【一弥side】夜のパーティーで、俺は杏華との微妙な空気をなんとか変えようとしていた。こんな場所で、感情まかせに、あいつに俺をぶつけたことが自分でもどうかしていたとは思う。俺らしくない。そう思いつつも、パーティーでもやけに杏華の様子が気にかかってしまう。こういうパーティーでは常に夫婦として杏華が隣にいたのが当たり前だった。それが今はあいつは隣にはいない──。それどころか同じ空間にいるのに、さっきの影響のせいか視線も合わないほどの距離にいる杏華と、なぜだか心の距離も遠いように感じる。無意識に杏華の方を見ていると、その視線は明らか俺の方じゃなく、逆側にいるあのカメラマンの方に向いてるような気がしてならない。こんな状況は初めてで、また胸がざわつく。あいつと出会ってから、あいつの視線はいつだって俺の元にしか向いていなかった。どんな男がいようが、近くても遠くても俺だけに視線を向け、俺が視線を合わすと、その表情をすぐに緩めていた。何が嬉しいのかわからなかったが、それがあいつの当たり前だった。そんなあいつが今は俺じゃない違う男にその視線を向けている。それがどうしてか無性に苛立ってしまう。“俺はここにいる” ”俺を見ろ” 今まで感じなかったそんな感情が涌き出てくる。すると、俺は気が付けばあいつのその視線を遮るように、あいつの前に立っていた。「何を見てる」あいつにそう声をかけると、見たこともない顔と反応で驚く。まったく俺のことなんて頭になかった、そう言わんばかりの態度で。だからだろうか、結局俺はそんな杏華に少し距離をとってしまう。だが、自分の中でそこからすぐに立ち去ろうという気にはなぜかなれなかった。すると、そこに撮影に参加しているモデルの二人組が近づいてきた。「あの~。桐生さんですよね?」「え……? あぁ、そうです」「わ~やっぱり~! 本物の桐生さんすっごく素敵ですね」「あぁ、どうも……」わずらわしく女たちが自分の見栄えや肩書に釣られて目の色を変えて近づいてくる、こういう状況は久しぶりだった。杏華が隣にいたときはもちろんだが、杏華がそこにいないときも、結婚しているという事実が周知に知られていたことで、俺はそのわずらわしさから逃れられていた。だが、どこからか離婚を聞きつけ、その事実が無くなった途端、またこういう面倒な状況に
Last Updated : 2026-05-26 Read more