名もなき丘の上。 平時なら静寂に包まれているはずの彼の地は、その夜、溢れかえるほどの人々で埋めつくされていた。 たとえばそれは、泣き叫ぶ幼子。 あるいは、子を宥める親。 身を震わせ叫ぶ者たちもいた。 反応はそれぞれ異なるが、確かなのは、誰も彼もが一様に悲嘆に明け暮れ、丘の麓で盛る劫火に、果てしのない喪失を重ねていたこと。 この者どもが住んでいた村は、僅か一晩の内に救いようもなく決定的に破壊された。 彼らにとっては最も忌み嫌うべき宿敵によって。「――――」 そんな凄惨たる状況の中で一人。 人々から少し離れたところで佇む青年だけが悲哀と無縁であった。 飾らない灰色の髪に、鈍い光沢を放つ琥珀色の瞳。 青年はまるで感情が抜け落ちているかのような虚ろな表情で、周囲の者たちの止めどない慟哭を、彼方で激しく燃え上がる赤を、同じく虚ろな瞳で眺めていた。 もちろんこの場にいる以上、彼もその人々と無関係ではない。 彼は正しく、あの燃える炎の中にあった村に住んでいたし、それで尚こうして人形のように静かであった。 青年が残忍であるからと聞かれればそれは否であるが、青年には血も涙もないと聞かれれば、それは是であった。 矛盾していると思うだろうか。 だが文字通り、青年には血も涙もなかった。 本当に彼の肉体には血が通っておらず、未だ瞬き一つすらしないその瞳から涙が零れることはない。 はっきり言って青年は人間ではなかった。比喩的ではなく、生物学的な意味でだ。 だから、こんな時にどんな感情を拾って、どんな表情を貼り付けて、どのように振る舞えばよいのか、青年には何一つ分からなかった。 悲嘆、憤慨、絶望。 短いヒトとしての生活を経て、どれも言葉の上でだけは知っている感情であるが、青年はいまだかつて己の内にそれらを感じたことがなかった。 圧倒的に経験に乏しく、感情を抱くまでに至っていない。 ゆえに青年は、こうして立ち尽くすことしかできないでいたのだ。 そんな青年の内情は、もちろん周りの人間に理解できる類の話ではなかった。 無表情に立ち尽くす青年のその姿は、傍から見る人には薄情や冷血という言葉を想起させ、人によっては自分たち住んでいた村が滅んでしまったことを嘲っているようにも見えたかもしれない。 ともあれ、青年の振る舞いは周囲の反感を大いに買い、注目
Last Updated : 2026-04-02 Read more