社長、離婚した奥様が世界的トップモデルになっています! のすべてのチャプター: チャプター 101 - チャプター 110

121 チャプター

第101話 冷愛の後悔

【一弥side】はぁ~疲れた。入院の手続きをするだけで、どうしてこんなにも時間がかかるんだ。無駄にこっちの女どもに声もかけられるし、連絡先まで渡されるとは。病人にとって大事な連絡だというからあの紙も受け取ったのに、その場で見たらあの看護師の連絡先じゃないか。そんなの受け取るはずないだろ。せっかく異国の地でそういうわずらわしさから逃れられたと思ったのに、こっちでもこんなことうんざりする。どうもあの積極的にアプローチする女どもが苦手で仕方ない。それに比べ杏華はあんな女たちとは正反対だな。あんな女たちみたいに露骨に好意を垂れ流されるのも迷惑だが、逆に杏華みたいな女も何を考えているのかわからん。だが、何を考えてるのかがわからないから、そんな杏華が気になって仕方ない。結婚していた時は、ただ従順に尽くしてその妻という義務を果たしているだけと思っていた俺は、あいつに必要以上の気持ちも役割も求めようとは思わなかった。政略結婚で一緒にいただけの関係に、愛だのそんな想いも必要はなかった。俺も妻という役割り以上に求めもしなかったし、あいつもそれ以上の関係を望んでいなかったはずだ。だからだろうか。結局あいつといた三年間、杏華が何を考えているのか俺は理解することが出来なかった。だけど、綾乃から杏華が俺以外の男には心も身体も許していると聞いて、どうしてなのか俺の心は激しく乱れた。俺にはいつも冷静に義務的にしか接していない杏華が、他の男にはどんな表情でどんな言葉であいつ自身をさらけ出しているのかと思うと、俺の暴走は止められなかった。あの日、俺が暴走してしまったことで、杏華に負担をかけ一人で子供を抱えるという申し訳ない選択をさせてしまった。俺がもう少し自分を止められていたら、あいつに今こんな辛い想いなどさせずにいたはずなのに……。だが、そう思う気持ちと同時に、あいつの中でどうやったって消えることのない俺とのその時の証みたいなものを感じられて、勝手だが今ホッとしている自分がいる。唯一杏華と繋がっていられる証。それがあることを今俺はこんなにもよかったと思ってしまっている。そう思いながらも、今杏華と新しい関係を築きだして、初めて知る部分が少しずつ増えていく。今思えば、もう少し杏華と向き合うことが出来ていれば、この関係ももしかしたら変わっていたのかもしれない
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第102話 放したくない

【一弥side】杏華……。穏やかに眠るその姿を見つめる。触れたこの頬から杏華の柔らかい肌もぬくもりも感じ、俺の胸は今まで感じたことのないほど高鳴りを増す。ただ触れるだけでこんな高鳴りを感じるなんて、初めてのことだった。どうしてもこの手を放したくない。ずっと触れていたい。この触れた手から、杏華の想いがすべて伝わればどんなにいいか……。知りたい。お前が思っていることすべて。俺が受け止めてやりたい。お前の苦しみ全部。この感情がどういう意味かなんて、そんなこともどうだっていい。ただ杏華に触れていたい。知りたい。そばにいたい。溢れてくるこの想いは止められることが出来なかった。そんな想いがこのまま増していくと、また杏華を壊してしまいそうで、俺は仕方なくそっとその手を外す。だけど、杏華から目を離すことは出来なくて、俺はただ杏華を見つめ続ける。それでも少しでも杏華に触れていたくて、俺は眠っている杏華の手をそっと両手で握り締める。その瞬間、あまりのか細さに驚いてしまう。こんなにも細い身体で、杏華は一人子供を守ろうとしてるのか……。俺はこんなか弱い杏華に酷い言葉を投げつけて、あんな辛い決心をさせてしまったのか……。「すまない。杏華……」俺は無意識に口から出たその言葉と共に、杏華の手をギュッと更に強く握り締め、自分の方へと引き寄せる。その手を握り締めたまま、俺は自分が情けなくてうなだれていく。「杏華……。お前は、どれだけ辛い想いを……。一人で辛い想いをさせて悪かった……」俺は気付けば、そんな言葉が口から零れていた。「俺の身勝手な暴走で、お前を傷つけた……。お前一人、こんな苦しみを抱えさせて……今更取り返しのつかないことをしたって後悔しても、遅いのはわかってる……。その辛さを俺がどうにか出来るならしてやりたいのに……、お前とどう向き合っていいのかわからないんだ……。せめて……少しでも一緒にいたとき、お前と向き合っていれば……お前の気持ちも、この現状も変えることが出来ていたかもしれないのに……」面と向かって杏華にこんなこと絶対言えないはずなのに、眠っていると思うと、その溢れてくる感情は止まらなかった。「お前を……、大切にしてやりたいのに……。今更どのツラ下げて……」素直な感情がどんどん溢れてくる。自分でそれらを言葉にすることで、ようや
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第103話 隠されていた願い

まさか彼からそんな言葉で出てくると思わなかった。今ここにいるのは本当にあの一弥さんなの……?彼が一つ一つ口にしてく言葉を聞いていくうち、この胸がどんどん締め付けられていく。聞いたことのない彼の声と言葉に、私は思わずうっすらと目を開けてしまう。すると、彼はうなだれ私の手をギュッと握り締めて、そんな私に気付かないままだった。うなだれて顔は俯いているのに、私の手を握る手はギュッと力強く握り締めたままで。そんな弱り切った一弥さんを、私は思わず目を開け気付かれないように見つめてしまう。きっと私が寝ていると思っているから口にしてくれてるのだとわかっているのに、そんな彼だからこそ今の彼を一瞬でも見逃したくない。彼が私を傷つけたというその言葉。このお腹の子が出来たそれは、決して私にとっては不幸なことではなかった……。一度でも愛した彼の子を身ごもり、そして私に一番何より大切な存在を与えてくれた。それは間違いない事実だから……。だけど彼が私の苦しみを感じ責任を感じている。過去を後悔して、どうにかしたいと思ってくれている。あの彼がそんなふうに思うだなんて信じられなかったけど、確かにそれは彼の言葉で、今ここにいる弱々しい彼も私の知っている彼だった……。「お前を……、大切にしてやりたいのに……」私は初めて聞くその彼の声と言葉に、今まで感じたことがないほど胸が締め付けられる。彼が一つずつ口にしていく言葉に、今のその後悔や切ない想いが感じられてくるようで……。「杏華……。許してくれとは言わない……。だが、せめて……俺に、お前と、子供を守らせてくれ……」彼のその言葉を聞いて、私は気付けばまた涙が零れていた。一弥さんがそんなふうに思ってくれているなんて……。「もう……俺の前から、二度といなくならないでくれ……」泣きそうな声で呟く一弥さんに、胸が苦しくなる。「俺を嫌ったままでもなんでもいい……。だけど俺にお前たちを守る権利だけは拒否しないでくれ……。頼む……」嫌ってなんて……いない。私はずっとあなたのことを……。その言葉を口に出来たらどんなに楽だろう。だけどこんなにもねじれてしまった私たちの関係は、そんな簡単にどうにか出来るものではなかった。それでも彼にそんな想いが想像していることを知れただけでも、私は救われた気持ちになる。どう向き合えばいい
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第104話 近づいていく心

その声と同時に、私は今目を覚ましたようなフリをする。「一弥さん……?」「杏華。お前また泣いて……」「あぁ。本当だ。やだ。なんか不安になる夢見ちゃったかも」私はまだ残っていた涙を拭いながら、そんな言葉で誤魔化した。別にそれが嘘だと思われてもいいと思った。だけど、今のこの私たちを何かの言葉で認めてしまうのは、まだ不完全な気がした。「あぁ……。そうか……」きっと彼も私の手を握り締めていたことも、素直な気持ちをさらけ出したことを、私に気付かれたと思われたくはないだろう。彼も何もなかったように言葉を返した。「大丈夫か……?」「あっ、うん。大丈夫……」それでも彼の気遣ってくれるその想いが伝わって来た。「ねぇ……。本当に今日この部屋で一弥さんも寝るの……?」別に同じベッドで寝るわけでもないし、少し離れたソファーベッドのような場所で、彼は仮眠するみたいな形になるだけだけど……。「……嫌か?」「え……?」「もし、お前が少し離れた場所でもお前が同じ空間にいるのが嫌なら──」「──違う!」「え」彼が珍しく後ろ向きなことを言ったことに反応してしまい、私はすぐに言葉を返す。「ただ、あなたにそんな場所で一晩寝てもらうことが申し訳なくて……」そして私のために、わざわざそんなところで疲れるようなことをするこの人をまだ想像出来なかった。いざそうしてから、彼が”しんどくなってやっぱり言うんじゃなかった”、なんて思われるのも嫌で……。今少しでも彼の気持ちが私に向いてくれているときに、ほんの小さな可能性でもまた彼の機嫌を損なうことも、気持ちが離れるきっかけも作りたくなかった。「まったく構わない。そんなのお前は気にするな。仕事で忙しいときは、会社のソファーで何度も一晩明かしたことなんていくらでもある」だけど彼はさらっと私の言葉を覆す。「そうなのね……。今までも会社でそんなことを……? じゃあ、結婚してたときも何回か……?」「あぁ。一応連絡していたつもりだが。仕事で今夜は帰れないと」意外だった。そんな急に帰れない仕事なんて口だけで、他の女性の存在があるんじゃないかって、あの頃の私はそんなことを思ったりもして悲しんでいた日々も多かった。だけど、本当にこの人は仕事だったんだ……。「そのときに、そういうことをしてたの……?」「翌朝までに片づけなきゃ
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第105話 歩み寄る二人

 「フフッ……。そういうことなのね」私は思わず一弥さんのその不器用な性格に笑ってしまう。「──なんだ。何がおかしい」「いえ。一弥さんがそんな不器用な人だと思ってなかったから──」「別に俺は不器用じゃない」「そんなに言葉足らずなのに? あなたのその言葉では、ちゃんと伝わらないわ。あなたのその言い方じゃ、私をただ否定して拒否しているだけに思える」「別に、拒否しているわけじゃ……ない」「それなら……、私はその頃にそうやって話してほしかった」「え……」「あなたが何も教えてくれないことで、私はあなたが仕事で何をしているのか、どれほど大変な思いをしているのか、当然だけど知ることが出来なかった」「あぁ……」「ずっと家にいる私にとっては、ただあなたとの時間だけがあの頃唯一の楽しみだったの。たとえどれだけ無視されて冷たくされても。一人で過ごす時間より、少しでもあなたとの時間を大切にしたかった……。だけど、あなたはそんな私に気付きもしなかったから……。私は……、どんな些細なことでもいいから、あなたのことをもっと知りたかった……」彼以外の人なら冷たくされたら一人の時間の方が楽だと思ったかもしれない。だけど、私はずっと彼のことが好きだっかたら……。どんな彼でも、私は一緒にいられるだけで幸せだった……。「お前のそんな気持ち、初めて聞いたな……」「……こんな気持ち、一生伝える気なんてなかったわ……」きっと弱ってる今だから、伝えられた気持ち。「あなたと同じように、私のそんな気持ちもあなたにとっては迷惑なだけだと思ったから──」「──それは」彼が何か言葉を返そうとして、口をつぐむ。「──俺たちは、本当にあの頃交わす言葉も過ごす時間も、あまりにも少なすぎた……」彼が私の言葉を否定せずに。そんなふうに呟いた言葉。不思議とそれは今の彼の気持ちのように聞こえた。「そうね……。あなたも私も、三年も一
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第106話 波乱の予感

 病院で一弥さんに妊娠を打ち明けてから、ほんの少し一弥さんとの距離感が変わった。あの病院で同じ夜を過ごしてから、一弥さんは言葉通り、退院し日本に帰るまでずっとそばにいてくれた。極端に何かが変わったわけではないけど、彼は家に着くまで私と歩幅を合わせ歩いてくれたり、後ろにいる私を気にかけ何度も振り返り様子を確認してくれたり、私という存在をちゃんと意識するようになっていた。そんなさり気なく気にかけてくれることだけでも、今までの私たちを考えると、とても大きな進歩といっていい。十分なほど病院で静養したおかげで、日本に帰ってきてからも特に問題はなく、私はすぐに仕事に復帰した。今日はそれから久々の現場での仕事で、今回も大勢のモデルとの撮影。まだまだ現場を数多く経験出来てない私は何事も経験したくて、どんな仕事でも挑戦するようにしている。そして今日の撮影が終わり、スタッフさんにその場で待機しているように指示され、一弥さんと次の仕事の話をしながら待っていると、モデルたちが何かの話題でざわざわ騒いでいる。「えっ、本当に隣のスタジオに神崎龍我がいるの!?」「海外でずっと仕事してて最近日本に帰ってきたんだよね? 彼に生で会えるとか滅多にないよ!」「え~会いたーい! なんとか撮影見れないのかな!?」その話の内容を聞いていると誰か有名な人が隣のスタジオにいるらしい。なんとなく芸能人っぽい気がするけど、元々そういうのに興味もなく疎い私は特に気にも留めずにいると。「お前は、興味……あるのか?」「え? 何が?」一弥さんが何かを気にかけて尋ねてくる。「その神崎とかいう奴」「いえ全然知らなくて」「そうか」そもそも今までの私は一弥さんに夢中だったから、正直他の男性に興味もなかった。私の中では、彼が誰より一番かっこよくていつだって輝いていたから──。なんて、今はもう過去の話だけれど……。「あぁ、こういう奴か。最
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第107話 行きたい場所

 「あっ、今確認してきました! 今、神崎さん外で撮影されてるので、遠くからならモデルの皆さん見学されてもOKだそうです!」さっきモデルの一人がスタッフさんにお願いしていた見学を、どうやら了承をもらってきたようだった。「え、嘘っ! ありがとうございます!」「生の神崎龍我会えるなんてすごくない!?」「彼。ハリウッドモデルとかとも共演してるよね。もしかしてここでアピールしたらどうにかなれたりするかも!」当然その報告にモデルたちは更に騒がしくなり、色めき立つ。「すいません! ちょっと皆さんにお願いがあるんですけど、よろしいでしょうか」すると別のスタッフさんが、少し焦った様子で私たちモデルの皆に大きな声で声をかける。「ある出版社の雑誌撮影で急遽モデルが体調悪くなって、一人誰かその現場に言ってもらえないでしょうか!?」そのお願いにモデルたちは、このタイミングに少し怪訝な顔をする。「それどこの雑誌ですか?」「有名なファッション誌とかですか?」モデルたちは少し不服そうにしながら、スタッフさんに質問をする。「いや、有名なファッション誌ではなくて、主婦向けの子供との撮影なんですが……」「え~子供!? 無理無理」「私たちまだそんな年齢じゃないし」「それなら絶対神崎さんの撮影見れる方がいい!」スタッフさんの話に、そこにいるモデルたちは否定的な言葉ばかり呟く。「あ~困ったな。やっぱり誰も引き受けてくれないか。もうあんまり時間ないのにどうしよう……」そんなモデルたちの反応にスタッフさんが困った様子を見せる。誰一人その撮影に意欲的ではなく、興味も示さない。「あの。一弥さん。私、行っていいかな?」「はっ? ダメだ! あんな男の撮影なんて見たって何の得にもならないぞ!」すると彼はなぜかちょっと怒り口調ですぐに却下する。「えっ? 違うの。そっちじゃなくて」「はっ? 違うってどういう意味だ」「そ
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第108話 突然の出会い

 私にとっては、そんなよくわからない人の撮影を見るより、この撮影の方がよっぽどワクワクしていた。その雑誌が有名であろうがなかろうが、別にどっちだっていい。自分という存在がどういう場所で必要とされて、どういう場所で活躍出来るのか、自分が輝ける場所を、私はいろんな方法を試して探してみたい。「じゃあ現場まで送っていくから、車回してくる。着替えたら下の駐車場まで来てくれ」「わかった。ありがとう」一弥さんのその言葉に、私はモデル仲間の陰口を特に気にもせずに楽屋に戻り着替えに向かった。そして着替え終わり楽屋を出ようとすると、一弥さんから携帯に着信が入る。「もしもし」『杏華。車だが入口の方の──』一弥さんからの話を聞こうとしたタイミングで「うわっ!」「キャッ!」目の前が一瞬見えなくなったと思ったら、誰かとぶつかる。と思ったら、私の視界は何かに遮られたまま。え、これどういう状況……?驚いて手で前方をガードしたつもりが、どういうわけか私の目の前に頼もしい誰かの胸が存在して、ちゃっかりそこに手を触れたような状態になっている。しかもそんな私をその人は、しっかりと腰の辺りを支えるようにギュッと抱き締めていた。「大丈夫?」すると、頭上から男性の声が聞こえる。その声がする方に顔を上げると、すぐ数センチの距離で、その男性が私を見下ろしている。うわっ、綺麗な人。その男性の整った顔を見て、一瞬心の中で呟く。じゃなくて──!「あっ! 大丈夫です!」私はその瞬間状況を察し、その男性から勢いよく離れる。「すみません! ちゃんと前を見てなくて」私は深々とその人に頭を下げる。「あの、あなたは大丈夫ですか?」「えっ?  あぁ、こっちも大丈夫」「ならよかったです」私はホッとして微笑む。
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第109話 一触即発

 えっ!? 一弥さん!?廊下の遠くの方から一弥さんが険しい顔をして、こっちに向かってすごい勢いで向かってきているのが見える。かと思ったら、抱き締められている私の腕を引っ張り身体ごと力任せに引き離す。そしてそのまま勢いよく一弥さんの方へとぐいっと身体ごと引き寄せられ、今度は一弥さんに抱き締められてしまう。「彼女に何か用ですか」一弥さんは、私を抱き締めながら目の前の男性を睨みつけるような表情で尋ねる。するとその男性は特にひるむこともなく、余裕そうに微笑む。「あの一弥さん……」その二人の間の空気がいたたまれなくなって私が口を開く。「何やってるんだ!」すると彼が怒っているような表情を見せながら声を上げる。「えっと、あの、この人と今ぶつかっちゃって、謝ってるところで──」「謝る? お前何やったんだ」「さぁ……?」「は?」私もこの状況がよくわからず曖昧な返事を返す。「私も何をしちゃったのかわからなくて、今聞いてるところで……」「どういうことだ。それでなんでお前はこの男に抱き締められていたんだ」そんな一弥さんの言葉に私は思わず苦笑いをする。「あの。彼女が何か──」私の代わりに一弥さんがその男性に話しかけようとすると、なぜか一弥さんは話している途中で、その男性を見ながら固まる。「あなたは……」「一弥さん? 知ってる人?」「いや──。知ってるというか……」「あなたは俺のこと知ってくれてるみたいですね」その男性はにこっと微笑む。「別にそこまでは……。というか、あなたが彼女に何の用事ですか?」一弥さんはその男性に気付いた素振りを見せるも、なぜか少し攻撃的な表情と言葉で返す。「あぁ、彼女の名前を知りたくて今聞いてたところで」だけどその男性は、そんな彼の態度に怯むことなく、平然と答える。「
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第110話 すれ違い

 「いいか。あいつにどこかで会っても絶対相手にするなよ」一弥さんは車に乗り込んでからも、険しい表情が変わることがなく、そんな言葉を私に告げる。「どこかでって……。私あの人のこと誰だかも知らないし。一体誰なの? あなたにとってあの人はどういう人なの?」「別にあんな男と何も関係なんてない。お前が知る必要のない男だ。お前は一生知らなくていい。これ以上気にするな」一弥さんは運転しながらじっと前を向き、冷静に答える。「気にするなって言われても、気になるわよ……」「……は? どうしてあの男がそんなに気になるんだ。お前はあんな男が好みなのか。やっぱりお前はそういう女なのか──」「何……それ……。私は、ただ……」私はただ一弥さんがどうしてそんなにイラついてるのか、どうしてあの男性にそこまで感情的なのかを知りたかっただけなのに……。あの男性のことなんてどうでもいい。一ミリだってあんな男の人そんなふうに思ったことなんてないのに──。どうしてこの人はいつもこんな言い方しか出来ないの?どうして私の気持ちを勝手に決めつけるの?「ただ、なんだ」「……どうしてあなたはいつもそうなの……。私のこと、何もわかってないじゃない。あんな人全然好みでもなんでもない。まったく興味なんてないわ。私はただあなたのことが気になって──」「え……?」「もういい──。降ろして」自分の中で張り詰めた糸が切れたような感覚になった──。「は……?」「もうスタジオ着いたでしょ! 早く止めてってば!」私はあまりの彼の勝手な理不尽な言動に腹が立ち、叫びながら運転している彼の身体を思いっきり揺さぶる。「おい! 何やってんだ! 危ないだろ!」「知らないわよ! あなたが私のことをそうやってまた疑うからでしょ! もううんざり! そんなに気に食わないなら私のことなんてもう放っておいてよ!」私は自分でもよくわからないほど感情が激しくなってしまって、
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