唯はカフェの扉を押し開けた。柔らかなドアベルの音が響く。足取りは軽かった。窓際の席で手を振っているのは、大学時代からの親友・美咲だった。 「唯! 久しぶりー! 」美咲は急に抱き着いてくる。そんなところも昔と変わっていなくて懐かしかった。「もう、三年ぶり? 結婚してからは全然会えなくて寂しかったよ」 唯はいつものように柔らかな笑みを浮かべ、美咲の背中を優しく叩いた。 「ごめんね、美咲。涼さんの仕事が忙しくて、私も家のこととかで……」「そうなんだ、まあ家も広そうだもんね」美咲は冗談めかして言った。くすくすと二人で笑いあってから、向かい合って座った。店内は午後の柔らかな日差しが差し込み、観葉植物の緑が落ち着いた雰囲気を演出している。唯は今日も完璧に身支度を整えていた。淡いベージュのニットに膝丈のスカート、髪は丁寧にまとめて、夫・黒崎涼の妻として恥ずかしくないように完璧に装った。今、誰が唯を見ても、きっと褒めてくれる。そう思いながら支度をして出てきた。でも、美咲はそんなことには気づいた様子もない。ただ、じっと唯を見つめた。「なんか、雰囲気変わった?」「そう?」「服装とか」「それは……、涼さんに言われて」昔着ていたような服は、妻にはふさわしくないからと全部捨てられて、新しい服を買い与えられていた。上等で、どこに出しても恥ずかしくない服。でも、私らしくはない……。ふいにすべりこんできた寂しさに、唯は無理やりふたをして笑った。つられたのか、美咲も笑う。ちょうどそのとき、注文のカフェラテが運ばれてきた。受け取ると、美咲がついに本題と言わんばかりに口を開く。「で、どう? 結婚生活」「普通だと思うよ」
Last Updated : 2026-04-18 Read more