湊はすぐに手を振った。「俺はパス。二十代の目立ちたがりがやるようなことは御免だ」景はその場に立ったまま、何も言わなかった。ただ正真と湊に、それぞれ鋭い視線を向ける。凄まじい圧力に気圧され、二人は反射的に立ち上がった。――深夜11時。絃葉は悠の家にいた。二人は店からテイクアウトした夜食と缶ビールをテーブルに並べ、向かい合って話をしていた。そのとき、静まり返ったマンションの中庭から、突然、穏やかな音楽が聞こえてきた。悠は眉をひそめた。「どこの若者よ。こんな夜中に下でギターを弾くなんて、近所迷惑にもほどがあるわ。プロポーズなら、もっと早い時間にすればいいのに。ちょっと見てくる」彼女は窓辺へ歩み寄り、下をのぞき込んだ。薄暗い街灯の下に、スーツ姿の男が三人立っていた。中央の男はギターを抱え、すらりと背筋を伸ばしている。――景だった。悠は驚きのあまり舌を噛みそうになり、振り返って絃葉にどもりながら言った。「絃葉、ちょ、ちょっと来て......下でギターを弾いてる人、景みたいなんだけど......」絃葉はビールを持ったまま動きを止めた。だが立ち上がろうとはせず、淡々と答えた。「見間違いじゃない?景がそんなことをするはずないわ」悠は焦って何度も足を踏み鳴らした。「本当だってば!湊と正真まで隣でリズムを取ってるのよ!」そこでようやく絃葉も、半信半疑のまま窓辺へ歩いていった。景は中庭の中央に立ち、長くしなやかな指でギターの弦を優しくつま弾いていた。その後ろには湊と正真が立ち、スマホのライトで彼を照らしている。二人の顔には、無理やり付き合わされているという諦めがありありと浮かんでいた。景は顔を上げ、絃葉がいる部屋を迷うことなく見つけた。軽く喉を整えると、低い声で歌い始めた。低く響きのある歌声は、静かな夜の中でひときわ心を揺さぶった。最初は面白がっていた悠も、次第に笑みを消し、無意識に口元を手で覆った。景は一度も絃葉から目をそらさず、歌い続けた。絃葉は呆然とその場に立ち、ぎこちなくも真摯な彼の姿を見つめていた。商業界で絶大な力を振るうあの男が、今はまるで恋を覚えたばかりの少年のように、深夜の中庭で彼女のためにラブソングを歌っている。歌の途中、隣の窓から突然
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