All Chapters of 元夫の目は節穴?名門令嬢が電撃再婚!: Chapter 401 - Chapter 410

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第401話

二人の想いは通じ合っている。だから、これ以上の説明はかえって野暮に思えた。前の恋愛で味わった疲労や憔悴、どれだけ尽くしても報われない虚しさ――今の彼との関係には、そのどれもが存在しない。景は、どこまでも揺るぎなく、ひたむきに彼女を選び続けてくれる。まっすぐに愛し、いつも心にかけ、何もかも信じてくれていた。かつてあらゆる信頼が崩れ去る経験をした彼女だからこそ、その信頼がどれほど尊いものなのか、誰よりもよく分かっている。絃葉はそっと彼の首元に顔を埋め、思わず小さくつぶやいた。「私、前世で世界でも救ったのかな。じゃなきゃ、景みたいに素敵な人と出会えるはずないもの」景は唇に笑みを浮かべた。「これだけで満足したのか?」絃葉は驚いて顔を上げた。「え?だってこれでもう十分すぎるほど......景にとって本当に素敵って、どんなもの?」景は彼女の手を優しく握り、微笑んだ。「まだまだ足りない。俺は言葉にするのが得意じゃないが、これから先の人生で、俺にとっての『本当に大切にする』がどういうものなのか、君に分からせてみせるよ」絃葉の胸に、温かなものがじんわりと広がった。その瞬間、心に張りついていた氷が、景によってまた少し溶かされたような気がした。――同じ頃。優奈が玄関のドアを開けると、父親の楠原栄一(くすはら えいいち)が険しい顔でソファに座っていた。リビングを満たす重苦しい空気に、彼女は思わず身をすくめた。おそるおそる歩み寄り、軽く頭を下げる。「お父様、こんな遅くまでどうなさったのですか?」栄一は顔を上げ、氷のように冷たい視線を浴びせた。「そこに正座しろ!」優奈は反射的にその場に正座した。「え......何があったのですか?」「よくもそんなことが聞けるな!」栄一は怒りに任せて彼女を指さした。「築山景と結婚できると豪語していたくせに、向こうからはまるで相手にされていない!バッテリーを必ず開発してみせると大見得を切っておきながら、20億円をつぎ込んでも何の成果も出せなかった。それに比べてあの西尾祐一郎の孫娘はどうだ。東地域の統括社長に就任して早々、一度の充電で1200キロ走行できる画期的な技術を発表した!優奈、お前は高校時代から何一つ彼女に勝てなかった。成績だって、いつも彼女の下だった。今
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第402話

電話の向こうから、甲高い女の声が聞こえてきた。「あのエロ親父なら、もうすっかり私に夢中よ。明日は築山家に乗り込んで大騒ぎしてやる。お高くとまった奥さんを、死ぬほど不快な気分にさせてやるわ!」優奈はわずかに口角を上げた。「ええ。絃葉が普段しているような服装を選んで、メイクも彼女に似せることを忘れないで。静代さんが今後、少しでも似た顔を見るたび、吐き気がして食事も喉を通らなくなるようにね」「あの恩知らずの絃葉め。早死にした母親がいなくなってから、叔母の私のことなんて連絡一つ寄越しもしなかった。安心して。きちんとお金さえ払ってくれるなら、この年でどれだけ恥をさらすことになっても、あの女の前で思いきり騒ぎ立ててやるわ!」「ええ。うまくいけば、お金はいくらでも払うわ」電話を切ると、優奈の顔に陰険な笑みが浮かんだ。冷たい床の上に正座させられ、膝には鋭い痛みが走っていた。だが、復讐を思い描く快感に比べれば、そんな痛みなど取るに足りないものだった。絃葉によく似たあの女が築山家で泣き喚き、なりふり構わず暴れ回り、いつも気位の高い静代が怒りで顔を真っ青にし、全身を震わせる姿が目に浮かぶようだった。そのうえ、今後静代が絃葉の顔を見るたび、反射的に生理的な嫌悪を覚えるようになる光景まで想像できた。「西尾絃葉......」優奈は誰もいない空間に向かって、毒々しい声でつぶやいた。「その顔で、築山家に嫁ぐなんて、一生叶わないと思いなさい!」――薬の作用が完全に抜けると、絃葉は退院した。景は、気分転換に川沿いを散歩しようと提案した。海城の川岸は美しく、両岸には高層ビルが立ち並んでいた。初春の冷たさを含んだ風が川面からゆるやかに吹き寄せ、柔らかな日差しが二人の肩に降り注いでいる。景は彼女のショールがずれないよう丁寧に整えると、その手を取り、川沿いを歩き始めた。二人がこうしてのんびりと手をつないで散歩するのは、これが初めてだった。景にとって、手をつなぐことは、いつだって最もまっすぐで、最もロマンチックな愛情表現だった。彼は時折、傍らで穏やかに微笑む絃葉へ視線を落とした。この時間が永遠に続けばいいのにと、心から思った。絃葉が顔を上げると、ちょうど彼の愛情に満ちた眼差しとぶつかった。「どうしたの?」彼は柔らかく
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第403話

部屋に入るなり、景はまっすぐバスルームへ向かった。絃葉は新しく買ったドッグフードを取り出し、ペコとポコに食べさせた。その後、テラスでパソコンを開き、経済ニュースや株式市場の動きを確認した。昨夜の凪杜との一件が表沙汰になり、自分の評判に傷がつくのではないかと、ずっと心配していたのだ。ところが、ネット上にはその痕跡すら見当たらなかった。それどころか、昨日の年次総会で彼女が発表したバッテリー技術の飛躍的な進展が、主要ニュースサイトのトップを飾っていた。絃葉はほっと胸を撫で下ろした。幸い、凪杜との騒動で計画が狂うことはなかった。今回の年次総会を利用して、当初の目的を果たすことができたのだ。これは、祖父に提出する最初の成果報告でもあった。――絃葉はパソコンを閉じ、寝室へ戻った。ちょうどシャワーを終えた景が、腰にバスタオルを巻いただけの姿で出てきた。髪の先から滴る雫が、くっきりとした顎のラインを伝い、逞しい胸元を滑り落ちて、腰にゆるく巻かれたバスタオルの中へ消えていく。彼は濡れた髪を無造作に拭いていた。室内の明かりが、その体を柔らかな光で包んでいる。絃葉が顔を上げると、こちらを見つめる彼と目が合った。湯気の向こうに見える深い瞳は、いつにも増して優しかった。彼が近づくにつれ、シャワーを浴びたあとの清潔な香りに、彼特有のシダーウッドの香りが混じって漂ってくる。「何を見てる?」低く響く声には、笑みがにじんでいた。絃葉はそこで初めて、自分が見とれていたことに気づいた。頬が熱くなり、慌てて目をそらす。だが景は指先で彼女の顎をそっと持ち上げ、身をかがめると、その唇に口づけた。不意を突かれた絃葉は、そのまま壁際へ追い込まれた。彼のキスは優しく、甘く絡みつくようだった。舌先と唇が触れ合うたび、慈しむような想いが伝わってくる。絃葉の胸は大きく高鳴り、無意識に彼の腰へ腕を回した。彼女が応えるのを感じると、景の瞳に熱が宿った。片腕で細い腰を抱き寄せ、熱を帯びた頬から唇へと口づけを滑らせる。さらに首筋を甘く噛み、最後には柔らかな耳たぶをそっと唇で包んだ。絃葉は全身から力が抜け、熱に溶かされた飴のようになってしまった。景は彼女を抱き上げ、優しくベッドへ横たえた。その上に覆いかぶさり、二人の熱が
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第404話

時刻はすでに深夜近く、運転手はとっくに仕事を終えて休んでいた。景は自らハンドルを握り、ずっと時速30キロほどに抑えて車を走らせた。普段なら20分で着く道のりを40分近くかけ、ようやく邸宅の前に車を停めた。昼間は壮麗な佇まいを見せる邸宅も、深夜の闇に沈むと、息が詰まるほど不気味な古城のように見えた。ここへ足を踏み入れるたび、彼の気持ちはひどく重くなる。来たくはない。だが、来ないわけにはいかない――築山家の長男である以上、それは彼の責任であり、同時に彼を縛る枷でもあった。景は車内で静かに一本の煙草を吸い終えると、吸い殻をもみ消し、ドアを開けて車を降りた。リビングの空気は、重く張り詰めていた。静代は本革ソファに背筋を伸ばして座り、爪を肘掛けに深く食い込ませている。景がリビングに一歩足を踏み入れた途端、高価な磁器のティーカップが正面から飛んできて、頬すれすれをかすめていった。「弟たちはとっくに来ているのに、一番近くに住んでいるあなたが最後だなんて!本当にお父さんとそっくりね!」彼には靴を履き替える暇さえなかった。景は顔を上げ、静代に冷たい視線を向けた。「落ち着け。用件があるなら話してくれ」静代は髪を振り乱したままソファに座り、ぞっとするような笑い声を漏らした。「落ち着けですって?景、お父さんが外で囲っている女を、自分の目でよく見なさい!やっぱり親子ね。女を見る目まで、そっくりなんだから」景はその場で硬直した。――まただ。幼い頃からずっと、父親が犯した過ちも、この家で起きた些細な揉め事も、最後にはなぜかすべて彼へと結びつけられ、彼自身の罪として責められてきた。今も双子の弟である築山洸(つきやま こう)と築山彰(つきやま しょう)が、母親を挟むように左右に座っている。一人が頃合いを見て水を差し出し、もう一人が優しく背中をさすっていた。彼らの立ち位置は昔から変わらない。いつも母親の一番近くに寄り添い、まるで非の打ちどころのない二人の守護者のように、母親と共に景を敵視していた。よく似た三つの顔を目の前にすると、景は息が詰まりそうになった。一方の彼は、いつだって暗がりに一人立ち、裁きを待つ部外者のようだった。彼は黙ってローテーブルの上に置かれた写真を手に取った。そこに写る女の横顔を見た
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第405話

「もうこんなに大きいんだから、少しは聞き分けよくできないの?弟たちが熱を出しているのに、ケーキなんて食べている場合じゃないでしょう?」この家では、彼の存在そのものが罪であるかのようだった。双子の弟たちが生まれる前、両親は彼の目の前で何度も言い争い、そのたびに彼を厄介者のように押しつけ合っていた。父親は若い頃から女遊びが激しく、女性関係の噂が絶えなかった。景が5歳のとき、静代は夫を脅すため、彼を抱いたままベランダに立ち、ここから投げ落とすと言い出したことさえある。あれほど激しく泣いたのは、あのときが初めてだった。彼は声が枯れるほど「お母さん」と叫び続けた。だが、静代が彼に向ける目には、激しい憎しみしかなかった。それ以来、彼は一滴の涙も流さなくなった。......景は深く息を吸い、記憶の泥沼から無理やり意識を引き戻した。今だってそうだ。悪いのは明らかに父親なのに、彼女は頑なに絃葉を諦めろと迫ってくる。その理由は、あまりにも理不尽で笑うしかなかった。あの女が、絃葉とは一度も会ったことのない叔母だから。そして、二人の顔が似ているから。「話はそれだけか?」景は静代を冷ややかに見つめた。その口調は、まるで赤の他人に向けるかのように淡々としていた。洸は景をちらりと見て、皮肉をにじませた口調で言った。「母さん、兄さんに腹を立てても仕方ないよ。今は一族の事業も全部兄さんが握ってるんだ。父さんだって、兄さんの意向は無視できないだろうから」「母さん、まずは落ち着いて。兄さんの考えも聞いてみよう」彰も静代の袖を軽く引き、穏やかな声でなだめた。静代はそこでようやく少し冷静さを取り戻し、乱れた髪を無意識に整えた。景が低い声で口を開いた。「そっちの話が終わったのなら、今度は俺の話を聞いてくれ。まず、別々の問題を混同するな。今の問題は、父さんにほかの女がいるということだろう?」景の放つ圧に気圧され、静代は呆然と彼を見上げた。やがて涙に声を詰まらせながら答える。「そうよ。今日、その女がわざわざ家まで押しかけてきたの。お父さんを愛している、一緒になりたいから私に身を引けって......私は......」景は彼女の訴えを遮った。「父さんは今どこにいる?」代わりに彰が答えた。「書斎だよ。さっき母さん
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第406話

景は冷たい表情で言い終えると、呆然とする潤一を残し、書斎を出た。廊下では、静代が二人の息子を連れて静かに立っていた。彼が出てくると、三人は無意識に道を空け、その眼差しには畏れがにじんでいる。景が通り過ぎようとしたとき、洸が気まずそうに声をかけた。「兄さん、俺の車、もう古くなったから買い替えたいんだけど......」「いくらだ?」景は足を止めなかった。洸は慌てて指を広げた。「新型でも1億円あれば足りる!」景はわずかに眉をひそめた。「明日振り込ませる。ただし、今後3年間は車を買い替えたいなどと言うな」それを見た彰も、すかさず口を挟んだ。「兄さん、僕はプライベートクリニックを開こうと思ってる。予定では2億円くらい必要で......」「まずは詳細な事業計画書を作って見せろ」景は淡々と言った。「机上の空論では話にならない」そこで足を止め、横目で静代を見た。「母さんは?」静代は拳を強く握り、深く息を吸った。「あの女を二度と私の前に現れないようにしてちょうだい!」「わかった。俺が処理する」景はわずかに目を細めた。「母さんはもう気にしなくていい」静代の表情は少し和らいだが、すぐに冷たい声で続けた。「あの女に似た顔の人間は、誰であろうと見たくないの。だからあなたが絃葉とどんな関係であっても、絶対に――」景の目つきが鋭くなり、声も一気に冷え込んだ。「言ったはずだ。俺のことに口を出すな、と」彼は踵を返そうとしたが、静代に腕をつかまれた。彼女は涙に声を詰まらせた。「景、母さんは口出ししたいわけじゃないの......優奈ちゃんのほうがあの絃葉よりずっとふさわしいのよ。お願いだから、母さんの言うことを――」景は表情一つ変えず、彼女の手から腕を引き抜いた。「自分のことは自分で判断する。このことより、ほかのことを心配したほうがいい」そう言い残すと、彼は一度も振り返らずに外へ向かった。この家には、一秒たりとも長くいたくなかった。息の詰まるような、けれど完全には逃れられない牢獄から、一刻も早く離れたかった。運転席に座ってドアを閉め、家の中の騒ぎをすべて外へ隔てたところで、張り詰めていた神経がようやく緩み、心にも静けさが戻ってきた。そのとき、スマホの画面が明るくなり
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第407話

「いえいえ。いつも景に優しくしてもらうばかりじゃ、だめだからね」絃葉は穏やかに微笑んだ。「気持ちは一方通行じゃないもの。景が大切にしてくれるなら、私もそれに応えたい」景の胸に熱いものがこみ上げた。彼女の手首をつかんで軽く引き寄せ、そのまま腕の中に抱き込む。「絃葉......」彼は目を伏せて彼女を見つめた。その瞳には、隠しきれないほど深い愛情が満ちていた。「君といると、ますます思うんだ。君と一生を共にできたら、本当に幸せだろうなって」絃葉は手を伸ばし、わずかに寄った彼の眉間を指先で優しくなぞると、頬にそっと口づけた。「さっき帰ってきたとき、明らかに元気がなかったよね。あのね......私にだって、悩みを話してくれていいのよ」景のまつげがかすかに震えた。一族をめぐる面倒事は、これまでずっと一人で背負うのが当たり前だった。誰かに打ち明けたことなど一度もない。けれど今、絃葉の優しい言葉を聞いて、初めて胸の内を語りたいという衝動が湧き上がった。それでも、口元まで出かかった言葉をのみ込む。自分の家庭が抱える重荷を、今から彼女に背負わせたくはなかった。「大したことじゃない。一族内のちょっとした揉め事だ」景は軽く受け流した。その口調には、わざと何でもないことのように装う響きがあった。絃葉は、彼が話を避けていることにすぐ気づいた。だが、気遣うようにそれ以上は追及せず、頬をそっと彼の胸に寄せた。「分かった。じゃあ、話したくなったら、いつでも聞くから」その瞬間、景はふと理解した。本当の家とは、あの冷え切った豪邸のことではない。今、自分を包んでくれている、この温かな抱擁こそが本当の居場所なのだ。彼は腕に力を込め、胸の中にいる絃葉をさらに強く抱き締めた。「こういうのって、いいな」「どういうの?」絃葉が小さな声で尋ねる。景は顔を伏せ、彼女の唇に優しく口づけた。「互いの心の中に、互いがいるっていう感覚だ」絃葉は耳まで赤くし、恥ずかしそうに顔をそむけた。「ちょっと、いきなり変なこと言わないでよ」景が低い声で言った。「......まだ足りなかったらどうする?」絃葉はすぐには意味が分からず、きょとんとした。「え?まだ足りないの?じゃあ、もう少し作ってくるよ」立ち上がろうと
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第408話

絃葉は尻尾を踏まれた猫のように驚き、勢いよく上体を起こした。「だめ」きっぱりと拒まれた景は、仕方なくベッドサイドから前回の残りを取り出した。「分かった、ちゃんとつける。ただし、今夜はこれを全部使い切るからな」絃葉はちらりと目をやり、心の中で数を数えると、まつげをかすかに震わせた。「え......一晩で7回もするつもり?」景はゆっくりとパジャマのボタンを外しながら、真剣な顔で答えた。「自分の夫の体力を疑うな」絃葉は彼の襟元に腕を絡め、柔らかな声で言った。「ただ、景の腰腰を痛めないか心配で......」景はそのまま身をかがめ、彼女の鎖骨に口づけた。温かな吐息が耳元をかすめる。「毎日鍛えているんだ。心配はいらない」絃葉は頬を赤らめ、素直に目を閉じた。「じゃあ......試してみる......?」細やかな口づけが次々と降り注ぎ、絃葉の肌に震えが走った。景と一緒になってから、いつしか彼とのこうした触れ合いを、少しずつ求めるようになっている自分に気づいた。ほどよく甘く絡み合うひとときは、曖昧な境界線を探り合っているかのようだった。彼は彼女の唇を優しく含み、舌先を歯の間へと滑り込ませる。絃葉は彼の肩を押し、その勢いのまま柔らかなベッドの上で体勢を入れ替えた。二人は互いを求めながら何度も重なり合った。景の動きは時に激しく、時に優しく、まるで骨の髄にまでその存在を刻みつけようとしているかのようだった。夜が明けるまで愛し合ったあとも、彼は名残惜しそうに彼女を腕の中に抱き、いつまでも離そうとしなかった。温かな手のひらを彼女の胸元に添えたまま、景がふいに低い声で尋ねた。「絃葉、母方の親族とは連絡を取っているのか?」絃葉はすでに眠気で意識がぼんやりしていた。「取ってないけど......どうして?」それを聞いた景は事情を察し、優しく言った。「何でもない。もう寝よう」――翌朝、絃葉は早くから細谷グループへ出社した。新型の全固体電池技術を発表して以来、業務提携の相談に訪れる取引先が後を絶たない。午前中は予定がびっしりと詰まり、水をひと口飲む時間すら惜しいほどだった。一方、景は海外とのオンライン会議を終えると、佳樹に命じ、父親と関係を持っている女――諸井蓮美(もろい はすみ)を
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第409話

景は率直に言った。「彼女は俺の婚約者です」蓮美の笑顔がたちまち気まずそうにこわばった。「あの子ったら、母親が亡くなってから、一度も私に連絡してこなかったのよ。小さい頃、あんなに可愛がってあげたのに」景は無表情のまま答えた。「絃葉は薄情な人間ではありません。連絡を取らなかったのには、それなりの理由があるはずです。いずれにせよ、彼女はあなたの実の姪です。俺たちは名目上、身内になる」蓮美の目に、驚きと喜びが浮かんだ。「そうよね。もし私とあなたのお父さんが――」景は再び彼女の言葉を遮った。「俺が話したいのも、そのことです。今後、親戚になるというのに、あなたと父が曖昧な関係を続ければ、絃葉が肩身の狭い思いをすることになるでしょう」蓮美の顔が強張った。「あの子は確かに私の姪だけど、もう何年も連絡を取っていないし、それに――」景は諭すように言った。「絃葉の母親はあなたより3歳年上で、幼い頃からずっとあなたを大切にしてきた。たとえ絃葉に情がなくても、実の姉に免じて、彼女を困らせるようなことはしないでください。絃葉は、亡くなったお姉さんがこの世に残した、たった一人の娘なのですよ」蓮美は言葉を失い、その目に迷いを浮かべた。「それはそうだけど......でも、私とあなたのお父さんは本当に惹かれ合っていて――」「だが、父は妻のいる身です!」景が冷たく一喝した。「あなたの息子は今も海外へ留学している。このことを知ったら、どんな顔をすればいいんです?それともあなたは、自分の欲望のために、二人の若者の幸せを壊すつもりですか?」蓮美はすっかり動揺し、何も言い返せなくなった。景は一枚のキャッシュカードを取り出し、彼女の前に差し出した。「この口座には1000万円入っています。息子さんの留学費用には十分でしょう。俺の忠告を聞き入れ、二人の若者の立場を守ってくれるなら、息子さんが留学を終えて帰国したあと、仕事の面でも必ず力になります」蓮美の目が輝いた。「それは本当なの?景くん、私を責めないどころか、息子のことまで助けてくれるの?」景は淡々と彼女を見た。「ただし、条件があります。まず、俺の家へ行って母に謝罪し、あなたと父はただの友人にすぎないと説明すること。そして今後は父と距離を置くこと。二つ目。誰にそそ
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第410話

景は前置きもなく、氷のように冷たい声で切り出した。「あなたについて調べた限り、何の理由もなく父に目をつけるとは思えません。誰に頼まれたんです?」蓮美はうやうやしく頭を下げた。「正直にお話しします。3か月前、楠原家の次女である優奈が私のところへ来て、自分の計画どおりに動くよう頼んできたんです」彼女は後ろめたそうに額へ落ちた髪をかき上げ、次第に声を小さくした。「......私は、わざとあなたのご家庭を壊そうとしたわけではありません。本当に、ほかにどうしようもなかったんです。今は多額の借金を抱えているうえ、海外留学中の息子にも急いでお金が必要で、仕方なく......」蓮美は景の反応を窺うように目を上げた。表情が変わっていないことを確かめてから、話を続ける。「どうかご安心ください。私とお父さまの間には何もありません。あの方をその気にさせていただけです。正直に申し上げれば、お父さまの魅力はあなたの千分の一にも及びません。近づいたのは、ただ優奈から報酬を受け取るためでした」景の眼差しが一瞬にして冷え、無意識に指先へ力が入った。――楠原優奈。また、あの女か。まるでどこへでも忍び込んでくる毒蛇のようだ。築山家へ嫁ぐためなら、本当に手段を選ばないらしい。「どんな条件を提示された?」「うまくいったら、1億円を払うと」景は低い声で問い詰めた。「目的は?」「私にお母さまを不快にさせて、絃葉の顔を見るだけで嫌悪感を抱くよう仕向けろと。そうすれば、あなたと絃葉が一緒になるのを阻止できるから、と言っていました」景は刃物のように鋭い目で、彼女を冷たく見つめた。「目的を知っていながら、実の姪にそんなことをするつもりだったんですか?」蓮美は気まずそうに笑った。「それは......私も追い詰められていたんです。以前、絃葉に連絡してお金を工面してもらおうとしたこともありました。でも、あの子は一円も貸してくれなくて......本当にほかに方法がなかったんです」――絃葉に金を借りようとした?景はわずかに眉をひそめた。彼の記憶では、絃葉が母方の親族について話したことは一度もなかった。「絃葉に直接頼んだんですか?それとも、誰かを通した?」「私はあの子の連絡先を知らないので、菅原依子に伝えてもらいました」景は眉間
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