仁哉の心臓が、口から飛び出しそうになるほど高鳴った。奈緒の突然の接近に、頭の中が真っ白になる。彼女の意図が分からず戸惑っていると、不意に背中へひんやりとした感触が走り、その直後、かすかな痛みが広がった。耳元で奈緒の声が響く。「どうしたの?体にこんな傷がいっぱいだなんて。しかも背中まで……仁哉さん、誰かと揉めたの?ねえ、もしかして私のせい?」その一言で、仁哉の意識は一気に現実へ引き戻された。熱を帯びていた視線も、瞬く間にいつもの冷静さを取り戻す。彼は落ち着いた声でこう答えた。「奈緒さんのせいじゃないよ。何があったかは……聞かないでくれ」奈緒は最後まで丁寧に傷の手当てを終えた。仁哉が話したくなさそうなので、それ以上は何も聞かなかった。ちょうどそこへ、弘樹が洗った果物を持ってきた。その中身を見た奈緒は、思わず目を丸くする。ブルーベリーやイチゴ、マスカット――どれも普段、自分がよく買うものばかりだった。自分は毎日の栄養と摂取カロリーを細かく管理していたので、低カロリーの果物を選んでいたのだ。まさか仁哉が、そのことに気づいていたなんて。ふと、充と暮らした5年間を思い出す。同じ職場で働き、同じ家で暮らしていたのに、充は自分の好きな果物さえ知らなかった。以前には、自分の大嫌いな高カロリーのマンゴーやアボカドを嬉しそうに買ってきたことまである。そう思うと、あまりにも対照的で、胸の奥が少しだけ切なくなった。奈緒はブルーベリーとマスカットを数粒つまみ、ゆっくりと口に運ぶ。一方の蛍は、我慢しきれない様子で奏介が買ってきたスイーツを頬張っていた。一口すくうと、そのまま奈緒の口元へ差し出す。「奈緒、すっごくおいしいよ。一口食べてみて」奈緒は唇をきゅっと結び、絶対に甘い物は食べないという態度を崩さない。その様子に蛍は吹き出した。そして、思わず悪態をつく。「奈緒、本当にストイックすぎ。こんなに細いんだから、たまには甘い物くらい食べてもいいんじゃない?そんなに我慢ばっかりしてたら、人生つまらないよ」しかし、奈緒は穏やかに微笑んだ。「人間が一番怖いのは、『欲』なの。うまく抑えられないと、悪魔みたいにどんどん心の中を侵食してくるから。私は欲望に流されるより、自分自身をきちんとコントロールできるほうが、ず
Read more