「……お姉様。本日の『初診』は、私たちが生まれて初めて、その『手』の温かさを知った御方でございます」マヤの声が、ひどく冷たく、まるで冬の湖底から響くように診察室に沈む。扉が開くと、品の良い老眼鏡をかけ、穏やかな琥珀色の瞳をした老紳士・九条(くじょう)が入ってきた。彼は診察室を見渡し、懐かしそうに目を細める。「……成長したね、マノ、マヤ。君たちに教えた『救済の作法』、今でも忠実に守っているようで安心したよ。……でも、その白衣。少し、肩に力が入りすぎていないかい?」九条は、まるで自分の娘を慈しむかのように、マノの肩に手を置こうとする。マノは、氷のような速さでその手を拒絶し、一歩、後ろへ退いた。マノの指先が、目に見えて震えている。それは恐怖ではなく、全身の細胞が叫び声を上げるほどの**「嫌悪」**だった。「九条先生。……あなたの『授業』は、もう十年前に終わったはずよ。……マヤ、この男の現在の活動記録を、全サーバーから抽出して」マヤは一礼するが、その動作はいつもの優雅さを欠き、どこか機械的だった。「はい、お姉様。ターゲット、九条。……表向きは著名な心理学者。ですがその裏で、身寄りのない子供たちを集め、互いに『依存』と『断罪』を競わせる、歪んだ教育コミュニティを運営。……九条先生、あなたの愛は、子供たちの魂を苗床にする、美しい『寄生植物』ですね」九条は、マヤの告発を心地よい音楽でも聴くかのように受け流し、穏やかに微笑んだ。「……誤解だよ、マヤ。私はただ、君たちのような『特別な魂』が、凡俗な群れに混ざって腐らないよう、磨き上げてあげただけだ。……マノ、君のその冷徹な論理。それは、私が君の『心』を一度バラバラに壊して、再構築してあげたからこそ得られた、至高の宝石だろう?」九条の言葉は、かつて双子が信じていた「光」そのものだった。だが、その光の裏には、逃げ場のない闇が広がっていた。
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