社長、離婚した奥様が世界的トップモデルになっています! のすべてのチャプター: チャプター 91 - チャプター 100

121 チャプター

第91話 あの日の答え

「杏華が母親にそっくり……?」「そう。病室入ってあまりに似ててビックリしたよ。一瞬、母親がいるかと思って時が止まった」「そんなガキの頃のこと憶えてるのか?」「嫌ってほど母親の写真見てたからね。俺の記憶の中でも、不思議と鮮明に残ってるんだ」「母親のこと憎んだりはしてないのか?」「あぁ……。もちろん寂しいとかはあったけどな。でも一緒にいた頃は俺を可愛がってくれていた記憶はちゃんと残ってるし、俺もその母親が急にいなくなったことは何か理由があると思ってるから」「そんな深い理由なんてあるもんなのか?」「いなくなる前にさ、父親が母親が何か悩んでる姿を見たって言ってたんだ。誰かから電話かかってきて誤魔化したりしてた姿も見たりしてる」「それは……実際その好きな男のところに行ったんじゃないのか……?」「……あぁ、なるほど。だからお前は杏華さんをそんな一方的に男がいるとか決めつけてたんだな」「──今、俺のことは関係ないだろ」「いや、ちゃんと相手を見てたら、そんなことはわかるはずだ」はっきりとそう告げた詠司に俺は反論出来なかった。確かに俺がもっと杏華を見ていたら、本当はどうだったのかもわかっていたのかもしれない……。「一弥。杏華さんの旧姓、なんて言うんだ……?」「本城だ」「本城……。そういえばお前んとこのグループ、HONJOと業務提携してたよな……?」「あぁ。杏華と結婚したのもそのためだ」「あぁ、いわゆる政略結婚ってやつか」「そうだ。本来はその相手が綾乃だった」「え?」「あの家と結婚することでお互いメリットはあったからな。最初は綾乃と結婚と言われてたんだ。だから婚約相手として学生のときから綾乃と付き合うことになった」「それでどうして杏華さんと?」「さぁ、俺にもわからない。いきなり綾乃はいなくなって、代わりに同じ年の杏華と結婚しろと言われただけだ」「なんだそれ」「俺は言われるように従っただけだ。家の都合がいいように動かされる。それがこの家の人間に生まれた宿命だ」「面倒な宿命だな……」「そうだな……。まぁ、グループ的にあのタイミングで業務提携する必要があったんだろう。そのタイミングに綾乃がいなくて杏華がいた。あの家にとっても娘たちは俺と同じ駒でしかないのかもな」「そういうことね……」「だからお前も結婚してからも杏華さんに構わなかった
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第92話 知ることのなかった愛

【一弥side】「だが、あいつには本城の家族がいるだろ」「……じゃあ、杏華さんは、お前と別れて本城の家に帰ったのか?」「いや……。どうしてか、あいつは今にも潰れそうなポロいアパートで一人で暮らしてた……。そんなことしなくても家に頼ればいいものを……」「それが、出来ないんじゃないのか?」「出来ない……?」「お前。杏華さんに実家の話、詳しく聞いたことあるか?」「いや、特には……」「さっき、杏華さんと妹が同じ年齢だって言ってたよな」「あぁ。同級生だ。俺と同じ学校だった。だが、その頃は綾乃は元々目立つ人間だったし、婚約する前にオレは世話になったことがあるから認識あったけど、杏華はどちらかといえば地味で目立たない奴だった。だからその頃まともに会話すらもしたことがなかったよ」「妹に世話になったって?」「あぁ、俺が16のとき、家のいざこざに巻き込まれて車の事故で死にかけたんだ。そのとき偶然助けてくれたのが綾乃だった」「へぇ~そんな縁がね~」「だから、綾乃には俺は恩がある。俺にはそれを返す義理がある」「義理……ねぇ……」「あぁ。義理だ」「なら妹を愛していたわけではないってことか?」「……は? 愛……だなんて、そんなもの生きてきて家族にも女にも誰にも感じたことなんてない。自分に対しても、そんなの向ける人間など一人もいなかったからな」いつだって俺は孤独だった。両親がいたところで、常に俺をほったらかしにして愛情など向けもしない。そんな親に育てられた俺が愛などくだらないもの信じるわけがないだろ。綾乃に対しても、ただ婚約者で恩がある。それだけだ。「そっか。お前は本当の愛っていうものを知らないのか」「そんなもの俺には必要ない。俺は家のために生かされているだけだ」「知らないって不幸だな」「は?」「本当の愛を知れば、お前の人生も間違いなく変わる。お前がこの世に生きている意味も、きっとわかるさ」「なんだそれは……」「まずは、杏華さんが望んでることから始めてみたら?」「杏華の望んでること……?」「そう。杏華さん、俺たち夫婦を見て”何でも言い合えるのが羨ましい”って言ってただろ。多分お前たちには、圧倒的に会話が足りない。だからお前のそんな誤解も生まれる。まずはちゃんと杏華さんと向き合え。お前、あの腹の子の父親だろ。お前の勝手でそんな状況にさせ
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第93話 隠された過去

【一弥side】「……は?」「俺が聞いた話では、全うな人間じゃないとも聞いたことがある」「それ、本当の話か……?」「大々的にはもちろん知られていない。お前らみたいな上流の人間には入らないような情報だ。この噂は、うちのような小さな町工場から成り上がった奴にしか回ってこない」「そんなものあるのか……?」「あぁ、そういう人間だからこそ回ってくる噂だ。仕事の関係で今そういうことも調べてるんだが、多分もっと内側から何かきな臭いところがあるような気がするんだ」確かに俺らの環境では入ってこない話は山ほどある。そして詠司は仕事的にも人間的にも信頼出来る男だ。曲がったことを嫌い、きっちり筋を通す。そんな男だから、こいつの言うことは、なぜだか否定も出来ず、つい受けて入れてしまう。「それをお前に頼みたい」「俺が──?」「これは妹のこともあるが、うちの会社的にも調べたい案件なんだ」「確かに、お前がいい加減なことを言うとは思えないし、もしそれが本当なら、うちにも影響があるからな」「あぁ」「だが顔が母親と似てるだけで、どうしてそこまで杏華が妹だって思うんだ?」「勘だ──」「勘って……」「大体俺のこういう勘は当たるんだ。そもそも杏華さんと妹の関係も不自然だろ」「何が不自然なんだ」「二人は双子か?」「いや……全然似てないし、そういう話も聞いたことないが」「なら同級生なのも不自然だろ」「確かに……。誕生日的にもそれは不自然だな……」「ということはだ。二人は母親が違うということだ」「なら、杏華の母親は別にいるってことか……?」「そういうこともまったく知らないんだな」「……」確かに、俺はそんなこともまったく知らなかった。それどころか二人が同級生だということも特に意識をしていなかった。それほど今までの俺は杏華にも本城の家のことも興味がなかった。いや、知る必要も特になかった。ただ家の命令に従い結婚しただけの家と相手。ただそれだけだった。あいつが今までどんな過去を生きてきたかなんて知ろうともしなかった。それほど俺はあいつのことを、何も知らない──。「もしもだ。もし、本当に杏華さんが俺の妹だとしたら。どうしてそうなってしまったのかその理由を知りたい。そして、本城の家族でいる彼女が、ちゃんと幸せな人生だったのかを知りたいんだ」詠司は、ま
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第94話 打ち明けられる嬉しさ

「お話、聞いてくださってありがとうございます」 私は紗耶香さんに今までの一弥さんとの出来事や自分自身の彼への想いや揺れ動く不安な気持ちまで、すべてを話した。 自分のことをまったく知らない人だから話しやすかったというのもあったのかもしれない。 私を偏った目で見ない、同じような境遇の紗耶香さんに話を聞いてもらうだけで、随分気持ちが軽くなった気がした。 「こちらこそ、話してくれてありがとう」 「私……、こんなに自分のことをありのまま誰かに話したの初めてです」 「そうなのね。そんな相手に私を選んでくれて嬉しいわ」 紗耶香さんは、こんな私をそう言って優しく微笑み受け入れてくれる。 「じゃあ、一弥くんをずっと想い続けていたことも誰も知らないの?」 「はい……。その秘密はずっと私だけで抱えていこうと思います」 「そう……。そんな愛する人の子供なら、より今回守ることが出来てよかったわね」 「今は、もう彼にどんな感情を抱いてるのか、私自身もよくわかりません……」 「そりゃそんなに酷い仕打ちされたらね……。私だったらそんなことされてビジネスパートナーとか言われても絶対願い下げだわ! 杏華さん、優しいのね」 「優しい……。そんな綺麗な感情なんかじゃないです。またまだ私が弱いだけで……」 「あら。杏華さんは十分強いわよ」 「私がですか……?」 「そう。お腹の子を、どんなことをしても守ろうっていう想いがしっかりあなたの中にあるじゃない。その想いは、間違いなくこれからもあなたを強くするわ」 「はい……。恥ずかしくない母親になれるよう頑張ります」 「私でよければいつでも話聞くからね」 「ありがとうございます。でも、日本に帰ったら、もう会えなくなるんですよね……。せっかく心強い存在が出来たのに、ちょっと心細いな……」 あぁ、ここが日本ならよかったのに。 こんな遠く離れた異国の地にいる紗耶香さんと、そんなに頻繁に連絡取り合うことも出来ないだろうな……。 近くにいてもらえたらどんなに心強かったか……。 「あぁ、それね──」 「どう? そろそろ話終わった?」 紗耶香さんが何か話そうとしたタイミングで、一弥さんと詠司さんが戻ってきて、詠司さんが声をかけてきた。 「あぁ、詠司。うん、話し終わったよ~」 「そっか。ならよかった」 「随分時間もらっちゃ
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第95話 気持ちの変化

 「そうだ」「いや、お前豪華な邸宅あるよな?」「なのに、なんで杏華さんの隣にお前が部屋を借りてるんだ!?」「仕事柄、便利だからだ」「えっ!? いや、マジか。お前それ素だよな?」「どういう意味だ」「いや。お前それ無意識か。あぁ、なるほど。そうか。フフッ。おもしれー」「本当。一弥くんって案外天然なのね」「はっ!? 何をわけのわからないことを」二人にどうしてかわからないけれど笑われている一弥さん。「えっと、あの……」私もどうして二人がそんなふうになっているのかわからずポカンとする。「いや、お前らそれで成り立ってんなら、案外心配いらないのかもな」「だから何を言ってるんだ」「あっ、ちなみにそのマンション。空きとかない?」「あぁ。そういえば俺が探してた時はまだ空いてた気はするが」「よしっ。そこ教えろ一弥。そこ空いてるか調べてみるわ!」「いいね! そこ空いててほしいな~!」一弥さんと紗耶香さんはいつの間にかそんな話まで進めて行く。その勢いあるやり取りを私はただ唖然と見つめていた。この二人の思い切りの良さを見ていると、私がいちいち悩んでいることとかも、なんだか小さなたいしたことないように思えてくる。だけど、もし本当に紗耶香さんたちが同じマンションに越してきてくれたら、そんなに心強いことはないかもしれない。妊婦として母親として近くに詳しい先輩がいるのは、私にとってはかなり有難くて。誰にも頼れない自分としては、すべて知ってくれている紗耶香さんたちがいてくれることで、これから母親としての生活も頑張れそうな気がする。そしてこの二人がいてくれることで、なんだかこの四人の空気感が案外私には楽しくて心地よくて。この二人がいてくれれば、もう少し一弥さんとの距離が縮まるような、そんな気がした。「じゃあ私たちそろそろ帰るわね。杏華さんお大事にしてね」
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第96話 ここにいてほしい

電話をしに出て行ってからまだ数分しか経っていないのに、随分経ったように思える。どうしてこんなに寂しくなるのだろう。どうしてこんなに一弥さんの存在がまた恋しく思えてしまうのだろう。離婚したときに、この想いはちゃんと消したはずなのに……。少し弱っているせいで、隠れていたそんな想いがまた出てきてしまう。だけど、ここまでついていてくれただけで有難いと思わなきゃ。もう彼は私の夫でもなんでもないんだから……。彼がここにいる理由も、私が引き止める理由も……ない──。すると彼が電話を終えて、ようやく戻って来た。そんな彼を見て一瞬私の顔がほころびそうになるのに気付いて、すぐにその衝動を密かに抑える。「撮影スタッフからだった。杏華の様子を心配して確認してきた」「あっ、そうなの……。ごめんなさい。迷惑かけて……」「仕方ないことだろ。そもそもお前は被害者だ。逆にお前をこうさせた奴らに謝りに来させたいくらいだ」「え!?」「だが、そんなことさせたところで、またお前に変な刺激与えられたら困るからな。とにかくお前は心配しなくていい」「うん……」彼のその言葉は、普通に聞いていたら特になんてことない言葉だけれど、私にとっては彼のその言葉に彼なりの気遣いや優しさを感じてしまう。「その……あなたは、もう向こうに戻るの……?」「あぁ……。さっきそれをスタッフに──」すると、またタイミング悪く一弥さんの携帯が鳴る。「今度は綾乃だ。悪い。ちょっとまた話してくる」「はい……」綾乃……。彼がその名前を口にすると、私の胸はズキッと痛みを感じる。そうだ……。その存在を忘れていた……。あの現場には綾乃もいるんだ……。あの子のことだから彼がいないことに大騒ぎしているかもしれない。それがよりにもよって私についてるなんて、きっとあの子なら黙っていないに決まってる。あぁ、嫌だな……。私がこんな状況のとき、綾乃のところに戻っていくなんて……。綾乃のことだから、きっと自分の元に戻ってくるように、彼を上手く言いくるめる。私の元に彼がいること自体きっとあの子は気に食わない。きっと一弥さんも綾乃の元にきっと……。こんなときだけでも、彼がもしそばにいてくれたのなら……。「何度も悪い」「いえ──」病室に戻って来た彼に、このあと現場に戻ると伝えられたとき、私はその感情が表
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第97話 素直になれば

「綾乃のところに行くの……?」だけど、私はそんな言葉でしか彼に聞くことが出来なかった──。あぁ、素直に言葉にしなければ、絶対伝わるはずなんてないのに。そう思うのに、いざ素直な言葉で伝えたとき、彼に怪訝な顔をされたり、不機嫌になられたりしたら……。『どうしてそんなことをしなければいけない』そんな声が今にも聞こえてきそうで怖い……。私の願いを否定されるより、彼の意志を受け入れる方がきっとまだマシだ……。私の問いに返ってくる彼の言葉に少しドキドキしながら、ただ待つことしか出来ない自分。「どうしてそんなことをしなければいけない」すると、思っていた通りの言葉が彼から返ってくる。あぁ、やっぱり……。どうしてそんなことだけ、この人の考えることがわかってしまうのか……。私は悲しくて、つい俯いてしまう。「今俺はお前に付き添ってるんだ。綾乃の元に行くわけないだろ」彼が冷静に告げる。「え……?」あれ……。思ってた言葉と違う……。ちょっと待って……。どういうこと……?同じ言葉のはずなのに、どうして返ってくる言葉が……。──違う。私は彼に私の心の中で想っていた言葉を伝えていない──。彼のこの言葉は、私を拒否したんじゃない。綾乃を拒否したんだ……。私はようやく彼のその言葉の意味に気付く。「じゃあ、綾乃の元には戻らないってこと……?」「だからどうして戻らなければいけないんだ。今のお前を放って戻れるわけないだろ」「……そっか……」彼が躊躇することなく当たり前かのように表情も変えずに告げる。私をそんなふうに思ってくれてるんだ……。綾乃じゃなく、私を選んでくれた……。それがこんなにも嬉しいなんて──。「フッ」私は思わず嬉しさで顔が緩んでしまう。「どした?」「えっ!? いえ、なんでもないわ!」私は必死に誤魔化す。ダメダメ。さすがにここでそれを彼に気づかれちゃいけない。「それにあいつはいちいち大袈裟なんだ」「えっ?」「ケガして手当したっていっても、少しぐねっただけらしい」「そう……なの?」「あぁ。そんな軽いケガ俺が駆けつけたところで、どうにもならないだろ。ただの捻挫だ。湿布貼っときゃそのうち治る」「フフッ。まさかあなたが綾乃にそんな対応するなんて」「逆にお前はそこまで重症なのに、弱みを見せるどころか助けも口にしない。お
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第98話 久々のときめき

「え!? ここで寝泊り!?」思わず私は驚いて大きな声を上げてしまう。「なんだ。問題ないだろ。そもそもこの部屋はそういう仕様になっている」「いや、そういう問題じゃなくて!」「何を興奮している。何度もお前とは同じベッドで寝ていただろう」「ちょっ! その言い方、なんか意味が変わってくるから!」私は思わず赤面してしまう。「おかしな奴だな。今更どうして照れる理由がある」「それは──!」なんでこの人はそんなことをそんな平然と言えるの──!なんだかこの感じじゃ私だけ意識してるみたいじゃない──!「フッ。なんだ。もしかしてお前俺を意識してるのか」──!!そのままの気持ちを言い当てられ思わず動揺して言葉に詰まる。なんかこのニヤニヤしてる顔も見透かされてるみたいでなんか嫌だ!「そ、んなわけ、ないじゃない──!」完全に動揺している私。あぁ~絶対この顔はバレてる~!なんだか悔しい!「ハハッ。安心しろ。さすがにお前のベッドで一緒に寝るつもりはないから」「当たり前です!」彼はからかうようにそんな言葉を口にして楽しそうに笑う。キュン。ん……? 何今の……。いや、違うよね。うん。気のせいよ。今更この人にまたときめくなんてありえない。いくら、こんな無邪気に笑うこの人を初めて見たからって。いくら、自然に笑う彼は、こんなにも優しい顔をするのだと、初めて知ったからって。──この人、こんな魅力的な部分持ってたんだ……。初めて知る彼のその魅力に戸惑いながらも、そんな彼を知れて少し嬉しいと感じている自分がいる。コンコン。そのとき、病室のドアをノックする音が聞こえる。「はい」私が返事をすると、彼は立ち上がりそのドアの方へと向かう。ドアを開けると看護師さんが顔を出す。その看護師さんが何か伝えているが、私にはこっちの言葉が聞き取れなくて状況がよくわからない。彼は、その看護師さんの言葉を聞き取り、流暢にこの国の言葉で会話をしている。すごい……。一弥さん、こんなにも語学が堪能だったんだ。彼の仕事をしているところなんて一度も見たことがなかったから、そんなことを知ることさえ出来なかった。また新たな魅力を知ることで、彼がまた輝いて見えてしまう。あぁ……そういえば私が最初に彼に恋したときも、こんなふうに彼が輝いて見えていた。私とは正反対の何でも器
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第99話 忘れられない胸の痛みと涙の理由

 彼を探し病院内を歩いていると、改めてここが豪華で大きな病院だとわかる。広い病院を進んでいくうち、反対側から歩いてきた人たちの声が耳に入る。「えっ、あれ芸能人?」あっ、日本の人だ。同じ国の言葉が聞けてホッとする。「あんなかっこいい人初めて見た。私めっちゃあの人タイプ~」「こっちの医者や看護師もあまりのかっこよさに、すごい騒いでたよ」へ~こっちの有名な人かな?そんなにかっこいい人やっぱりこっちの国でもいるんだな。足を進めて行くうち、彼女たちが口にしていたその人がいるであろう人だかりを見つける。看護師や通りすぎる女性たちが、そこをすれ違いざまに目で追ったり、そこに向かって近づいていく。私はそこに見覚えのある背中を見つけて、動きが立ち止まる。それはまさしく一弥さん、彼の姿だった。そこにあったのは、あの頃に見た忘れられない同じ光景──。けれど、それはさっきのような眩しくて胸をときめかせた光景ではない。同じ頃その眩しい光景と共に目にしていた光景。私が勇気を出せずに恋心を抑え込んでいたあの記憶が蘇る。異国の地で言葉はわからないのに、どうしてこういうことはわかってしまうのだろう。彼に好意を持つ女性の目や雰囲気がどういうものか、そんなシーンを何度も見てきた私は十分すぎるほど知っていた。遠くからでもわかるあのひと際目立つ高い身長に体格のいい頼もしい身体つき、そして美しい整った顔立ち。たとえ異国の地でも彼から溢れ出る魅力ある雰囲気は、いつだって女性たちの注目の的になるのだと、数年越しにまた思い知る。なのにまた私はそんな彼から目が離せなくて……。私はあの中にも入れないほど自分に自信もなく勇気もなくて、ただこうやって遠くで見つめるしか出来なかった過去を思い出す。そしてその中で彼を甘い視線で見つめる看護師が、手に持っていた手紙のようなものを手渡しながら彼に近づき何かを囁く。私はそれを見たと同時に、あ
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第100話 今だけは、このままで……

私はベッドに潜り込み溢れてくる涙を必死に堪えた。だけど我慢するほど流れてきてしまう。病室の外で彼らしき声が近づき、私は彼に気づかれないよう涙を拭い慌てて顔を出す。彼と反対側に身体と顔を向けようとしたのに、ドアが開く音がして、私は間に合わず彼に顔が見られないように目を瞑る。どうかこんな私、彼に気づかれませんように……。私が寝ていれば、彼がここにずっといる必要もない。きっと私が寝ていると思えば、こんな息苦しい場所からまた彼は出て行くだろう。それまでは気づかれないように、寝たふりをしていよう……。足音がゆっくり近づいているのを聞きながら、私は彼に気づかれないよう、そのままの体勢でじっとおとなしくする。「杏華……?  寝たのか……?」彼が、私に声をかける。あぁどこまで私の心は弱ってしまっているのだろう……。私の名前を呼ぶその声だけでも、今の私は切なくなってしまう。涙を止めたはずなのに、気付くとまた涙が頬にスッと零れ落ちる。「杏華……?」その瞬間、彼がまた名前を呼ぶ。どうしよう、涙に気付かれた……?だけど、この涙の理由を彼に説明出来るはずもなくて、私はまたそのまま動けずにいてしまう。どうかこんな私に気付かないで……。どうかこれ以上何も言わないで……。すると、その瞬間彼の何か発する言葉が聞こえるわけでもなく、私の涙をそっと指で拭う感覚を感じる。え……。彼の指が私の肌に触れる感覚を確かに感じた……。「杏華……。どうして泣いてるんだ……」彼の少し弱々しい声が聞こえる。そしてまた彼がそっと私の頬を大きな片手でそっと触れ包み込む。「杏華……」その声は、とても優しかった。だけど今まで聞いたことない切ない声だった……。彼はそのまま触れたまま、言葉をしばらく発しなかった。そのときの彼は一体どんな表情をしているのか、何を考えているのか……。知りたかったけれど目を開けることが出来なかった。ただ、頬に触れてるその手が優しくて温かくて……。その包み込まれてるような感覚が、さっきまで苦しかった胸の痛みを、少しずつ和らげていってくれるようだった。この瞬間だけでも彼が私を受け入れてくれているような気がして、私は今までのことをすべて忘れてしまいそうになるほど、この優しい温かさにすべてを預けてしまいたくなっている。きっと二度と感じられない
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