その日の夕方。事務所の窓から差し込む光は、少しだけ柔らかくなっていた。週刊プライムの記事はまだ消えていない。SNSでも話題になっている。問題が解決したわけではなかった。それでも。唯の気持ちは少しだけ落ち着いていた。高倉からのメッセージがあったからだろうか。そう考えて。唯は自分で苦笑する。単純すぎる。「何ニヤニヤしてるの?」美咲の声に、唯は慌てて顔を上げた。「してない」「してる」即答だった。美咲は楽しそうに笑う。唯は誤魔化すようにパソコンへ向き直った。そのとき。事務所のドアが開く。二人同時に顔を上げた。入ってきたのは宅配業者だった。「桜井様にお届け物です」唯は少し首を傾げる。注文した覚えはない。受領印を押して受け取る。小さな紙袋だった。送り主の名前は書かれていない。「何それ?」美咲が興味津々で覗き込む。唯は戸惑いながら袋を開けた。中から出てきたのは。個包装された焼き菓子だった。そして、一枚のメモ。唯は目を見開く。そこに書かれていた文字を見て。すぐに誰かわかった。『ちゃんと食べてください』短い一文。署名はない。でも。わかる。美咲も覗き込み、数秒固まった。そして。盛大に吹き出す。「無理」「美咲……!」「無理無理無理」肩を震わせながら笑っている。唯は顔が熱くなった。「別に高倉さんって決まったわけじゃ……」「決まってるでしょ」即答だった。唯は何も言えなくなる。確かに。こんなことをする人は一人しか思い浮かばない。昼間の電話。メッセージ。そして。涼との最後の会話。『ちゃんと食べろ』なぜだろう。同じような言葉なのに。胸に残る温度が違った。唯はメモを見つめる。たった一行。それだけなのに。自然と頬が緩んでしまう。「……終わった」美咲が天井を見上げる。「高倉さん、完全に落としに来てる」「違うから」「いや違わない」美咲は断言した。そして少しだけ真面目な顔になる。「でも良かった」唯は顔を上げる。「今日の唯、朝よりずっと元気になってる」その言葉に。唯は何も言えなくなった。自覚はなかった。でも。本当にそうなのかもしれない。記事はまだ消えていない。不安も残っている。それでも。一人じゃないと思えるだけで。少しだけ前を向ける気が
Last Updated : 2026-06-03 Read more