「……お姉様。本日の初診は『名家の預かり息子様です」マヤが、慇懃無礼なカーテシーと共に扉を開く。現れたのは、育ちの良さを誇示するような仕立てのいいジャケットを着た男・一条。彼は室内の調度品を一瞥し、鼻を鳴らしてソファーに深く腰掛けた。「ふん、不衛生な場所だ。僕のような人間が足を運ぶような場所じゃないが……婚約者が、君たちの悪趣味な噂を聞きつけてね。僕の『教育』が足りないとでも言いたいらしい」一条は、懐から取り出した絹のハンカチで指先を拭いながら、婚約者を「出来の悪い所有物」のように切り捨てた。マヤは、その言葉に深く感動したかのように、潤んだ瞳で一条を見つめる。「……素晴らしい。家名という重い十字架を背負い、気高き血筋を守ろうとするそのお姿。一条様の孤独な戦い、私には痛いほど伝わってきます……」「わかればいい。僕と結婚できるのは、僕の家系に泥を塗らない、完璧な『駒』だけだ。感情などという不確かなものは、我が家には必要ない」一条はマヤの全肯定を「当然の賞賛」として受け取り、自身の特権階級としての論理を振りかざす。だが、その背後。マノが、分厚い医学書を閉じる重い音が、冷たく響いた。「マヤ、その男の座っているソファー、後で消毒しておいて。……封建制度の亡霊が憑いているわ」マノが、白衣のポケットに手を突っ込んだまま、一条の前に立ちはだかる。彼女の視線は、一条の家柄ではなく、その奥にある「空虚」だけを捉えていた。「……なんだと? 無礼な。僕が誰だか分かっているのか」「一条家の第18代当主候補? 笑わせないで。……マヤ、この『借り物の看板』の裏側を読み上げて」マヤは一礼し、タブレットを一条の鼻先に突きつけた。「はい、お姉様。ターゲット、一条。……一条家の資産は、先代の放漫経営により実質的に破綻。現在は借入金の返済のために、資産価値のある土地を次々と手放しています。一条様が誇る『血筋』も、中身は借金まみれのハリボテですね」一条の顔が、一瞬で青白く、そして怒りで赤く染まった。マノが、男の喉元を射抜くような視線で言い放つ。「家柄というメッキが剥げれば、あなたはただの『無能な債務者』ね。……効率の悪い、虚飾の人生だわ」マノの言葉が、一条が唯一の拠り所にしていた「血筋」という名の鎧を、粉々に砕いていく。「選ば
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