All Chapters of 我が子より他人の子?産後ワンオペ妻の離婚: Chapter 351 - Chapter 360

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第351話

その声に、その場にいた全員が一斉に振り返った。宴会場の入口に立っていたのは、仕立てのいい黒いスーツに身を包んだ仁哉。その顔はひどく険しく、見るからに機嫌が悪そうだった。大股で会場に入ってくる彼の全身から放たれる威圧感に、周囲の空気まで張り詰めていく。仁哉は冷ややかに美紀を見つめ、嫌悪感を露わにした。「美紀、また君か。今日は奈緒さんの娘の百日祝いなのに、こんなところまで来て何を騒いでるんだ?」仁哉が現れた途端、それまで威勢のよかった美紀の表情が固まった。だが、それもほんの数秒で、仁哉の目に浮かぶ露骨な嫌悪に気づくと、美紀はすぐに歪んだ笑みを浮かべる。「あら、あなたもここにいたのね。ずいぶん彼女たちに肩入れしてるじゃない。そんなにビシッと決めてどうしたの?知らない人が見たら、あなたがあの子の父親だと勘違いしそうね」美紀は口元を押さえ、わざとらしく甲高い笑い声を上げた。仁哉の顔がさらに険しくなり、彼の握り締めた拳の関節が白く浮き上がっていた。その時、弘樹も会場から出てきて、状況を察すると、すぐさま二人の間に割って入る。「美紀、いい加減なことを言うな。俺も仁哉も、自分から手伝いに来ただけだ。お前が考えてるような関係じゃない」弘樹の姿を見た瞬間、美紀の胸に激しい嫉妬がこみ上げた。美紀は幼い頃から、ずっと充の後ろをついて回っていたし、仁哉、弘樹、拓也は充の幼馴染。もともと淡泊な性格だった仁哉はともかく、弘樹と拓也は昔から美紀を妹のように可愛がり、多少のわがままなら何でも聞いてくれた。それなのに今では、美紀が招待状を送ったにも関わらず、都合が悪いと参加を断り、あろうことか二人ともが奈緒の娘の百日祝いの手伝いをしている。これでは、自分とはもう関わりたくない――そう言われているようなものだ。そう思うと美紀の嫉妬の炎はさらに激しくなり、思わず皮肉混じりに嘲笑した。「本当のところなんて、本人たちにしか分からないでしょ?弘樹、あなたも余計なことに首を突っ込まないほうがいいわよ。いいように利用されてるとも知らずに、最後までこき使われたって知らないからね」弘樹は呆れて言葉も出なかった。仁哉もとうとう我慢の限界に達し、冷たく言い放つ。「言いたいことはそれだけか?気が済んだなら、もう出ていってくれ。客を迎え
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第352話

母の翠は拘束されたまま、いまだ戻ってきていない。このところ青木家の姉弟たちは、母を助け出そうとあらゆる手を尽くしていたのだが、何をしても無駄だった。今回ばかりは青木家の力をもってしても、どうにもならない。そのせいで、夢香は奈緒を今すぐにでも殺してやりたいほど、心底憎んでいた。それなのに、あろうことか奈緒は娘のたの百日祝いを開いている。しかも、深津市でも指折りの高級ホテルで。青木家には招待状どころか、知らせひとつ寄越さなかった。あまりにも青木家を蔑ろにしている。青木家の人間は全て死んだと思っているのだろうか?夢香は怒りに顔を歪め、奈緒を睨みつけた。唾を飛ばす勢いで、怒鳴り始める。「奈緒、この恥知らず!うちのお母さんを警察に突き出しておいて、よく平気な顔でその父親も分からないような子の百日祝いなんてできるわね!そんなことして、恥ずかしくないわけ?美紀、この人たちに寄ってたかっていじめられたんでしょ?でも、怖がることなんて何一つない。今のあなたには、佐野家だけじゃなくて、青木家と盛岡家までついてるの。こんな人たちに好き勝手なんてさせないから!」夢香にそう言われた途端、美紀は背筋を伸ばした。味方を得て、すっかり強気になったのだ。「そうなの、夢香さん。私たちのところでオーケストラの生演奏するからって嫉妬してるのか、下品な音楽を大音量で流して邪魔してくるの!だから少し音を下げてって言いに来ただけなのに……みんなで寄ってたかって、ひどいことを言ってきて」話しているうちに、美紀の声は次第に震え始めた。目元までうっすら赤くなる。夢香はそんな美紀を気の毒そうに見つめ、慰めるように肩を叩いた。その頃には、充と胡桃もそばまで来ていた。だが充の目は、奈緒でも美紀でもなく、真っすぐ仁哉に向けられている。二人の視線がぶつかったその瞬間、周囲の空気が一気に張り詰めた。充の目には、探るような色と、押し殺した怒りが滲んでいる。まるで――お前は何のつもりでここにいる、と無言で問い詰めているかのようだった。対する仁哉は、どこまでも冷めた顔をしていて、そこにはわずかな侮蔑すら滲んでいた。まるで充など眼中にないと言わんばかりの態度が、かえって充の神経を逆撫でする。一方、夢香からあれほどひどい罵声を浴びせられても、奈緒は手元の贈り物を整理す
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第353話

バシャーンッ!何杯もの水が一斉にぶちまけられ、滝のような勢いで充たち姉弟と美紀に降りかかった。「きゃあああ――!」夢香と美紀が、揃ってけたたましい悲鳴を上げる。せっかく完璧に仕上げたメイクも、流れ落ちる水ですっかり台無しになってしまった。「あんたたち……なんてことをするの!絶対に許さないから!」夢香は怒りのあまり、奈緒を指さす指まで震えていた。だが、あまりの惨状にまともに言葉も続かない。しかも、ボディーガードたちはまだ水をぶちまける気満々だ。それを見た充たちは、たまらず頭をかばいながら散り散りに逃げ出した。だが、美紀が着ていた高価なピンクのプリンセスドレスは、裾が長いうえにやたらと装飾が多い。慌てて逃げようとした拍子に自分の裾を踏み、派手に転んでしまった。そして起き上がる間もなく――バシャッ!今度こそ頭から全身ずぶ濡れにされた。ふんわりと広がっていた華やかなドレスは、今や濡れ雑巾のように体にべったりと張りついている。頭のティアラは斜めにずれ、つけまつげは頬に貼りついていた。ついさっきまで「盛岡家の令嬢」としてあれほど偉そうに胸を張っていた面影など、見る影もない。まさに、絵に描いたようなずぶ濡れの惨状だった。そのあまりに滑稽な姿を見て、とうとう吹き出してしまった蛍。すかさず携帯を取り出し、美紀の姿をしっかり動画に収める。しかし、美紀にはもう言い返す余裕すらなかったため、びしょ濡れのドレスの裾を抱え、泣きながら隣の会場へ逃げ帰っていった。充と胡桃も多少水をかぶっていたが、二人はその場を動かなかった。険しい表情のまま奈緒を見つめている。先に口を開いたのは胡桃で、その声には苛立ちとやるせなさが滲んでいた。「奈緒さん、どうして毎回こうして大事にするわけ?何かあるなら話し合えばいいでしょ?どうしていつも、誰も引き返せないところまでやるのよ?青木家はもうばらばらなの。それでもまだ足りない?いったいどうすれば気が済むわけ?」結局、言いたいことはひとつ――すべて奈緒が悪い。奈緒が無意識に拳を握りしめた、そのときだった。「お願いだから、その上から目線と人を小馬鹿にする態度、やめてくれない?騒ぎを起こしてるのは奈緒?ちゃんと周りを見たら?ここは私たちが借りてる会場なの。勝手に乗り込んできて、ああしろこうし
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第354話

すかさず蛍が口を挟んだ。「充、父親面するなら、もっと前から自分で準備すればよかったでしょ?奈緒が自分で用意した百日祝いに、なんでわざわざあんたを呼ばなきゃいけないわけ?そもそも今まで、黎ちゃんのために何かしてあげたことがある?」充は返す言葉を失った。これはいったい何なんだ?自分の娘の百日祝いだというのに、かつての親友たちは揃って参加している。それなのに父親である自分は、知らせてももらえないなんて。胸の奥で怒りが一気に膨れ上がる。怒鳴りつけようとした瞬間、携帯が震え出した。充が少し離れた場所へ移動し、電話に出た途端、夢香の怒鳴り声が耳をつんざいた。「充!そこで何やってるのよ!さっさと戻ってきなさい!本当に最悪!百日祝い?私たちに水まで浴びせかけておいて!今日こそ、あの女の現場をメチャクチャにしてやるんだから!いい、充!もう報道関係者は大勢呼んであるの!奈緒の娘があなたの子じゃないって、全部世間にバラしてやる!止めたって無駄だからね!もし邪魔したら、もうあなたなんか弟じゃないし、もう私たちを家族だと思わないで!」充は何も言わなかった。充の顔に、険しさが増していく。記者を呼んだと聞いた瞬間、奈緒と口論している場合ではなくなった。ズキズキと脈打つこめかみを押さえながら、必死に苛立ちを飲み込む。充自身、黎が本当に自分の娘ではないのかと、まだ疑っていた。ここまで来ると、もう誰の言葉も信用できない。自分でもう一度DNA鑑定を行い、その結果をこの目で確かめない限り、納得できなかった。だからこそ、夢香に勝手な真似をさせるわけにはいかない。黎が実の娘であろうとなかろうと、こんな話をマスコミの前で暴露されれば、自分の名誉まで地に落ちてしまう!充は急いで隣の宴会場へ戻った。美紀、夢香、胡桃の三人は、会場脇の控室にいた。美紀が今日のために用意した自慢のプリンセスドレスは、完全に使い物にならなくなっているし、メイクも見る影もなかったが、幸い、乾杯の挨拶のときに着替えるつもりで、もう一着ドレスを用意していた。お披露目パーティーの開始時間も迫っている。美紀は急いでもう一つのドレスに着替え、メイク担当に化粧を一から直させていた。一方、夢香はびしょ濡れになったドレスをタオルで乱暴に拭きながら、怒り狂っていた。
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第355話

充は腹が煮えくり返っていたものの、青木家を背負う立場にあるだけあって、まだ完全に冷静さを失ってはいなかった。これは血筋だけでなく、青木家の将来にも関わる重大な問題だ。だからこそ、何度でも確かめる必要がある。万が一にも間違いがあれば、もう後戻りはできない。仁哉だって、裕弥と血のつながりがないと断定するために、3回もDNA鑑定を行ったのだ。自分も軽率に動くわけにはいかない。それに、奈緒と仁哉の関係に対してずっと不信感を抱いてはいたが、潜在意識の中では、あの芯が強く、理性的な奈緒がそんなことをするはずがないと思っていた。ところが夢香は、その場で勢いよく立ち上がった。充の鼻先に指を突きつけ、怒鳴り散らす。「いつまであの女を甘やかすつもり?見てよ、今のあの女の残酷さを!自分の姑を刑務所送りにするような女なんだよ。やることがえげつなさすぎるでしょ!いい、充?黎とあなたの検体を採って鑑定に出したのは、この私なの!鑑定書にははっきり書いてあった。あの子はあなたの娘じゃない。いつまで現実から目を背けてるの?今日こそ奈緒を徹底的に叩き潰す絶好のチャンスなんだよ!あの子どもの百日祝いの日を、よりによって美紀のお披露目パーティーと同じ日に、それも同じホテルでぶつけてくるなんて、明らかに嫌がらせでしょ?充、いつまで我慢するつもり?そもそも奈緒は最初から最後まで、あなたを夫として、黎の父親として、一度でも立てたことがある?」夢香の言葉ひとつひとつが、充の胸に鋭く突き刺さる。充の顔は凍りつき、冷徹な瞳からは殺気のようなものが滲み出ていた。その声は氷よりも冷たくなった。「奈緒が何をしようと、俺には俺のやり方がある。俺自身でもう一度DNA鑑定をする。それまでは、黎を傷つけるようなことは絶対に許さない!」「でも……!」充は疲れ切ったように眉間を揉んだ。「もういい。今日は美紀にとって大切な日だ。盛岡家に我が家の恥を晒すな。美紀も準備を済ませて、早く招待客を迎えに行け」胡桃も静かに頷いた。「充の言う通りよ。ほかのことは今日が終わってからにしましょう。今は何より、美紀が本当のお父様と再会して、盛岡家の一員として正式に迎えられることのほうが大切なんだから」先ほど水を浴びせられた怒りで、まだ体を震わせていた美紀だが、充が今も自分の晴れ舞
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第356話

なにしろ青木グループは、今の深津市において誰もが認める不動産業界のトップ。保雄と充はこれまで、顔を合わせれば挨拶する程度の関係にすぎなかった。しかし、今回美紀を娘として迎え入れたことにより、その距離は一気に縮まった。保雄が上機嫌になるのも無理はない。美紀は会場の入口に立ち、終始品のいい笑みを浮かべて客を迎えていた。誰に対しても礼儀正しく、立ち居振る舞いも優雅そのもの。その姿を見た招待客たちは口々に、「まさに盛岡家の失われた宝石だ」と褒め称えた。美紀は最高に気分が良かった。先ほど水をかけられた腹立たしさなど、いつの間にか半分以上吹き飛んでいる。しかも今回は、夢香が大勢のマスコミまで呼んでくれていた。カメラやマイクが一斉に美紀へ向けられる。美紀はカメラの前に立ち、実の父親と再会できた喜びを堂々と語った。さらに、これまで自分を育ててくれた養父母への感謝も忘れない。言葉を詰まらせ、時折涙ぐみながら語るその姿は――まるで数奇な運命を乗り越え、ようやく本当の家族のもとへ帰ってきた悲劇のヒロインそのものだった。完璧だ。失っていた自信も、かつての輝きも、今夜ですべて取り戻した気がする。やっぱり自分は特別。世界は、自分を中心に回っているのだ。美紀は満足そうに目を閉じ、この夢のような時間に酔いしれた。だがそのとき、隣の会場の入口がにわかに騒がしくなった。ザッ、ザッ、ザッ……力強く、寸分の乱れもない足音が響いてくる。重く規則正しいその音は、一歩ごとに周囲の空気を張り詰めさせていった。美紀は反射的に目を開け、音のした方へと顔を向けた。隣の会場の入口には、黒い制服に身を包んだ屈強なボディーガードたちがずらりと並んでいた。全員が背筋を伸ばし、訓練された動きで左右に分かれると、赤い規制ロープを張って通路を確保する。その中央を、見るからにただ者ではない招待客たちがゆっくりと歩いてきた。先頭に立つのは、この国では誰もが知る要人中の要人。その後ろには、重厚な雰囲気をまとった政府の要人たちが続く。さらには、深津市の経済界を牛耳るような大物経営者たちまで姿を見せていた。誰も彼も、美紀が普段ならニュースや経済誌でしか目にすることのない雲の上の人物ばかりだ。そんな顔触れが今、揃いも揃って、奈緒の娘の百日祝いに出席している。美紀は信じら
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第357話

「栗原家総出で、奈緒の娘の百日祝いに来るなんてね!私を追い出したと思ったら、今度は奈緒を嫁に迎えたくて仕方ないってわけ?」宗時と琴葉の前までずかずかと歩み寄ると、挨拶すらせず、いきなり食ってかかった美紀。琴葉は驚いて振り返ったが、美紀の姿を見た途端、表情を冷たくした。「美紀さん、それはどういう意味?古い友人に招かれたから、奈緒さんの娘さんの百日祝いに来ただけ。憶測だけで変なことを言わないでくれるかしら?」努めて冷静に話してはいたものの、琴葉の目には隠しきれない怒りが滲んでいた。この5年もの間、栗原家は美紀を本当の娘のように可愛がってきた。欲しいものがあれば与え、多少わがままを言っても受け入れてきたというのに、美紀は、結婚している身でありながら別の男の子供を産んだ。その事実を思い出すたび、琴葉は今でも胸が苦しくなる。悔しい。悔しくないわけがない。それからというもの、夫婦そろって、夜になると眠れなくなることさえあった。栗原家にとって、これほどの屈辱は今まで一度もなかった。それでも、生まれてきた子供には罪がない。だから栗原家は、あえて事を荒立てず、美紀の不貞を世間へ公表することもしなかった。それなのに美紀は、本人は少しも後ろめたそうにしないどころか、こうして堂々と文句を言いに来ている。その厚かましさに、琴葉は怒りで胸が痛くなるほどだった。「古い友人?それって、蘭さんのこと?」美紀は眉をひそめ、馬鹿にしたように笑った。「あら、今なんて?栗原家って、ずっと家柄や品格を大事にしてきたんじゃないの?大学教授のあなたが、あんな夜の店のオーナーと友人だったなんて意外。やっぱり、似た者同士って集まるものなのね」琴葉は怒りで身体を震わせた。「美紀さん、言葉を慎みなさい!どういうつもり!?蘭と友人で何が悪いの?あの人は夜の店を経営していたけれど、自分の力で働いて、誰にも恥じることなく生きてきた人。それの何がいけないの?」美紀は鼻で笑った。「なるほどね。やっと分かった。あなたと蘭さんが昔から知り合いなら、奈緒さんと仁哉だって前から知り合いだったってことじゃない。だから仁哉はあんなに急いで私と離婚したがったし、奈緒さんも必死になって充さんと離婚しようとしてるのね。結局、あの二人、とっくにできてたんじゃな
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第358話

美紀はずっと、宗時と琴葉に言いたいことが山ほどあった。昔は本当の娘だと思っていると言い、何をねだっても叶えてくれたのに、どうしてこんなに簡単に自分を切り捨てられたのか。裕弥のことだって、あれほど可愛がっていたのに、血が繋がっていないと分かった途端、態度を変えるなんて。以前は、仁哉と揉めるたびに、仁哉が悪いと宥めてくれていた。なのに今回は、一度も自分の味方をしなかった。電話をかけても着信拒否、話し合うことすら拒まれる。そんな二人が、今日は黎の百日祝いのために、栗原家総出で来ている。どうして自分や裕弥に対して、これほどまでに薄情でいられるのか?たとえ裕弥が実の孫ではなかったとしても、一度は可愛がった子供ではないか……裕弥だって生後百日目だったというのに、プレゼントの一つすら贈ろうとは思わなかったのだろうか?以前の彼らはこうではなかった。美紀がどれほど邪険に扱っても、向こうから歩み寄ってきたし、金も、物も惜しみなく与えてくれた。だが今は、自分に声をかけようともしないなんて、あまりにも冷たい。考えれば考えるほど、美紀の胸には怒りが募った。美紀の琴葉を見る目は、まるで長年の仇を見るようだった。一方、琴葉は怒りで顔を真っ赤にした。言い返そうにも、美紀のあまりの剣幕に気圧され、まともに言葉が出てこない。腹立たしさと悔しさで、ただ全身を震わせるばかりだった。「な……何を……」これほど話をすり替え、理屈も通じない相手と真正面から言い争った経験など、琴葉にはなかった。怒りで全身を震わせ、言葉を失う。とうとう息苦しそうによろめいてしまった。慌てて琴葉を支えた宗時が、美紀を指さし声を荒らげる。「君……少しは礼儀をわきまえなさい!栗原家は、君に対して十分すぎるほど穏便に対応してきた。それでもまだ何が不満なんだ?いいか、これ以上はもうやめろ」宗時も、すっかり頭に血が上っていた。だが夫婦ともに、普段から人前で声を荒らげるようなタイプではないし、ましてや、誰かと罵り合うなどしたこともない。そのため、美紀のような相手を前にして、どう対処していいのか分からなかったのだ。そんな時、奈緒と仁哉がちょうど会場の中から出てきた。仁哉の両親がなかなか入ってこないため、様子を見に来たのだ。すると、美紀が腰に手を当て、二人に食っ
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第359話

「美紀、いい加減にしろ。父さんも母さんも、品のない言い争いをしたくないから黙ってるだけだ。それをいいことに、好き放題言っていいと思うな。今日は奈緒さんの娘さんの百日祝いだ。今すぐ僕の前から消えろ。これ以上絡んでくるなら、もう情けはかけない」あまりにも突き放した仁哉の態度に、美紀は怒りで全身を震わせた。唇を強く噛み、爪が食い込むほど拳を握り締める。「仁哉、あなたはこの女の娘の百日祝いのことばかり……裕弥だってもう百日祝いをする頃なんだけど?私だって5年間も夫婦だったじゃない!あなたの両親も、昔は私を実の娘みたいに思ってるって言ってくれた。それなのに何よ!離婚してから今まで、一度だって連絡をくれなかった。無視なんて、私は……」「もういい!」仁哉の鋭い一喝が、美紀の声を断ち切った。一歩前に出ると、奈緒と母親を庇うように立つ。その全身から漂う冷気に、美紀も思わず息を呑んだ。「美紀、いい加減自分の立場を自覚しろ。僕たちはもう離婚したんだから、君と僕の両親はもう何の関係もない。それでも今日ここで騒ぎ続けるつもりなら、君のお披露目会そのものを続けられなくしてもいいんだぞ」それ以上、美紀に付き合う気がなかった仁哉は、母親の肩を支えると、先ほどとは打って変わって穏やかな声をかける。「母さん、もう相手にしなくていい。こんなことで身体を悪くしたら、それこそ馬鹿らしいよ」琴葉は深く息を吸い、どうにか気持ちを落ち着かせた。「大丈夫よ。中へ入りましょう。皆さんをいつまでも待たせてはいけないから」宗時も不機嫌そうに鼻を鳴らすと、美紀には目もくれず、二人とともに会場へ向かった。奈緒は美紀の横を通り過ぎるとき、少しだけ足を止めた。横目で美紀を見る。その眼差しには怒りよりも、むしろ呆れに近い憐れみがあった。「美紀、あんなことをしておいて、どうして今でも仁哉のご両親に優しくしてもらえると思えるの?あなたのことを責めなかったし、仕返しもしなかったし、あなたがしたことを世間に公表することもなかった。それだけでも、十分すぎるほど情けをかけてもらってると思うんだけど。自分が何をしたのか、一度ちゃんと考えたほうがいいかもね。仁哉のご両親は、何も知らない裕弥くんまで傷つけたくなかったから、最後まで黙ってくれているんだよ。せめて、そのくら
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第360話

奈緒と蘭の二人は、どうやってこれほどの人物たちを招待したのだろう?胸の奥に、また新たな疑問が湧き上がる。そのとき、充の視線がサインウォールの右上で止まった。そこにはハート型に飾られた写真のコーナーがあり、黎が生まれた日から百日目を迎えるまでの写真が、一枚一枚丁寧に飾られていた。どの写真にも、赤ん坊らしい無邪気な可愛らしさが溢れている。見ているうちに、充の胸に愛おしさが込み上げてきたが、同時に、鈍い痛みも広がっていく。娘の百日祝いなのに、父親である自分は、参加することすら許されていない。なんと皮肉で、寂しいことなのだろう。開け放たれた宴会場の扉を見つめながら、充は結局、中へ一歩踏み出すことができなかった。さっきまでの不満を充に漏らそうとした美紀だったが、ふと充のどこか虚ろな表情に気づいた。彼の眼差しに滲む、奈緒と黎に対する未練と切なさ……それを見た瞬間、美紀の心はずたずたに切り裂かれたような衝撃を受けた。仁哉はもう完全に取り戻せない。ならばせめて充だけは、奈緒に奪われるわけにはいかないのだ。美紀は心の中で固く誓った。目を潤ませながら充の腕にしがみつき、甘えるように言う。「充さん、さっき見てた?仁哉と奈緒、もう人目なんて気にしてないみたいだったんだから。だって、二人で並んで招待客を迎えてたんだよ。それだけじゃない。栗原家なんて、お年寄りから若い人まで一族総出でお祝いに来てる。私、本気で思うんだけど……やっぱりあの子、仁哉の娘なんじゃない?そうじゃなきゃ、普段あんなに目立つことを嫌う栗原家が、どうしてここまでするの?」充の目つきが一変した。「何だって?栗原家が全員来てるのか?」美紀は強く頷く。「そうよ。だから私も腹が立って、さっき仁哉のご両親に言いに行ったの。でも向こうはみんなで寄ってたかって私を責めるし、今じゃ完全に奈緒の味方よ」一度言葉を切り、美紀はさらに付け加えた。「そう言えば、仁哉のお母さんが、蘭さんと昔からの知り合いだって言ってた。私、思うんだけど……奈緒と仁哉って、あなたを通じて知り合ったんじゃなくて、ずっと前から知り合いだったんじゃないの?」充の目から、完全に温度が消えた。黒い瞳には血走ったような赤みさえ浮かび、今にも誰かに掴みかかりそうなほどだった。胸の中で押さえ込んでいた怒り
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