All Chapters of 社長、離婚した奥様が世界的トップモデルになっています! : Chapter 1 - Chapter 10

35 Chapters

第1話 運命の日

【プロローグ】 初恋は実らないものだ、と人はよく口にする。 私はそれを信じず、初恋の人と結婚した。 結婚三周年記念日。 私は妊娠をした身で、ミシュランに引けを取らないほどのご馳走を並べ、彼の帰りを待っていた。 すると彼から一本のメッセージが届き、ある高級レストランの住所だけが記されていた。貸し切りだと。 ついに彼も気が回るようになったか、サプライズを用意してくれたのかと思った。 ドアを開けた先にあったのは、私の妹・綾乃の誕生日会だった。 その瞬間、私はすべてを悟った。 自分だけが幸せだと思い込んでいたこの結婚は、最初から最後まで私ひとりだけの独り舞台だった。 私はあの子の影に過ぎなかったのだ。 *** 三月二十日。 それは、私と桐生一弥(きりゅう いちや)が結婚して三周年になる記念日だった。 私は丸一日かけて、私たちの家をまるで夢の中のように飾りつけた。 テーブルには、ミシュランにも劣らないと自負できるほど、心を込めて作った料理を並べ、その中央には、予約しておいた白いバラの花束を置いた。 ――彼は、これまで一度も私に花を贈ってくれたことはないけれど、それでも今日は、特別な日なのだから、せめて形だけでも大切にしたかった。 なぜなら―― まだ平らなままの下腹部にそっと手を当てる。 そこには、彼に伝えたい、いちばん大きなサプライズがあった。 私は、妊娠している。 午後七時になっても、彼は帰ってこなかった。 胸がざわつき始めた頃、ようやく届いたのは、感情のこもらない短いメッセージだった。 【今すぐ、フィーストレストランに来い。】 住所の後に、余計な言葉は何ひとつない。 心臓が、ひとつ拍動を飛ばした。 もしかして……あの仕事一筋の夫が、本当に結婚記念日のサプライズを用意してくれたのだろうか。 わずかな高揚感と、それ以上の期待を胸に、私は急いで家を出た。 エプロンを脱ぐことさえ忘れていたけれど、白いバラの花束だけは、しっかりと抱えて。 「すみません……桐生の予約はありますか?」 「はい、桐生様ですね。本日は貸し切りでございます。どうぞこちらへ」 ――貸し切り? こんな高級レストランを、記念日のためだけに貸し切るなんて……。 感情を表に出すことが苦手な彼が、こんなことをするなんて予想外で、だからこそ胸が熱くなり、心
last updateLast Updated : 2026-04-01
Read more

第2話 別れのカウントダウン

「わあ、すごく綺麗なお花!」 綾乃は、私の腕の中に抱えられた花束を、目を輝かせて見つめた。 私は反射的に花束を抱き寄せる。 「この花は……」 言い終える前に、すらりとした長い手が、私の腕の中から花束を奪い取った。 呆然と顔を上げると、そこには桐生一弥の、感情の揺らぎひとつない瞳があった。 彼は、私が心を込めて選んだ――純潔な愛を象徴する白いバラの花束を手にすると、そのまま自然な動作で振り返り、綾乃の前に差し出した。 「誕生日おめでとう、綾乃」 低い声だったが、突然静まり返った個室の中には、はっきりと響き渡った。 綾乃は驚きと喜びの入り混じった表情で花束を受け取り、顔を花びらに埋める。 そして顔を上げたとき、その瞳は感動で赤く潤んでいた。 「一弥お兄ちゃんが、わざわざ私のために用意してくれたのね! こんなに豪華で素敵な誕生日の会場まで準備してくれて……本当にありがとう! 私、すごく幸せ……!」 周囲からは、羨望混じりの歓声が上がった。 ――あの花束は、本来、私たちの結婚記念日のために用意したものだった。 それが今、夫の手によって、妹への誕生日プレゼントへと変わってしまった。 彼は私には一度も“記念日”を大切にしたことがない。 それなのに、妹のためには、ここまで完璧な特別を用意するのだ。 一弥は、なぜこんなに遅くなったのかと私に尋ねた。 「綾乃が、今夜は誕生日パーティーがあるって連絡してたはずだろ?」 ――その瞬間、胸がひやりとした。 私は、何の連絡も受け取っていない。 周囲の視線が一斉に私へと向けられる。 「妹さんへのプレゼントは用意してるの?」 そんな声が飛んできた。 私は小さく首を振った。 「……何も、準備していません」 「はあ……まさか、そこまで冷たい女だとは思わなかった」 その一言は、積み重なっていた我慢を押し潰す、最後の一押しだった。 「だって……今日は……」 声が、震える。 「今日は、どうした?」 彼は眉をひそめる。 「今日は、私たちの……」 ――結婚記念日。 その言葉が、喉元までせり上がった、そのとき。 「一弥お兄ちゃん——! 早く、ろうそくに火をつけて!」 綾乃の甘えた声が、絶妙なタイミングで響いた。 彼は即座に応え、迷うことなく踵を返す。 私に残されたのは、冷たい背中だけ
last updateLast Updated : 2026-04-01
Read more

第3話 踏みにじられた真心

「……?」 目の前に差し出された離婚届を見つめ、喉が張り付いたような声で問い返した。 「あなた……どういう意味なの?」 「綾乃から、全部聞いた」 彼の顔には、余計な表情は一切なかった。 あるのは、骨の髄まで染み込んだ冷酷さだけ。 「三年前、うちとお前の家に政略結婚の話があると知っていただろ。 お前は俺と結婚したかったから、彼女を追い出した。別れを強要し、海外へ行かせたんだ」 ――ドン、と。 頭の中が、真っ白になった。 「違う……」 声が震えながらも、私は必死に最後の光にすがる。 「一弥さん、信じて……! あの時は、彼女が自分で行きたいと言って……私は……」 「もういい」 彼は遮った。 その瞳には、最後の一片の忍耐すら残っていなかった。 「ずっと、目立たない女だと思っていた。 まさか、ここまで腹黒く、ここまで残酷だとはな」 一歩、彼が近づく。 その影が、私を完全に覆い尽くした。 「今、綾乃は戻ってきた。 三年間続いたこの“間違い”も、そろそろ正す時だ」 「……つまり」 自分の声が、恐ろしいほど空虚に響く。 「あなたが私と結婚したのは、家のためだけ。 あなたにとって私は、綾乃の代わり――ただの身代わりだった、ということ?」 「他に理由があるか?」 彼は冷笑し、長い指で私の顎をつかみ、無理やり顔を上げさせた。 その瞳には、微塵の温度もなかった。 「愛だとでも?それとも、あの馬鹿げた一夜の関係か?杏華……自分を欺くのはやめろ」 その一言一言が、氷の錐となって、私の最後の幻想を正確に貫いていく。 ――どうして、忘れられるだろう。 高校時代の一弥さんは、誰の目にも明らかな“特別”だった。 成績は常にトップ、運動神経も抜群。 無数の女子生徒が憧れ、その顔立ちは一目見ればその魅力に虜になるほどの美しさ。 そして綾乃は、彼の隣に立つのが最も似合う存在―― 「学園の女神」と呼ばれるのも、当然だった。 二人が並んで廊下を歩けば、必ず小さなどよめきが起こる。 天に選ばれた少年と、人間離れした美貌の少女。 対して私は、校舎の影に身を潜め、 彼を一目見るだけでも、必死に勇気を振り絞らなければならない、 取るに足らない存在だった。 ただ―― 自由奔放な綾乃は、やがてより広い世界を選んだ。 モデルになる夢のため
last updateLast Updated : 2026-04-01
Read more

第4話 壊れる身体と心

「お姉ちゃん、どうしてあんなことしてバレないと思ってるんだろ」 え……、あんなこと……? バレる……? なんの話……? 「まさか、あいつが俺の知らないところで、男漁りしてるなんて心底見損なったよ」 男漁り……? さっきも、それ言ってたけど……どういうこと……? 「お姉ちゃん、もうそれ病気なの……。一人の男性では満足出来なくて、常に自分の欲望を満たしてくれる男性を探し求めてるの」 ちょっと待って……! あまりにも身に覚えのない酷い綾乃の嘘に私は驚いて言葉を失くす。 「俺もまんまと騙されたよ。まさかずっと清純なフリをしてたなんてな」 酷い……! 一弥さんもどうしてその言葉を信じるの……!? 「本当は、一弥お兄ちゃんと結婚するのは私だったはずなのに……。 お姉ちゃんはたくさんの男の人と関係を続ける為には、お金の面でも生活の面でも安定した保障が欲しかったの……。だからあの時、私を騙して留学させて、その間に一弥お兄ちゃんを私から奪って結婚したの」 え……? は……? あまりにも綾乃の酷い嘘に私は呼吸をすることでさえ苦しくなってくる。 そんな人、一人もいない。 私の初恋は一弥さんで、一弥さんだけをずっと想い続けてた。 「酷い女だ……」 そんな綾乃の嘘にすっかり騙されてる一弥さんは、呆れたように冷たく言い放つ。 「お姉ちゃん。一弥お兄ちゃん以上にいい男見つけたって、私にそう言ってたの。その男の人とどうしても一緒になりたいんですって。ここだけの話、身体の相性も一弥お兄ちゃんと比べ物にならないくらいすごいって、興奮して私に話してきて……私そんな無神経なお姉ちゃん許せなくて……」 「フッ。最低な女だな……。なるほど。俺とのあの反応も言葉も全部演技だったって訳か……」 違う……! 全部誤解だって、綾乃の真っ赤な嘘だって、今すぐ飛び出して言いたかった。 だけど、きっと今の一弥さんは私の言葉なんて絶対聞こうともしてくれない。 そもそも私のことを最初から愛していなかった彼にとっては、そんな嘘が真実に思うほど、興味も元々なくそんな酷い私の印象が彼の中で、きっと存在している。 私に呆れる今の一弥さんは、心底私を軽蔑してるような、そんな表情……。 「私はずっと留学してた間も一弥お兄ちゃんのことを想い続けていた。政略結婚する相手が一弥お兄ちゃんだって知っていた
last updateLast Updated : 2026-04-01
Read more

第5話 愛が終わるとき

目を覚ました瞬間、強い戸惑いに包まれ、次いで記憶が断片的に一気に押し寄せてくる。 気付けば無意識のうちに私は下腹部をかばっており、鈍い痛みが走った。 そのとき、そばにいた一弥さんの姉の真琴さんが私が目を覚ましたことに気付き、慌てて駆け寄る。 真琴さんは私の手をぎゅっと握り締め、声を震わせながら言った。 「よかった……やっと目を覚ましたのね。お医者さんが言ってたの。急激な精神的ショックと、長期間の心身の抑圧が原因で、切迫流産の状態だって。今は安静が必要よ。……ねぇ、どうして妊娠していること、私に言ってくれなかったの?」 「どうして、私は病院にいるの? どうして真琴さんがここにいるの?」 私はただ今の状況に戸惑い混乱する。 すると、真琴さんが少し悲しそうな顔をしながら説明する。 私が倒れたとき、違う病室にいた一弥さんと綾乃も助ける声に気付いたらしいが、綾乃が同じ瞬間「お腹が痛い」と言い出し、一弥さんは綾乃を優先することを選んだ。 そして私の対応は電話で真琴さんに任せただけだったと──。 いくら期待しても返ってこない救われることないその現実。 “地獄に突き落とされた”という言葉では言い表せない深い哀しみによって心が完全に死んでしまった私は、むしろ自嘲するように、ふっと笑ってしまう。 ──ほらね。やっぱりこうなる。 二択を迫られても、あなたは私を選ばない。 「彼にとって私はこんな状況になっても、なんの価値も無いのね……」 夫婦である以上、極限の状況になれば、彼は私を選んでくれるだろうと、どこかで期待してしまっていた。 だけどそんなの私の身勝手なくだらない妄想でしかなかったのだ。 「何言ってるの!? そんなわけないでしょ! 価値がないのは杏華ちゃんの魅力をわかっていない一弥の方よ! 本当に情けない! 大丈夫よ、私が必ず杏華ちゃんとお腹の子を大切にするようしっかり言い聞かせるから!」 「いいんです! 私なら大丈夫です。私たちのことは私たちで解決します。それから……私が妊娠していることは、どうかしばらく彼には言わないで。ちゃんと、私から話す時間をつくるから」 それは決して守ることのない彼に伝えるつもりもない、真琴さんの興奮を落ち着かせるために放った言葉。 そう。もう私の離婚への決意は、もう盤石のごとく
last updateLast Updated : 2026-04-02
Read more

第6話 消せぬ後悔

【一弥side】 「一弥お兄ちゃん、行かないで!」 そんな綾乃の制止する声を振り切り、気付けば急いで家へと戻っていた。 どうしてこんなに苛立つ? どうしてこんなに気にかかる? どうしてあいつは妊娠のことを言わなかったんだ……。 とにかくあいつに確認したいことがありすぎて、俺は気持ちが焦り勢いよく家の中へと駆け込む。 「杏華! いるんだろ! 出てこい!」 俺は家中、響き渡る声で杏華の名前を叫ぶ。 この苛立ちが収まらないのは、さっき杏華本人から届いたメッセージのせいもあった。 『ただ私は愛するあなたの妻でいたいだけだった。 私自身を見て、私自身を信じてほしかった。 こんなにも辛く苦しい人生が続くのはもう限界です。 あなたのお望み通り、あなたの前にはもう二度と現れません。 だけど、これだけはわかっていてほしかった。 私はあなただけを心から愛していました。 さようなら。お元気で』 そのメッセージに、俺は初めての杏華の姿を見た気がした。 俺を愛していた、だと……? すべての杏華の言葉に、俺は心をグサリと刺されたような感覚になった。 そこからどうしようもなく自分ではセーブ出来ないほどのこの苛立ちと焦り、そして初めて経験する自分では抱えきれない不安。 それがどうしてなのか自分でも理由がわからないまま、今はとにかく杏華の姿を探す。 どこを探しても見当たらない杏華の代わりに、テーブルに残したあるものに気づく。 そのテーブルには杏華が用意した豪華な料理だけが、すっかり冷めたまま静かに並んでいた。 そしてその周りを見ると、家中が華やかに飾りつけられていたことに気づく。 そのとき目に入った飾りの中にAnniversaryと書かれてる文字。 その瞬間、オレはあることを思い出した。 「そうか……今日は三周年の……」 あいつは三周年の記念日を家で祝おうとしてたのか……。 改めてテーブルに並んだ料理を見ると、それは料理をしないオレでも手がかかっているとわかるくらいのクオリティーと品数。 見た目だけだと、どこかで行った高級レストランに並んでいてもおかしくないほどだった。 あいつ、それであんな格好を……。 そのとき初めて杏華がエプロンをしたままあの場所に来た違和感とも一致した。 そのあと、ふと目にした場所に置いてあったものに、オレは更に
last updateLast Updated : 2026-04-03
Read more

第7話 伝えられなかった幸せ

【一弥side】 とにかく俺は苛立ちながら杏華に電話を何回もかけるも、まったく繋がらない。 執事たちに杏華の居場所の心当たりを聞いても、どこに行ったのかは誰も聞いてはいなかった。 このとき、また俺はあいつのことを何も知らなかったことに改めて気付く。 あいつが今どこにいるのか、俺はまったくといっていいほど一切思いつくことが出来なかった。 ただ俺が知ってる杏華は、ただ俺の為に、家の為に、従順に尽くし家を守っている姿だけ、ただその姿しか知ることがなかったからだ……。 本当にあいつは出て行ったのか……? あんな身体で……? 一人で腹の子を育てて生きて行くっていうのか……? だが自分の意見を主張しない杏華が、離婚届にまでサインするほどの決心と一切繋がらないこの電話が、もう俺の元には二度と戻らないと強く主張しているようで、俺はどんどんと焦りから失ってしまう不安のようなものに変わっていく。 どれだけ連絡してもどうしたって繋がらないその現状に、俺はどんどん気持ちが落ちていく。 俺は戻らない杏華を思いながら、杏華か作った料理をぼんやり見つめていると──。 「旦那様。奥様のこのお料理はどうなさいますか?」 執事がそっと俺に尋ねてきた。 「これは……。杏華が用意したのか……」 「はい。今日は奥様朝早くから一日キッチンに立って、それは嬉しそうに楽しそうに、この料理を準備なさってました。私お味見させていただきましたが、もう本当に素晴らしいお料理の腕前で」 「そうか……」 俺はボーッとしながら、その料理に無意識に手を伸ばす。 その料理を口に運ぶと、すっかり冷めているはずなのに、その美味さが口中に広がる。 どうしてこんなに締め付けられたように胸が痛む……。 どうしてこんなに感じたことのない喪失感を感じる……。 俺はあいつのことを何にも知らなかったのかもしれない。 いや、わかろうともしなかった。 こんなに料理が得意だったことも、記念日を楽しみにしていたということも。 あいつが何に喜んで、何に悲しんで、何を求めていたのか、そう何もかも……。 あのとき、何度も口を開こうとしていた杏華が今頃になって脳裏に浮かんでくる。 あのときおまえは何を言おうとしていた……? この記念日のことか……? それとも妊娠のことだったのか……? 「この料理も旦那様のた
last updateLast Updated : 2026-04-04
Read more

第8話 新たな波乱

一弥さんの元に離婚届を置いてきたあの日から、私はお腹の子と二人で生きていくことを決めた。 だけど、一弥さんと早くに結婚し、まともに社会に出て働いたことがなかった私が、身重の身体を抱えながら、二人で生きていくためのお金を稼ぐことは簡単なことではなかった。 それでも周りに頼る人が誰一人いない私は、どんなことをしてでも生きていくしかない。 実の母が亡くなったあとに、父はすぐに再婚をした。 そして出来た新しい家族の義母と義妹。 そう、それが綾乃だった。 その時から、私は自分の家にも居場所がなくなった。 それどころか家にいれば、私は家の家事をすべてやらされる家政婦扱い。 仕事人間の父は見て見ぬふり、義母と義妹は家の中でもお金も好き勝手にし放題。 何か気に食わないことがあれば当たり散らされ虐められるその場所は、母もいなくなり、たった一人耐え続けるしかない、誰にも必要とされない孤独な世界だった。 そんな世界に、一弥さんが現れたことで光が差し、救ってくれるのだとそう思ったのに……。 結局は、また孤独な世界へと戻ってしまった。 だけど、今の私にはこのお腹の子がいる。 この子には必ず光が差す明るい世界へ導いてあげたい。 そして私は強くこれから生きていくために、今自分の出来る限りの力を活かせる家事代行という仕事をこれからの人生として選んだ。 これなら私が今まで結婚してきた時にやってきたすべてを活かすことが出来る。 それどころか家事という得意分野で、楽しんで仕事が出来る。 私にとってそれは転職だと思った。 お客様から満足してもらえ満たされた日々を送れる。 ──はずだったのに……。 どこに行っても私は厄介者なのだろうか。 ただ真面目に働いているだけだったのに、それがなぜだか気に食わないと同僚や職場の人たちから嫌味や嫌がらせを受けるようになった。 「ねえ、本城さん、またお客様に指名されたんだって。なんであの人ばっかり?」 「前に誰かのお嫁さんだったって聞いたよ。離婚してから働き始めたらしいし。 ああいう女の人って、男の人の前ではうまく立ち回るのよね」 「ほんとそれ。前に山田様のお宅、本当は私の担当だったのに、 あの人が一回行っただけでそのままあの人の担当になっちゃったし。 どうやったのか知らないけど……」 「しーっ、声小さくして。……なん
last updateLast Updated : 2026-04-05
Read more

第9話 逃れられない運命

そこにいたのはまさかの綾乃だった……! そして、そのそばには、二度と会わないと思っていた、一弥さんの姿まであった。 そしてそんな私を見てすぐに気付いたであろう綾乃の表情。 一瞬驚いた顔をするも、すぐに切なそうな表情に変える。 「嘘っ! もしかしてお姉ちゃん……? まさかこんな場所で再会出来るなんて……! すごく心配でお姉ちゃんのこと、ずっと探してたんだよ?」 綾乃は私に気付くと、パタパタと駆け寄ってきて私の手を取り心配そうな目で見つめ言葉をかける。 「よかった~! 無事だったのね!」 そう言いながらグイっと握った手ごと、綾乃の方に引き寄せ私の耳元に顔を寄せる。 そして…… 「姿をくらまして、まさか同じようなこんな家政婦の仕事してたなんてビックリ。よっぽど人にこき使われるのが好きなのね。それならまた私があんたを思いっきりこき使ってあ・げ・る」 こっそり私の耳元で誰にも聞かれないように囁き、私だけに見える場所でフッと意味ありげに綾乃が笑う。 そのあと明るくニコッと笑い「お姉ちゃん。また一緒にいられて嬉しい」と、今度は皆に聞こえるようにキラキラした目で正反対の言葉を告げる。 「この人が今度の新しいアシスタントさん?」 「え、この人RURIのお姉さんなの!?」 と、その言葉を聞いて口々に私たちの周りに集まりだす。 「そうなの! 私の大好きなお姉ちゃんなんだ! すっごく優しくてRURIのためならなんだってしてくれてね。いつもRURIを一番に考えてくれる最高のお姉ちゃん!」 そういって今度は私の腕にギュッとしがみつき、腕を組んでくっつきながら仲良しアピールをする綾乃。 「へ~そうなんだ~。RURIと全然違うじゃん」「なんかお姉さん、地味だね」 モデル仲間の人たちが綾乃と私を比べてクスクスと笑いながらバカにする。 「昔っからお姉ちゃんはこんな感じなの。だからいっつもRURIが注目されちゃって大変だから、こうやってお姉ちゃんが陰でサポートしてくれたんだ~」 「確かにこんな可愛くて目立つ妹いたら陰で支えるしかないよね(笑)」 あぁ、またこれか……。 いつも私は華やかで可愛い綾乃の引き立て役。 私がいることで更に可愛さをアピール出来る綾乃は、いつもこんなふうに私を引き合いに出して同じような言葉を
last updateLast Updated : 2026-04-06
Read more

第10話 再会

「杏華……。どうしてお前がこんなところに……」 「そっちこそ、どうしてこんな場所に……? 」 私の腕を掴みながら、困惑した表情で尋ねる一弥さんに私も冷静に言葉を返す。 「あなたは、今も綾乃とずっと……。って、もう離婚したのに関係ないことよね」 そう言った瞬間、彼の表情がまた険しくなる。 「私はあなたに二度と関わらないって決めたんです。私たちが離婚すれば、あなたにとってもちょうど都合がいいでしょう? そうすれば今みたいに、綾乃と堂々と一緒にいられるもの。だから、どうかあなたももう私のことは知らない他人だと思って接してください」 私はそう言いながら彼が握っている手をゆっくりと外す。 そしてその場を立ち去ろうとすると……。 また彼がグイッと腕を握り、今度は自分の方へと引き寄せる。 「ちょっと……!」 すぐ目の前に彼の身体と彼の顔が近づく。 その瞬間、私はその綺麗な顔と今までの想いがまだどこかに残ってしまっているのか、不覚にもドキッとしてしまう。 「他人……? 二度と関わらない……? オレはそんなの認めていない」 彼が私をじっと見つめ、納得いかないようなイラついた表情をしながら、ギュッとさっき以上に強く私の腕を握る。 「ちょっ、痛い……!」 「あっ、すまない……」 あまりにも強い力で握られ私はつい痛みと共に言葉を発する。 そんな私を見て彼もすぐに謝る。 すぐに謝った彼に、少し戸惑った。 今までそんなすぐに謝ったりもしなかった彼が、そんな言葉を言うこと自体違和感だったからだ。 「身体は……、大丈夫なのか……?」 「え……? 身体……?」 一瞬妊娠のことを知ってるのかと思って青ざめる。 もしかして彼は妊娠のことを知っているの……? その事実を知られているのかもしれないと思ったら、急に怖くなって震えが起きてしまう。 「杏華……?」 「身体……? なんのことかしら。前と変わったことなんて何もないわ」 それは私の身体を単に心配しているだけなの……? それとも妊娠してるかどうかの探りを入れてる……? って、あぁ、まただ。彼が心配するだなんてあるはずないのに、なぜだか今日の一弥さんにはそんなあり得もしないことを思ってしまう。 ダメね。意味もない情に流されちゃ。 今は
last updateLast Updated : 2026-04-07
Read more
PREV
1234
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status