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後輩に実験サンプルを台無しにされ、婚約者がブチギレた

後輩に実験サンプルを台無しにされ、婚約者がブチギレた

By:  ちょうどいいCompleted
Language: Japanese
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研究室に入ってきた後輩が、大事な実験用のサンプルをダメにしてしまった。 そのせいで私は論文の提出ができなくなり、留学のチャンスもなくなった。 3年間頑張ってきたのに、全部水の泡。もう何も残ってない。 腹が立って、警察を呼んでやろうかと思った。 なのに私の婚約者は、その後輩をかばって私を責めたんだ。 「たかが実験くらいで、そんなにいちいち気にするなよ」 私はうなずいて言った。 「ええ、そうね。あなたの全身性エリテマトーデスを治せるかもしれなかったサンプルってだけだもん。確かに気にすることじゃないわよね」 彼は、その場で凍りついた。

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Chapter 1

第1話

新人の後輩、遠藤凪(えんどう なぎ)が研究室の掃除を手伝ってくれた。しかし掃除の途中で、私、渡辺由理恵(わたなべ ゆりえ)の一番大事な実験サンプルを全部ゴミ箱に捨ててしまったのだ。

そのことを聞いて慌てて駆けつけたけれど、ゴミ箱の中はすでにぐちゃぐちゃになっていた。私のサンプルはどこにも見当たらなかった。

「私の――サンプルが!」

あまりのショックで、私はその場にへたり込んでしまった。震える手で必死にゴミ箱を漁ったけれど、何も見つからなかった。

あのサンプルは、3年近く研究して、ようやく手に入れたものだった。何日も徹夜して、数えきれないほど実験を重ねて、やっと形になったものだった。

それなのに、全部、台無しにされちゃった。サンプルのデータを残すことも、研究を発表することも、できなくなったのだ。

今はもう、ゴミ箱の中で、他のゴミと見分けがつかなくなってしまった。

凪は真っ青な顔でそばに立っていて、焦りとショックで涙目になっていた。

「ごめんなさい、渡辺先輩。研究室の掃除を手伝おうとしただけなんです。うっかり捨てたものが先輩の大事なサンプルだったなんて、知らなくて……」

彼女は目を真っ赤にして、しくしくと泣き出した。

知らなかった?

笑わせないで。

私のサンプルは、きちんと棚の一番奥に置かれてあって、棚の扉も閉まっていた。わざとじゃなきゃ、間違ってゴミ箱になんか捨てられるはずがない。

研究室の同僚たちも集まってきて、この状況を見てひそひそと話し始めた。

「凪ちゃんだって、掃除しようとしただけでしょ。まさかあれが渡辺の実験サンプルだなんて、わかるわけないじゃない」

「そうだよ。凪ちゃんって素直で良い子だもんね。怒ることじゃないって」

「凪ちゃんは本当に可哀想。親切で手伝ってあげたのに、こんなことになるなんてね」

……

みんな、この素直で可愛い後輩に同情していて、彼女を慰めている。

中には、私の方をじろりと見て、怒りをぶつける同僚もいた。

「あなたもそんなにカッとしないで。この子は善意でやってくれたんだからさ」

「そうよ。たかが実験じゃない?またやり直せばいいでしょ。凪ちゃんをいじめないであげて」

「先輩なんだから、あんまり後輩を怖がらせない方がいいんじゃない?」

凪が研究室で人気があるのは知っていたけれど、まさかこれほど好かれているとは思わなかった。

彼女は私の実験を台無しにしたっていうのに、周りのみんなは私に、「怒るようなことじゃない」と言ってくるなんて。

ちょうどその時、悲しそうに泣いていたはずの凪が、一瞬だけ、私の方を得意げに見た。

ほんの一瞬だったけれど、それを見て確信した。これは、事故なんかじゃない。

凪は、わざとやったんだ。

彼女は前から私を敵視していた。みんなの前ではいい子ぶっているけど、陰ではありとあらゆる手を使って私を蹴落とそうとしてきたのだ。

私の研究があと少しで成功すると知って、わざと邪魔してきたんだ。

そう思った瞬間、全身の血が逆流するような怒りがこみ上げた。今までの凪のくだらない嫌がらせは、面倒だから見て見ぬふりをしてきたけど、今回だけは許せない。

このサンプルは、私にとって本当に、本当にかけがえのないものなんだから。

私の命と同じくらい、大事なものなの。

私はまっすぐ凪のところへ行くと、彼女の胸ぐらを掴み、ゴミ箱にその顔を押し付けた。

「うっかり、だったわよね?

じゃあ教えてくれる?この研究室には、他にもたくさんサンプルがあったはずよね。なのに、どうして私のサンプルだけを、そんなに都合よく『うっかり』捨てられたのかしら?」
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第1話
新人の後輩、遠藤凪(えんどう なぎ)が研究室の掃除を手伝ってくれた。しかし掃除の途中で、私、渡辺由理恵(わたなべ ゆりえ)の一番大事な実験サンプルを全部ゴミ箱に捨ててしまったのだ。そのことを聞いて慌てて駆けつけたけれど、ゴミ箱の中はすでにぐちゃぐちゃになっていた。私のサンプルはどこにも見当たらなかった。「私の――サンプルが!」あまりのショックで、私はその場にへたり込んでしまった。震える手で必死にゴミ箱を漁ったけれど、何も見つからなかった。あのサンプルは、3年近く研究して、ようやく手に入れたものだった。何日も徹夜して、数えきれないほど実験を重ねて、やっと形になったものだった。それなのに、全部、台無しにされちゃった。サンプルのデータを残すことも、研究を発表することも、できなくなったのだ。今はもう、ゴミ箱の中で、他のゴミと見分けがつかなくなってしまった。凪は真っ青な顔でそばに立っていて、焦りとショックで涙目になっていた。「ごめんなさい、渡辺先輩。研究室の掃除を手伝おうとしただけなんです。うっかり捨てたものが先輩の大事なサンプルだったなんて、知らなくて……」彼女は目を真っ赤にして、しくしくと泣き出した。知らなかった?笑わせないで。私のサンプルは、きちんと棚の一番奥に置かれてあって、棚の扉も閉まっていた。わざとじゃなきゃ、間違ってゴミ箱になんか捨てられるはずがない。研究室の同僚たちも集まってきて、この状況を見てひそひそと話し始めた。「凪ちゃんだって、掃除しようとしただけでしょ。まさかあれが渡辺の実験サンプルだなんて、わかるわけないじゃない」「そうだよ。凪ちゃんって素直で良い子だもんね。怒ることじゃないって」「凪ちゃんは本当に可哀想。親切で手伝ってあげたのに、こんなことになるなんてね」……みんな、この素直で可愛い後輩に同情していて、彼女を慰めている。中には、私の方をじろりと見て、怒りをぶつける同僚もいた。「あなたもそんなにカッとしないで。この子は善意でやってくれたんだからさ」「そうよ。たかが実験じゃない?またやり直せばいいでしょ。凪ちゃんをいじめないであげて」「先輩なんだから、あんまり後輩を怖がらせない方がいいんじゃない?」凪が研究室で人気があるのは知っていたけれど、まさかこれほど好かれ
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第2話
私の行動に、周りの同僚たちは息を呑んだ。私が凪に掴みかかるなんて、誰も思っていなかったのだ。凪は最初、可哀そうに泣きじゃくっていた。しかし、私が彼女の顔をゴミ箱に捨てられたガラスの破片にそのまま押し付けようとした瞬間、ついに化けの皮が剥がれた。凪は金切り声をあげて、私を罵倒した。「気でも狂ったの?私の顔を傷つけるつもり?」私は彼女を突き飛ばして、冷たく笑いながら見下ろした。「あら、可哀そうなフリはもうおしまい?どうして泣き止んじゃったの?」凪は込み上げてくる憎しみをぐっと堪えた。そして再び顔を上げた時には、罪悪感に満ちた表情に変わっていた。「本当にごめんなさい……先輩の気が済むなら、どうぞ、この顔は好きにしてください。先輩が、私のこの顔をずっと嫌ってたことも知ってます。私が先輩より可愛いですから……だったら、もういっそ傷を付けてください」そう言うと、凪はガラスの破片を手に取り、自分の顔を傷つけようとした。周りにいた同僚たちが、それを黙って見ているはずがなかった。みんなすぐに駆け寄って、彼女を止めた。すると凪はさらに悲しそうに泣き崩れ、止めに入った男性の同僚の胸に倒れ込んだ。美人を腕に抱いたその同僚は、すっかり舞い上がってしまったようだ。彼は私に向かって、怒りをぶつけてきた。「渡辺、やりすぎだろ!凪ちゃんは、ただ間違ってお前のサンプルをこぼしちゃっただけじゃないか!それなのに、彼女にこんなことをさせるのか?実験が心配なんじゃなくて、本当は凪ちゃんがお前より可愛いからって、嫉妬してるだけなんじゃないのか?」彼の言葉で、周りのみんなが一斉に私に視線を向けた。その目には、軽蔑の色が浮かんでいた。凪は、得意げな顔を隠そうともしなかった。私は鼻で笑って、スマホを取り出した。「みんなが私のことを疑うなら、警察を呼んで、これが一体どういうことだったのかはっきりさせて。私の研究の価値は、上の方はご存じのはずよ。私のサンプルをわざと壊したら、どんな罪になるのか、ぜひ知りたいわ!」私はそう言って、電話をかけようとした。それを見た凪は、途端に慌てだした。周りの同僚たちも、「そこまでしなくても」と口々に私を責めた。「どうしてよ?研究を台無しにされたのは私なのよ。そのせいで論文が出せなくなるのも私なの!
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第3話
私はその場に、立ち尽くしてしまった。智也は、愛おしそうに凪を抱きしめた。それから、彼女の涙をそっと拭って、優しく声をかけた。「大丈夫だ。俺がいるから、誰もお前に手出しはさせないよ。由理恵、謝れ」智也は冷たい目で私を見た。何を言われたのかのを理解した瞬間、全身から血の気が引いた。凪は勝ち誇ったように、私のことを見ながらにやりと笑った。私は強く拳を握りしめた。彼の態度を、信じたくなかった。「いま――なんて?」「謝れって言ったんだ」智也の声は、イラついていた。「たかが実験ひとつで、そんなに騒ぐのか?この子だって、悪気があってやったわけじゃないんだ。お前は人の親切をなかったものにするつもりか?」彼の言葉は、鋭いナイフのように私の胸に突き刺さった。智也は、私がこの実験に全てを捧げてきたことを、誰よりも知ってるはずなのに。それにもかかわらず、彼はサンプルがなくなったことにまるで関心がないようだった。しかも、すべてを台無しにした凪の肩を持つなんて。以前にも、仕事で智也が凪を庇うことは何度もあった。そのたびに、私は彼と喧嘩になった。しかし、智也はいつも困った顔で弁明するだけだった。「凪はまだ若いからね。自分がミスばっかりしてた研修医だった頃を思い出して、つい気になっちゃうんだ」って。苦しい言い訳にしか聞こえないことは、心のどこかで想っていた。それでも、智也とは長年の付き合いだから、私は彼を信じる方を選んだ。しかし、この瞬間、彼を信じたことは間違っていたと、思い知らされた。もう、我慢の限界だった。私は駆け寄って、自分のスマホを取り返した。「どうして彼女がちょっと泣いただけで私が全てを許さなきゃならないの?あれは私の実験で、私の論文で……私の未来だったのに!警察を呼ぶ!絶対に許さないから!」私の言動に驚いたのか、他の上司たちが、落ち着くように私をなだめ始めた。「まあまあ、渡辺。君の実験が大事なのは、よくわかるよ。でも、一番大事なのは、人だろう?」「そうだよ。警察沙汰になったら、遠藤の将来はどうなる?そこまで考えてあげないと」「こうしよう。時間は多めにあげるから。もう一回、実験をやり直せばいいじゃないか?」冗談を言わないでほしい。たった一度の実験で成功するような簡単なものなら、あの病気
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第4話
私はすぐに、智也に別れを告げた。智也からもらったプレゼントはすべてそのまま残して、自分の荷物をまとめて同棲していた部屋を出た。とにかく一日でも早く、彼との縁を切りたかったのだ。しかし智也は、私がふざけているだけだと思っていた。しつこく連絡してきては、文句ばかり言ってくる。「ただの実験のひとつで、別れるなんて言い出すか、普通?プロポーズしようと思って、ダイヤモンドの指輪まで用意してたんだぞ。こんなことで騒いで、俺の気持ちをなんだと思ってるんだ?」その言葉を聞いて、私はつい可笑しくなった。私が台無しにされたあの実験が、智也の病気を治せる唯一の希望だったと知っても……それでも彼は、「ただの実験ひとつ」なんて言えるのだろうか。私は智也の連絡を全て無視した。論文の締め切りが迫ってきたのに、実験データがないから提出できない。当然、留学の話も白紙に戻るだろう。しかし、そんな途方に暮れている私に、国内の最先端の研究所から突然連絡が入った。私の実験にとても興味があるとのことだった。もし自分たちの研究所に来てくれるなら、今よりもっといい条件を約束するという、破格のオファーだった。この誘いに、私の心が動いた。だって、私が今の研究室に残ったのは、ほとんどが智也のためだったのだ。横山家がこの研究室に出資して、各地から教授たちを集めたのも、すべては彼の病気を治すためだった。私も、智也の病気を治すために少しでも力になりたかったけれど、もうその必要もなくなった。私はすぐに、詳しい話を聞くために面談を約束した。そして、これまでの実験データを整理するために、一度研究室に戻った。研究室のドアの前まで来ると、聞き覚えのある声がした。甘ったるい、凪の声だった。「智也先輩、私は渡辺先輩の実験を台無しにしちゃったけど、結果的には良いことしたかもしれません。この前、渡辺先輩が海外の研究所と電話してるの、聞いちゃったんです。実験は成功したから、もうすぐそっちに行きますって!結婚も考えてるはずなのに、留学なんて……きっと渡辺先輩は、病気のあなたが重荷になって、とっくに捨てるつもりだったんですよ!」智也の顔が険しくなった。凪の言葉を真に受けたようだ。凪はさらに続けた。「智也先輩、実験がなくなれば、渡辺先輩は留学できなくなりますよね。そし
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第5話
今すぐ押し入って、すべてをぶちまけてやりたい衝動に駆られたその時、スマホの画面が光った。連絡をくれたあの最先端の研究所を率いる、教授の吉田雄太(よしだ ゆうた)からのメールだった。メールには、私の実験において不十分だったところが詳しく指摘されていて、いくつかのデータは修正までされていた。そして、予測される実験結果に基づいたアドバイスが添えられていた。【君の研究は、他の免疫疾患の治療にも応用できるかもしれません。しかし君は、全身性エリテマトーデスの治療にこだわりすぎているようですね。十分に役立つデータを見過ごしていますよ】これを読んで、私はハッとした。そうだ、なんで私は全身性エリテマトーデスの研究にばかりこだわっていたんだろう?私の研究は、他の免疫系の病気の治療にだってきっと応用できたはずなのに。たかがクズ男一人のために、この研究に何年も自分の人生を捧げたなんて。そして結局、得られたのは裏切りだけ。本当に馬鹿みたい。先ほどの智也と凪の会話を思い出すと、ますます憎しみが込み上げてくる。これまでは、縁を切ることが彼への罰だと思ってた。しかし、今となっては、そんな罰はあまりにも軽いように思えた。あのクズみたいな二人には、自分たちがしたことのツケを払わせてやる。そう決意すると、私はすぐに雄太に返信した。彼の研究所に行きたい、と。雄太はとても喜んでくれた。面会の日程を調整して、迎えも用意してくれるらしい。翌日、私は上司に退職届を提出して、自分の研究室にある荷物をまとめ始めた。するとちょうどその時、凪が同僚たちと一緒に入ってきて、私の顔を見ると得意げに言った。「渡辺先輩、辞めるって本当ですか?まあ、そうですよね。3年も研究して成果ゼロじゃ、研究者に向いてないってことですもん。さっさと辞めて結婚して、子供を産んで専業主婦にでもなったらどうですか?頑張って智也先輩の後継ぎでも産めば、横山家の財産、もらえるかもしれませんよ」彼女のあざとい言い方に、私は鼻で笑った。「ごめんね。私は何とも思ってない男に子供を産んであげる趣味はないの。でも、あなたならできるんじゃない?だって昨日の夜、あと一歩だったんでしょ?」凪の顔色が変わった。昨夜、彼女が智也としていたことを私に知られたと悟って、途端に慌てだした。
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第6話
周囲の反応を見て、凪は真っ青な顔で、慌てて私の手からリモコンを奪い取って電源を切った。「これはデタラメですよ!この女が私を陥れるためにでっち上げたのです!」智也も、歯を食いしばって私を睨みつけた。「防犯カメラは、確かに止めたはずだ。なのに、どうして――」「ええ、私がまたつけたからよ」私は智也に近づき、彼の目をじっと見つめて、馬鹿にするように言った。「智也、浮気したなら、素直に認めたらどうなの?私と結婚するとか言いながら、外では他の女を口説いてるなんて。あなたの体で、二人も相手できるの?」その場にいた同僚たちは、私の言葉を聞いて、吹き出しそうになるのを堪えた。私が智也の男としての能力を馬鹿にしているのだと、みんな理解した。智也は顔を真っ赤にして、歯を食いしばった。「そうだ!俺は凪と浮気した!それに、彼女と結婚するつもりだ。それがどうした?お前はいつも俺を見下したような態度だった。そんなお前のために、どうして俺が他の女と寝るのを我慢しなくちゃいけないんだ?俺は重い病気で苦しんでるのに、お前の頭の中は研究のことばかり!本当に俺を心配したことなんて、一度もなかっただろ?それに、お前のくだらない研究が成功したところで、いくら稼げるって言うんだ?俺が適当に買った車のほうがいい値段だ!」そう言いながら、智也は凪を抱きしめ、わざと私に見せつけるようにキスをした。智也に二人の関係を認められた凪は、途端に勝ち誇ったような態度になった。「そうなんですよ!渡辺先輩、あなたは智也先輩のことを、ちっとも気にかけてあげませんでしたよね。それなのに、智也先輩が他の人を探しちゃいけないなんて、そんなの勝手すぎますよ!私は毎日、智也先輩とおしゃべりしたり、ご飯を作ってあげたりしていますよ。私の方が、あなたよりずっと智也先輩のこと考えてますから!あなたみたいに、目の前のことしか見えてない女は、振られて当然でしょう!」目の前にいる、お似合いの二人を見ていると、私がこの3年間でしてきたことが、全部ただの笑い話に思えてきた。私は冷たい目で智也を見つめた。「智也、私があなたにあげられるものは、この世の他の誰もがあげられないものだったのよ。あなたが台無しにしたあの研究が、あなたにとってどれほどの意味を持っていたか、知るはずも
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第7話
雄太はスライドを映し出すと、そこにいる全員の前で、私たちの研究所が最近行った様々な研究について説明を始めた。免疫システムの疾患に大きな進展があったと、雄太が説明した時、智也は明らかに動揺した。彼は興奮した面持ちで、雄太を食い入るように見つめた。雄太の発表が終わってすぐ、智也は駆け寄ってきて言った。「吉田先生、その免疫システムの研究を担当されたのはどなたでしたか?免疫システムの研究が進んだということは、つまり、全身性エリテマトーデスも――」「全身性エリテマトーデスの研究なら、半年も前に私が成功させていたよ」私は智也の言葉を遮って、はっきりと言い放った。智也は眉をひそめて、私を馬鹿にするように言った。「何を適当なこと言っている。半年前、お前は俺が出資した研究所にいただろ。それにお前の実験のサンプルは、もう――」彼はそこで、何かに気づいたように、言葉を止めて隣にいる凪を見た。凪もまた、慌てて説明し出した。「智也、だ、だまされないで。彼女は嘘をついているに決まってるわ!もし本当に実験が成功していたのなら、どうして誰にも言わなかったっていうの?」「データをまとめて、皆に伝える前に、あなたにメチャクチャにされたからよ」私は凪をじっと見つめてから、智也に視線を移した。「智也、あなたも医者なら、さっきの吉田先生の話が理解できたはず。もし私が半年前に行ったあの実験の初期のデータがなければ、今回の研究は成功していなかった。あの時、私は他の研究テーマを持たなかった。あなたの病気を治すことだけを考えていたの。何千回、何万回と実験を繰り返して、成功したのはたったの一度だけ。でも、その一度の成功で手に入ったサンプルさえ残っていれば、あなたを治すことは不可能じゃなかったのに。でも残念ね。あなたの大事な可愛い後輩が、あなたが完治できるたった一つのチャンスを潰してしまったのよ」「ありえない!嘘だ!」智也は目を真っ赤にして、息も荒くなった。明らかにこの事実を受け入れられないようだった。そばにいた凪もすっかり焦り出し、さっきまでの得意げな態度が消えて、智也にすがりついた。「智也、彼女のデタラメを信じないで、絶対に嘘よ――」パシッ!激怒している智也は、凪の頬を強く打ち、怒りに満ちた目で彼女を睨みつけた。
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第8話
私たちの研究発表が、満場一致で認められた。研究所のみんなでお祝いをすることになって、雄太の息子である吉田大輔(よしだ だいすけ)も来てくれた。大輔は高級車に乗って店に辿りつくと、私たちの会計をしながら呆れた顔で言った。「父さん、研究所の費用を俺が全部出してるのはまあいいよ。でも、なんで研究室のみんなの食事代まで、俺が払わなきゃいけないんだ?」雄太はお茶目な人で、大輔の言葉を聞いてにこにこと笑った。「まあまあ、そんな細かいこと言うなよ、大輔、ただで払わせるわけじゃないんだから」「じゃあ、借用書でも書く?」「君に、彼女を紹介してやるのはどうだ?」借用書を書きたくない雄太は、くるっと向きを変えると、いきなり私の背中を押して、自信満々に言った。「渡辺はうちの研究所で一番美人で、将来有望な子なんだぞ。君に紹介してやるんだから、文句ないだろう?」大輔は、その綺麗な目を少し細めると、私の顔をじっと見つめて、口の端を上げた。「へえ。儲け話だな」私はわけがわからないまま、借金のカタにされてしまった。本当なら文句の一つでも言いたかったけど、今日は嬉しいことがいっぱいあったから、まあいいかと思った。それで、大輔に家まで送ってもらうことにした。しかし、家の前に着いたら、智也がいた。まるで気がおかしくなったみたいにドアの前で座り込んでいて、周りにはお酒の空き瓶やタバコの吸い殻が散らかっていた。すごく、不気味な光景だった。智也は私に気づくと、ゆっくり立ち上がって近づいてきた。「由理恵……俺が悪かった。あんなふうにお前を陥れて……凪にお前の研究をめちゃくちゃにさせるなんて、間違ってた……お前のことが愛おしすぎて、失うのが怖かったんだ。お前が海外に行ったら、俺と別れるんじゃないかって……本当に、俺が悪かった……」彼は充血した目で、私をじっと見つめた。「なあ、やり直そう?お前もまだ、俺のこと好きなんだろ!防犯カメラを見たんだ。実験が成功した時、お前は研究室で嬉しくて泣いてたんだろ。その後すぐに海外の研究所に電話していたのは、実験結果の可能性について確認していたのも分かった。全てが、俺の病気のためだったなんて……」その通りだ。凪は、私は研究の成功を海外の研究所に報告して留学をするのだと智也に言った。でも本当は、
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第9話
あらあら、いつの間に私に彼氏ができたのかしら。でも、まあいいか。大輔がいてくれれば、智也も私に付き纏いにくくなるだろうし。私は研究を続け、雄太のもとで、より専門的な分野に取り組むようになっていった。その間、智也は何度も私に会いに来た。最初は復縁を迫ってきたけど、最後には、私の研究成果を金で買おうとした。でも、その行為は雄太に叱られて、追い返された。雄太にとって研究は、病気で苦しむすべての患者のためのもので、お金儲けの道具じゃなかった。彼とのことはこれで終わりだと思っていた。しかしある日、仕事の帰り道で、突然一台の車が私に向かって突っ込んできたのだ。一瞬、何が起きたのかわからなかった。でも、運転していたのが凪だとすぐに気づいた。彼女は狂ったように、私に向かって叫んでいた。「あなたのせいで、私は横山家から追い出されて!赤ちゃんを失って!すべてを無くしたのよ!智也があんなに私を憎むようになったのも、全部あなたのせい!あなたさえいなければ――」もう間に合わないと思った瞬間、大輔が現れて、私を突き飛ばした。彼は腕を骨折したけれど、庇われた私の方はかすり傷一つなかった。そして、凪は殺人未遂の容疑で、その場で逮捕された。その時、私は初めて知った。智也は、昔の私の実験が本当に成功していたと知って、その悔しさと憎しみをすべて凪にぶつけていたことを。智也は、自分が治るたった一つのチャンスを凪に潰されたことを憎んで、彼女をひどく痛めつけたんだ。暴力を振るって罵り、横山家から追い出した。それどころか、男たちに好き放題にさせるような、最低な場所に売り飛ばしたらしい。それで凪は精神的におかしくなってしまって、私を車でひき殺そうとしたのだった。大輔はすぐに手を回して、凪が二度と刑務所から出られないようにした。そして、この一件で彼は智也をもっと嫌うようになって、横山家を潰すために動き出した。横山家はここ数年、ほとんどの財産を全身性エリテマトーデスの研究につぎ込んでいたから、家業の方がおろそかになっていた。昔のような勢いは、とっくに失っていたんだ。だから、大輔が動き出すと、あっという間に横山家が乗っ取られてしまった。そして、ちょうどその時、智也の病気が再び重くなり、命が危ない状態になった。
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第10話
何度か手術をしたものの、智也の容態は日に日に悪化していった。彼は私に会いたがって、何度か電話をかけてきたけれど、私は出なかった。ついに智也の母親まで訪ねてきて、泣きながら私にお願いしたから、私はやっと彼の病室へ向かった。ベッドに横たわる智也は、以前より随分やつれているように見えた。それでも、私を見た瞬間、彼の目にぱっと光が差した。「由理恵、お前が助けに来てくれるって、信じてた。一度あの実験を成功させたんだ。だから、もう一度できるよな……俺はまだ、助かるんだよな……」智也の目をまっすぐ見て、本当は言いたくなかったけど、私は事実を告げた。「もう二度と成功しないわ。智也、あなたと離れた後にも、私はあの実験を何度も試したわ。でも、一度だって成功しなかった。何万回と繰り返したのに、成功したのは本当にあの時だけ。どうしてなのかは、私にも分からないの。後から思ったの。きっと、あの頃の私があなたを愛する気持ちが、神様に届いたんだって。だから神様が力を貸してくれて、あの一度だけ、成功させてくれたのよ。でも残念ね。あなたは私の愛にふさわしくなかった。それに、情け深い神様に、見捨てられても仕方ない人だったわ」そう言い放つと、智也の目から光が消えていくのが見えた。彼は途方に暮れて、絶望しているようだった。智也が亡くなったのは、それから3日後のことだった。そのとき私は、海外研修へ向かうため、空港にいた。大輔も一緒について来ると言って、自分の分の航空券まで購入した。私が甘えん坊だねと笑うと、彼は真面目に言った。「せっかくできた彼女なんだからさ。ちゃんとそばにいないと、どっかに行っちゃうだろ」私はふふっと笑った。ある言葉を、ふと思い出した。運命じゃない人は、あなたの未来を壊してしまう。でも、運命の人は、あなたの未来の先で、あなたを待っていてくれる。(終わり)
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