Semua Bab 社長、離婚した奥様が世界的トップモデルになっています!: Bab 81 - Bab 90

128 Bab

第81話 入り乱れる感情

【一弥side】医者との話が終わり、俺は杏華がいる病室へと移動した。ベッドの隣の椅子に座りながら、静かに穏やかに眠っている杏華を見つめる。あんなに苦しそうにしていた杏華が、今こうやって穏やかに眠っているだけでも、俺の心も落ち着いてくる。だが、杏華の身体に流産の兆候があるなんて知ったら杏華は……。さっきまではただ助かってくれることを願っていたのに、今度はその事実を聞いて不安になってしまう杏華を考えると胸が痛む。すると、ゆっくり杏華が目を開く。「杏華……。わかるか?」「一弥さん……」隣で声をかける俺に杏華は静かに呟く。そして視線をゆっくり動かし、自分がどこにいるかを確認する杏華。「私……またあなたに迷惑を……」「そんなことお前は考えなくていい」目を開けて一言目がそんな言葉とは……。「どうして俺に言わなかった……?」「え……?」「腹に子供がいること」俺がそう伝えた瞬間、杏華の顔がみるみる不安そうな顔に変わっていく。「ごめんなさい……! ごめんなさい……!」すると、なぜか杏華はどんどん泣き顔になり、手で顔を覆い、必死で俺に謝ってくる。なんだ……? なんでこいつはこんなに俺に謝ってくるんだ……?「なんだ! なんで泣いている!」俺は杏華の泣いて謝る理由がわからなくて、顔を覆う手を両手で掴みその手を下にそのまま降ろし、杏華の顔を確認する。「黙っていてごめんなさい──! 絶対あなたに迷惑はかけません! あなたに責任を取ってほしいなんて言わないから! 私が一人でちゃんと育てます──! だから私からこの子を奪わないで──!」杏華は目から大粒の涙を流し、見たことない追い込まれたような表情で、必死に俺に懇願するように訴える。「杏華! 興奮するな! 安静にしてろ!」俺はとにかく興奮している杏華の身体を抑えつけ、ゆっくりとベッドにまた寝かせる。杏華のその言葉で、すべて明確となった。腹の子供は、確かに俺の子だ──。それが明らかになった瞬間、俺の中でいろんな感情が入り乱れる。俺の子だと湧き上がる喜びと他の男が父親じゃなかった安心感。なのに何も俺に言わなかった苛立ちと、杏華も子供も共に守りたいと思う庇護欲。そして、なぜかただ杏華を悲しませている自分のこの情けなさ──。頭と心がぐちゃぐちゃになって上手く言葉を返すことが出来ない。「
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第82話 守りたい

【一弥side】俺の言葉を聞いて、杏華が曇った表情で何か考えているような素振りを見せる。「心配するな。お前から子供を奪おうなんて思っていない」俺がそう言うと、杏華は少しホッとしたような表情を見せる。やっぱりそうか……。こいつの中で俺はそういう男に見えているということなのか……。俺はその事実に少なからずショックを受けている自分がわかる。「あんなに探し回ったのに、まさかお前とあんな場所で再会するとは思わなかったけどな」「そうよね。私もあなたと一生会わないつもりで、あの家を出たのに……。運命って皮肉なものよね……」「それが今は俺たちはビジネスパートナーだもんな」「それはあなたが──!」「お前にとっても俺といることは悪くない条件のはずだ」「……随分な自信ね」「俺がいなきゃ、あのプールのときも、お前は子供ごとどうにかなってたかもしれないんだぞ」「それは──! っていうか、あのときも、知ってたってことなのね……」「あぁ……」「そう……」「少しお前は無理しすぎなんじゃないのか」「はっ……?」「お前が無理したら子供だってどうなるかわかんないんだぞ」「──そんなの、わかってるわよ! だから私は必死に!」「杏華。興奮するな」俺の言葉に興奮してしまう杏華をなだめる。「そうよ……。私、こんなことしてられないわ。この子のために今私が頑張らないと──!」杏華がそう言いながらベッドから降りてどこかに行こうとする。「ちょっと待て! まだ安静にしてろ!」俺はそんな杏華をーの身体を掴んでその場で抑える。「放して! 私は大丈夫よ! それより撮影に戻らないと!」「安静にしてろって言ってるだろ! お前一人の身体じゃないんだぞ!」俺は安静にしない杏華につい苛立って声を上げてしまう。「だって──! そうじゃないと私、なんのために頑張ってるか……」「杏華。いいか。今はお前の身体を一番に考えろ。仕事なんてどうでもいい。そんなの俺がどうにだってしてやる」俺は杏華の肩を掴みながら伝える。そう伝える俺の目をじっと見つめながら、杏華の瞳が揺れる。その瞬間病室にノックする音が聞こえ、振り向くと医者たちが入って来た。杏華の様子を確認し、医者はまだ体力が戻っていないから安静にするようにと再度伝える。そして杏華に必ず流産の兆候があることを伝えるようにと念押し
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第83話 生まれる強さ

青天の霹靂とはこういうときにも言うのだろうか。まさか流産の兆候があるなんて……。身体に気を付けたつもりでいたはずなのに。その言葉を聞いたとき、あまりのショックでおかしくなりそうだった。私は我を忘れて、ただ感情のまま泣き叫んだ。こんな自分がいたことに、自分でも驚いてしまうくらい。私の中で、この子の母親という意識は、もうすでに強く激しく存在していた。だけど、そんな私を力強く抱き締めてくれた一弥さんに、ただあのときの私は泣きながらすがりついた。一人ではこんなこと抱えきれそうになくて、ただ苦しくて……。「大丈夫だ」と、何度も呟きながら、私の背中を優しくさすってくれた一弥さんに、泣きながらも少しずつ私の感情も落ち着いてくる。一弥さんではない別人かと思うほど、その撫でてくれていた手は、温かくて優しかった──。「ごめんなさい……。もう、大丈夫……」ひとしきり泣いたあと、私はようやく正常に戻り、一弥さんに静かに声をかける。その声を聞いて、一弥さんは私からそっと離れ、ベッドの前の椅子に座り直した。「とにかく今は無理するな。仕事のことは何も心配しなくていい」「でもまだ撮影が……」「俺はもうお前を撮影に参加させるつもりはない」「そう……よね。こんな状況じゃ商品として何の役にも立たないわよね……」「そうじゃない」「え……?」「お前が役に立たないとかそういうことじゃなく、ただお前を俺が無理させたくないだけだ」「私を無理させたくない……から……?」「そうだ。撮影に参加したらまたお前は無理をするし、周りからまた何をされるかわからないからな」「気付いてたの……?」「あぁ。お前をあの場所にわざと置いてきたやつも俺が問い詰めた」「──えっ!?」それって私のために……?「女っていうのはどうしてこんなくだらないことをするんだ。正々堂々闘えばいいだろ」一弥さんはブツブツ呟く。「フッ」「なんだ」思わずそんな一弥さんを見て笑ってしまった私に素早く気付く。「あなたもそんなことするのね」「いや、俺は汚いやり方をする奴が許せないだけだ」「あなたにそんな正義感があったなんて知らなかったわ」「俺はずっとそういう熱い男だ」「フッ。それ自分でいうのね」「悪いか……」少し照れくさそうに呟く彼を見て、少し可愛いと思ってしまった。「とりあえず、この仕事
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第84話 羨ましい関係

【一弥side】それらは自然と出た言葉だった。子供の存在を知ったとき、あんなに感情的だったのに、自分の子供だとわかり、そして杏華がこんなにもしっかり母親として強くなっていたのを見て、俺も自然と同じように自分の出来ることをしたいと思った。それはビジネスパートナーとしてなのか、それとも子供の父親として……。コンコン。そう思ったタイミングで、病室をノックする音が聞こえる。すぐに入ってこないのを見て、俺はドアの方まで移動する。「はい」返事をしてドアを開けると。「一弥。奥さん大丈夫そうか?」「詠司。わざわざ来てくれたのか?」そこにいたのは、病院を手配してくれるよう電話で頼んだ友人の詠司(えいじ)だった。詠司は、この街に住んでいる昔からの友人だ。世界に名を馳せるグループとして業界で活躍している人間で、こういうことも顔が利く頼りになる存在でもある。昔は同じ街に住んでいたが、仕事の関係でこっちに移住してきた。実際この街はその関係で仕事でも足を踏み入れたことがあり、俺的には詠司がいることもあり、動きやすい街ではあった。元々仕事の関係で連絡を取っていたおかげで、詠司とは今回もスムーズに連絡が繋がって助かった。「状況が状況だから、知らない奴が来るのはどうかと思ったんだが、紗耶香がどうしても一緒に来たいって聞かなくて」「紗耶香さんが?」「こんにちは」「こんにちは。わざわざ紗耶香さんまで、すいません」詠司の後ろから、顔を出して紗耶香さんが挨拶する。紗耶香(さやか)さんは俺も顔見知りの詠司の奥さんだ。俺たち夫婦と違い、この夫婦は友人のようになんでも言い合える仲のようだ。実際学生からの長い付き合いで、友人から恋愛に発展して結婚したらしい。そんな頃からの付き合いで結婚で今もこんなところまで一緒に来るほどの仲だなんて、俺には想像出来ないが──。でも、そういえば、俺たちも高校の頃、同じ学校だったんだか……。綾乃とは付き合ってたし、俺を助けてくれたからもちろん憶えてはいるが、杏華はどうも印象に残ってないんだよな……。結局その頃は一度も関わらなかったはずだからな。「あの、一弥さん……?」すると、俺たちの様子が気にかかったのか杏華が声をかける。「あぁ。すまない。紹介するよ。急遽この病院を手配してくれて世話になった、こっちに住んでる昔からの友人の
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第85話 巡り会い

「あっ、そうだ。これお見舞いのお花です」紗耶香さんが華やかな花束を渡してくれる。「わぁ~すごく綺麗。すいません。こんなたいしたことない状況なのに、わざわざこんなことまで」「何言ってるの! こんなことじゃないわよ! 大変だったわね。こんなときは、ちゃんと自分を大事にしてあげて?」「ありがとうございます……。このお花も、すごく華やかで元気が出ます」もらったお花は華やかな明るい色ばかりが集まった可愛い花束で、見ているだけで落ち込んでいた気分も元気が出て前向きになれる。「そう! よかった! こういうとこに少しいるだけでも、やっぱり気分が滅入っちゃうものね。私もこういう明るい花があるだけで、とても前向きになれたもの」「紗耶香さんもですか?」「えぇ。実は私もね……。って、ここからは女同士の秘密の時間ね。ここからは男どもには、少し出て行ってもらいましょ」「え!?」紗耶香さんはどんどん勢いあるまま事を進めて行く。だけど、私にはない力強くて元気なこの感じが、なんだかとても力をもらえる。「ねぇ、詠司。ちょっと一弥くんと二人で、しばらく外で時間潰してきてくれない?」紗耶香さんは頼もしく、詠司さんにそんなことを伝える。だけど、詠司さんは、こっちの方向を見て何かボーッとしている。「ちょっと詠司! 聞いてる!?」「おい。詠司」「えっ? あ、あぁ。えっと、なんだっけ?」するとようやく気付いて返事をするも、やっぱり聞いてない様子。急にどうしたんだろう。「だーかーらー。女同士の秘密の話をするから、ちょっと一弥くんとしばらくどこか出かけててって言ってたの」「あっ、OK、OK。よしっ、一弥ちょっと付き合え!」そう言って、詠司さんは一弥さんの肩に腕をガシッと回して、無理やり病室から出て行く。「はっ? なんだよ、どういうことだよ!」なんだか詠司さんも明るくて軽いノリだけど、勢いある人で、この雰囲気笑顔になっちゃうな。一弥さんも珍しくなんだか詠司さんにはタジタジしてるみたいだし、こんな一弥さん見るのもなんだか新鮮。結局そのまま一弥さんは詠司さんに連れて行かれた。「フフッ。あんな一弥さん初めて見ました」「えっ? 本当に? あの二人いつもあんなんよ?」「そうなんですね」「そうね。詠司は一弥くんのお兄さんみたいな気持ちでいるかもね」「一弥さんのお兄さ
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第86話 初めて知る優しさ

「私ね、昔流産したことあるの」「え……」紗耶香さんのその衝撃すぎる告白に私は言葉を失った。「ごめんなさい。詠司が心配して一弥くんに電話したとき、杏華さんの今の状態を聞いちゃったの」「そうなんですね……」「だけど誤解しないであげて」「え……?」「お医者さんからちょうどその話を聞いたすぐだったみたいで、すごく動揺してたみたい。一弥くん、杏華さんのことも、お腹の子のことも、すごく心配で不安だったみたい。どうしていいかわからないって、詠司にそう話していたそうよ」「一弥さんが……?」一弥さんがそんなふうになっていただなんて、全然気が付かなかった。さっき私にそばについてくれてた一弥さんは、そんな素振りなんてまったく……。正直、いつもの一弥さんの頼もしさがあって心強かった。だけど、あなたもそんな不安になっていたの……?「杏華さんが倒れた時も、一弥くん今まで聞いたことない焦った必死な声で、詠司にどれだけお金がかかってもいいから、すぐに病院を探してほしいって電話してきたの。ただあなたを助けたいという一心で」「まさか彼がそんなこと……」それを聞いて胸の奥がギューッと切なくなる。彼が私のためにそこまでしてくれたなんて、なんだか泣きそうになる。「だから詠司から杏華さんのことを聞いて、他人事だと思えなくて……。詠司に無理言って連れてきてもらったの」「そうだったんですね……」「知らない土地で流産しかけたなんて、すごく不安だと思ったから……。知らない私みたいな存在でも、少しは気休めになるかなって思って、つい図図しく……」「いえ! 嬉しいです。ずっと本当は心細くて……。まさかこんな気持ち、わかってもらえる人いるなんて思ってなかったから……」「よかった……」結婚していたときも、今のモデルをしているときも、ただ孤独で、本当は心細かった。こんな場所で、こんなことになって、私何やってるんだろうって。誰にもこの気持ちをわかってもらえなくて、誰にも話すことも出来なくて……。だけど、紗耶香さんのこの言葉と優しさは、孤独だった私の凍った心を溶かしてくれるような、そんな温かさを感じられる。「もしよければ私の流産したときの話聞いてもらってもいいかな?」「お聞きしていいんですか……?」「えぇ。失ったものも大きいけど、その分大切なものも手に出来たから……。今、愛
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第87話 心強い味方

「あなたは今とても大切な時期よ。絶対無理しちゃいけない。そのお腹の子を守りたいなら、絶対その子を一番に優先してあげてね」「はい……」「もし私でよければ杏華さんの力にならせてくれない?」「え……?」「子供のことでも一弥くんのことでも何でもいいから、不安なことや心配なことがあれば私でよければいつでも話聞くよ?」「紗耶香さん……」こんなこと言ってくれる人が現れるなんて……。その言葉をかけてもらえるだけで、どれほどこの心が安らぎ心強いか……。「いいんですか……?」「もちろん」「ありがとうございます。すごく……すごく嬉しいです」「うん。但し、今は一番あなたのそばにいてくれる一弥くんに遠慮なく頼ること」「あっ、でも、今彼とは……もう……」紗耶香さんのこの言い方だと、もしかしたら一弥さんのお友達だから、まだ夫婦だと思ってるのかもしれない。だけど、なぜか紗耶香さんにはこの状況も自分のことも誤魔化したくないとそう思った。「知ってる」「えっ?」「彼と別れたんだよね……?」「はい……。でも、彼とは……結婚してても、そうじゃなくても、紗耶香さんたちみたいな心から信頼出来る素敵な関係には絶対なれないですから……」「“絶対”なんて、ないと思うわ」「それは……」「現に、今あなたのそばに一弥くんはいるじゃない。こんな海外で、こんな状態になって、何が起こってもおかしくない。一人だったら、もしかしたらお腹の子もダメになってたかもしれない。だけど、今のあなたを一弥くんが助けてくれて、今もこうしてあなたに寄り添ってくれている。それは間違いなく今のあなたと一弥くんとの新たな関係で、今までとは違う二人になってきているってことよ」紗耶香さんのその言葉は、私の心にスッと落ちてくる。彼との関係も、彼自身も、もう二度と変わらないのだと、私の中でもしかしたらそう思い込んでいたのかもしれない。確かに今の彼とは、間違いなく前の私たちの関係とは違う。きっと彼と接する距離感も、心の距離感も……。わかってる……、わかってるけど……。「まだ……怖いんです」「怖い……?」「また彼に裏切られることが……」「杏華さん……」「いえ、私たちはそんな関係でさえもなかったから……。ただ、今の彼を信じて、また自分が傷ついてしまうのが、どうしようもなく怖いんです……」叶うことなら、彼
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第88話 まだ気付いていない気持ち

【一弥side】詠司に病室から無理やり連れ出され、特別病棟専用のラウンジまで移動する。「詠司。今日はいろいろありがとな」「一弥の頼みなら、お安い御用さ」「素早く動いてくれて本当に助かった」「俺は手配をしただけだ。まぁ俺が間に合わなくても一弥のその財閥のデカい力と、どんな語学でも堪能な実力があればどうにかなっただろうけどな」「だとしてもこんな手早く出来たのは、こっちで顔が効く詠司のおかげだ。正直あの時の俺はそんな余裕まったくなかったからな」「珍しいな、お前がそんな余裕なくなるの」「あぁ、確かにそうだな……」詠司に言われ初めてそれに気付く。確かに俺が自分以外の誰かのことで焦ったり余裕なくなって、他のことが何も考えられないなんて状況は今まで一切なかった。それが自然と口から出るくらい自分でもそうだと自覚していたということなんだろうな。「今仕事でこっちに来てるとは聞いてたけど、まさか奥さんを連れてくるほどお前が愛妻家だとは知らなかったよ」そう言われて、俺の行動は他人からするとそんなふうに見えるのだと知る。「元……だ」「ん?」「元……妻だ。あいつとは別れたんだ」自分で呟くその言葉と詠司が何気なく言うその言葉に、なぜか複雑な気持ちになる。「あぁ、そうだったな……。ならどうして二人は一緒に? お前のあの病院を探してほしいと電話してきた声は、今までにないくらい必死ですごい勢いだったぞ」「それは……」「あれほど必死で焦ってるの見て、よっぽどお前にとって奥さんは大切で助けたい特別な相手なんだと思ったけどな」大切……? 特別……?まさか……。ただ目の前であんな状況になったから、ただ俺は……。「ただ……助けたかっただけだ──」そう答えた。まだ俺自身、杏華に対して感じる最近のいろんな気持ちがどんな意味があるのか、まだ答えが出ていない。ただ、杏華といればいるほど、俺は今までの自分がどんどん崩れていくという、そんな自分でも感じる違和感みたいなものには、少しずつ気付き始めてはいるけれど……。「まぁ、自分ではまだ気付いていないみたいだな」詠司が俺を見て何やらよくわからないことを呟く。「どういう意味だ」「俺がさっき言った言葉そのままだよ」今までの俺ならすぐにそんなことを言われれば否定していた。だが、今はすぐに否定出来ない自分がいる。今俺
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第89話 自覚

【一弥side】「バカなこと言うな! 俺はあいつに興味なんかまったく……!」「お前さぁ、そうやって否定すんの何?」「何がだ」「受け入れりゃいいじゃん。彼女もお前の気持ちもまるごと」「だって、あいつは……!」「前に言ってた男関係が酷いって話?」「それ……もある……」「それお前が実際見たの?」「違う。綾乃から聞いただけで……」「あぁ。彼女の妹だっけ?  昔そっちとお前付き合ってたんだっけか」「あぁ……」「俺が見る限り、彼女そんなふうには全然見えないんだよなぁ」「それはお前があいつのことを何も知らないからだろ」「お前も知らねぇじゃん」「……!」「少なからず俺が知ってる前のお前は、彼女を知ろうともしなかっただろ? 彼女のことも、彼女の気持ちも」「それは……」「お前の思い込みだけで全部決めつけんな。お前が見たこと、感じたことでちゃんと判断しろ」詠司は最もな言葉で俺を非難していく。それは今の俺には、悔しいけれど言い返せない事実で、自分でも心のどこかでそれを後悔し始めていた。「さっき、お前が杏華さんが流産しかけたこと電話で伝えてきたとき、俺はお前の本当の気持ち見えた気がしたけどな」「俺の本当の気持ち……?」「お前、電話で死にそうな声してたぞ。あんな動揺して不安なお前の声、初めて聞いたわ」「いや、俺は……」「そろそろ素直になれよ一弥」俺の素直な気持ち……?  「お前にとって、杏華さんがどういう存在か。ちゃんと考えてみろ」そんなこと今まで考えたことなかった。俺にとって杏華がどういう存在なのかなんて。俺にとって一体杏華は……。「正直……、今わからないんだ。俺にとって杏華がどういう存在か……」「だろうな。お前にはまだわかんないだろうな。大切な人を失くしてしまう怖さも、愛する人に辛い想いさせてしまう苦しさも」「お前にはわかるのかよ……」「あぁ。俺は、何度も大切な存在を失いかけてるからな……」「何度も……?」「あぁ。俺はお前より辛い経験をしてる」「辛い経験……?」「あぁ。──紗耶香は一度流産してる」「え……」「その頃の俺は仕事が忙しくて、妊娠していた紗耶香を気遣ってやることも心配することもしてやれなかった。そんなとき、紗耶香は一人いろいろ無理をして、結果流産した。俺はそんな無理をさせていたことも全然気付いてやれ
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第90話 まさかの過去

【一弥side】「まぁまだ今のお前にはしっかり自覚しろって言ったところで難しいだろうが、お前なりにそこはちゃんと意識して杏華さんとちゃんと向き合って守ってやれ」「わかった……」「まぁ実際子供が産まれたらお前の気持ちも自然に変わっていくさ」「そんなもんなのか?」「あぁ。俺も息子が産まれるまでは、そんな感覚あんまなかったけどな。でも子供の存在っていうのは本当に人生変えるぞ」「確かに今お前いい父親だもんな。でもまさか紗耶香さんにそんな過去があったなんて思わなかったけどな」「紗耶香も昔そういう辛いことがあったあとで、息子を産んでくれたことには本当に感謝してる。俺にとって家族は本当に何より大切な宝物だ」「俺もそんなふうに思えるときが来るのかな……」「そうだな。それが俺はこの先産まれるお前の子供と杏華さんがそうなるって感じてるけどな」詠司に言われ、一瞬そんな未来の想像をする。鮮明に想像出来たわけではなかったが、案外うっすら思い浮かべたそれも悪くなかった。そして俺がそんなことを少しでも思い浮かべられたこと自体、今までの俺から考えるとあり得ないことだった。「俺ん家さ、母親がガキんときいなくなったんだよね」すると、詠司が急にボソッとそんな衝撃な告白をしてくる。「え……!? またお前そんなことサラッと……」「俺にとって家族がそろった幸せな家庭っていうのは、ずっと縁がなかったことだったから。今は全力で家族を大切にして守ってる」「そういうことだったのか……」「本当は妹もいたんだ。本来なら家族になるはずだった」「それはどういう意味だ?」「俺は会うことも出来なかった母親の腹の中にいた妹」「そんな状態で家出たのか?」「あぁ。急に好きな男が出来たとか言って父親に離婚切り出した」「急に?」「そう。急に。ほんの少し前までは、すげぇ仲いい幸せな家族だったんだよ。だから母親のその言葉がどうしても俺は信じられなくてさ」「確かにそれは納得いかないよな……」「うちん家さ、今でこそこんなに世界的に有名なデカい会社になったけど、その頃小さな工場経営しててさ。借金まみれで、すげぇ貧乏だったんだ」「そうだったのか」詠司から聞くその話は初めてのことだった。今ではそんな想像も出来ないくらい世界的にもデカい会社でもあり、この詠司の性格の明るさから、そんないくつもの苦
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