All Chapters of 君に触れたい〜逃した未来は大きかった〜: Chapter 141 - Chapter 144

144 Chapters

141話

そんな祖母のお葬式の場ですぐさま始まったのが、親戚たちによる遺産相続争いだった。 祖父母は家をはじめとするすべてをかすみへと遺すと言ってくれていたが、肝心の遺言書が見つからなかった。 そんな中、ギャンブル好きで知られる祖父の弟夫婦が、生前兄は遺産は全て自分とその家族にやると言われていたと言い始め、彼らが連れてきた弁護士がその証言を裏付ける書類を提示して皆に見せた。 かすみはせめてこの家だけでも自分に譲って欲しいと頼み込んだが、一切聞く耳を持ってもらえなかった。 そして祖母のお葬式後、かすみはあっという間に家を追い出され、この家もギャンブルで作った借金返済のためにすぐさま競売にかけられてしまったのだったーー そして、時を経たずしてどこぞのお金持ちがこの家を買い取ったと聞いたが、まさかそれが櫂斗だったとはー 「そんなことをしてお金をみせつけたら、その後も何かにつけてタカりにきたんじゃありませんか?」 どこか蔑んだような言い方をするかすみに、櫂斗は手の中の置物をそっと元の位置に戻すと、 「黙らせた、と言ったろう?ゴミクズみたいな人間の扱いなら慣れている。2億払って、それで奴らとはおしまいだ。」 かすみは櫂斗を真っ直ぐに見上げると、 「ありがとうございます、櫂斗さん。本当に・・・ありがとうございます。」 祖父母の靴を抱きしめ、かすみは櫂斗に深々と頭を下げた。 櫂斗はかすみを見下ろして、 「礼なら羽柴に言え。俺だったらこんな気味悪い家、例えタダでも買わなかっただろうからな。」 そこへ、荷物を手に抱えた羽柴が現れ、大きなため息を吐いた。 振り返る櫂斗に、羽柴は視線で訴える。 櫂斗は眉間にしわを寄せ、チッと舌打ちをすると、 「俺に報いたいのなら、キッチリとこの分の対価を払うことだな。何、時間はたっぷりある。これからゆっくりと返していってもらうさ。」 どこがたっぷりだ、限られた時間しかないというのにーー 羽柴は切羽詰まったような顔をした。 薄ら笑いを浮かべる櫂斗に、かすみの顔からスッと温度が消えると、 「もちろんです。」 櫂斗は鼻で笑って、 「家中の明かりをつけろ。それが終わったら冷蔵庫にあるもので何か夜食でも作っておけ。」 そう命令すると、荷物を運びにさっさと戻って行ってしまう。
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142話

荷物を運び終え一息ついている櫂斗に、羽柴が声を掛ける。 「櫂斗様、悠長にしていられる時間はありません。あっちの件もそうですが、何よりも先ず優先すべきことはかすみ様とのことです。小5男子みたいな態度をとっている場合じゃありませんよ。もっと大人の男性らしく振る舞わないと!」 「小5男子みたいな態度とは何だ?」 羽柴はため息を吐くと、 「好きな子に対して意地悪な態度を取ることです。」 絶句している櫂斗に、羽柴はさらに言葉を続けて、 「意識するあまりそうなってしまうのだとは思いますが…いいですか、櫂斗様?そんな態度じゃ伝わるものも伝わりませんよ?」 羽柴はさらに櫂斗に詰め寄ると、 「何度も言いますが我々には時間があまりありません。間違いないために、後悔しないために、素直になることが一番なんです。いいですか、素直ですよ!」 「気色悪い顔を近づけるなっ。」 櫂斗は不愉快そうに眉間を寄せると、羽柴から距離を取った。 「お前こそ、いい加減俺がかすみを好きだと決めつけてくるのはやめろ。そんな幻想は二度と抱くな。わかったか?」 「フラワースタンドのメッセージにあんなことを書いて?」 櫂斗は羽柴から視線を逸らすと、 「羽柴、お前はジョークってものを知らないのか?それに、だ。よく考えてみろ。あいつはこの俺に相応しいと思うか?いいとこ俺専用の家政婦ってくらいだろ。あんな芋娘、俺の伴侶になど到底値しないー」 どこか遠くを見るような目の櫂斗に、羽柴は再度ため息を吐いた。 (だったら俺専用とか言うなよな) 「いいですよ。認めたくないのなら、認めなくても構いません。ただ、私が主のためにできる限りやるまでです。」 「余計なことはするな。」 「いいえ、します。何せ、我が主は小学5年生ですからね。手が掛かるのは当然です。」 「誰が小学生5年生だ?」 睨みつける櫂斗に、羽柴は真剣な表情で、 「櫂斗様が心配するのも無理はありません。あなたはかすみ様が再び母親の毒牙にかかることを恐れているのでしょう?」 櫂斗はぴくりと眉を動かした後、目を細めた。 「櫂斗様は、かすみ様との思い出作りに来日されたつもりなのかもしれませんが、私はそれだけで終わるつもりはありません。お二人の未来のためにも、今度こそ茉莉(まつり)をブタ箱
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143話

かすみが二人のために用意してくれたのはネギと玉子のシンプルなうどんだった。 だが、共にテーブルを囲むかすみの前には何も置かれていない。 櫂斗はちらりとかすみに目をやったが、結局は何も言わずに席に着いた。 「いただきます。」と手を合わせる羽柴に対し、櫂斗は無言で食べ始める。 そして一言、 「味が薄い。」 羽柴の手から箸が滑り落ちた。 「大丈夫ですか、羽柴さん⁉︎別のお箸を持ってきましょうか?」 立ち上がったかすみに羽柴は慌てて、 「テーブルの上に落ちただけですから大丈夫です。」 羽柴はかすみにはニコニコと笑って、箸が落ちた箇所を布巾で拭いた。 拭きながら、目線は隣りに座る櫂斗を凝視する。 文句を付けておきながら、食べる手を一切休めない櫂斗に、羽柴は目を細めた。 「これ以上俺を見るつもりなら、今すぐこの箸をお前の目に突き立ててやるぞ。」 羽柴はムッとしたような顔つにきなって、 「こちらこそ。思ってもないような失礼なことを言うだけの口なら、いっそのこと一思いに縫って差し上げましょうか?」 互いに睨み合う男二人に、かすみは困った顔で、 「お二人とも。うどん、伸びますよ?」 羽柴は「すみません。」と、席に座り直し、再度手を合わせてからうどんをすすった。 昆布の旨みが存分に引き出された優しい味付けの出汁に、ふんわりとした溶き卵とネギが絡みついたうどんはたまらなく美味しかった。 箸が止まらない羽柴は、そのまま汁まで残すことなく一気に食べ切った。 ふう、と羽柴は息を吐くと、 「久々にかすみ様の料理が食べられました。感無量です。ごちそうさまでした。」 手を合わせる羽柴に、かすみは、 「そんな大層なものは作っておりませんが、お口に合ったのなら幸いでー」 かすみの前に、ずいっと器が差し出された。 かすみが目線を上げると、無表情の櫂斗が空になった器を手に、それをかすみへと差し出している。 「ーおかわり、ですか?」 「それ以外に何がある?」 かすみは器を受け取ると、立ち上がりながら、 「少し味を濃くしますね。」 「余計なことはするな。」 かすみは眉根を少し寄せて、 「薄かったのですよね?」 櫂斗はふんぞり返るようにして腕を組むと、 「こんな夜中に味の濃
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144話

とある日曜日。 海老原市の別荘にある自室で、弥一は一人ベッドに横になっていた。 あの日ー 最後にかすみと別れたあの日から既に2ヶ月が経過したが、あれから何度かすみに連絡してみても返事は一度もなかった。 巴とジョンも、あの日を境に仕事が忙しくなったのか、結局何の説明もないままに二人は海外へと飛び立った。今はどうやらE国に行っているらしいことを後々咲希から聞いた。 弥一は力なく寝返りを打つと仰向けになった。 真っ暗な部屋にも何時間といれば目が慣れてくる。 天井の壁の模様を眺めながら、弥一は力なくため息を吐いた。 ありがたいことに、平日は仕事で忙しく、余計なことを考える暇がない。 だがその代償として、休日になると襲ってくるありとあらゆる思考の波に、ベッドから起き上がることさえ難しい。 家族だったり、三雲や愛蘭や加島、冬馬までもが心配して連絡を寄越してくるが、むしろその気遣いが今の弥一には苦痛でしかなかった。 あの日以降、櫂斗という人物を個人的に調べている。 才覚溢れる敏腕CEOだが、使えないとわかったら部下だろうが取引先だろうが、問答無用で切るような利己的で冷酷非道な人間であることがわかった。 でも、どうやらそれだけではないようでー 店主不在のかすみの店は、オープンすることすらできないままかと思いきや、当初の予定通りに次の日にオープンしたし、なんなら初日から繁盛していた。 弥一が見に行った時には、少なくとも三人の人間が働いているようで、店は大変な賑わいを見せていた。 さらには、かすみの意見を第一に考えているかのように、営業時間もメニューも彼女が言っていた通りのものだった。 まるで、いつか彼女が戻ってきた時に難なく仕事を引き継げるようにしているかのようであった。 では、ここまでのことを、一体誰が事前に手配していたというのか。 あの男がかすみを恐怖で縛りつけているのは間違いない。 だが、それと同時に、あの男がかすみを特別に思っていることも間違いないー 今の弥一にとって一縷の望みは、かすみの店がかすみの理念に沿って経営している以上、いずれ彼女は戻ってくるだろうということだった。 ただ、それがいつになるのかがわからない。 何ヶ月後か、あるいは何年か後か。 ときに、時間の流れは人の思い
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