西尾絃葉(にしお いとは)はスマホを握りしめ、力の入った指先がうっすらと白くなっていた。――ついに、5年もの間待ち続けた電話が来た。祖父が最も信頼する秘書の日野(ひの)からだった。「お嬢様。澤木様とのご結婚は、会長が定めた5年間の試験期間を無事に通過されました。会長のご指示により、澤木様とご一緒にご帰宅いただくことを許可いたします。また、全財産を前倒しでお嬢様に名義変更の手続きも進めております。ご都合はいかがでしょうか」「本当?!」絃葉は込み上げる歓喜を抑えきれず、声がわずかに震えた。「やった......!今日でいいから。今すぐ向かうよ!」電話を切ると、ようやく肩の力が抜けた。――よかった。祖父はついに、かつて自ら結婚を選び、家の政略結婚と後継者としての立場を捨てた自分を許してくれたのだ。そして彼女は澤木凪杜(さわき なぎと)と結婚したことも。それはつまり、彼女の選択は間違っていなかったということ。凪杜は、すべてを捨ててでも選ぶ価値のある男だった。今日は試験期間の終わりであると同時に、二人の結婚五周年の記念日でもある。彼に、とびきりのサプライズと、正当な未来を贈るつもりだった。公証役場のロビーには、紙とインクの匂いが漂っている。絃葉は胸の高鳴りを抱えながら、5年間大切にしまってきた書類を、そっと職員に差し出した。真実を知ったときの凪杜の驚きと喜びを思い浮かべ、彼女の唇には自然と柔らかな笑みが浮かぶ。だが――職員はシステムで何度も照合した後、眉を深くひそめ、顔色を曇らせた。顔を上げ、鋭い視線を絃葉に向けると、疑いようのない厳しい口調で告げた。「申し訳ありませんが、こちらの書類は偽造したものです。戸籍を確認しましたが、西尾様の現在の婚姻状況は、未婚となっています」「未婚......?」絃葉の笑みが凍りつき、目を見開いた。「そんなはずが......」職員は彼女の動揺を意に介さず、冷然と言い続ける。「なお、澤木様は既婚となっており、法的な妻は円藤野々花(えんどう ののか)という方です」――頭の中で何かが弾けた。絃葉の脳裏は一瞬で真っ白になる。彼女は椅子から勢いよく立ち上がり、鋭い声を上げた。「嘘よ!そんなはずない!これは夫が自分で渡してくれたものよ、偽
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