جميع فصول : الفصل -الفصل 90

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憎悪の矛先

 タチアナとガンズに誘われて屋敷の中へ入っていくと、辿り着いたのはとても立派な応接室であった。個人の邸宅にしてはかなりの豪華さで、誂えられた家具や美術品、更には活けられた花の数々に至るまで、相当なものだ。これは部屋の主であるガンズが、どれだけの資金力とセンスを持っているかを如実に表している。流石は街長でかつ商売人でもある男の屋敷だ。 ジャンヌ達は促されるままにソファーへ座ると、ほとんど時を置かずにティーセットを用意したメイド達が現れた。召使い達の練度も高く、貴族の屋敷でもここまでしっかりと統率が取れている家もないだろう。シーザーは自分の家でもないのに自慢げだが、ジーナはすっかり緊張で委縮し、ソロも居心地が悪いのか顔には出さないが態度が硬いようだ。そんな中、ジャンヌは先程タチアナが叫んだ言葉を頭の中で繰り返させ、その意味を考え続けていた。「いやぁ、まさかシーザー王子がいらっしゃるとは思ってもみませんでしたなぁ。先触れを出して頂ければ、歓待の準備も出来たのですが……ところで、本日はどういったご用件で?」「いやいや、実は、僕のつ……仲間がこの屋敷の庭に見惚れてしまってね。いい庭園だと眺めていたら、タチアナ氏に声をかけられたのだよ」 シレっと妻と言いかけたシーザーだったが、ジーナとソロの鋭い睨みに耐えかねたのか、仲間と言い直したのは流石である。彼の危機に対する能力は高いようだが、そもそもウソを吐く方がよくないだろう。  ガンズはそれをあえて聞き流し、安心したような笑顔になった。「おお、そうでしたか。ずいぶんと大きな声で騒いでいたので、|妻《・》が何か粗相をしでかしたのかとヒヤヒヤしておりましたよ、ハッハッハ!」「ん?」「え?ツマ?」「妻とは、その、奥様なのですか?失礼ですが、だいぶ……」「ハッハッハ!歳の差がありますかな?」「……え、ええ。すみません」 ソロ達が驚いたのも無理はない。タチアナは少し肌が日に焼けているものの、目鼻立ちの整った美しい四十代前半の女性だ。一方、ガンズはどうみても八十を優に超えた恰幅のいい老人である。親子というならまだしも、夫婦というにはあまりにも歳の差を感じる
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極端な人達

 結局、その後はしばらく誰も口を開く事はなく、ただ重苦しい空気だけがその場を支配していた。流石に見かねたガンズが、今夜はどうぞ泊って行ってくださいと言い出したので、それを受け入れることになったのだが、ジャンヌの表情は暗いままだ。「いいお庭……でも、あんなことがあった後だと……あれ?あれは」 風呂を借りて自室に戻ったジーナが窓から見える庭園を眺めていると、そこに誰かがいるのが見えた。湯冷めしないよう厚手のバスローブと上着を羽織り、庭へ出てみると、そこにいたのはジャンヌとタチアナの二人だった。  月明かりの下で、二人は言い争う事もなくただひたすらに庭園を並んで見つめている。ジーナが近づいていくと、そこでようやく、タチアナが口を開いた。「ジャンヌさん。昼間はごめんなさい、感情的になってしまって……私、恐かったのよ。またあの時のように全てを失うことになるんじゃないかって。でも、あの後ガンズ様に叱られてしまったわ。嫉妬に目がくらんで、他人を疎んじてはいけないと……その通りよね。歳は離れているけれど、私はあの人を、ガンズを愛しているの。今は亡き奥様にも後の事を頼まれているしね」「ううん、こっちこそ、ごめんなさい。事情も知らずに昔のことを持ち出して……私、あの頃は幸せだったから。ヘンリーさんが来なくなってから、生活は酷くなる一方だったけど。それでも色んなことを教えてくれて、食べ物も服もくれたヘンリーさんには、本当に感謝してるわ。それに、もしあの時私がヘンリーさんの養子になっていたら、父や母がどんな報復に出たか……あの人達は家の体裁しか考えていない人達だったから、きっとヘンリーさんに難癖をつけて酷い事をしてたと思うの。そう考えると、あの時話に乗らなくて正解だったんだわ」 そんな会話をしている所へ、ジーナが寄って行き、期せずして女性だけが集まる形になった。女三人寄れば姦しいとは言うものの、今はもう夜中で、ここは庭園だ。大声で話す必要はない為か、ジャンヌ達は大人しく、月明かりの下での会話を続けることになった。「そう言えばジャンヌさん、一つ気になっていたんだけど、聞いてもいいかしら?」「ええ、なに?」「あなた、昼間この庭園が私の仕事だと聞いて、全
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国王ロドリック登場

 ガンズの屋敷に一晩泊まった翌日。ジャンヌ達は早速、次の街へと出発する準備を進めていた。 ここから一週間ほど進めば、次はいよいよ国境の街アマルナである。レガリアへはバスカヴィル王国を出た後、ノルディールという国を通り抜ける必要があるのだが、ノルディールは国土の割に人口が少ない土地だ。街から街への間隔も長く、補給もしづらいので、今の内に各々で保存の利く物資を買い込んでおこうという話になった。本来なら、アマルナに着いてからやるべきだが、先述の事情もあって需要が高い為、アマルナは物価が高いのである。その為、レガリアへ向かう旅人達の多くは、ここトルキアで必要な物を買うのが定番なのだった。「ええと、後は何を買えばいいんだっけ?」「必要な衣類は少し多めに買っておけってソロさんが……この街で売ってる衣類は、少し派手ですけどね」 ジーナが照れ臭そうに苦笑いして手に持っているのは、女性物の下着である。ここトルキアは香辛料の栽培が盛んなだけでなく、有名なトルキア絨毯に代表される独特な模様が印象的な織物やその生地も多く販売されている。だが、他の土地から来た人々はそうした品物の柄が派手に見えるらしく、着るのも買うのも少し勇気が入るようだ。「まぁ、柄が良くても誰に見せるものでもないしねぇ……ただ、どれも生地は丈夫だし、縫製もがっちりしてるから安心は出来そうよ?私達は動き回る事が多いから、お洒落で薄い生地だと、すぐダメになって困っちゃうのよね。私なんてハバキリが無かったころは、しょっちゅう魔法で爆発してたから火事で焼きだされた避難民みたいだったもの。服も下着も、まず丈夫さが第一じゃないと!」 今ではすっかり爆発するような事はなくなったとはいえ、少し前までのジャンヌはとにかく衣類に困っていた。ハバキリを手に入れるまでは、武器も量産品で壊れることが多く、その癖、相手は獰猛な魔獣や油断ならない|Neck《賞金首》である。そんな連中と渡り合っていれば、年がら年中服はボロボロで、同じ服を三日と着まわした事がない生活だったのだ。そんな感覚が沁みついているのだろう、ジャンヌは衣服を選ぶ時、デザインよりも機能性と耐久力が第一である。そんな彼女にしてみれば、トルキア衣類はかなり気に入った部類に入るようだった。 (そう言えば、今着てるジーナからもらった服……全然ダメにならないわね。定期的にジーナが補
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突然の別れ

「ち、父上っ!?なぜここに!?」 車の陰から現れたロドリックを見て、シーザーは声を裏返して驚いていた。まさか、国王自らシーザーを追ってくるとは誰も想像しておらず、いきなりの展開にジャンヌとジーナは呆然としている。その隣で、ソロは一人素早く片膝をついて首を垂れている。その様子を見て、ジャンヌは慌ててそれに倣って、こっそりとソロに問いかけた。「し、シーザーのお父さんってことは、つまり?」「……ああ、現国王のロドリック・バスカヴィル様だ。俺も顔を合わせるのは初めてだが、なるほど、納得だな」 ソロがそっと囁くように答えると、ジャンヌは更に縮こまってしまう。どうもあまり権力者と接した事がないせいか、どうしていいのか解らないらしい。それに続いてようやく再起動したジーナもしゃがみ込むと、ロドリックはにこやかに笑った。「よいよい、今は私的な外出ゆえ、そう大袈裟にせず気を楽にせよ。余は親として、このバカ息子をとっ捕まえに来ただけなのでな」 そう言うとロドリックは鋭い目つきでシーザーを睨みつけた。ジャンヌ達はてっきり、シーザーが許可を得て旅に同行しているのかと思っていたが違うのだろうか?しかし、シーザーは怯えた様子ながらも、ロドリックに反論していく。「ち、父上!何をおっしゃいますか!?僕はちゃんと正式に出張の許可を頂いてここにおるのです!ほら、この通り!ちゃんと国内視察を了承すると書いてあるではないですか?!大臣や父上のハンコもあります!」「いかにも。国内の状況をつぶさに観察し、今後の政務に活かすという考えは立派だ。それについては余も否定しておらぬ。……だが、どこの世界に出張であんな大金を使うバカがおるか!毎日毎日飽きもせず最高ランクの宿泊費と食費の清算を王家に回して来よって、余が財務大臣から大目玉を食らったわ!貴様、出張に行くと言って出て行ってから、この三カ月弱で一体いくら使ったと思っておるのだ!?恥を知れ、このバカ息子がっ!」「ヒェッ!?」 どうもこのバスカヴィル王国は、王と大臣の距離が近いフランクな国であるようだ。王様が財務大臣に怒られるというのは中々聞かない話だが、それだけに王の矜持もクソもあったものではないのだろ
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忍び寄る影

 少し冷たい朝の空気の下で空を見上げると、そこには青い空をベースに、大きな黒い雲の塊と、そこから散り散りになったいくつもの小さく丸い雲が浮かんでいる。それらはじっと見ていると動いていないように見えるが、緩やかなスピードで東へ移動しているようだ。 ジャンヌ達は現在、国境都市アマルナで、隣国ノルディールへ出国の手続きが完了するのを待っている。ロドリック王から貰った|魔力車《クルルス》のお陰で、徒歩では一週間ほどかかるはずのトルキアからアマルナまでの旅は、一日とかからずに移動することが出来た。このまま行けば、ノルディールを抜けてレガリアまで到着するのも、そう長くはかからないだろう。  大幅なスケジュールの短縮が出来たのは好ましいが、ジャンヌ達と離れたくないジーナにとっては旅の終わりが近いというのは少々複雑な所もある。もっとも、レガリアに着いて加護を調べた後、ジーナが一人でドルトへ帰れるとは思えないので、今度は来た道を戻る必要がある。それを考えれば、まだまだ一緒にいられる時間はあるのだが。「出国の手続きはもうすぐ終わりそうだ。流石に、国王直々の許可証があると違うな。普通なら、身元の確認だけでも一日仕事が当たり前だというのに。ノルディールではこうはいかないだろうが、バスカヴィル王国の出入りだけでも速く済むのは助かるよ。……どうした?ジャンヌ」「え?ううん、なんでもないわ。何だかんだで、この国にも長くいたなぁって思ってただけ」「そうだな。もう三年くらいになるか、バスカヴィル王国に来てから。エンデュミオンを出て、二年程あちこちを旅して……そこからだからな。あれから五年か、時が経つのは速いもんだ」 そういって、ソロもまた空を見上げると既に雲はどこかへ飛んで行って、抜ける程の美しい青空がそこにあった。アマルナに着いたのは夜半だったので、こうして朝の光の下で街を見ると、中々趣のある街だ。トルキアのように強い民族的な空間ではないが、国境の街という性質からか、これまでに見てきたどの街よりも硬い、がっちりとした印象を受ける。この街が国教として接しているのが、ノルディールだからということもあるのだろう。その意味では、建物や街を守る防壁などが他の街よりも頑丈に見える理由もよく解る。 こ
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皇国の刃

 ノルディール共和国……約500年程前に狂王アグリッパを失って以来、王のいないこの国は、国民に主権がある共和制によって統治されている。しかし、そもそも当時の人口の7割以上を一気に失ったこの国では、ほとんど政治体制が意味を成していないのが現状である。  本来ならば、戦争に敗けた国は戦後にどこかの国に吸収されるはずなのだが、アグリッパの起こした戦争が終わった当時は未だダンジョンが稼働していて、モンスターによる被害が起きていた時代であった為かどの国もノルディールを統治しようという国はいなかった。それだけ、どの国にも余裕が無かったのだ。 その為、ノルディールはその広い国土を各地に生き残った人々が自治するという形に収まり、今もその形態が続いている。ただ、500年余りの時間の間に情勢が変わり、少しずつ人口が復活しつつある為、徐々に政府組織が生まれて機能し始めているのが現状だ。ほとんどの国が君主制であるこの|星《せかい》では、非常に珍しい国体と言えるだろう。 そんなノルディールの北部地方に属する小さな街・カナッサに、二人の男が現れた。   「情報によると、どうやらターゲットはレガリアに向かっているらしい。となれば、必然的にここカナッサを訪れる確率は高いはずだ。ここで待ち構えるのが妥当か」 男の内の一人、白髪の男は街角の市場で野菜を買うフリをしつつそう呟いた。その隣には、ぼさぼさ頭で目が見えない茶髪の男が立っていて、俯きながらそれを聞いている。「主人、このカジェイロを一つくれ。これは色艶がいい、中々の上物だな」「はいよ、20ドルゴだ。……あんたら、見ない顔だな?流れ者にしちゃ恰好が物々しいが、エンデュミオンから来たのか」「……ああ、仕事でね。人探しをしているんだ。この女か男に見覚えはないかい?」 白髪の男は懐から金と一緒に男女の絵が描かれた二枚の紙を差し出し、店の主人に見せた。主人は金を受け取りながらその二枚を見つめたが、肩をすくめてぶっきらぼうに答えた。「知らねぇな。だが、この辺りには流れ者もほとんどやって来ねぇから見覚えのねぇ奴がくりゃあすぐに解る。あんたらみてぇにな。そいつらが何をやらかしたんだか知らねぇが、あまり
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カナッサでの一幕

「ここがカナッサか、今夜はここで宿を取ろう。地図によると、この先はしばらく街や村がないみたいだからな。そろそろ新鮮な野菜か果物を食べておきたいところだ」 街外れに|魔力車《クルルス》を停めると、ソロはそう言ってジャンヌ達に車から降りるよう促した。大型のジープタイプであるこの|魔力車《クルルス》は、中である程度の寝泊まりが出来るサイズではあるが、それが何日も続くと身体に負担がかかるものだ。テントなどのキャンプ道具もあるにはあるのだが、ノルディールはとにかく魔獣が多く、野外で夜を明かすのは相当ハードルが高い。無論、そこらの魔獣などジャンヌやソロの敵ではないとはいえ、それが連日連夜続いては堪らないのだ。それを覚悟の上で旅の計画を立てていたソロではあったが、望外に|魔力車《クルルス》が手に入った事で大幅に負担は軽減出来ている。これは本当に幸運だったと言っていいだろう。  とはいえ、それでも車の中で何日も過ごすのは心身の健康によくないものだ。街があって休めるのであれば、そこで泊まるのが賢い行いである。「ん~~~~っ……やっと身体を伸ばせるわ!|魔力車《クルルス》って、速いし楽だし基本的に言う事ないけど、ずっと乗ってるのはちょっとしんどいわね」 車から降りたジャンヌは、身体のあちこちを鳴らしながら大きく伸びをしてみせた。アマルナを出てから二週間、いくら車としては大型とはいえ、ずっと同じ姿勢で乗っているのは楽なものではない。エコノミークラス症候群という言葉はこの|星《せかい》にはないが、人間の身体の造りとしてはここでもそうなっておかしくないのだから当然だ。ちなみにソロが新鮮な野菜や果物が欲しいと言ったのも、保存食ばかりの食事では栄養的な問題があるからである。「ここで野菜とか色々補充出来たらいいんですけど……レガリアまではあとどのくらいかかるんでしょう?」「ここへ来るまでと同じペースで走れれば、あと一週間もかからないだろうな。今夜はここに泊まって、明日保存の出来る野菜や果物を多めに買ってから進もう」    ソロは頭の中でレガリアまでの距離と|魔力車《クルルス》のスピードを比べて計算しながら答えた。それがこの先は通用するかは解らないと、頭の隅で思いながらだ。ここま
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相打つ攻防

 窓際まで吹き飛ばされ、倒れた茶髪の男は、仁王立ちするジャンヌを見上げながらゆっくりと立ち上がろうとしている。目は長い前髪で隠れていてジャンヌからは見えないが、はっきりとジャンヌを見つめる視線の強さは痛い程に感じられた。  そんな男を見下ろすジャンヌは、隣のベッドにいるジーナを庇う様にして前に一歩出ると、ハバキリを握り締めてその出方を待った。   「人の命を狙っといてダンマリとは、ずいぶんご挨拶じゃない。躊躇なく殺しに来たくらいなんだし、よっぽど私に恨みか何かがあるんでしょ?理由くらい教えてくれてもいいと思うんだけど」「…………………………」    ジャンヌは睨みを聞かせながら訊ねたが、男はそんな問いかけに応えるつもりはないようである。無表情な口元が僅かに動いたかと思うと、突然男の足元から激しい風と光が発生した。ジャンヌは咄嗟にジーナを庇い、男に背を向けると、その隙に男は窓から外へと飛び出していった。    (アイツ、殺しに一切躊躇が無かっただけじゃなく、失敗したとみれば即座に逃げを打つなんて……相当手慣れてるわね。それに、さっきの私の攻撃だって、私は剣ごとアイツを斬るつもりだったのに、うまくポイントを避けて受けられちゃった。だから、派手に吹っ飛んだくらいで済んだんだわ。やっぱり、只者じゃないわね)   「……じ、ジャンヌさんっ、大丈夫ですか?!」   「ええ、大丈夫よ。ジーナも怪我はない?まったく……ソロの言った通りだったわね。念の為にって、|身代わりの幻覚を創る魔法《ハルキナティオ・ヴィカーリア》をかけて貰ってて正解だったわ」 ジャンヌはそう言って、自分が本来寝ていたはずのベッドへ視線を向けた。街に入ってからずっと、住人達のジャンヌやソロを見る目がおかしいと感じたソロは、何者かの襲撃を予感していた。誰かが二人を探しているのだとして、誰も直接それを言葉にしないのは、それが秘密裏に行われているからだ。ということは、何者かがジャンヌ達を拉致するか、場合によっては暗殺を計画しているかもしれない、とソロは考えた。 その為、ソロはジャンヌが眠る予定だったベッドに|身代わりの幻覚を創る魔法《ハルキナティオ・ヴィカー
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ソロの行方

「ソロッ!」 ジャンヌが開け放たれていた窓からソロの部屋へ飛び込んだ時、既に部屋はもぬけの殻であった。室内は静まり返り、椅子が倒れているなどごく小さな争った形跡が見て取れる。敵はソロの命も狙っていると考えていたジャンヌは、思っていたものとは違う状況に困惑していた。「いない、どうして?…………血痕はない、ならソロはどこ……まさか、捕まった?」 トイレなども確認したが、やはりソロの姿はどこにもない。ただ、ベッドの上にはアーデが眠っていて、ジャンヌが起こそうとしてもまるで反応しなかった。それだけで、異常事態が起きたことは明らかである。「アーデ、起きてっ!ねぇ、起きて、お願い!…………ダメだわ、魔法で眠らされてる。私じゃ解除できないし……どういうこと?一体、何があったっていうの」 魔法による昏睡状態は、時間経過で目が覚めるのを待つか、仕掛けられた魔法を魔法によって解除するしかない。しかし、魔法を使えないジャンヌにはそれができない。ここに来るまで、ジャンヌは敵がエンデュミオン皇国の者であることを、敵の装備に入った紋章から理解していた。その為、彼らは父や母が送り込んできた刺客ではないかと考えていたのだ。だが、それではソロまで狙われる理由が解らない。ましてや、敵がソロを拉致したのだとすれば、襲撃者の狙いはジャンヌが思っていたのとは全く別の思惑があるのではないか?そう思うようになった。    そうしてアーデを抱えたまま、呆然と立ち尽くすジャンヌ。そこへ、息を切らせてようやくジーナが追い付いてきた。「ハァッハァッ!じ、ジャンヌさんっ!ソロさんは……!?」「ジーナ……ごめん、遅かった。ソロが、いないの。もしかしたら、敵に連れ去られたのかもしれない。後を追おうにもどこへ行ったのか……せめて、アーデが目を覚ましてくれれば」「あ、アーデっ!ああ、そんな……!?」 ジーナはジャンヌからアーデを受け取り、強く抱きしめた。アーデに怪我はないようだが、魔法で眠らされている以上、いつ目覚めるかはまったく予測できない状態だ。魔法の効果はそれをかけた相手にもよるが、非常に長く影響が残るケースもある。外的に魔法を解除しない限り、死ぬまで目覚
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激突する二人

 ハバキリが弾かれると同時に、ジャンヌはその勢いを利用して数メートル後ろへ着地した。上空からの奇襲は威力も狙いも申し分なかったはずだが、|lol《ロル》は余裕を持って受け止めてみせた。先程、部屋でジャンヌの攻撃を受けた時もそうだったが、彼が相当な力量を持っていなければ出来ない芸当である。「ちっ……やるじゃない!けど、今のを防いだくらいでいい気にならないでよね!」「フフフ…………ジャンヌ……いい、女だ。…………殺し甲斐が、ある…………フフ……」 ジャンヌは舌打ちして、目の前の|lol《ロル》を改めて見据えた。奇妙な雰囲気の男だが、剣を握る手や構え、無駄のない力の入り具合は間違いなく達人レベルである。剣士としては以前戦った、ナタンと同等か、それ以上の腕前だろう。油断ならない相手だ。 ジャンヌはちらりと|lol《ロル》の背後で二人の戦いを見守っているメイヴァを見た。肩に担がれているのは紛れもなくソロで、やはり敵の狙いはソロを拉致することだったのだろう。二対一だが、負ける訳にはいかない戦いだ。「ソロ!目を覚ましてっ!そんな拘束、あなたなら解けるでしょう?!ねぇっ!」「ふん、無駄だ。いくら叫んでもコイツは完全に俺の|昏睡魔法《ソムヌス》で眠りに落ちている。誰が声をかけようとも、目覚めることなどありはしないさ」「やっぱ、そうよね。しょうがない、先に|コイツ《lol》をやるしかないか……!」 目を覚ましてくれれば儲けものとダメ元で叫んではみたものの、やはりソロは眠らされているようだ。或いは、先程のようにジーナの力を使えば目覚めさせることは可能かもしれないが、彼女を戦闘に巻き込む訳にはいかない。少なくとも、ソロの身柄を取り戻してからでなくてはならないだろう。 ジャンヌは改めて|lol《ロル》に向かい、ハバキリを握り直した。今の状況で、膠着状態に入って良い事など何もない。ここは先手必勝だと思った瞬間、先に動き出したのは|lol《ロル》の方だった。「ッハァ!」「はやっ!?」    猛烈な踏み込みから、|lol《ロル》の攻撃が始まる。|lol《ロル》は自然体の構えから、飛ぶようにしてジャン
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