All Chapters of 冷徹CEOとの離婚後、私は夫の忠実な部下と恋に落ちた: Chapter 21 - Chapter 30

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最後の始末

朝の柔らかな光が、美咲の部屋に静かに入り込んでいた。桜井唯はスーツケースの横に立ち、深呼吸をした。 今日は黒崎家に残っていた最後の荷物を運び出す日だった。 美咲がキッチンから温かいトーストとコーヒーを持ってきてくれた。「唯、本当に大丈夫? 私も一緒に行こうか?」「ううん、大丈夫。荷物はもうほとんどないから。ありがとう、美咲」唯は笑顔を作ったが、心の中は少しざわついていた。 黒崎家に再び足を踏み入れるのは、離婚してから初めてのことだった。 あの冷たい部屋に、もう二度と戻らないと思っていたのに。タクシーに乗り、黒崎マンションに向かう道中、唯は窓の外をぼんやりと眺めていた。 胸の奥に、複雑な感情が渦を巻く。 安堵と、わずかな寂しさと、それでも確かに前を向く決意。マンションに着いた。唯はエントランスを抜け、最上階へ向かうエレベーターに乗り込む。胸が少し苦しくなった。 もう出てきたはずの檻に、また近づいていくような気分だった。そして、部屋の前。 そこに立っていたのは高倉櫂だった。 ワイシャツの上に動きやすいジャケットを羽織り、手袋をはめている。 唯は驚いて目を見開いた。「高倉さん……?」櫂は軽く頭を下げ、穏やかな声で言った。「桜井さん、おはようございます。社長から、荷物運びを手伝うよう指示を受けました。今日一日、お手伝いさせていただきます」唯は一瞬言葉を失った。 涼がそんな指示を出すとは思っていなかった。 でも、櫂の表情は真剣で、どこか優しかった。「ありがとうございます……でも、大丈夫ですよ」「いえ、重い家具もありますし、細かい荷物も多いでしょう。社長の指示ですので、ぜひやらせてください」櫂の言葉は丁寧だったが、唯は彼の目の中に、ただの「指示」以上のものを感じた。 唯は小さく頭を下げた。「……お願いします」作業が始まった。 ただ、最初に言った通り、重
last updateLast Updated : 2026-04-28
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新しい居場所

鍵を回す小さな音が、静かな廊下に響いた。桜井唯はドアを開け、ゆっくりと息を吸い込んだ。決めた1LDKの新居が、午後の柔らかな光に包まれていた。南向きの大きな窓から差し込む陽射しが、フローリングを優しく照らし、白い壁を明るく染めている。 黒崎家の冷たい大理石とは違う、木の温かみのある質感が足の裏に伝わってきた。「唯、すごい! 思ったより明るくて素敵!」後ろから美咲が荷物を運びながら、嬉しそうな声を上げた。その少し後ろには、高倉櫂も段ボールを抱えて立っていた。唯は二人に深く頭を下げた。「本当にありがとうございます。 美咲も高倉さんも、手伝ってくれて……」「いいって!」美咲が明るく笑い、櫂は穏やかな笑みを浮かべた。「桜井さんのお役に立てて光栄です。 重いものは僕が運びますので、軽いものをお願いします」そんな風に言ってもらうのは、なんだか悪いような気もする。でも、櫂は涼からの命令で来ているのだという。ということは、彼に頼みごとをしないということは、後々、社内で彼の評価にも関わる可能性がある。そう思うと、申し訳なさはあったが最終的にはお願いすることにしたのだった。三人で荷解きが始まった。美咲はキッチン周りを中心に、食器や調理器具を丁寧に収納していく。櫂は新しく買った本棚や衣装ケースを黙々と組み立て、唯はカーテンやクッションを配置しながら、部屋の雰囲気を整えていった。南向きの窓辺にレースのカーテンをかけたとき、唯はふと手を止めた。光が部屋いっぱいに満ち、風がカーテンを優しく揺らす。 近所の公園の緑や、通りを歩く人々の姿が、穏やかに目に入ってきた。「……こういう生活が、理想だったのかも」唯は小さく呟いた。 胸の奥から、静かな安堵がゆっくりと広がっていく。広くもなく、豪華でもない。 ただ、自分のために選んだ部屋。ここなら、誰にも気を使わず、自分のペースで生きていけ
last updateLast Updated : 2026-04-28
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