浮気夫を捨てたら、超大物社長に溺愛された のすべてのチャプター: チャプター 1 - チャプター 10

18 チャプター

第1話

前田奈津美(まえだ なつみ)が、前田隆(まえだ たかし)と再婚して3年が経ったある日、奈津美は超高級クラブ「エリュシオン」で、隆がNo.1ホステスである菅原千佳(すがわら ちか)と一緒にいる場面に遭遇してしまった。シャンデリアが輝く個室で、隆は革張りのソファにゆったりと体を預けている。左手の指には葉巻を挟み、右手はスリットの深いドレスを着た千佳の肩を軽く抱いていた。そして、千佳の前には高価そうなプレゼントの山。隆はその中からネックレスをひとつ取り出すと、「どうかな?全部お前のために買ってきたんだ」と囁いた。奈津美は、そのプレゼントに見覚えがあった。それは、隆がわざわざ海外までオークションに出向き手に入れてきた品々だった。数日後には二人の結婚記念日を控えていたから、奈津美はてっきり自分へのプレゼントだとばかり思っていた。だが、それはどうやら思い過ごしだったみたいだ。しかし、プレゼントを贈られた張本人である千佳は、箱も開けずに淡々と言った。「前田さん。私はあなたのこと、好きじゃないって言いましたよね?だから、いくら私に貢いでくれようとも、私の気持ちは変わりません。それより、奥さんの機嫌でもとったらどうですか?再婚したばかりなのに、また離婚になっちゃいますよ?」隆は口の端を上げて笑った。「あいつが俺たちのことに気づく?そんなわけないさ。絶対にバレやしないよ」周りの男たちも口々に囃し立てる。「隆はもう3年もお前に貢いでるんだぞ?でも、こいつの奥さんは全然気づいてないんだ」「それに、男なんてみんなこんなもんだ。ましてや隆みたいな超一流の男なら、愛人の一人や二人いたって、全然おかしくない。でも、残念なことに、こいつの奥さんがそれを許さないからさ。もし、奥さんの心が広かったら、とっくにお前を家に連れ帰ってるぞ」すると、隆は周りに冷たい視線を投げつけた。「黙れ。奈津美のことは悪くいうな」そう言ってから、隆は千佳の方へ向き直り、今度は別人のように甘く囁く。「この後、食事でもどうかな?何もしない。ただ食事をするだけ。お前がいいって言わない限り、俺は指一本も触れないから」隆が千佳に向ける優しい眼差しを見て、奈津美は全身が凍りつくようなショックを受けた。再婚期間も入れれば、結婚して8年になるため、奈津美は隆の性格をよく理解していた
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第2話

奈津美に気づいた隆はさっと眉をひそめ、千佳の腰から素早く手を離した。彼の友人たちは慌てふためき、口々に言い訳を始める。「奥さん!誤解しないでくださいね。今日は俺たちだけで集まってたところに、無理やり隆を呼んだだけなんで!」「そ、そうなんですよ、奥さん!この子は俺が指名した子だから、隆には一切関係ありませんから!」そう言った男が立ち上がって千佳を自分の方へ引き寄せようとしたが、千佳は微動だにしなかった。それどころか、千佳は奈津美に視線を移した。「先ほどのことは、奥様もご覧になられていたんでしょう?私は旦那さんに興味はありませんから。彼をしっかり見て、二度と私にちょっかいをかけせないでくださいね」奈津美は笑みを浮かべる。「もしかしたら隆は私にあれこれ言われるより、愛人さんに見ててもらう方が好きなのかも」「誰が愛人ですって?」千佳は眉をひそめ、その華やかな顔に冷たい表情を浮かべた。「前田さん。私は育ちがいいわけではないけど、このエリュシオンで5年間ずっとスキャンダルもなく、真面目にやってきました。それに、既婚者のお客様なら、絶対に触れることすらしませんでした。なのに今日、前田さんの奥様は私を愛人だとおっしゃいました。私が納得できる態度を見せてくれないのであれば、今後一切席にはつきませんので」そう言われた隆は、やっと重い腰を上げ、奈津美の方へ歩み寄ってきた。奈津美をじっと見つめる。口調は優しかったが、そこには有無を言わせない強さがあった。「奈津美、人を侮辱するのはよくないだろ。千佳に謝ったほうがいい」「私が彼女に謝る?」奈津美は鼻で笑った。「隆、謝るべきなのはあなたの方だよね?3年前に私と約束したこと、忘れたとは言わせないよ」「3年前に何を約束したかなんてのは、どうだっていい。とにかく、今は千佳に謝れ」隆の口調が急に冷いものとなった。彼は奈津美の手を強く握り、薄い唇で笑う。「奈津美、俺がこんなにも一人の女を好きになるなんて滅多にないんだ。3年前のモデルの女とは違う。3年間も追いかけてきたんだぞ?もし千佳がもう会ってくれなくなったら、俺はすごく悲しい」その言葉は奈津美の胸を深く抉った。こんなにも一人の女を好きになるなんて滅多にない、だと?では、自分は一体何なのだ?奈津美は唇を噛みしめ、問い返す。「もし、嫌
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第3話

その夜、隆は帰ってこなかった。翌朝、奈津美が徹夜で書いた記事は、深津市で最大の芸能週刊誌に載った。一番大きい記事で、写真だけでもページの半分以上を占めていた。きっと隆も見るだろうし、前田家の人たちの目にも入るはず。しかし、そんなことなどもうどうでも良かった奈津美は、朝食を終えて、職場に引き継ぎをしに行こうと鞄を手に取った時、前田家から電話がかかってきた。「奈津美様、すぐに月見ヶ丘へ来られますか?記事を見た奥様がひどくお怒りになって、隆様にお仕置きをなさると……」奈津美は仕方なくも、職場ではなく屋敷へと車を向かわせた。奈津美が前田家に駆けつけると、隆が顔を抑えて床に座っていた。どうやら、ちょうど叩かれた後のようだった。叩かれた頬は、赤く腫れ上がっていて、見るからにいたそうだ。それでも隆はまっすぐに、優里を見据えている。「母さん。何があろうと、千佳とは別れないから」「かなりご執心みたいね」優里は冷ややかに笑った。「忘れたの?あなたと奈津美の結婚を、私がどうして認めたか……奈津美が竹刀で99回叩かれることに耐えられたから、私はあなたたちの結婚を許し、彼女は家の敷居を跨げた。でも、今はまた別の女を連れてきたわね?条件は同じよ。竹刀で99回叩かれることに耐えられるかどうか。耐えられたら、認めてあげるわ。もし、耐えられないのであれば……その場で死ぬだけね」「母さん!千佳は体が弱いんだ。奈津美とは違う。耐えられるわけがない」隆は優里に言い返す。「やるなら、俺をやれ!」そんな隆を見て、千佳は涙を流した。隆の手を取り、唇を噛みしめて言う。「前田さん、私のためにそこまで……私もあなたと一緒にいたいです。だから、その99回は、私が受けます」「千佳、お前は向こうで待ってて。俺が代わりに受けるから」自分の息子の情けない姿を見て、優里は怒りを抑えきれなかった。「この馬鹿息子!あの時は、奈津美の身代わりになんてなろうともしなかったくせに!あんなに竹刀で叩かれたから、奈津美はもう少しで子供を産めない体になるところだったのよ!そんな彼女の気持ちを少しでも考えたことがあるの!?」奈津美は静かにその様子を見ているだけで、一言も口を開かなかった。あの99回は、自分が望んで受けたものだった。だから、隆が身代わりになろうと
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第4話

「いいから、サインしなさい。そうしたら、菅原さんを受け入れてあげるから」すると、隆はためらうことなくすぐにサインした。執事は困ったような顔で優里に尋ねる。「奥様……やはり竹刀で?」目の前の離婚協議書を見て、優里は怒り狂った。「この子が自分から罰を受けるって言ってるんだから、やらないわけにはいかないでしょ?打ちなさい!思いっきり!」執事は仕方なく、竹刀を振り下ろす。「1回、2回、3回……」リビングには、竹刀が風を切る音と、肉を打つ生々しい音だけが響いていた。50回を迎えたところで、隆はとうとう耐えきれず、血を吐き出した。「やめて!もうやめてあげてください!私なんかのために、こんな目にあって……」と、千佳が隆に覆いかぶさる。「打つなら私も一緒に打って下さい!」バシッと竹刀が千佳の背中に振り下ろされると、彼女はその場で気を失ってしまった。「千佳!!」千佳が気絶するのを見た隆は、焦り始める。千佳を抱きかかえて2階へ走っていく途中、そばにいた奈津美をきつく睨みつけた。「奈津美。もし千佳に何かあったら、俺たちの関係も終わりだからな」この光景は、8年前の再現のようだった。8年前、奈津美が気を失った時も、隆は同じように目を真っ赤にしながら彼女を抱き、医師を探し回った。「奈津美、死ぬな!もうすぐ結婚できるんだぞ!死なせたりしないからな!母さん!なんで99回も奈津美を打ったんだ?もし奈津美に何かあったら、絶対に許さない」だが今の彼は、別の人を愛している。「奈津美。あなたが望んだ離婚協議書よ」リビングが静まり返った後、優里は持っていた書類を奈津美に差し出した。「私にできることはした。だから、離婚しても隆のことを恨まないでほしい。あの子のことだから、きっと菅原さんが最後じゃないと思うしね」「ありがとうございます、お母さん」しかし、奈津美は慌てて言い直す。「すみません、もうお母さんではないですね。優里さん、ありがとうございました。私は、これで失礼します」「3日後にはすべての手続きが終わると思うから。そうなったら、深津テレビに推薦してあげる。奈津美、いつでも私に会いに来てちょうだいね」前田家の顧問弁護士に書類を届けた後、奈津美は家に帰った。家に入るとすぐ、なんだか使用人たちが慌てていた。「奥様、お帰
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第5話

隆は眉間にしわを寄せ、「俺が彼女を家に連れてきたこと、知ってたのか?」と尋ねた。「ええ」奈津美は頷いた。その声は自分でも驚くほど落ち着いていた。「見てたから」「怒らないのか?」今までだったら、きっと怒り狂って家中の物を壊していただろう。もしかしたら、千佳を追い出すように迫って、離婚を切り出していたかもしれない。でも今日の奈津美はとても冷静だった。「怒ってないよ。あなたが良ければそれでいいもの」奈津美は顔を上げて隆を見つめる。「ねえ、隆。3年前、私とよりを戻したこと後悔してるんじゃない?だって、菅原さんのことが大好きなの、バレバレだもん。それに、二人はとってもお似合いだしね」「奈津美、俺の妻はお前だ」隆は奈津美を後ろから抱きしめ、肩に顎を乗せた。そして甘い声で囁く。「あの記事は、俺を怒らせるためだったんだろ?俺も千佳のことで、お前にあんなに怒るべきじゃなかった。でも信じてほしい。千佳のことは好きだけど、一番愛してるのは、ずっとお前だから。俺の妻は、お前一人だけだ。結婚して、もう8年だ。俺の周りの連中が遊んでることだって、嫌でも耳に入ってただろ?お前も、もうほかの女たちと同じように、割り切れるようになったんじゃないか?ん?」その言葉を聞いた瞬間、奈津美の体はこわばり、言葉を失った。どうして自身の浮気をここまで当然のように語れるのか、本気で理解できなかったのだ。まるで、これ以上騒いだら、自分の方がおかしいとまで、言ってきそうだ。隆は奈津美が受け入れたと思っている。しかし、どんなことがあっても、奈津美は浮気を絶対に許せない、昔のままの彼女だということを彼は分かっていない。息を深く吸い込み、奈津美は隆を突き放す。「確かにそうだよね、隆。あなたの友達の言う通り、深津市のお金持ちなんて、みんなそんなもの。もちろん、あなたも例外じゃない」隆はぽかんとして、「受け入れてくれるのか?」と訊き返す。「ええ、受け入れるよ」自分の夫でなければ……何だって受け入れられる。「話はそれだけ?私、部屋に戻るから」奈津美が踵を返して階段を上がろうとした時、廊下の死角に人影がちらりと見えた気がした。すぐに隠れてしまったけれど、それは千佳だろう。奈津美は気にせず、部屋に戻るとすぐに荷造りを始めた。1度目の離婚の時に、持
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第6話

「そう?」奈津美は千佳の目の奥にある野心を見て、自分の予想が正しかったと確信した。深津中の男を虜にするこの女は、ただ者じゃない。「願いが早く叶うといいわね。でも菅原さん、今のあなたのやってることは、私にとっては愛人でしかないの」千佳はカッとなった。「なんですって。もう一度言ってみなさい!」「何度でも言ってあげるよ。あなたは所詮、愛人なの。たとえ本妻の座を手に入れたって、その汚名は一生消えない」「黙って!」怒りで自分が抑えられなくなった千佳は、奈津美の頬を叩いた。奈津美も負けてはおらず、すぐに彼女の頬を打ち返す。千佳は赤く腫れた頬を押さえ、憎しみに満ちた目で奈津美を睨みつけた。「よくも私をぶったわね?」「先に手を出したのはあなたでしょ?やり返されて当然」奈津美も千佳を睨みつけ、はっきりと告げる。「よく聞いて。余計なことはしないほうがいいよ。さもないと、私はあなたを一生、隆の妻になんかさせないから。それから覚えておいて。もし私が彼と離婚したとしても、それはあなたに奪われたからじゃない。私があの男を捨てたから、あなたに回ってきただけ。そうでもなければ、あなたは一生愛人のまま」そう言い放つと、奈津美はもう外で涼む気も失せてしまったので、さっさと階段を上がった。そのうしろ姿を見つめながら、千佳は体の横で拳を固く握りしめる。「今夜の屈辱は一生忘れない。いつか必ず、死ぬほど辛い思いをさせてやる……」その後もずっと眠れなかった奈津美だったが、夜が明ける頃になってようやく瞼が閉じていった。意識が朦朧とする中、突然、首の後ろに激痛が走った。誰かにベッドから無理やり引きずり下ろされたらしい。次の瞬間、首を強く締め付けられた。激しい痛みで意識がはっきりしてくる。なんとか目を開けると、そこにいたのは、鬼の形相をした隆だった。「奈津美!昨日の夜、千佳に何をした?」隆の目には殺気が満ち、首を絞める力もどんどん強くなっていく。奈津美の顔は真っ赤になり、息がもうできなくなりそうだった。「何のことか、わからない――」「千佳を受け入れるなんて、ずいぶん物分りがいいと思ったが……まさか俺が酔っている隙に、彼女を脅して前田家から追い出すとはな。おまけに体を売れとまで強要したって?奈津美、お前がそんな女だとは思わなかっ
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第7話

会場はきらびやかなに装飾され、盛大なオークション場となっている。すると、ステージの真ん中にいる千佳が目に入った。彼女は淡藤色ドレスをまとい、静かに座っている。ステージの下にいる富豪たちは、皆目の色が変わっていた。「1億!」「1億6千万!俺は1億6千万出すぞ!」「2億だ!」「俺は6億!」次々と上がる入札の声に、主催者は笑いが止まらないようだった。奈津美は、隣で殺気を放つ男に視線を向けた。話しかけようとした瞬間、隆が入札した。「20億!」「20億だと?まさか前田社長が20億も出すと」「あの女のことが好きだって噂は本当だったんだな」「隣の女は誰だ?もしかして嫁さんか?なんで嫁さんなんか連れてきてんだ?」会場は騒然としたが、奈津美の心は凍りついていた。もう一度顔を上げると、ステージの上の千佳が微笑んでいるのが見えた。「申し訳ありません。前田さん、私、既婚者の方とは一緒になれないんです」隆は激しく感情を揺さぶられていた。彼が自分の手を握っている力が、どんどん強くなっていくのを感じる。骨まで砕かれそうなくらいだ。「お前に断る権利なんかない。もし、まだ落札しようってやつがいたなら、そいつは俺に逆らうってことでいいな、ん?」その言葉を聞くや否や、先ほどまで盛り上がっていた富豪たちは一瞬で黙り込んだ。深津市で最も権力のある男、前田グループの社長に逆らえる者なんていないのだから。「前田さん、あなたの資金が潤沢だってことは理解しています。でも私は、もう契約書にサインしてしまったんです。ここで……処女を売らなければ、そのまま殺されるという……」千佳が言い終わるやいなや、会場は大騒ぎになった。誰かがヤジを飛ばし始める。「前田社長!いくら金があるからってルールを破るのはなしじゃないですか?」「俺たちだって大金を払って来てるんですよ。手ぶらで帰す気ですか?」「彼女がダメっていうなら、他の誰かを代わりに出してくださいよ!」隆の隣に立っていた奈津美は、次に何が起こるのか、だいたい予想がついていた。案の定、隆は自分を前に突き出した。「じゃあ、こいつを代わりに!処女じゃないけど、俺の妻も悪くないだろ?」ガンッまるで誰かに殴られたみたいに、奈津美の頭は一瞬で真っ白になった。今、自分の耳に
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第8話

月見ヶ丘の高級住宅街。隆は大きな窓の前を行ったり来たりしていた。朝、奈津美を迎えに行かせた部下から、彼女はすでに一人でエリュシオンを後にしたとの報告を受た。それからずっと、隆の心には言いようのない感覚が渦巻いている。何か大事なものが、自分の人生から消えてしまう……そんな予感がしているのだ。奈津美の勤務先にも探しに行ったのだが、上司からはもう辞めたと聞かされた。家に帰ってから、何度も奈津美に電話をかけた。しかし、彼女が出ることはなかった。いつもの奈津美なら、こんなことありえなかった。たとえすぐに出られなくても、必ず折り返しの連絡をくれたのに。でも今回は、スマホの電源まで切られている。そんな中、千佳は優雅に淡いピンクのシャクヤクを手に取り、窓際で花を生けていた。隆が眉をひそめているのを見て、千佳の口元に笑みが浮かぶ。思った通りだ。あんなことをされて、許せる女がいるはずないのだから。ましてや、奈津美のようにプライドの高い女ならなおさらだ。だが、奈津美がこんなにもあっさり引き下がるとは思わなかった。もし彼女が今すぐ戻ってきたら、隆は罪悪感から奈津美に優しくしたかもしれない。しかし、奈津美は去ることを選んだ。それはつまり、自分にチャンスが回ってきたということだった。「まだ奥様と連絡がつかないんですか?」「たぶん、拗ねてるだけだろう」隆はスマホを置くと、千佳のそばへ歩み寄り、彼女の腰を抱いた。その口元には甘い笑みが浮かぶ。「お前は心配しなくていい。また後で連絡するから。今夜は何が食べたい?」「それよりも、早く私が住む家を探してほしいです。ここはあなたと奥様が暮らしていたお家……私がいるのは、やっぱりよくないと思うんです」「奈津美にいじめられるのが心配なのか?」隆は千佳の手を握り、きっぱりとした口調で言った。「大丈夫だ。もう二度と同じ目に遭わせたりなんかしないから」すると、使用人が入ってきて、「旦那様。大奥様から屋敷へお越しになるようにと言伝がありました」と、隆に小声で告げた。「それから、菅原さんもご一緒にとのことです」「私も一緒に?」千佳は隆の腕の中で体を縮こませ、怯えたような表情を浮かべる。「まだ99回終わってなかったからでしょうか?でも、あなたのためなら私はどんなことでも耐えてみせま
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第9話

「結婚?」隆は優里の言葉の意味がわからず、眉間にしわを寄せた。「母さん、俺は千佳と一緒にいるけど、妻は奈津美だ!千佳と結婚式を挙げるつもりなんてない!」千佳は隆の言葉にむっとしたが、顔には出さず、にこやかな表情を保っていた。「ええ、私もそんなことは気にしていません。彼が私に優しくしてくれるなら、それで十分ですから」優里は鼻で笑った。「いいえ、だめよ。私たち前田家はそういう筋を通さないことはできないの。隆が好きだっていうなら、ちゃんと嫁として迎え入れないとね」「母さん、俺は奈津美と結婚してるんだぞ。なのに、どうして千佳と結婚できるんだよ?」「隆。あなたと奈津美は、もう離婚したのよ」優里は、隆の名前が書かれた離婚届受理証明書を、テーブルの上に置いた。「これは離婚届受理証明書。今日、あなたたちの離婚届は正式に受理されたの。奈津美の分も、もう彼女の手元に届いているはず。今日から、あなたは自由の身よ。誰とでも結婚できる。もう奈津美も口出ししないし、お父さんやお母さんも何も言わない。いい大人なんだから、何が良くて何が悪いことか、自分で判断してね」「何言ってるんだ?」隆は自分の耳を疑った。離婚?奈津美と自分はもう関係ない?自分は離婚届なんかに、サインなどしていない。なのに、どうして離婚届受理証明なんてものが届くんだ?「また奈津美が俺を騙そうとしてるんだろ?あいつはどこだ?母さん、奈津美を出してくれ!」隆は立ち上がると、2階に向かって叫んだ。「奈津美、2階にいるんだろ!すぐ降りてこい!なんで離婚なんて言い出すんだよ。言ったはずだろ。お前は俺のたった一人の妻だって!どうしてそんな意地を張ってるんだよ?」だが、いくら叫んでも、奈津美は姿を現さなかった。千佳も半信半疑だった。しかし、テーブルの上の離婚届受理証明を手に取って見てみると、それが本物であることは確かだった。千佳はエリュシオンという夜の店で長年働いてきた。だから、客の中には、「妻と別れてお前と一緒になる」と言ってくる人もいたし、その中には離婚届受理証明を持ってきて、本気だとアピールする男さえいたのだ。これまでに見てきた離婚届受理証明の数は少なくない。本物か偽物かなんて、一目見ればわかる。だから、千佳は胸が高鳴らないわけがなかった。だが、そ
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第10話

優里は鼻で笑い、テーブルの上の雑誌を隆に投げつけた。「自分の妻を他の男のところにやったくせに、まだ愛してるとか言うの?」隆は首を振り、自分の過ちを認めようとしなかった。「違う……ドアの前には部下を見張らせていたし、あいつらが彼女に手を出すはずがない!最初から、奈津美を他の男と寝させるつもりなんてなかった!彼女は無事なはずだ!それなのに、どうして離婚なんかしなくちゃいけないんだ?」「あなたが奈津美を犠牲にして菅原さんを選んだ瞬間に、彼女の心は死んだの。もういい大人なんだから、何をして良くて何が駄目かなんて分かるでしょ!奈津美はとても勇敢だったし、あなたを見限るという選択は、正しかった。まあ、もう離婚したんだから、余計なことは考えないことね」そう言うと、優里は終始態度を崩さない千佳に視線を向けた。さすがは修羅場をくぐってきた女。こんな状況でも、これほど冷静でいられるなんて。「来月の10日は日もいいし、あなたたちの結婚式をその日にしようと思ってるんだけど、どうかしら?」千佳は首を振り、淡々と答える。「私はすべて、そちらの決定に従いますので」「分かった。じゃあ、そのように手配させるわね」優里は頷いた。「安心して。あなたの立場がどうであれ、私たち前田家があなたをぞんざいに扱うことはないから。すべて最高級のものを用意するわ。結納金も包むし、家や車もこちらで手配する。結婚式も、奈津美と隆の結婚式に劣らないくらい盛大に、街中の注目を集めるものにするからね。隆があなたを好きだと言うんだもの。深津市中の人たちに、あなたへの想いを見せつけてあげなくては、ね?」それを聞いた千佳は、笑みを抑えることはできなかった。「本当にありがとうございます」「じゃあ、これからは私のことなんて呼んでくれるのかしら?」「お義母さん」「そうよね」優里は続けた。「用事は済んだから、もう帰っていいわよ。私は疲れたから、休ませてもらうわね」「はい」千佳は立ち上がり、隆の腕を取って帰宅を促す。「行きましょう」しかし、隆は千佳を激しく振り払い、優里の前に駆け寄って声を荒げた。「母さん!俺は他の誰とも結婚しない!俺の妻は奈津美だけだ。あいつを探し出す。あいつとやり直すんだ。母さん、あいつがどこにいるか教えてくれ!会いに行かなくちゃいけないんだよ!」
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