「わかりました、すぐに取りかかります」それから奈緒はまたあの2本の録音データのことを思い出し、無意識に時計を確認した……この時点で、翠に最後通告を送ってから、すでに5分が経っていた。「坂本さん、この録音を公開して。それから腕利きのライターに美紀と充の関係を暴く記事を書かせて。必ずあの二人の情事を、この深津市中が沸き上がるほどバラまいてやるんだから!」奈緒は録音データと、以前から準備していた資料のすべてを真司に手渡した。20億のお金なんて、彼女にとっては今はどうでもいいことだ。ただ、美紀と充の化けの皮を完全に剥がし、彼らの優雅で恵まれた暮らしをズタズタに引き裂きたい、そう望む一心だった。……真司はすぐに指示通り動いた。間もなく、奈緒の自筆署名入りの離婚届と退職届が、宮本渉(みやもと わたる)の手によって社長室へと届けられた。充はまず「退職」という文字に目を留め、書類を手に取ったが、気にも留めない様子で口元をゆがめた。「また始まったか。退職をチラつかせて俺を脅そうなんて、ふざけた真似を」その直後、彼が下に重なっていた離婚届に目を落とすと、表情が一瞬にして凍りついた。すべての内容に目を通し終えると、充の顔色は一瞬にして恐ろしいほど険しくなった。彼はデスクを強く叩き、勢いよく立ち上がると、迷うことなく奈緒の電話番号を押した。「どこにいる?」繋がった電話の向こうから、充の抑圧された冷徹な声が響く。今にも爆発しそうなほどの怒りを必死に抑え込んでいるのが伺えた。「私がどこにいようと関係ないでしょ?書類は届いた?」奈緒は淡々とした口調で聞き返した。それを聞いて、怒りのこもった充の声はますます荒々しくなった。「奈緒、今がどれほど大事な時期だってわかっていないのか?ゼニスビルのプロジェクトが動き出す直前にして、お前がこのタイミングで辞めるなんて言い出すのは自身が一手で立ち上げてきたプロジェクトをここで投げ出すつもりなのか?それと、わがままで離婚なんて言いだすような、ふざけたことはやめてくれないか?だいたい、俺は婚姻に対するお前のそんな投げやりな態度が一番嫌なんだよ!」その時、絶好の眺望が広がる露台でデッキチェアに横たわり、使用人が洗ってきたイチゴを口にしていた奈緒は、わずかに目を細めた。「美紀を
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