All Chapters of 社長、離婚した奥様が世界的トップモデルになっています!: Chapter 121 - Chapter 130

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第121話 知らなかった苦しみ

【一弥side】杏華から電話で状況を聞いたすぐあと、俺はすぐにある行動に移した。ある物を急いで手配し、それと同時に、現場の近くまで来ていた俺は、その足で急遽近くのコンビニへと初めて立ち寄った。昔、結婚していた時、いつだったか杏華が話していたことを、その時ふと思い出した。それは、俺がまったく馴染みもなく、口にもしたことのなかった、”コンビニのおにぎり”が好きだということ。その時は、特に杏華と大した会話をすることもなかったうえに、そんな庶民のよくわからない食べ物を好きだと言っている杏華に興味もなかったから、特にそのことを意識もしていなかった。だけど、執事からたまに杏華が、自らコンビニのおにぎりを嬉しそうに食べていることを聞いた。俺はそのことを思い出し、おにぎりを探す。だがあまりの種類の多さに何を買っていいかわからず、そのときまた俺は、杏華がどんなおにぎりを好きなのかも知らなかったことに気付く。だが時間があまりないこともあり、俺はおにぎりを全種類買い、他に適当にスープやサラダやらを大量に買い込んだ。急いで駆けつけた公園のベンチで杏華が座って待っていた。俺はなぜかそんなことだけで少しホッとした。いつの間にか、杏華が俺の見えないところで何か困っていたり、苦しんでいたりすることが、少しずつ怖くなっていた。また一人にさせると何が起きるかわからない。杏華自身も、お腹の子供も……。杏華自身がいくらそれを跳ね除けようと頑張ったところで、この世界では足の引っ張り合い、落とし合いが日常茶飯事だ。杏華から、自分の分だけ弁当がないと聞いた時、またそれは確信めいたことなのだと一瞬で気付いた。俺はあの病院で、二人を守ると決めたんだ──。「お前は、そのおにぎりが好きなのか──?」「え? あぁ、うん。これが一番好き」そう言って、嬉しそうに笑う。そうか……、こんな物でも、杏華をこんな風に笑わすことも出来るのか……。「このおにぎり。小さい頃、よく母親と食べた想い出の味なの」「母親? あの母親がそんなおにぎりを?」「あっ、今の母親じゃなくて……。一弥さんには言ってなかったわよね。小さい頃、病気で母親が亡くなってるの。だから今の母親と綾乃は、義理の家族」初めて杏華から聞いた言葉。きっと普通の夫婦なら、そんなこと当たり前に知っていたはずのこと。だけど、俺は
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第122話 蘇る記憶

【一弥side】「えっ、どうしたの? そんなにじっと見つめて……」杏華にそう言葉をかけられ、俺は無意識にずっと見つめていたことに気付く。「あっ、いや。そうだ。これもあるんだ」そんな自分を誤魔化すように、一緒に買ってきたもう一つの袋を渡す。「スープ? こんな物まで買ってきてくれたの?」「今日は少し肌寒いからな。おにぎりだけじゃ温まらないだろ」俺は少し照れくさく感じ、杏華の方を見ずに答える。「昼からもあまり気温が上がらないらしいから。少しでも体を温めておけ」今は杏華一人の身体じゃない。こんなことで変わるのかもわからなかったが、とにかく自分が出来ることをしたいと思った。「ありがとう……」杏華が、静かに呟く。そのスープを取り出そうとしたとき、杏華が何かに気付き、カバンからハンカチを取り出し、膝の上に乗せる。「どうした」「あっ、スープの底が零れていたから、念のため衣装を汚さないようにと思って。気を付けて食べるね」「悪い。零れてたのか。急いで持ってきたから、一瞬その容器が傾いてしまったのかもしれない」「あっ、うん。大丈夫」あの時、必死に持ってきてたからな……。スープが零れるなんて意識まったく飛んでいた。「急いで持ってきてくれたのね。ありがとう。あったかい」杏華はスープを手にし、温かいと手を温めながら、ふわっと柔らかく微笑む。杏華はそれを責めることなく、自らのハンカチを敷き、それを口にしようとしてくれる。俺はそのことに、まず驚いた。前に綾乃と一緒に食事をした時、あいつは店のスープが零れただけで、すぐ交換しろと我儘を言っていた。自分のドレスにかかってしまったから弁償しろと、そういえば抗議までしていた。だけど、杏華は、すべての出来事に責めることなく対応し、相手の気持ちを無下にしない。その返す言葉にも、行動にも、杏華が元から持ち合わせている品と優しさが表れている気がした。その取り出したハンカチも、杏華らしい品あるハンカチ……。……え。そのハンカチを見て一瞬固まる。白いハンカチに繊細な糸で刺繍されている紫の小花と文字がデザインされている。見覚えのあるその刺繍のデザイン。これは、確か綾乃が昔俺を助けた時に……。「そのハンカチ……。それは、お前の物か……?」どうして杏華が持っているんだ……。「え? これ? そうなの。そ
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第123話 運命が変わった真実

「聞きたいこと……?」ハンカチを見て、一瞬で表情も纏う空気も変わった一弥さんにその瞬間気付く。けれど私は、あえて何も気付かないフリをして微笑んだ。──もしかして、このハンカチを見て、あの時の事故のことに気付いてしまったのだろうか……。心臓が激しくなる。気づかれちゃいけない。今までずっと必死に隠してきたあの日のこと。ずっと想い続けていた彼が目の前で命の危険にさらされていた私は、とにかくあの時必死に彼を助けた。血だらけになっていた彼の傷口を、持っていた母の形見のハンカチで必死に縛り、泣きながら救急車を呼んだ。とにかく「生きてほしい」「助かってほしい」と必死に願いながら、彼の手を強く握り続け、その安否をずっと祈っていた。もう目の前から大切な人を失いたくない。ただ生きててほしい。それだけでよかった。だけど、無事助かった彼の隣には、命の恩人として、なぜか綾乃が存在していた──。私なんかが彼に関わったことで、彼に迷惑をかけたくないと、そう思った。だから、弱くて勇気のない私は、その場から逃げた……。無事救急車が来たことを見届けた私は、誰にも名乗らずにその場から姿を消した。そう。あの時、私が逃げたことによる、これは”報い”だ。彼は、命の恩人の綾乃とそのあと付き合い始めた。もしそのとき、私がそこにいることが出来れば、そこにいたのは私だったのだろうか……。それを知っていれば、そのとき愛してもらえていたのだろうか……。いや、きっとどんな形にせよ、彼にとって愛する女性を綾乃として選んだことは変わらない現実だったのだろう──。結局私が綾乃の変わりに結婚しても、彼は一度だって私を愛すどころか、見さえもしてくれなかったのだから……。綾乃は私の代わりに恩人となり愛されても、私は綾乃の代わりに結婚相手として愛されることはなかった……。その残酷な事実は、きっとどんな形になっても変わらない──。それなら、私の淡い初恋も、彼の綾乃への想いも、今更傷つけ合い汚れた物にする必要はない。ただ、彼が今こうやって生きていてくれること、今愛されなくても、ここでこうやって一緒にいること。それだけで私は十分なのだから……。私はその時の切ない想いを思い出し、瞼に熱い物が込み上げそうになるけれど、気づかれないように必死に堪える。その時、一弥さんは少し不安そうな表情を
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第124話 壊してしまった幸せ

【一弥side】そうだ……。その言葉だ。確かに『Be hapy』という言葉が、あのハンカチには記されていたはずだ……。「幸せになって」……。あぁ、母親からそんな大切に育てられた杏華を、幸せにするどころか、愛すこともなく、疑い、傷つけ、離婚した……。杏華は、母親のそんな大切な形見で、俺の命を救ってくれたのに……。心臓が今までにないほど、ドクドクと強い衝撃で打ち付け、自分でした大きな罪に、グサグサに刃物で傷つけられたような感覚になる。頭が割れそうなくらいズキズキと痛みを訴え、割れそうなほどの苦しみを感じた。その真実を知り、俺は今まで杏華にしてきたすべての恐ろしくて卑劣な情けない言動を思い出し血の気が引く。俺は杏華に何をした……?どんな酷い言葉を投げつけた……?どこからそれは始まっていた……?俺を助けてくれたのは杏華で、だとすれば綾乃は俺を助けたと嘘をついていた──。それだけじゃない。離婚に追いやったすべての綾乃の言葉も、全部綾乃の嘘……?男癖が悪いということも、綾乃を騙して海外に行かせたということも、綾乃の全部……。確かにそう思えば、すべて辻褄が合ってくる。最初から事実じゃないと杏華は否定していたのに、俺は恩人である綾乃を信じ、まったく聞く耳も持たなかった。だけど、綾乃が言っていた杏華のすべては、今俺がこの目で見て、接している限り、明らかに正反対で、どれも信じがたいことばかりだった。どれ一つ一致するどころか、普通の人間以上に、真面目で純粋で誠実で……。品のあるその優しさは、そんな言葉が似合いもしない、杏華そのものから醸し出すものだった。本当は今すぐ確かめたかった。あの時助けてくれたのは、お前だったのかと。俺はとんでもない間違いをしてしまっていたのだと、ちゃんとその真実を確かめたかった。だけど、今微笑んでいる杏華のこの笑顔を、俺の勝手な気持ちで、傷つけて壊したくなかった。今は大事な撮影中だ。杏華の感情をこれ以上乱したくはない。だけど、そう思ってはいても、その事実は俺の中で確かめる必要がある。あの保管庫に仕舞い込んでいる、あのハンカチさえ見れば──!だけど、このあと俺はやらなきゃいけないことがある──。「おいしかった。ご馳走様。これで午後の撮影も頑張れそう」ご馳走様と言いながら、手を合わせ、俺に微笑みながら礼を
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第125話 驚きのサプライズ

現場に戻ると、ざわざわ騒がしかった。さっき以上に現場が賑わい、歓声が上がっている。「何なの……?」私は不思議に思いながら、その場所へと近づいていく。「え? もう撮影が始まってるの?」そんな風に思うほど、さっきまでいた場所が、明らかにそこは違う場所になっている。そこは、ただのロケの場所からホテルの会場の豪華なブッフェ会場に早変わりしていた。数々の豪勢で高級な料理が、テーブルいっぱいにズラッと並んでいる。その料理をシェフたちが更に盛り付け、サーブスタッフが丁寧に料理や飲み物を運び提供している。「うわぁ~こんな豪華な料理見たことない!」「あのロゴ。有名な高級ホテルでしょ? 予約がないと食べられないって聞いたことあるよ!」その料理を前にし、スタッフやモデルたちが、興奮し騒いでいる。「何これ……」私はそれを見て唖然としていると、現場スタッフが声をかけてきた。「桐生社長。こんなにすごい豪華なケータリングありがとうございます!」そう、私ではなく、隣の彼に──。私は驚いて、隣の彼を勢いよく見る。「いつも杏華がお世話になっております。今日はこんな場所でロケだと聞いたので、差し出がましいですが、皆様にほんのささやかな普段のお礼として、うちのグループのホテルから急遽ケータリングをご用意させてもらいました」私は思ってもみない言葉と、この現状にただただ唖然として、あっけに取られる。「驚いたか──?」そんな私を見て、一弥さんが少し嬉しそうに声をかけてくる。「驚いたなんてレベルじゃ……。まさかあなたが、こんなすごいことをするなんて……」「あの時、杏華から話を聞いて、すぐに手配したんだ。無事間に合ってよかったよ」あの時にそんな手配したってこと……?あんな短時間で、こんな高級ホテルの人や料理を用意出来るなんて……。それなりにお金持ちの人だとは思っていた。だけど、あの父は詳しくは話そうともしないし、当然一弥さんからもそんなこと聞けるタイミングもなかった。私は想像出来ない彼のすごさを、ここにいる人たちと同じようにこの瞬間知る。「お前が困ってると思って。おにぎりでは、味気なかっただろ。お前も良かったら食え」「私のために……? どうして、ここまで……」私は目の前の彼のこの行動が信じられなくて、つい彼に尋ねる。すると、彼がふわっと微笑む。「さっ
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第126話 ようやく気づいた嘘

【一弥side】「ちょっと一弥お兄ちゃん! 何なのこれ!  酷いよ! せっかく私がサンドイッチ差し入れしたのに!」綾乃があまりの怒りで自分の立場を忘れ、今にも爆発しそうな顔で俺に突っかかってくる。あぁ、こういうことか……。しっかり綾乃を見ていたら、すぐにこんな風にボロが出ていたんだと、今更ながら納得する。今までの現場では綾乃が中心で常にチヤホヤされ、それが普通なんだと気付いていなかった。実際は、そんな素の姿なんて見せずに、俺の前では化けの皮を被っていたということか──。「あぁ~出た出た。RURIの本性(笑)」「自分の都合が悪くなると、あの我儘言い放題怒りまくりのあの豹変。マジ無理」「あの人、気遣うの正直疲れんだよね~」俺の後ろの方で小さくヒソヒソと囁かれてる声がリアルに聞こえてくる。目の前の綾乃は、怒り心頭でそんな声は聞こえていないようだ。それはここにいる関係者が、当たり前のように呟いていた。前に俺が一緒にいるときは、まったく聞こえてこなかった話。それどころか評判がいいと周りからも聞いていた。だが、きっとこれが本当の姿──。あの時は、周りにそう言わせる圧をかけていた、というところだろうか。そのことに俺は心底呆れる。あぁ、本当に情けない:──。俺はこんな性悪女の姿を今まで見抜けなかったってことか……。これから会社を背負う人間として、こんなのあってはならないことだ。<偽物と本物>きちんと見分けられる確かな目を養わないと、俺はこの先この世界を動かしてはいけない。自らが、そんなギラギラと野望に燃える目に、心に、熱くなっていってるのがすぐにわかった。だが、自分の感情だけで口にしたら、目の前のこいつと何も変わらない。今刺激を与えると、綾乃がまた杏華に何をしでかすかわからなかった俺は、あえてその気持ちを抑え込み、冷静な表情や心へと自ら促す。「綾乃。ちょっとこっちへ来い」杏華に俺の本心を聞かれないように、綾乃に冷静に告げ、杏華から離れさせる。「お前が言ってるのは、あの見た目だけのサンドイッチを用意したことか」俺は必死に食ってかかってくる綾乃を見下ろし、思っている感情のまま冷静に告げてしまう。「酷い! 見た目だけだなんて!」さっきスタッフが持っていたサンドイッチの箱を見て、あることに気付いた俺は、更にその現実を、このあと突
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第127話 この先、守るために

 【一弥side】 「でもさすが綾乃だな」「え?」さっきまでの表情から打って変わり、俺はいつもの雰囲気に戻る。「逆に助かったよ。杏華の分だけ、あえて用意しなかったんだろ?」「え……?」当然綾乃は俺の言葉の意味がわからなかった。「杏華が別のスタッフが持っていたサンドイッチの箱を見て気付いたらしいんだが、あのサンドイッチは、杏華が何らかの理由で苦手だった物が入ってたらしいな。皆の前で口にせずにいられたって、逆に杏華が感謝してたよ」俺は少し微笑みながら、綾乃に真実ではない事実を伝える──。その俺の言葉を聞いた瞬間、綾乃の表情が一瞬歪む。そりゃそうだよな。杏華にした嫌がらせが、杏華をこらしめるどころか感謝されるだなんて。綾乃にとったら、ある意味屈辱だろう。「あ、あぁ~そうなの! お姉ちゃん、苦手な物入ってたから、あえて用意しなかったの! それサンドイッチ届いてから思い出したから、ホントお姉ちゃんには悪いことしちゃった」だがその屈辱を悟られないように、綾乃は、俺の嘘の話に、さぞかしそうであったかのように平気で答える。それも今までのように、わざとらしい表情まで見せて──。やはりな……。思った通りだ……。それならもっと煽ってみるかな。「あぁ。杏華は大丈夫だ。適当に、おにぎりを食べさせておいた。それであいつ喜んでいたよ」「やだ、私のせいで……。でも、お姉ちゃんそんなもので満足しちゃうなんて。ウフフッ」どうして俺はこんなことに気付いていなかったのか……。杏華の純粋な想いは、こんな風に捻じ曲げられていくのか……。杏華のそんな話を聞けば、綾乃はそんな反応になると思っていた。それなら、もっとそのお前の気分を
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第128話 本当の優しさと魅力

【一弥side】ビュッフェ会場に戻ると、いるはずの杏華の姿が見当たらなかった。俺は一瞬不安になり辺りを見渡す。自分の目に届かない場所にいると、最近は落ち着かなくなっている自分がいる。また何かに巻き込まれているのか、悲しんでいるのか。自分でもこんな何でもないことで、こんな気が気じゃなくなるなんて、自分でも信じられないほどに──。すると、ようやく見つけたその姿。俺は予想もしないその光景に目が離せなかった。杏華は、何をしてるのかと思えば、ビュッフェ会場の料理を、遠くの現場にいるスタッフたちに、何度も往復して運んでいるようだった。あいつは何をしてるんだ……。だけど、料理を運ぶ杏華の姿も、料理を運んでもらったスタッフたちも、とてもいい顔をしていた──。そこに自然と存在している笑顔や、優しい温かい雰囲気。そのスタッフの驚いた顔や笑顔で、その杏華の優しさがしっかり伝わり喜んでくれているのだと、それを見ているだけでわかる。俺はそんな姿に釘付けになった。甲斐甲斐しく尽くすその姿。少し前まで、その姿は俺に向けられていた行動だった。あの頃、俺はそんな杏華に見向きもしなかった。それどころか、その姿が重荷に感じるほどだった──。だけど……、今この状況を見ればハッキリとわかる。杏華は、そばにいる誰かのために、見返りもなしに動ける人間なのだと。目の前のその相手が困っていたら自然と手を差し伸ばせるその優しさ。ただ、杏華はちゃんと目の前の人間と……、俺に、向き合っていたのだと、今更ながらこんな状況を目にして、初めて気づく。そんな姿が眩しくて綺麗で……。胸がときめくのと同時に、俺はそんな杏華をあんな蔑ろにした自らの愚かさに、胸が痛む。そんな杏華に声をかけられないままの俺に気付き、俺を見つけた途端ぱぁっと明るい笑顔になる杏華。俺はそんな杏華と視線が合い、自然にそんな杏華に小さく微笑み返していた。だが、俺に近づくと同時に、なぜか不安そうな表情に変わっていく。「どうした」「……大丈夫?」「え?  あぁ……うん」その表情は、俺を心配していたのだとわかり、思わず俺は戸惑う。「大丈夫だ。お前が心配することは何もない」「そう……」そう答えた俺に、少し複雑そうな表情をしながら笑う杏華。そんなふうに俺を心配してくれているのを嬉しく思うと同時に、そんな
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第129話 決意した誓い

【一弥side】 「お前は──?」 「え?」 「お前はどうなんだ。俺は、お前に一番に喜んでもらいたくて、食べてほしくて、これを用意したんだ」 杏華の目をまっすぐ見つめながら伝える。 本当はこんな気持ち、伝える気はなかった。 自分自身、ただ無意識で、気付けばとっさに電話をして、これを用意していただけだったから。 だけど、杏華と接していくことで、俺の自分で気付けなかった気持ちが、どんどん明らかになっていく。 その言葉も、ただ無意識に出た言葉。 だけど、その言葉を口にすることで、俺は一番はそういう気持ちだったのかと、改めてその感情に気付く。 だけど、それに気付いたことで戸惑いはなかった。 戸惑いよりも、納得に近い感情だったからだ。 だから、俺は素直なその言葉を隠すことなく、杏華に気付けば告げていた──。 だが、杏華はそんな俺に戸惑った様子を見せる。 だけど、その戸惑いは、決して困った表情ではなく、少し顔を赤らめ照れたような表情だった。 俺はそんな杏華の反応に、嬉しく感じた。 「あの……、あなたが戻ってくるまでは、なんだか気が引けて、もったいなく感じちゃって……」 モジモジと言葉にする杏華を、素直に可愛いと思ってしまう。 「フッ。なんだそれは。お前のために用意したんだ。何も気兼ねなど感じることはない」 俺はそう言って優しく微笑む。 「一弥さん……」 そんな俺を見て、連られてはにかむ杏華。 「ほら。お前もここに座れ」 俺は、杏華を席に座らせる。 「ちょっと待ってろ」 俺はそう言ってその場を離れた。 そして、しばらくして杏華の元へと戻った俺を、驚いた表情で見つめている杏華に気付く。 「一弥さん。どうして……」 「今度はお前がこの時間を楽しむ番だ」 俺は、杏華の前に料理を差し出した。 「これ……」 俺が杏華の前に差し出したある物を見て、杏華が呟く。 「これは、お前のために特別に用意させた、お前の身体にも優しい料理だ」 「一弥さんがこんなこと……」 杏華のために、俺が料理を運んできたことに驚く杏華。 最初は、杏華が来たら運ぶようにと伝えてあった。 だが、さっきの杏華を見ると、なぜだか無意識に体が動いていた。 運ぼうとする料理を手にし、そして俺はそのまま杏華の元へと向かっていた。 「お前のために、これは全部用
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第130話 予期せぬ事態

今日は雑誌撮影の日。今回の企画は、有名雑誌の編集長から直々にオファーをされた大きな仕事。海外撮影で自己プロデュースをしていた企画のときに同行していたその編集長が、あの撮影に刺激を受けて今回の企画が立ち上がったそう。今回その企画に選ばれたのは、私を含めた五人のモデル。その中には、当然綾乃もいた。その五人のモデルで、海外撮影のときのように、自己プロデュースをするという企画。ヘアメイクさんは、雑誌側がキャスティングしてくれるそうで、私は当日のこの日に、いつものように楽屋入りをする。すると、急に雑誌のスタッフさんから、まさかの報告をされた。「え……。私の担当さんだけ来れないってどういうことですか」「すみません! 急にヘアメイクさんから今日別の大型の撮影が入って来れないって連絡があって」「そんな……」「申し訳ありませんが、ご自身で探してもらっていいですか」「自分でですか!?」「はい! 編集長からはそれでOKをもらってます! よろしくお願いします!」午後からの撮影で、まだ時間はあるものの、あと数時間で、そのメイクさんを探すってこと……? せっかくもらえた大きな仕事なのに、まさかこんな事態が発生するなんて。とはいえ、まだそこまでこの業界で経験を積んでいない私は、ヘアメイクさんの知り合いがいるはずもない。だけど直接ヘアメイクさんにお願いするなんてこと、出来るのかな……。今日は一弥さんも別の仕事で、この仕事には同席はしていない。かといって、彼に頼ろうとも思ってはいないけど、こんなときどうすればいいのかな……。私は雑誌のスタッフさんを見つけ、ヘアメイクさんを知らないか至る人に声をかける。それでもなかなか見つからずに時間だけが迫り焦ってくる。すると、楽屋入りをした綾乃と、偶然鉢合わせする。「あら、お姉ちゃん。ヘアメイクさん、見つからないみたいね~」どこかで噂を聞きつけた綾乃が、焦る私に嬉しそうに声をかける。「もう時間迫ってるわよ~。早くヘアメイクさん探さないと、この仕事も降ろされちゃうかもね~」相変わらず綾乃は、この私の状況を見て、あざ笑う。海外撮影のときは、自らメイクをせずにそのままの自分で撮影に挑んだけれど、今回はヘアメイクは絶対条件。雑誌の企画で、どんなメイクとスタイリングで自分の魅力を引き出せるかがメインの企画なだけに、
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