【プロローグ】 初恋は実らないものだ、と人はよく口にする。 私はそれを信じず、初恋の人と結婚した。 結婚三周年記念日。 私は妊娠をした身で、ミシュランに引けを取らないほどのご馳走を並べ、彼の帰りを待っていた。 すると彼から一本のメッセージが届き、ある高級レストランの住所だけが記されていた。貸し切りだと。 ついに彼も気が回るようになったか、サプライズを用意してくれたのかと思った。 ドアを開けた先にあったのは、私の妹・綾乃の誕生日会だった。 その瞬間、私はすべてを悟った。 自分だけが幸せだと思い込んでいたこの結婚は、最初から最後まで私ひとりだけの独り舞台だった。 私はあの子の影に過ぎなかったのだ。 *** 三月二十日。 それは、私と桐生一弥(きりゅう いちや)が結婚して三周年になる記念日だった。 私は丸一日かけて、私たちの家をまるで夢の中のように飾りつけた。 テーブルには、ミシュランにも劣らないと自負できるほど、心を込めて作った料理を並べ、その中央には、予約しておいた白いバラの花束を置いた。 ――彼は、これまで一度も私に花を贈ってくれたことはないけれど、それでも今日は、特別な日なのだから、せめて形だけでも大切にしたかった。 なぜなら―― まだ平らなままの下腹部にそっと手を当てる。 そこには、彼に伝えたい、いちばん大きなサプライズがあった。 私は、妊娠している。 午後七時になっても、彼は帰ってこなかった。 胸がざわつき始めた頃、ようやく届いたのは、感情のこもらない短いメッセージだった。 【今すぐ、フィーストレストランに来い。】 住所の後に、余計な言葉は何ひとつない。 心臓が、ひとつ拍動を飛ばした。 もしかして……あの仕事一筋の夫が、本当に結婚記念日のサプライズを用意してくれたのだろうか。 わずかな高揚感と、それ以上の期待を胸に、私は急いで家を出た。 エプロンを脱ぐことさえ忘れていたけれど、白いバラの花束だけは、しっかりと抱えて。 「すみません……桐生の予約はありますか?」 「はい、桐生様ですね。本日は貸し切りでございます。どうぞこちらへ」 ――貸し切り? こんな高級レストランを、記念日のためだけに貸し切るなんて……。 感情を表に出すことが苦手な彼が、こんなことをするなんて予想外で、だからこそ胸が熱くなり、心
Last Updated : 2026-04-01 Read more