Mag-log in前田奈津美(まえだ なつみ)が、前田隆(まえだ たかし)と再婚して3年が経ったある日、奈津美は超高級クラブ「エリュシオン」で、隆がNo.1ホステスである菅原千佳(すがわら ちか)と一緒にいる場面に遭遇してしまった。 シャンデリアが輝く個室で、隆は革張りのソファにゆったりと体を預けている。左手の指には葉巻を挟み、右手はスリットの深いドレスを着た千佳の肩を軽く抱いていた。 そして、千佳の前には高価そうなプレゼントの山。 奈津美は、そのプレゼントに見覚えがあった。 それは、隆がわざわざ海外までオークションに出向き手に入れてきた品々だった。数日後には二人の結婚記念日を控えていたから、奈津美はてっきり自分へのプレゼントだとばかり思っていた。 だが、それはどうやら思い過ごしだったみたいだ。 今夜は、売れないタレントのゴシップでも撮ろうと思って来ただけだったのに。まさか、自分の夫の浮気現場を、また目撃する羽目になるとは思わなかった。 これで、2回目。今度こそ、絶対に許さない。
view more「岡本さん!」奈津美は慌てて、信じられないという目で慎也を見た。「何してるんですか!私をかばったりなんかして!死ぬかもしれないのに……」「君も俺を助けてくれましたから……」慎也は奈津美を見つめる。その漆黒の瞳には、読み解けない感情が渦巻いていた。「岡本社長にまで色目を使ったのね!なんであなたばっかり!殺してやる!殺してやるわ!」千佳の金切り声が響き、奈津美はようやく相手が千佳だと分かった。「菅原!あなただったの!人を殺そうだなんて、狂ってる!」「そうよ、狂ってるの!エリュシオンに戻されたあの瞬間から、私はもう狂ってるのよ!」千佳はナイフを振りかざし、なおも奈津美に襲いかかろうとしたが、駆けつけたボディーガードに取り押さえられた。「岡本様!」「岡本様、ご無事ですか?すぐに病院へお連れします!」ボディーガードは慎也を車に乗せた。車は猛スピードで走り去っていく。奈津美はその場に立ち尽くし、呼吸するのも忘れていた。「離して!離してよ!この女を殺すの!あいつが私の人生をめちゃくちゃにした!殺してやる!」千佳は狂ったように、わめき続けていた。奈津美は振り返ると、千佳に駆け寄り、力いっぱい平手打ちをした。「菅原!いい加減にして!隆みたいなクズ男のために、人まで殺そうとする必要なんてある?そんなことをしたらどうなるかわかるでしょ!刑務所行きよ!あんな男のために刑務所に入る価値なんてないから!」その平手打ちで、千佳は完全に我に返った。彼女は地面に落ちた血のついたナイフを見て、ハッと息をのむ。「何が……これをやったのは、私?わざとじゃないんです。自分が何をしてるのか分からないんです。前田さんはどこですか?彼に会わせてください!」「すみませんが、彼女を警察署に連れて行ってくれますか?」奈津美はため息をつき、自分は急いでタクシーを拾って病院へと向かった。奈津美は不安げに手術室のドアを見つめ、ひたすら神に祈る。なぜ慎也が自分にここまでしてくれるのかは分からない。でも、彼に何かあったらと考えると、本当に怖かった。「奈津美、大丈夫か?ケガはないか?」知らせを聞いた隆が、すぐに駆けつけてきた。奈津美が無事な姿を見て、彼はようやくほっとしたようだ。「隆。菅原が警察署に行ったことは知って
雰囲気の良いレストランで、奈津美は真剣な顔つきで皿の上のステーキを切っていた。しばらくして彼女が顔を上げると、慎也がステーキにほとんど手をつけず、自分をじっと見つめていることに気づいた。あまりに熱のこもった視線に、奈津美は思わず顔を赤らめる。「岡本さん。お腹空いてるんじゃないんですか?」慎也はそこでようやく微笑んで、ステーキにナイフを入れ始めた。「ええ、ただ待っていたんです」「何を待っているんですか?」「ある人が、少しでも俺のことを思い出してくれるのを待っているんです」「思い出す?」奈津美は眉間にしわを寄せた。どこか嫌な予感がする。「もし、君の腰には蝶の形をしたあざがあるって、俺が言ったら?」そのたった一言で、奈津美の頭に血がのぼった。彼女は勢いよく立ち上がる。テーブルがガタンと音を立てた。「あの夜の男!」どうりで目の前の男の体つきや匂いに、強烈な既視感を覚えたわけだ。あの夜、無理やり自分を抱いた男!奈津美はためらうことなく手を振り上げると、慎也の頬を思いっきりひっぱたいて、その場を去ろうとした。しかし、慎也は怒る素振りも見せず、黙って彼女の後を追った。「あの夜、人に薬を盛られてしまって……ボディーガードに部屋のドアを見張らせて、誰も入れないように言いつけていたんですが、まさか君が入ってくるとは。でも、君を傷つけたのは事実です。だから償わさせてください――」「償い?何で償うっていうのよ?」奈津美は鼻で笑った。「どうしてあなたたち金持ちって、そんなに汚くて卑劣なわけ?償うの一言で、あの夜の屈辱を私が忘れられるとでも?ありえないから!一生忘れてなんかやらない!」「では、結婚という形で償うというのはどうでしょう?」慎也は彼女の行く手を阻むと、一通の書類を差し出した。「俺と結婚してください」奈津美は呆気に取られた。慎也の言う「償い」が、まさか結婚だと?「ふざけてるの?あなたたちみたいな金持ちにとって、結婚も離婚も役所に紙切れ一枚出すだけなことかもしれない。でも、私にとっては違うの。あなたのことなんて何も知らないのに、結婚なんてできるわけないでしょ?」「まずはこの書類を見ていただけませんか?」慎也の態度は真剣そのものだった。奈津美は言い争うのも面倒になり、彼の持っていた書類
「彼女があの晩の?」「はい、そうです。そして岡本様がずっとお探しになっていたあの女の子も、彼女だったんです」「そうか」資料を閉じると、男は静かにうなずいた。そして、重々しく口を開いた。「番組が終わったら、お前たちは先に帰れ」「ですが、岡本様――」ボディーガードにしてみれば、これほどの人物を一人になんてできなかった。ボディーガードはまだ何か言いたそうだったが、男に鋭く睨まれたら、黙ってうなずくしかなかった。自信に満ちた姿でインタビューをしている奈津美を見ていた男は、面白そうに口角を上げた。てっきりあの晩は、どこかのホステスかキャバ嬢と過ごしたのかと思っていたが、まさかキャスターだったとはな。男はごくりと喉を鳴らした。あの夜の、乱れた甘い時間を思い出す。彼女の低いあえぎ声……ずいぶん独り身でいたが、そろそろまともな恋愛をする頃合いかもしれない。それにしても、ずいぶん長くこの女を探し続けたものだ。もう、会っても良い頃だろう。奈津美がインタビューを終えた時にはもう夕方だった。彼女がステージを降りると、また隆が現れた。「奈津美、仕事終わったか?一緒にご飯でもどうかな?」そんな隆を、奈津美は心底嫌そうな目で見返す。「隆。さっき私が言ったこと、もう忘れの?」「奈津美……」「もう一度言うよ。二度とあなたの顔は見たくない。だから、とっとと消えて」奈津美が立ち去ろうとすると、隆が執拗に彼女の手を掴んだ。「俺が一度決めたことを、簡単に諦めないのは知ってるだろ?お前が許してくれるまで、俺はずっとこうして頼み続けるから」「前田グループの御曹司が、まさかこんなに幼稚な人だったなんてな。思いもしなかった」二人が睨み合っていた後ろから、落ち着いた低い声が聞こえた。隆は不満そうに振り返った。一体誰だ、人のことに首を突っ込んでくる奴は、と。やって来たのが岡本慎也(おかもと しんや)だと気づくと、隆は思わず眉間にしわを寄せた。「岡本社長、こんな所でお会いするとは……ですが、これは私たち夫婦の問題ですので、社長には関係ありません」「岡本社長?」奈津美は呆然と慎也を見つめる。なぜか、どきどきと心臓の鼓動が速くなっていた。彼のことはもちろん知っている。経済雑誌の表紙の常連で、深津市で最も有名な不動産王だった
そのことを思い出すと、奈津美の体は震えを抑えられなかった。ついに冷静でいられなくなった彼女は、立ち上がると、隆の頬を思い切りひっぱたいた。「よくもそんなこと言えるわね!隆、あなたがいなければ、私はあんな酷い目に遭わなかった!あなたを恨んでる。心の底から憎んでるのよ、わかる?」突然の一撃に、隆は完全に言葉を失った。彼は顔を上げたが、泣いている奈津美の姿が目に入り、なにも言えなかった。「奈津美……まさかお前は……あの時……」「そうよ!でも、あなたが望んだことでしょ?隆、あなたは自分の妻を他の男のベッドに送ってまで、ホステスの初めてを守りたかった。でも、その女はとっくの昔に初めてを捨ててたなんてね!笑えるわ、本当に」顔を上げた奈津美は目元の涙を拭い、冷たく言い放った。「優里さんに免じて話を聞いてあげてるだけだから。時間はあと3分。言いたいことがあるなら早くしてちょうだい。そしてこれが終わったら、二度と私の前に現れないで!」奈津美が言い終わるやいなや、隆は激しく彼女を抱きしめた。「違うんだ、こんなつもりじゃなかった!ちゃんと手配していたのに、なんでああなってしまったのか分からない!奈津美、本当にごめん。でも、俺は他の男に汚されたお前を汚いなんて思わない。これで、おあいこにしよう。だから、嫌なことは忘れてやり直さないか?もう絶対にお前を裏切ったりしないと約束するから!俺があの離婚届受理証明書を受け取った時、どれだけ辛かったかわかるか!千佳とのことを許せないなら、どうして平気だなんて言ったんだ?お前が嫌だと言ってくれさえすれば、俺はあの女と別れたのに!」「離して!隆、今更そんなことを言って、自分がどれだけ馬鹿なこと言ってるか分からないの?」奈津美は自分の耳を疑った。どうしてこの男は、こんなにも恥知らずなことが言えるのだろう?間違っていたのも、浮気したのも隆の方で、自分は彼のために離婚してあげたのに、結局は全部こっちのせいだというのか?「わかった、全部俺が悪かった。な?これでいいか?奈津美、もう二度と同じ過ちは犯さない。一生、他の女と関係を持たないと誓う。もし次があったら、その時は自分から命を断つから!」「もうやめて。あなたのそんな誓い、聞き飽きたから。本当にうんざりなの!」奈津美はありったけの力で隆を突き放した
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