究室のみんなの食事代まで、俺が払わなきゃいけないんだ?」雄太はお茶目な人で、大輔の言葉を聞いてにこにこと笑った。「まあまあ、そんな細かいこと言うなよ、大輔、ただで払わせるわけじゃないんだから」「じゃあ、借用書でも書く?」「君に、彼女を紹介してやるのはどうだ?」借用書を書きたくない雄太は、くるっと向きを変えると、いきなり私の背中を押して、自信満々に言った。「渡辺はうちの研究所で一番美人で、将来有望な子なんだぞ。君に紹介してやるんだから、文句ないだろう?」大輔は、その綺麗な目を少し細めると、私の顔をじっと見つめて、口の端を上げた。「へえ。儲け話だな」私はわけがわからないまま、借金のカタにされてしまった。本当なら文句の一つでも言いたかったけど、今日は嬉しいことがいっぱいあったから、まあいいかと思った。それで、大輔に家まで送ってもらうことにした。しかし、家の前に着いたら、智也がいた。まるで気がおかしくなったみたいにドアの前で座り込んでいて、周りにはお酒の空き瓶やタバコの吸い殻が散らかっていた。すごく、不気味な光景だった。智也は私に気づくと、ゆっくり立ち上がって近づいてきた。「由理恵……俺が悪かった。あんなふうにお前を陥れて……凪にお前の研究をめちゃくちゃにさせるなんて、間違ってた……お前のことが愛おしすぎて、失うのが怖かったんだ。お前が海外に行ったら、俺と別れるんじゃないかって……本当に、俺が悪かった……」彼は充血した目で、私をじっと見つめた。「なあ、やり直そう?お前もまだ、俺のこと好きなんだろ!防犯カメラを見たんだ。実験が成功した時、お前は研究室で嬉しくて泣いてたんだろ。その後すぐに海外の研究所に電話していたのは、実験結果の可能性について確認していたのも分かった。全てが、俺の病気のためだったなんて……」その通りだ。凪は、私は研究の成功を海外の研究所に報告して留学をするのだと智也に言った。でも本当は、
雄太はスライドを映し出すと、そこにいる全員の前で、私たちの研究所が最近行った様々な研究について説明を始めた。免疫システムの疾患に大きな進展があったと、雄太が説明した時、智也は明らかに動揺した。彼は興奮した面持ちで、雄太を食い入るように見つめた。雄太の発表が終わってすぐ、智也は駆け寄ってきて言った。「吉田先生、その免疫システムの研究を担当されたのはどなたでしたか?免疫システムの研究が進んだということは、つまり、全身性エリテマトーデスも――」「全身性エリテマトーデスの研究なら、半年も前に私が成功させていたよ」私は智也の言葉を遮って、はっきりと言い放った。智也は眉をひそめて、私を馬鹿にするように言った。「何を適当なこと言っている。半年前、お前は俺が出資した研究所にいただろ。それにお前の実験のサンプルは、もう――」彼はそこで、何かに気づいたように、言葉を止めて隣にいる凪を見た。凪もまた、慌てて説明し出した。「智也、だ、だまされないで。彼女は嘘をついているに決まってるわ!もし本当に実験が成功していたのなら、どうして誰にも言わなかったっていうの?」「データをまとめて、皆に伝える前に、あなたにメチャクチャにされたからよ」私は凪をじっと見つめてから、智也に視線を移した。「智也、あなたも医者なら、さっきの吉田先生の話が理解できたはず。もし私が半年前に行ったあの実験の初期のデータがなければ、今回の研究は成功していなかった。あの時、私は他の研究テーマを持たなかった。あなたの病気を治すことだけを考えていたの。何千回、何万回と実験を繰り返して、成功したのはたったの一度だけ。でも、その一度の成功で手に入ったサンプルさえ残っていれば、あなたを治すことは不可能じゃなかったのに。でも残念ね。あなたの大事な可愛い後輩が、あなたが完治できるたった一つのチャンスを潰してしまったのよ」「ありえない!嘘だ!」智也は目を真っ赤にして、息も荒くなった。明らかにこの事実を受け入れられないようだった。そばにいた凪もすっかり焦り出し、さっきまでの得意げな態度が消えて、智也にすがりついた。「智也、彼女のデタラメを信じないで、絶対に嘘よ――」パシッ!激怒している智也は、凪の頬を強く打ち、怒りに満ちた目で彼女を睨みつけた。
周囲の反応を見て、凪は真っ青な顔で、慌てて私の手からリモコンを奪い取って電源を切った。「これはデタラメですよ!この女が私を陥れるためにでっち上げたのです!」智也も、歯を食いしばって私を睨みつけた。「防犯カメラは、確かに止めたはずだ。なのに、どうして――」「ええ、私がまたつけたからよ」私は智也に近づき、彼の目をじっと見つめて、馬鹿にするように言った。「智也、浮気したなら、素直に認めたらどうなの?私と結婚するとか言いながら、外では他の女を口説いてるなんて。あなたの体で、二人も相手できるの?」その場にいた同僚たちは、私の言葉を聞いて、吹き出しそうになるのを堪えた。私が智也の男としての能力を馬鹿にしているのだと、みんな理解した。智也は顔を真っ赤にして、歯を食いしばった。「そうだ!俺は凪と浮気した!それに、彼女と結婚するつもりだ。それがどうした?お前はいつも俺を見下したような態度だった。そんなお前のために、どうして俺が他の女と寝るのを我慢しなくちゃいけないんだ?俺は重い病気で苦しんでるのに、お前の頭の中は研究のことばかり!本当に俺を心配したことなんて、一度もなかっただろ?それに、お前のくだらない研究が成功したところで、いくら稼げるって言うんだ?俺が適当に買った車のほうがいい値段だ!」そう言いながら、智也は凪を抱きしめ、わざと私に見せつけるようにキスをした。智也に二人の関係を認められた凪は、途端に勝ち誇ったような態度になった。「そうなんですよ!渡辺先輩、あなたは智也先輩のことを、ちっとも気にかけてあげませんでしたよね。それなのに、智也先輩が他の人を探しちゃいけないなんて、そんなの勝手すぎますよ!私は毎日、智也先輩とおしゃべりしたり、ご飯を作ってあげたりしていますよ。私の方が、あなたよりずっと智也先輩のこと考えてますから!あなたみたいに、目の前のことしか見えてない女は、振られて当然でしょう!」目の前にいる、お似合いの二人を見ていると、私がこの3年間でしてきたことが、全部ただの笑い話に思えてきた。私は冷たい目で智也を見つめた。「智也、私があなたにあげられるものは、この世の他の誰もがあげられないものだったのよ。あなたが台無しにしたあの研究が、あなたにとってどれほどの意味を持っていたか、知るはずも
今すぐ押し入って、すべてをぶちまけてやりたい衝動に駆られたその時、スマホの画面が光った。連絡をくれたあの最先端の研究所を率いる、教授の吉田雄太(よしだ ゆうた)からのメールだった。メールには、私の実験において不十分だったところが詳しく指摘されていて、いくつかのデータは修正までされていた。そして、予測される実験結果に基づいたアドバイスが添えられていた。【君の研究は、他の免疫疾患の治療にも応用できるかもしれません。しかし君は、全身性エリテマトーデスの治療にこだわりすぎているようですね。十分に役立つデータを見過ごしていますよ】これを読んで、私はハッとした。そうだ、なんで私は全身性エリテマトーデスの研究にばかりこだわっていたんだろう?私の研究は、他の免疫系の病気の治療にだってきっと応用できたはずなのに。たかがクズ男一人のために、この研究に何年も自分の人生を捧げたなんて。そして結局、得られたのは裏切りだけ。本当に馬鹿みたい。先ほどの智也と凪の会話を思い出すと、ますます憎しみが込み上げてくる。これまでは、縁を切ることが彼への罰だと思ってた。しかし、今となっては、そんな罰はあまりにも軽いように思えた。あのクズみたいな二人には、自分たちがしたことのツケを払わせてやる。そう決意すると、私はすぐに雄太に返信した。彼の研究所に行きたい、と。雄太はとても喜んでくれた。面会の日程を調整して、迎えも用意してくれるらしい。翌日、私は上司に退職届を提出して、自分の研究室にある荷物をまとめ始めた。するとちょうどその時、凪が同僚たちと一緒に入ってきて、私の顔を見ると得意げに言った。「渡辺先輩、辞めるって本当ですか?まあ、そうですよね。3年も研究して成果ゼロじゃ、研究者に向いてないってことですもん。さっさと辞めて結婚して、子供を産んで専業主婦にでもなったらどうですか?頑張って智也先輩の後継ぎでも産めば、横山家の財産、もらえるかもしれませんよ」彼女のあざとい言い方に、私は鼻で笑った。「ごめんね。私は何とも思ってない男に子供を産んであげる趣味はないの。でも、あなたならできるんじゃない?だって昨日の夜、あと一歩だったんでしょ?」凪の顔色が変わった。昨夜、彼女が智也としていたことを私に知られたと悟って、途端に慌てだした。