そこでようやく理性を取り戻した凪杜は、乱れたスーツを整え、床で泣いている野々花を冷ややかに見下ろした。「昨日払った治療費は、物乞いに恵んだ金だと思うことにする。今後、この女がどうなろうと俺には関係ない。二度と連絡してくるな。これからの治療費は、本人にどうにかさせろ」そう言い捨てると、背を向けて立ち去った。足早に病室を出て、人のいない一角まで来たところで、抑えきれない悲しみが込み上げ、声を上げて泣きそうになった。かつて、妻も愛人も両方手放さずにいられるなどという、都合のいい夢を見ていた自分を思い出し、凪杜は自らの頬を激しく叩いた。震える手で煙草を取り出し、立て続けに3本吸って、ようやく気持ちを落ち着かせた。病院を出ようとしたとき、少し離れた場所から見覚えのある二人が歩いてくるのが見えた。――景と絃葉だ。凪杜の頭の中で大きな音が鳴り響いた。足を止め、後ろめたさから慌てて物陰へ身を隠す。景は絃葉の腰に腕を回し、凪杜のすぐそばを通り過ぎた。二人は小声で話しており、彼の存在にはまったく気づいていない。絃葉は病院へ来たがらなかった。しかし景が、どうしても付き添って再検査を受けさせると言って譲らなかったのだ。前回の事件で使われた特殊な香料が、彼女の体に悪影響を及ぼしていないか、今も心配していた。二人は医師から渡された検査票を手に、寄り添いながら採血室へ向かっていた。凪杜の視線は、無意識に二人の背中を追っていた。足まで勝手に動き、そのあとをついていく。彼は廊下の柱の陰に身を隠し、遠くから二人の様子を見つめた。商業界で圧倒的な力を振るう景が、その場にかがみ込み、絃葉のほどけた靴ひもを丁寧に結び直している。絃葉は袖をまくると、無意識に眉をひそめた。景はすぐに、採血を担当する看護師へ静かに頼んだ。「できるだけ痛くないようにお願いします。妻は痛みに弱いものですから」若い女性看護師は顔を上げると、何か言いかけたまま動きを止めた。景の整った顔を目にし、思わず胸元に手を当てて口走る。「まあ......!こんなに素敵で優しい旦那さま、いったいどこで見つけたんですか?」緊張していた絃葉は、その率直な言葉に思わず笑った。顔を上げて景を見ると、ちょうどこちらへ向けられた眼差しと重なる。深い瞳には、
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