朝の光が、新居の窓を優しく照らしていた。桜井唯はベッドからゆっくりと起き上がり、カーテンを開けた。柔らかな陽射しが部屋いっぱいに広がり、フローリングを淡く輝かせる。唯は深く息を吸い、キッチンに向かった。今日は特別な朝にしたかった。自分の夢を本格的に動き出させる、最初の朝。コーヒーを淹れ、トーストにイチゴのジャムを塗り、フルーツを添える。結婚中は絶対に作らなかった甘い朝食。唯はテーブルに並べ、ゆっくりと一口ずつ味わった。甘さと酸味のバランスが、舌の上で優しく広がる。唯はフォークを置き、窓の外を眺めた。「今日から……本気で始める」唯はノートパソコンを開き、デザインファイルを立ち上げた。画面に表示されたのは、昨日から描き始めていたロゴ案。「Sakura Design」——自分の旧姓を冠した、シンプルで柔らかいフォント。桜の花びらをモチーフにした控えめな装飾を加え、何パターンも試作する。線を引くたび、色を重ねるたび、三年間封じ込めていた情熱が、静かに燃え上がっていく。唯はペンを握り、紙にもいくつか描き加えた。指先が自然に動き、線が自由に伸びる。結婚前は、こんな風に夢中になってデザインしていた。今、再びその感覚が戻ってきた。唯の唇に、自然と笑みが浮かぶ。午前中、唯は集中してロゴを完成させた。「Sakura Design」の最終案を保存し、満足げに息を吐いた。これから、事務所開業に向けた準備を本格的に進める。契約書類、ポートフォリオの更新、過去の取引先への連絡……。やるべきことは山積みだったが、唯の心は軽かった。インターホンが鳴った。画面に映っていたのは美咲だった。「唯~! 開業準備の応援に来たよ!」唯は笑顔でドアを開けた。美咲は大きな紙袋を抱え、中から可愛い観葉植物と「お祝いマカロン」を取り出した。「これ、唯の新事務所に置いてね! あと、甘いもの好きでしょ? 頑張って!」唯は美咲を抱きしめた。「美咲……本当にありがとう。 来てくれて嬉しい」二人はソファに並んで座り、マカロンを頬張りながら話を始めた。美咲がスケッチブックを覗き込み、目を輝かせた。「わあ、これがロゴ案? めっちゃ可愛い! 桜のモチーフ、唯らしいよね。 『Sakura Design』……響きも素敵!」唯は少し照れながら頷いた。「うん……
Last Updated : 2026-05-02 Read more